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黒の魔王  作者: 菱影代理
第37章:支配者降臨
777/1047

第771話 快楽と欲望の黄金魔神

 2020年5月9日


 大変申し訳ございません、よりによってこの時期に予約投稿忘れという失態です。

 ご心配の声をかけてくれた方、ありがとうございます。そして、菱影代理はたまに忘れるから、と真実を見抜いた方も、ありがとうございます。

 休み長すぎて、曜日感覚が……という言い訳。

 ともかく、私は大丈夫ですので、また来週もどうぞお楽しみに。

「今、ここに立つのは4人。皆、共に我に願う資格がある————さぁ、誰ぞ、願いを捧げるがいい」

 モノリスの上でギョロギョロと黄金の瞳が蠢き、俺達を舐めるように見渡す。

「求めるは財か、力か、あるいは……愛か?」

「私の求める愛を、貴方が与えられると言うの?」

 カーラマーラの声に、答えたのはリリィだった。

「然り。我に願えば、すぐにでも叶えてくれようぞ。まずは、邪魔者を消してくれようか? それとも、心を捻じ曲げ恋慕を嫌悪に変えてやってもよい」

 ああ、コイツはロクなヤツじゃない。

 そして、ザナドゥの言っていたことは本当だ。

 この神は願いを叶えさせるためならば、幾らでも人を殺せるし、心を惑わすこともできる。

 道理で、苦楽を共にしたパーティメンバーが、最後の最後で醜い殺し合いを始めてしまうわけだ。

「その男は願いがないというが、汝ら三人は、それぞれに欲するモノがあろう。欲しくて仕方がない、しかし、決して手に入らない、自分のモノだけにはできない————だからこそ、神であるこの我が、その叶わぬ願いを叶えられるのだ」

 本物の神なら、人の心の内も筒抜けなのだろうか。

 だとすれば、リリィとフィオナが俺を巡って殺し合ってしまうほどの思いを抱いていることは、何よりも強く分かってしまう。

 あるいは、サリエルにだって無感情の下に自分でも気づかぬほどに、秘めた思いがあるかもしれない。

 そんなことまで、全て把握できるというのなら……全く、デリカシーの欠片もねぇ奴だ。他人の恋愛事情に、したり顔で首を突っ込もうとてしてんじゃねぇぞ。

「それ以上、余計なことを喋るなら、モノリスごとぶっ壊————」

「————『最大照射フルバースト』」

 ドドド、と俺の啖呵も遮って、リリィがビームをぶっ放す。

 左手にした『スターデストロイヤー』から放たれた黒色魔力の光線は、黄金目玉模様のカーラマーラを塗りつぶすように、モノリスへと直撃した。

「リリィ、気持ちは分かるが、いきなり攻撃はちょっとどうかと思う」

 ほら、相手は曲がりなりにも神を自称しているし、それっぽい雰囲気も出している。実力行使に出るならば、もうちょっと慎重になっても。

「本当に神だというなら、現世に生きる私達に手出しはできないわ。ここはコイツの神域と化してはいるようだけど、私たちの加護を封じるほどじゃない」

 ミアちゃんがよく言う神様ルールというやつだ。

 俺達が生きるこの現実の世界と、神様が住む世界は単なる次元以上の隔たりがある。

 自称、全知全能の創造主を名乗り、実際に神様ルールブレイカーを行っている白き神であっても、12人の使徒を用意する、くらいが現実世界に及ぼせる力の限界だ。

 気に入らないヤツに神の雷を落として、簡単お手軽にいつでも抹殺できる、みたいな真似はできはしない。

「それじゃあ、もうちょっと黒化かければ締め出せるのか」

「私が『煉獄結界インフェルノ・フォール』した方が早くないですか?」

「両方、試してみましょう。こんな黒き神々ですらない紛い物の戯言に、これ以上、耳を貸す必要はないわ」

 流石に、カーラマーラの甘言に乗ろうとする者はこのメンバーにはいない。

 ちゃんと全員、それぞれ加護を授かっているしな。

 今更、ポっと出の怪しい自称神に乗り換える理由などあるはずもない。

「おお、なんと言うことか。人の願いを叶える我が神域を、破壊しようとは」

「当然だ、お前みたいな怪しい奴を、こんなところで放置できるかよ」

 神域は破壊できる。そもそも、特別な条件がそろっているからこそ、神域足りえるのだ。

 それが『神滅領域アヴァロン』や『アスベル山脈』のように環境そのものと化しているなら、破壊するにはそれこそ大規模な自然破壊並みの変化を必要とするが……例えば『光の泉』のような場所であれば、僅かな変化で簡単に神域としての特性を失ってしまう。

『光の泉』は、泉の底に『紅水晶球クイーンベリル』が祀られていることが、神域と化す条件だった。

 だから、リリィがそれを持ち出した今は、あそこで妖精が生まれることはない。

 そして、このカーラマーラが湧く宝物庫も、恐らくは似たようなタイプだと思われる。

 強固かつ広大に神域と化している環境フィールド型ではなく、特定条件による一定範囲にのみ神域化する神殿型、といったところ。

 キーアイテムはどう考えても、オリジナルモノリスだ。

 奴由来の怪しい黄金の魔力が溢れるモノリスを、強引にでも黒色魔力でさらなる上書きをしかければ、カーラマーラが詐欺師のような口八丁を喋ることもできるなくなる、はず。

「サリエル、一緒に黒化かけてくれ。まだ魔力に余裕はあるだろ?」

「はい、マスター」

「リリィはモノリスを制御してくれ。フィオナは黒化がダメそうだったら、『煉獄結界インフェルノ・フォール』を発動だ」

 了解の意を受け、メンバーはそれぞれ配置につく。

「よせ、我だけが人の願いを叶えることのできる、真に慈悲深き唯一の神ぞ」

「悪いが、俺の神は魔王様なんだよ————『黒化』」

 俺とサリエルが、両側から黒化を開始する。

 再びモノリスに宿る黄金の魔力を蝕む様に、黒色魔力を広げてゆく。

 やはり抵抗感のようなものはあるが、二人がかりでやれば、このまま————

「————愚かなり。願いさえすれば、我が使徒となり、飽くなき欲望を満たす力を得られたというのに」

「っ!? ヤバい、離れろ!」

 さっきとは比べ物にならない程の黄金魔力が溢れ出してくる気配。

 流石にこれは抑えきれない。ただ吹き出すだけで、ダメージを喰らいそうな危険な超密度だ。

 俺達は咄嗟にモノリスから飛び退く、と同時に、さながら攻撃魔法が炸裂したかのような強烈な閃光と衝撃波が駆け抜ける。

「哀れなり、黒き神々の僕よ。永劫の快楽を捨て、自ら苦難に満ちた道を歩くことを良しとするとは。騙されているのは汝らの方である。人の幸せは、神の支配による安寧の上にしか、ありはしない」

 見れば、一度は黒く染まったはずのオリジナルモノリスが、再び眩い金色に輝き始めていた。俺の黒色魔力が完全に吹き飛ばされている。

 だが、気にするべきはさらなる魔力の高まりと共に、モノリスに新たな魔法陣が浮かび上がることだ。

 円を基本とする図形だが、今まで見てきた、どの魔法陣とも異なる系統のデザイン。

 しかし、中央に大きく描かれた一文字が、次々と切り替わっては明滅していく様は、さながらカウントダウンのようで、

「ザナドゥもまた、愚かな末路を迎えたものよ。最期に欲を捨てようとも、積み上げた強欲は、すでに高みへ達している————ふっ、我を止めようと思うなら、百年遅かったな」

 そして、ゼロによく似た円形の文字の表示を最期に、謎の魔法陣は効果を現わした。

 巨大な長方形である、オリジナルモノリスが歪む。中心から、渦を巻くようにグニャリと歪でんいくその様子は、自分の目がおかしくなったと錯覚しそうになるが、本当に捻じれているのだ。

 モノリスが、ではない。そこの空間そのものが、歪み、割れ……そして、開く。

「迷宮都市カーラマーラとなって幾百年。そして、我が元にたどり着いたザナドゥが欲を満たし続けること百年。ついに、ああ、ついに……我は戻ってきた。この素晴らしき、人の世へ」

 歪み開いた空間から、大きな一つ目が覗く。

 黄金の魔法陣で描かれた、目玉模様ではない。それはまさしく、本物の目。デウス神像のような巨人が、その空間の向こう側から、こちらを覗き込んでいるのだ。

「流石にこれはまずいわね……まさか、神そのものが降臨できるほどの神域化しているなんて」

「ってことは、アレが本物のカーラマーラなのか」

 まるでドアの覗き穴から、こちら側を見ているだけしかできないような、小さな空間。

 だが、その小さな穴一つだけでも、今この俺達が生きる現世と、カーラマーラがいる神の世界が、直接的に繋がってしまったということだ。

 これ、このまま空間が広がったら、そのまま奴がこっちに来れるってことになるのか……?

「見える、見えるぞ……汝らの顔が、よぉく見える」

 穴の向こうで、カーラマーラはパチパチと瞬きをしている。

 フィオナのような黄金の瞳を持つ大きな目玉が、俺達を真っ直ぐに見つめた。

「ああ、愛しき人の子らよ。我が庇護を受けるがよい。さすれば、もう何一つ耐え忍ぶ必要はない。ただ望み、願い、求めよ。汝が欲するところを成せ。その欲望ココロのままに————」

「ぐうううっ!? くそっ————『愛の魔王オーバーエクスタシー』!!」

 奴の語りかける言葉を現実にするかのように、俺の心が大きくざわめく。

 理性や理屈、色んな感情によって抑え込んでいる、本能のような部分が強烈に膨れ上がっていくのを感じた。

 このまま奴の言葉を聞いているだけで、何一つ我慢することない、本能のままに動く獣のようになってしまいそうだ。

 恐ろしく強烈な精神魔法、あるいはテレパシーによる干渉を受けている。

 記憶喪失となったばかりだが、それでもこれほどの精神干渉を受ければ、使わざるを得ない。いや、使っても、それでも尚、厳しい。

 くそ、たった一言でなんて威力だ。ミサの『比翼連理アークディヴィジョン』よりも強力かもしれない。

「フィオナ、サリエル、俺の手を離すなよ! リリィ、合わせてくれ!」

「『愛の女王オーバーエクスタシー』っ!」

 二人がかりで加護を使い、どうにか正気を保つ。

 まずい、防ぐだけで手一杯だぞこれは。

「抗うな、我が前ではどんな醜い欲望をも肯定される。それが神の慈悲というものだ」

「う、うるせぇ……それ以上喋んじゃねぇよ……」

 くそ、どうする、これが本物の神の力ってヤツなのかよ!

 恐らく、本当にコイツはただ喋っているだけで、俺達の精神に影響を及ぼしているのだ。特別な魔法でも能力でもない。ただ、そうするだけの力を持つ存在。

 こちら側を覗き込むだけの小さな穴が開いただけで、これだけの影響力を及ぼすとは。

 奴の口ぶりからすると、これからさらに影響力を増し、自分がこちら側へと来ることを望んでいるようだ。

「くそっ、白き神の相手だけで手一杯だってのに、こんな邪神がまだ世界を狙っているなんて、冗談じゃないぞ————」

「————そうだよ、だから、君をここまで導いたのさ」

 その時、聞き覚えのある声と共に、闇が訪れた。

 眩い黄金の輝きで満たされている宝物庫が、闇夜に包まれる。

 突然の暗転に、驚きの声をあげたのは、

「こ、この忌まわしい暗闇……まさかっ!」

 カーラマーラの叫びに応えるように、ソレは現れた。

 否、降臨した。

「よくここまで、辿り着いてくれた、黒乃真央。ここから先は、神様である僕の仕事だよ」

「おのれ、滅びの女神の使徒、ミア・エルロードぉ!!」

「魔王と呼ぶがいい、傲慢なる旧支配者よ」

 でっかい闇のマントを翻し、古の魔王ミア・エルロードは、庇う様に俺達の前に立ち、その小さな背中を向けた。

「ミア、お前……そうか、俺の周りでチョロチョロしてたのは、ここまで来るためだったのか」

「久しぶりに現世での生活を満喫できて、楽しかったよ」

 振り向いたミアが悪戯っぽく笑う顔は、子供たちとのダンジョン暮らしの中で、何度も見た表情だ。

 記憶を失った俺の元に、子供たちに紛れてミアもいた。

 それはただ、何もかも忘れて迷走している俺をあざ笑うためでもなければ、ただ暇を持て余して遊びに来ていたワケでもない。

 ミアは最初から、カーラマーラ神のことを知っていたのだ。

「騙すような形にしたのは悪いと思っているけれど……本物を前にした、今なら分かってくれるよね」

「ああ、コイツは、こっちに出しちゃいけない奴だ」

 黒き神々であるミアが白き神と敵対しているのは、奴がこの世を乱す存在だからだ。

 だが、白き神とはまた別に、そういう存在がいるならば……当然、ソイツとも敵対するに決まっている。

 カーラマーラ神。コイツが現世に現れれば、人は理性をなくした猿になるだろう。あるいは、もっと酷い存在に陥るかもしれない。

「いまだに我が前に立ちはだかると言うのか。幾千の時を超えても尚、ただの人間風情が、神の真似事までして!」

「諦めろ、すでに『ゼロ・クロニクル』は成った。神の時代は終わり、もうここは人の世界だ」

「否! この世全ては神である我、我らのモノであるべきだ!」

「いいや、君たちにはもう、この世界に居場所はない。だから、僕はここにいる」

 俺には全く分からない、神様同士の言い合いをしながら、ミアは腰から下げている剣、じゃない、杖を握る。

 魔王の正装、と思われる、いつもミアが着ている軍服と黒マント。その腰から下げられている杖と思しき武器のことは、前々から目にはしていた。

 だが当然、その武器を使ったところは見たことがない。

 同じ神が相手だからこそ、使うに値するというのか。

 伝説の魔王ミア・エルロードが、その武器を抜く。

「許さんぞ、人が神の手を離れるなど、決して許しはせぬぞ!」

「誰の許しもいらないさ。これが、世界の選択だ」

 抜刀するように、腰の杖を抜く。

 黒い金属で出来た、短い棒だ。短杖ワンドといったサイズだが、柄と鍔もついており、短剣のような拵えでもある。

 ミアがそれを握った瞬間、ドリルのような螺旋を描きながら、赤い光の文字列が灯る。

 そして、一振りすると————ヴォン、と音を立てて、真紅の輝きで形成された、光の刃が現れた。

 リリィの『流星剣スターソードアンタレス』のように、真っ赤に輝く光刃フォースエッジだ。

 その杖、そういう武器だったのか。マジかよ、なんだそれ、超カッコいいんだけど……

「快楽と欲望の黄金魔神カーラマーラ。無間の果てへ、消え去るがいい————」

 ゆっくりと、虚空に開いた穴の向こうで血走った目で睨みつけるカーラマーラへ、ミアはその真紅の光剣を向けた。

 次の瞬間、黒と赤のスパークを激しく散らしながら、刀身が膨れあがっていく。

「解放、『終焉神鍵エンデ・デア・ヴェルト』」

 直後、全身が消滅しそうなほどの絶大な黒色魔力が荒れ狂うと共に、視界は闇なのか光なのか、それすら判然とせずに閉ざされ————




「はい、終わったよ」

 死んだ、かと思った。

 反射的に固く瞑ってしまっていた目を開けると、やけに眩しく感じる白い部屋と……黒一色に染まったオリジナルモノリスを背にして、ミアが立っていた。

 カーラマーラの姿はどこにもなく、ミアの手にも、すでに杖は握られていない。

「終わった……っていうか、カーラマーラは死んだのか」

「滅んではいないけど、もう二度と現世に干渉することはできないよ」

 安心、していいんだろうか。

 確かに、もう欠片も黄金魔力の気配は感じられない。

 この様子からすると、ミアはこういうことに慣れているような感じがするし、適当こいているわけではなさそうだ。

 神となって、他の神と戦った経験か。あるいは、人間だった頃から、ああいう奴らと戦っていたのか。

「聞きたいことは山ほどあるが……ありがとう、助けに来てくれて」

「ううん、アレは人が相手にするモノじゃあないから。僕ら黒き神々の領分だよ」

 流石に本物の神相手には、歯が立ちそうになかった。かなり焦ったぞ。

 神様は神様同士で戦ってくれないと、俺達じゃあどうしようもないな。

「なぁ、結局、カーラマーラって何だったんだ」

「神だよ。僕らよりもずっと古い、かつてこの世界を支配した、神代の神々の一柱」

 そういえば、ミアが魔王として生きた古代よりも、さらに大昔の神代という最も古い時代。その頃、世界は本物の神々が降臨していたというが……神話的な描写じゃなくて、まさか本当に神がいたってことか。

 それも、人の心を狂わす、あんな奴が。

「なら、現代に蘇って、もう一度世界を支配するつもりだったのか」

「カーラマーラは快楽と欲望を司る神だった。アレの支配下にある人は、飽くなき欲望に振り回されて、狂気と堕落に陥り獣以下の存在と化してしまう……それで、カーラマーラはそういう人の『心』が大好きなのさ。美味しいんだって。お酒でも飲んでる感覚じゃあないのかな」

「人を嗜好品扱いか」

「殺戮はしないから、白き神よりはマシだったよ」

 引きこもって人々の欲に満ちた心を味わい、飲んだくれていれば満足な神、というのか。

 途轍もない邪神というには、しょうもない行動な気もする。

 だが、それで狂わされる人は、莫大な数になるのだろう。自ら人を殺すことがなくても、欲望に狂って殺し合いをさせるのは大歓迎といった感じ。

 やっぱ完全に邪神だな。

「願いを叶える云々の口上は、それで人の心の味わえるからか」

「それが自身の力にもなるからね。欲望都市カーラマーラ、なんて呼ばれるほどに混沌としたこの場所は、復活に必要な力を蓄える絶好の環境だよ。多少は、ここで封じられていたカーラマーラの意思も、作用していたと思う」

 そして、今この時にようやく、現世に通じる穴を開くほどの力を得た、と。

 ザナドゥ主催の遺産相続レースが、奴に最後の欲望の力を与えたのかもしれないな。

「それにしても、また騙されたな」

「だから、それは悪かったって。カーラマーラは、白き神の他に、この世界に執着していた最後の旧神だ。復活を許していれば、君は十字軍との戦争どころじゃなくなるし、僕ら黒き神々も困ったことになる。後顧の憂いは、先に断たなくちゃいけなかった」

「そういう戦略的な判断、教えてくれても良かったんじゃないのかよ」

「君は僕の使徒じゃない。だから命令は絶対にしない。助言はできるけどね、ルールに許される限り」

「……まぁ、いいさ。どの道、十字教連中がオリジナルモノリスを狙っていたのは事実だったしな」

 カーラマーラ神のことなどなくても、俺達は何としてもここでオリジナルを確保しなければいけなかった。

 俺達がいなければ、間違いなくシルヴァリアンの聖堂騎士団が手中に収めていただろう。

「それじゃあ、僕はもう行くよ。久しぶりにエンデ使ったら、疲れちゃったよー」

「あの最強武器みたいなやつ、そんな略し方でいいのか」

「君にとっての『首断』みたいなモノさ」

 微笑みながらそう語るミアは、すでにその体が黒い粒子へと変わりながら消え去ろうとしていた。

「そうだ、最後に一つ忠告しておくよ」

 なんだ、とやや身構えながら聞く。

 こういう時に言うことって、大体深刻な内容だったりするからな。

「ザナドゥの遺産レース、優勝おめでとう。これで君も、一国一城の主だ」

 まぁ、そういうことになるのだろうか。全く、何の実感も湧かないが。

「王様になると、めちゃくちゃ大変だけど、頑張って! じゃあね!」

 すっごいおざなりなエールだけ残して、ミアは消え去っていった。

「えぇ……それだけかよ……」

 なんだそれ、忠告とも言えないような適当な内容だったが……別に、ザナドゥの遺産が手に入ったからといっても、王様になれるわけでもないし……

「うーん……」

 と、ミアが消えるのと入れ替わりの様に、床に倒れていたリリィ達が目を覚ました。

 静かに寝息を立てていたから、全員無事なのは分かっていたが、お早いお目覚めだ。

「……ハッ! クロノ!」

「おはよう、リリィ。もうカーラマーラは消えたから、大丈夫だぞ」

 目を覚ましたリリィは、俺の顔を見つめてから一拍、慌ててキョロキョロと周囲を見渡した。

「ないわ」

「何が?」

「宝が、全部なくなっているわ……」

 愕然としたようにつぶやくリリィ。

 そんな馬鹿な、あれほど大量の黄金が一体にどこに消えたというのか————なんて、一目見ればすぐに分かることだった。

 宝物庫は白い壁のだだっ広いだけの伽藍堂と化していて、ど真ん中にポツンと黒いオリジナルモノリスだけが鎮座している。

 金貨の一枚もない。

 溢れかえっていた金銀財宝の山は、どこにも存在しなかった。

「ちくしょう、カーラマーラぁ! 宝の山は置いていけよぉおおおおおおおおお!!」

 2020年5月9日


 ミアのエンデは、実は初登場時にもちゃんと描写されています。

 第159話『守護の力(2)』で、クロノの前に初めてミアが魔王の姿で現れますが、その姿の描写で、


『その大きすぎるマントと被ってはっきりとは見えないが、彼女の腰には一本の剣が、いや、恐らく黒色の短杖と思われる武器を携えている。』


 という感じで、ちゃんと短杖っぽい武器が腰にあるよと書かれています。他のところでも、杖装備してるとちょこちょこ描写していた気がします。

 カーラマーラという同じ神だから、ようやくこの武器の出番がきました。ミアも本気です。

「魔王と呼ぶがいい」「これが世界の選択だ」「『終焉神鍵エンデ・デア・ヴェルト』」などなど、中二台詞を真顔で連発できてこそ真の魔王。いつかクロノも、この領域レベルに辿り着いてくれるでしょう・・・

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヒロイン達の選択に対して、ヤンデレ大戦が大きな意味を持っていたことです。 ミアの実力が示されたことです。 最後に、財宝が消え去ったことに笑いました。
[一言] でもなんていうか…妖精女王イリスもやってる事の邪悪さでいうとあんまり変わんなそうだよね…範囲が狭いってだけで…。
[気になる点] クロノやっぱり使徒じゃ無いんだね [一言] エンデって鍵なのか…つまり慢心王の宝具と似てるね。
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