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黒の魔王  作者: 菱影代理
第6章:スパーダへ
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第77話 結成(1)


 クロノが冒険者のリーダーとなるべく、ギルドのロビーでヴァルカンと決闘をしている頃、とある客室にリリィとフィオナの姿があった。

「話とはなんですか妖精さん?」

「うん、貴女とちゃんと契約しようと思ってね」

 フィオナの問いかけに応えるその口ぶりから、リリィの姿が幼児であっても、意識だけは完全に覚醒状態だと判断できる。

「何の契約ですか?」

「私達と正式にパーティを組んで欲しいの」

 冒険者なら、いや、この世界の一般人でもリリィの言わんとしている事はすぐに理解できるだろう。

 冒険者の基本はやはり仲間と共に戦うパーティプレイだ。

 時には見ず知らずの冒険者とクエスト一回に限った協力関係を結ぶことも珍しくはないが、普通はあらかじめ組んだパーティでクエストに挑む。

 パーティ名とメンバー全員の名前をギルドに登録すると正式な冒険者パーティという扱いになる。

 もっとも、このパーティ登録をしなくても勝手に徒党を組んでクエストに挑むのも別に問題は無い、登録しておけばギルドも把握しやすく、冒険者としては仕事の成果をアピールしやすいという程度のことだ。

「貴女とクロノさんの二人パーティ、という認識でいいですか?」

「うん、パーティ名は別に決めてないけど、貴女が入ったら何か考えないとね。

 それで、どう?」

 フィオナは一瞬迷ったような素振りを見えたが、

「お断りします」

きっぱりと拒絶の言葉を発した。

「理由を聞いてもいいかしら?」

 リリィはその応えに対して特に気を悪くした風は見せず、寧ろ不敵に笑って問いかける。

 クロノにはちょっと見せられないどこか邪悪な笑みだった。

「向いてないんです。

 私とパーティを組んで三日以上もったことはありません、クエスト中に解雇されたこともあります」

 フィオナは無表情ながらも、その経験は多少なりともトラウマになっているのか、彼女の強固な心の壁から僅かに溢れる悲しみの感情をリリィは読み取った。

 だが、それを知りつつもリリィに彼女を慰める気など毛頭ない。

重要なのはフィオナの気持ちでは無く、彼女を己の内に引き込んでおくこと。

真っ当にパーティを組むことが不可能なほど‘力’を持て余す、フィオナという魔女を。

「貴女が途轍もなく魔法の制御がヘタクソなのは知ってる、それも含めて誘っているの」

「どうして知っているのですか?」

 特に驚いた風も無く、フィオナは静かに問いかける。

「ただの『火盾イグニス・シルド』をあんな派手に発動させる人なんて、初めて見たわ」

「妖精族は、魔法に詳しいんですね」

 やはり驚かないフィオナ、まるで以前にも同じような言葉を聞いた事があるかのようだった。

「私が特別なだけ、あんな羽虫共と一緒にしないで」

 少なくともリリィは今クゥアル村にいる誰よりも魔法に対する知識、分析力を持っていた。

 学んだモノではない、本来のリリィが生まれたときから持ちえているに過ぎない。

「貴女の気持ちはこの際置いておくとして、こっちの事情も理解して欲しいんだけど」

 どういうことですか、とフィオナの問いかけにリリィは淀みなく応える。

「クロノはこれから村人達を逃がすために十字軍と戦う、そんな中で貴女みたいな四方百里を焦土に変えるような暴走魔女をフリーにさせたくない。

 言い方が悪かったかな? 私は貴女の力を今のところ誰よりも高く評価しているの、その攻撃力は是非手元においておきたい」

 愛らしい微笑を浮かべて賛辞の言葉送るリリィ。

「ありがとうございます、私の魔法を褒めてくれたのは貴女が二人目です」

 皮肉ではなく、心からそう言っているのだということが、フィオナの表層意識に現れる感情の動きを読み取ってリリィは理解した。

「うふふ、アーク大陸にはよほど見る目が無いバカばっかりなのね。

 それで、私としてはただの協力してくれる冒険者では無く、より近い立場の‘仲間’として迎えたいと思っているの。

 そうすれば、貴女の抑え切れない強力な魔法を‘問題なく’発揮できる場所も提供してあげられる。

まぁそれを考えるのは私じゃなくてクロノだけど」

 フィオナは少し考え込むように俯く。

 その様子に「もう一押しかな」とリリィは考える。

「貴女が哀れな村人を助けたいと願う善良な冒険者であるなら、是非私達に協力して欲しい。

 ただ保身のために一人で先にスパーダへ逃げ込むというなら止めないし、十字軍へ戻るようならこの場で殺す」

「私は十字軍へ戻るつもりはありません、それに、パンドラ大陸の冒険者として緊急クエストに協力したいと思っています」

 即座に答えるフィオナだが、そう答えることが分かりきっていたと、リリィの満足そうな表情は物語っていた。

「貴女は素直だから、十字軍に未練がないことや、虐殺行為を許せない正義感、色々な気持ちを私は分かっている。

 そして、そんな貴女は私の申し出を断るべきじゃないというのも、分かってもらえるかしら?」

 また少しだけ考える素振りを見せるフィオナ。

 だが、今度はその頭を縦に振るのだった。

「そうですね、私を受け入れてくれるというのなら、断る理由はありません」

「そう、ありがとう」

 リリィは満面の笑顔で、パーティ入りを承諾したフィオナを歓迎する。

「ん……そろそろ時間かな」

「なにがですか?」

「今日はもう大人の意識を保っていられる時間が無い、だから簡単に後のことを説明するからよく聞いて」

 リリィが大人と子供の二つの意識を持っていることは、すでにフィオナは知っているので、特に疑問を差し挟むことなく了解する。

「パーティのリーダーはクロノ、もうすぐここへ来るはずだから、適当に自己紹介して、後は彼の指示に従ってちょうだい」

「分かりました」

 素直に頷くフィオナ。

「それと、貴女が他のパーティに引き抜かれないように、ウチのセールスポイントを言っておこうかしら」

 幼い姿だが、妙に様になったウインクをフィオナに向けるリリィ。

「なんですか?」

「クロノはとても遠い国の出身だから、貴女の知らない美味しい料理を沢山作ってくれる、だからウチにいる間は色々珍しいモノが食べられるわよ。

うふふ、甘いものがアイスキャンデーだけだと思わないことね」

その言葉は、これ以上ないほどにフィオナの興味を惹いた、心など読まずとも分かるだろう、何故なら彼女は身を乗り出してリリィに迫っているのだから。

「それは……本当ですか?」

「うん、例えばプリンとか」

「な、なんですかその‘ぷりん’という聞くからに甘そうな響きの食べ物は」

 頭の中で、様々な甘味を再現するフィオナだが、初めて耳にする謎の食品名、期待は高まる一方のようである。

「それは自分で確かめなさい」

「すぐに確認します」

 フィオナはキューと鳴った腹の虫の鳴き声と共に応えた。

「そうそう、最後に一番大事なルールを言っておくわ」

「なんでしょうか?」

 愛らしい笑顔だが、僅かばかり殺気を滲ませて、リリィは言った。

「ウチはパーティ内の恋愛は禁止だから、絶対に、忘れないでおいてね」

 そう言い残すと、ぱったりとベッドへ倒れこんだ。

 そのまますぐに、可愛らしい小さな寝息がフィオナの耳に届いた。


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[一言] 絶対恋愛沙汰になるやつですやん!
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