第782話 友人との再会(2)
曙光の月19日。
俺は無事にウィルと会う約束を取り付けることができ、スパーダ王城に招待された。
「————なるほど、それでカーラマーラを支配下に置く算段がついたというワケか」
「改めて聞いても信じがたい話ですが……あのリリィさんならば、古代遺跡の力を使って、どうとでもできるのでしょう」
旅の始まりから、ようやくカーラマーラでの遺産相続レースを終えて、オリジナルモノリスを確保したところまで、随分と長く話し込んでしまったが、ようやく全ての経緯を説明し終わった。
神妙な表情で頷くウィルの隣には、当たり前のようにネルがいた。
ネルはスパーダへの留学が再開されたようで、俺が旅立った後くらいから、ずっと神学校へと通っているそうだ。
今日は偶然、ウィルに用事があって王城まで来ていたから、ついでとばかりにウィルがネルも連れてきてくれたのだ。俺としても、ネルがスパーダにいるなら会いたいと思っていたので、手間が省けて非常に助かる。カーラマーラの旅の説明も含めて。
「だが、クロノがカーラマーラ王となるワケではないのだな」
「俺には王様なんて無理だ」
「そんなことありませんよ。クロノくんなら、きっと良い王様になれます」
思わず本気になってしまいそうなくらい、素敵な笑顔で言うネルである。
本物のお姫様にそう言われれば、説得力ある……ような気もするが、真に受けるワケにもいかんだろう。
「使徒と戦うための加護もあるからな。俺自身が戦場に立たないと意味ないさ。それに、スパーダは最前線だ。十字軍を放って、南の果てで王様やっていられる余裕はないよ」
「スパーダを守るために、玉座を蹴ってまで舞い戻って来るとは……スパーダの王子として、感謝の言葉もない」
「ここには自分の家もあるからな、侵略されるのは御免だ」
それから、カーラマーラは議会制なので、別に玉座はない。リリィは女王になる気満々だったけど、どうやって王政を認めさせるつもりなのか。
「えーと、それじゃあクロノくんの身分は冒険者のまま、ということなのですか?」
「それに加えて、傭兵団の団長ってことになるな」
だから、俺自身にはカーラマーラにおける権力は特にない。
強いて言えば、リリィに大体のことをお願いできる、くらいだろうか。
あれ、もしかして俺、リリィにフラれたらマジで何の影響力もないただの冒険者になってしまうのでは……
「とりあえず、俺は傭兵団で頑張るとして、ウィルには上手く、スパーダとカーラマーラが協力できるようにして欲しい」
それも今すぐどうこう、という話でもないが。
リリィは上手く進めば、正式な外交の使者を送ると言っていた。ホムンクルスではなく、ザナドゥ財閥のお偉いさんを使者にする予定だ。
すでに名前の知れた人物を使う方が、こういう時はスムーズに話が進む。
「オリジナルモノリス同士で転移ができる、と書いてあったが本当なのか?」
「スパーダはまだ無理だが、今はファーレンまで飛べるぞ」
「おお、すでに使用しておるのか……転移魔法とは、どのような感じなのだろうな」
「あまり、良い気分ではないですけれど」
この辺はランク5冒険者として活動してきたネルと、授業でゴブリンと戦うくらいが精々だったウィルとの経験の差である。
ネルは古代遺跡系のダンジョンに潜った際に、転移トラップなどの経験があるようだ。ちなみに、ディスティニーランドでリリィと戦った時も、転移にかけられたらしい。
あまり良い思い出がないと言う。
「制御できてれば、これほど便利なモノはないぞ」
なにせ膨大な距離を一瞬で移動できるからな。カーラマーラからの帰り道は本当に早いものだった。
「それでだ、転移が開通すれば、人もモノも自由に移動ができる。つまり、カーラマーラで軍を組織できれば、スパーダに増援を派遣することもできるようになるわけだ」
「ふむ、我が国にとってはありがたいことこの上ない話だが……本当に軍を組織できるか、できたとしても、その出兵を支持されるかどうか、といった問題があろう」
当たり前の疑問、というより疑念だな。
たとえリリィが上手くカーラマーラを統治できたとしても、軍を遥か彼方のスパーダまで援軍に送る、と言い出せば誰もが反対するだろう。
カーラマーラの住人達に、十字軍の脅威を説いたところで、彼らには今のところ何の被害もない以上、実感を伴った理解を得るのは不可能だ。
カーラマーラの兵士だって、遠い国でワケの分からん相手と戦わされるのは御免だし、世論だってそんなことは認めないだろう。
「最悪の場合でも、カーラマーラは金さえあれば何とかなる。精々、傭兵を沢山雇ってガラハドに駆け付けることだってできるさ」
「なるほど、商人が統べる国ならば、その主力は忠誠を誓う騎士ではなく、金で動かせる傭兵であろうな。大枚を叩けば、相当数の傭兵団を揃えられるだろう」
あくまで最終手段だが。
俺もリリィも、自分達が率いるならば、命令系統の行き届いた軍事組織にしたい。ホムンクルスは、本当に素直に言うことを聞くいい子ばかりだよ……彼らに頼りきりになることが、俺は今でも心苦しくある。
「実際にどうなるかは、全てリリィ次第だ。俺には、上手くやってくれることを信じることしかできないな」
「それほどの信頼を以って任されているのなら、リリィさんなら必ずやり遂げますよ。あの女には、それが出来るだけの愛がありますから」
やけに澄ました表情でネルが言う。
リリィには手酷く敗れた経験があるせいか、その力は認めているが、語るのは気分の良いものでもないだろう。
「今は俺もリリィも、それぞれ自分の仕事に集中するさ。俺の方は、もうクエストも受けてきたしな」
「大陸の果てより、戻ったばかりだと言うのに。忙しいことだな」
「そうですよ、もう少しゆっくりしていってもいいのではないですか?」
「カーラマーラからの帰り道は転移を使ったし、旅の疲れ、というほどのものはないから」
俺だって本当はゆっくりのんびりしたいところだが、十字軍は待ってくれないし、シルヴァリアンみたいな奴らも目にした以上、時間を無為には使えないという焦りも出てきた。
十字軍が再び動き出すまでに、どこまで俺達の準備が整えられるか。
「だが、今日くらいは我らに付き合ってもらえるのだろう?」
「ああ、勿論、そのつもりでフィオナとサリエルに色々任せてきちゃったからな」
「ならば良し! クロノよ、このまま晩餐といこうではないか」
パンパン、とウィルが高らかに手を叩くと、影のように控えていたメイドのセリアは恭しく一礼してから、部屋を出て行った。
堅苦しいのは抜きで、このままここに料理を持ってこさせるとウィルは言う。
「なんか悪いな、ご馳走にまでなるつもりはなかったんだが」
「これでもスパーダの王子ぞ。歓待の一つもできんでどうする」
「そうですよ、こういう時は遠慮しないでください。クロノくんがアヴァロンに来たら、私も頑張っておもてなししますから」
そこまで言われると、お言葉に甘える以外の選択肢はない。
それなりに高価なお土産も持ってきたから、若干、気持ちは楽だ。
カーラマーラから出発する前に、リリィがどこからともなく持ち出してきた最高級の酒なども渡されたりした。俺は別に酒の味が分かる通ではないが、こういう時には見栄えの良い贈り物として役に立つな。
「それでは、我が魂の盟友、クロノの無事の帰還を祝い————」
乾杯、といつかの勲章授与式でも飲んだスパーダワインが注がれたグラスを合わせる。
一度、酒が入れば、もう堅苦しい話はせず、実に個人的な話題を中心に盛り上がってゆく。
ウィルはなんだかんだ王城勤めとなり、自分の仕事もあるので忙しいようだ。語られる愚痴を聞くに、新社会人一年生ってこんな感じなのだろうか、なんて思ってしまった。
俺は異世界召喚のせいで高校中退で冒険者だから、そのテの苦労はあまり共感できないのだが。
一方のネルは、スパーダ留学を再開こそしたものの、やや退屈な日々となっているようだ。
兄貴のネロはアヴァロンに戻ったきりで、親友のシャルロット姫は、ウィルと同様、卒業してスパーダ軍で働いている。学園に残っている『ウイングロード』のメンバーは、カイとサフィールだけ。
冒険者稼業は三人で活動できないこともないが……以前の様に本格的な活動はしないらしい。
そんな二人の近況報告やら愚痴やらを一通り聞き終えると、
「……」
なんかウィルがすっごいネルに向かってウインクしていた。
ウインクなのか? まるで目で何か合図を送っているかのように、モノクルがかかった方の目をパチパチとさせている。
「……!」
それに対して、ネルはウィルを真っ直ぐに見つめ返しては、神妙な顔でコックリと頷いた。
一体、何なんだ。何を通じ合っているんだこの二人は。
「いやぁ、すっかり飲み過ぎたせいか、暑くなってきたなぁ!」
やけに芝居がかった台詞で、いやウィルは基本的にそういう感じだが、いつもとは違うわざとらしさを感じさせる口調で、そんなことを言い出した。
「そ、そうですね……私も、なんだか暑くなってきちゃいました」
そして、ネルもなんだかちょっとソワソワした感じで言う。
「俺は体質のせいで酔いはそうでもないが、この部屋は暖房効いてるから、ちょっと暑いくらいだな」
「はっはっは、ここは天下のスパーダ王城である! 暖房の魔石をケチるなどという、みみっちい真似はせぬからなぁ!」
それもそうか、王城なら隅々に行き届くまで冬は温めるくらいしてもおかしくない。だが地球の暖房器具のように、細かく温度調整までできるかどうかは怪しいものだ。ちょっと暑すぎる、みたいな温度にもなったりすることもあるんだろう。
「ふぅ……私、暑いので一枚脱ぎますね……暑いので」
なんか暑いって二回言った? 実に酔っぱらいらしい怪しい台詞と赤い顔でネルは羽織っていたケープを脱ぎ去った。
そして、その下から露わになったのは、思った以上の薄着。
肩が出る上に、胸元もそれなり以上に開いている……だが、下品さは感じさせない、これ一着で幾らするんだろうと思ってしまうような、一品だ。
純白の薄手のドレスは、白翼と相まって神々しいほど似合っている。
そんなネルの姿を一瞬、というには少々長すぎる数秒間は、横目で凝視してしまった。
こんな不意打ちみたいな真似されたら、男は誰だって見てしまう。
そう、見てしまう程度で普通なら済むのだが、俺の場合は何と言うか、ほら、シャングリラで捕まってたネルを助ける時に裸を見てしまった手前、こういう時にはつい連想するという追い打ちもかけられるのだ。
だが、薄着のネルに対する反射的な反応もここまでだ。理性を取り戻せ。
とりあえずは、視線を逸らしてウィルでも見よう。
見ろよ、流石は王子、ネルが一枚脱いだ程度ではまるで動じることなく、優雅にワインのおかわりを嗜んでいるぞ。
そんなウィルは、ワイングラスを片手にしつつ、何故かもう片方の手は、キツネみたいな形にして、ネルに向けていた。
なんだ、アイコンタクトの次はハンドサインか?
「……ああ、今度は私、なんだか眠くなってきちゃいましたぁ」
などと、妙に間延びした声を出しながら、ネルがスススと俺の方へ距離を詰めてくる。
今更だが、俺の正面にウィル、隣はネルで、ソファ席である。
つまり、眠気を覚えれば、電車の座席で居眠りするが如く、隣の相方にもたれかかることも可能。
俺に逃げ場はなく、わざとらしさも感じられる眠いアピールをしながら、ネルがこちらへと————
ところで、テレパシーといえばリリィだけど、ネルも地味にテレパシー能力持っているんだよな。確か、接触すると相手の感情も読めるんだ。
どうしてそんなことをこの瞬間に俺は思い出したのか。
決まってる、今の俺には、触れて読み取られると非常に困る感情と脳内イメージ映像が再生されているからだ。心頭滅却の境地は遠く、俺は薄着のネルが迫ってくる中、いまだあの時の裸体のイメージを振り切れずにいた。
今、貴女の裸を想像しています、なんてことを相手の女性に知られればどうなるよ。
「ひっ、ひゃああああああああああっ!?」
耳をつんざく悲鳴が上がったのは、至極当然の道理であった。
曙光の月21日。
いよいよ今日は、我ら『暗黒騎士団』初のクエストに向けて出発する日だ。
昨日、一昨日は、スパーダの友人達と存分に再会を楽し……いや、ちゃんと楽しかったさ。俺の不埒な想像をウッカリ読みとってしまったテレパシー事故の後は、ひたすら平謝り続けることになったり、昨日はカイと会ったらすげー時間、組手で相手をすることになった上に、ファルキウスもやって来て参戦したりと、騒がしいことになったが————みんなが元気な姿を確認できて、良かったと思う。
それじゃあ、今日からは傭兵活動を頑張っていこう。
「よし、全員揃ってるな」
人数が人数なので、集合場所はスパーダの正門外だ。
まだ早朝で人の出入りは閑散としているが、俺達と似たような大勢の集合場所として色々な団体がその辺に固まっている。
その中でも、俺達はかなり目立つようだった。
「やっぱり、こうして揃いの制服を着ると様になるよな」
団員達は本日より、制服着用である。
制服は勿論、シャングリラに保管されていた搭乗員用の軍服だ。
黒地に金ボタンのブレザーに近い軍服は、近代的なデザインである。というのはあくまで俺の感想であり、スパーダ人からすれば、神学校の制服と似通っているので、学生の集団っぽく見えるだけかもしれないな。
シャングリラにいるホムンクルス達は元からこれを着用しているので、初めて見るってワケではないが、いざこうして綺麗に整列し、武装した姿を見ると、正に古代から蘇った軍隊である。
「クロノさんも似合ってますよ」
「ローブ着てるから、あんまり変わり映えはしないがな」
俺も同じ制服を着ているのだが、『悪魔の抱擁』は首から足首まで覆うので、見た目はいつもと同じである。強いて言えば、黒いスラックスが見えるくらいか。
「フィオナは変わらないな」
「慣れた装備が一番ですので」
フィオナはいつもの三角帽子に魔女ローブ姿だ。俺のように、中に軍服を着こんでいることもないだろう。
ちょっとフィオナの軍服姿も見てみたい気持ちもある。
「サリエルはかなり印象変わったな。よく似合ってるぞ」
「ありがとうございます、マスター」
サリエルは今日から、この軍服が正式装備となった。ついに、長年愛用してきた修道服も卒業である。
修道服に特にこだわりはないと言ってはいたが、なんだかんだ普段着としては着慣れていたのは確かだ。サリエルには自分で装備を整えられるだけの金は持たせているし、これまであえてそれをしなかったのは、必要性を感じなかったからだろう。
この度、正式に『暗黒騎士団』の歩兵隊長となったので、制服着用の義務を負った、といったところか。
ちなみにこの軍服、女子はスカートだ。学校の制服みたいなプリーツスカートで、結構、可愛い。それをサリエルが着ているので、かなり可愛い。
それから、隊長格にはマントも支給しているので、これも羽織っている。
さらに言えば、スカートからは悪魔の尻尾の先がチラチラと見えている。間違いなく、このお堅い軍服の下に、あの過激な淫魔鎧を着こんでいるのだ。
結果、サリエルはなかなか凛々しくも可愛らしい、その上さらに脱げばエロいと、実に素敵なコーディネートとなった。なんて恰好だ、最強装備かよ。
「クロノさん、やはり私も軍服にした方が」
「慣れている装備が一番だぞ」
新鮮な格好のサリエルを見つめ続けたせいか、フィオナがそんなことを言ってくる。ここで対抗心は出さなくてもいいだろう。
俺はあえて深くは突っ込まず、サリエルの隣に立つさらに小さい少女へと視線を向ける。
「プリムも可愛いぞ」
「ひゃい」
褒めてはみたが、反応が怪しい。
プリムと名付けた、少女型のホムンクルスはどうも俺が苦手なようだ。他のホムンクルスと違い、感情的な反応をする。今も、ソワソワしてて実に落ち着かない様子だ。
「今日は移動だけだし、そんなに緊張しなくてもいい」
「イエス、マイロード!」
ビシっと、直立不動の敬礼で返され、俺はこれ以上、プリムに絡むのはやめた。
うーん、この子を俺の重騎兵隊に入れるべきじゃなかったか? いやでも、古代鎧使いは彼女だけだし、火力、機動力、防御力、どれをとってもここで活躍させるのが一番だ。
なんとか仲よくやれるよう、努力するしかない。
大丈夫、俺はこれでもカーラマーラで子供たちと一緒に生活していたじゃないか。きっと上手くいく……はず……
「それにしても、リリィは随分と奮発したな」
「カーラマーラの女王になったのなら、これくらいは何てこともないでしょう」
整列する我らが団の横には、漆黒の装甲を纏った精悍な軍馬と、それはもうデカくて立派な竜車が並んでいる。
これらは全て、カーラマーラからの輸入品。つまり、リリィが傭兵団のために準備して、こっちに送ってくれたモノだ。
当然のことながら、馬というのは高い。現代でいえば車に近いだろう。これだけの馬に竜車を揃えるとなると、ランク5冒険者として稼いできた俺達でもなかなかキツい出費となる。流石に個人で傭兵団全ての費用を賄うのは無理がある。
そこで、リリィがカーラマーラから必要なモノを全て集め……恐らく、権力によって徴発して用意したのだ。
ここにいる軍馬はカーラマーラでも選び抜かれた個体だし、馬が身に纏う重騎兵用の鎧も、憲兵隊のモノから流用したという。
竜車は大手の輸送業者から、頑丈かつ積載量の高い、大型竜車が選ばれている。物資を納めるための箱や樽は勿論、空間魔法のかかったコンテナまで完備ときたものだ。百人程度の傭兵団にしては、過剰なほどの物資搭載量でもある。
「今回はありがたく使わせてもらおう。今の俺達には、のんびり準備する時間もないしな」
ちょっとズルをしたような気持ちにもなるが、そんなことを気にしていられる状況ではないからな。
使えるモノは何でも使う。
そして、さらにもう一つ、俺達に使ってみて欲しいとリリィが送ったモノがある。
「クロノさん、あの大きな鉄の蜘蛛はなんですか」
「古代兵器の一つだってさ。四脚機動戦車というらしい」
大型竜車の車体に匹敵する、鋼鉄の体と四本の足を持つ、クモのような外観をした古代の陸上兵器が、この四脚機動戦車だ。
正式名称はあるそうだが、古代語特有の発音しづらい名前の上に長いこともあり、ちゃんと呼べるのはリリィだけ。
フィオナの言うように、『鉄蜘蛛』とでも俺達は呼ぼう。
コイツはシャングリラに元からあったが、簡単に動きそうもなかったので、復活のための研究は後回しにされていたが……リリィが『審判の矢』をぶっ潰した時に、同じ四脚機動戦車である『ティガ』という機体を鹵獲したので、現地に派遣したホムンクルス達によって解析が進み、この度、晴れてシャングリラの鉄蜘蛛も起動に成功したということだ。
「なかなか、強そうですね。この長い砲身から、何か撃てるんですか?」
「今は動くだけで、砲塔はまだ使えないそうだ」
「では何のために」
「荷を引くくらいはできるだろう。あと実際に動かして実戦試験ってとこか」
「流石のリリィさんも、そこまでは手が回りませんか」
あんまりリリィに仕事を任せすぎるべきじゃない。倒れたらどうする。シモンは倒れる寸前だったしな。
みんなそれぞれ、無理な仕事は押し付けないよう気をつけなければ。
「それじゃあ、準備はいいな?」
「イエス、マイロードッ!」
力強い返答と、一糸乱れぬ敬礼を受け、俺は各員に搭乗を指示する。
「よし、ダキア村に向けて、出発だ!」
俺は愛馬のメリーに跨り、先陣を切って街道を走りだした。
7月24日
コミック版『黒の魔王』第4巻、発売です!
アルザス防衛戦の第一戦まで収録しています。橋爆破からフィオナの水攻めに始まり、仲間達の奮闘、リリィの空中戦、クロノVSノールズ司祭長と、見事に描ききっております。
表紙は三狩姫のエルフ三姉妹。まるでヒロインのような扱い! 書籍版では次女ローラはヒロインっぽくしてあるので、書籍準拠のコミック版では当然の待遇ですよ。
そういうワケで、コミック第4巻、どうぞよろしくお願いします!