第769話 古き神の像
2020年5月1日
今日は二話連続更新です。こちらが一話目になりなす。
そこは、ここまでで最も巨大なホールであった。もしかすれば、ドーム球場よりもさらに広いかもしれない。
もっとも、ただ広大というだけで、特にこれまでのエリアとの違いはない。
周囲は変わらず黄金の壁面でギラついているし……ん、よく見れば、壁には薄っすらと光る文様のようなモノが走っているな。
まさかラストローズみたいな幻術とじゃないよな?
「リリィさん、ここ、似てますね」
「そうね、雰囲気もほぼ同じ」
「なんだ二人とも、なんか知っているのか?」
「ゼノンガルトが使った『次元魔法』がこんな感じだったの」
マジか、次元魔法使えるのかよ。相当な実力者だぞ。
伊達にカーラマーラ最強ではないってことか。納得の強さではある。
「とりあえず煉獄にしておきますか?」
「加護の力は遮られていないから、その必要はないんじゃないかしら」
そんなことを話しながら、俺達は堂々とだだっ広いドームを横断してゆく。
この遮蔽物のない、小細工無用、正々堂々勝負とでも言いたげなフィールドには、見渡す限りでは何もないし、誰もいない。
ボスの姿はどこにも見えない。
「まずは先に、宝物庫のドアをノックしてこいってことなのか」
俺達の向かう先には、入口と同じく巨大な赤い門がある。
まず間違いなく、あの門が宝物庫へ通じる扉だろう。
警戒しつつ進みながら、見上げるほどに大きな門まで辿り着く。
門にはちょうど、人の高さで触れる前提であろう、小型のモノリスが埋め込まれている。こういうのは『神滅領域アヴァロン』でも見た、アクセス用のデバイスだ。
「行くぞ」
意を決して、俺はモノリスへと手をのせる。
変化は、劇的だった。
『————よくぞここまで来た、冒険者よ。最後の試練を始めよう』
これはザナドゥの声、なのだろうか。アナウンスが響き渡るが、そんなことなど気にしていられない、途轍もない魔力の気配が一気にホールを駆け抜けていく。
中央から眩いほどの金色の輝きを放ちながら、巨大な魔法陣が起動していた。
「なるほど、ラスボスらしい派手な登場じゃあないか」
そこから現れたのは、黄金の巨人だった。
全長およそ20メートル。筋骨隆々のギリシア彫刻のような、黄金で象られた男の像だ。
鍛え上げられた逞しい肉体は純金の光沢で彩られ、そこには生物的な色は見られない。身に纏っている薄絹のような衣装に羽衣も同じ黄金でできているが、ゆらゆらと本物の布みたいにゆらめいていた。
「デウス神像、だな」
ザナドゥが初めて大迷宮の完全攻略を果たした時、宝物庫の前で最後に立ちはだかったボスがそれである。神代の神を模した巨大な黄金像のゴーレム。
デウス、という名の神が本当に神代にいたかどうかは分からない。分からないが、ザナドゥ本人がそう呼んだので、『デウス神像』と名付けられた。
大迷宮最後のボス。宝物庫の番人。
その姿は、黄金の巨人であり、三面六臂の荒ぶる神を象っている。
「なんか阿修羅みたいな奴だな」
「顔が三つもついてて気持ち悪いわね」
「武器いっぱい持ってますね」
まぁ、かの有名な大迷宮のラスボスの姿は、俺もギルドで確認済みだ。図解ではヘカトンケイルみたいな多腕の巨人というイメージを持ったが、実物を見ると阿修羅感に溢れている。
三面の顔は、正面と左右にそれぞれ顔がついている。
正面は冷徹な無表情。
右面は仁王像の阿形みたいに、口を開いて叫んでいる怒りの形相。
左面は穏やかな微笑みだが、何か企んでいるかのような不気味さを感じさせる。
それぞれ異なる表情を浮かべる三面だが、その顔は同じ老人のものだ。
豊かに波打つ長い髪と、ドワーフのように立派に蓄えられた髭を持ち、確かに神様っぽい威厳のある顔だな。
「奴の武装も、ザナドゥの時と同じだな」
最も気にするべきなのは、やはりその六本の腕にそれぞれ握られた武器である。
通常の位置から生える両腕には、右に両刃の剣、左にハンマー。
肩口から生える両腕は、右に斧を、左は錫杖のように幾つもの金属環がジャラジャラついた独特の杖が握られている。
そして、背中の方から生える両腕は大きく上に伸ばされ、右手には紫色の輝く大きな宝玉を、左手には水晶のように透き通った輝きの杯を、それぞれ掲げている。
デウス神像はその場で腰を落とすように、それぞれの武装を構えたまま、動きを見せない。どこからでもかかって来い、とでも言いたげに不動を貫いている。
先手を譲ってくれるとは、ラスボスに相応しい余裕だ。
「みんな、ギルドの情報くらいは知っているんだろ?」
「遺産のことがなくても、元から攻略するつもりだったので、それなりに情報収集は済ませていますよ」
それなら話は早い。
デウス神像の持つ武器の能力は、おおよそ割れている。
勿論、分かっていたところで、簡単に攻略できるモノではないのだが。
「俺とリリィとサリエルで行く。フィオナは『煉獄結界』をいつでも使える余力は残しておいてくれ」
ギルド情報にはないが、『次元魔法』を向こうが使ってくる、あるいは、こっちが使わないと対抗できないような場合もあるかもしれない。
デウス神像は文句なしのランク5モンスターだ。それくらいの警戒は必要だろう。
「リリィ、最初から全力で行くぞ」
「うん」
無邪気な幼女みたいに、嬉しそうに弾む返事。
リリィは俺の意図を分かりきっているから、そのままギュっと手を握ってくれる。
「最初に狙うのは宝玉、次に杯だ。俺とリリィで隙を作るから、サリエルが破壊を頼む」
「はい、マスター」
「フィオナはサリエルをメインで援護してくれ」
「了解です」
さて、ブリーフィングはこんなところでいいだろう。あまりラスボスを待たせてやるのも悪いしな。
「それじゃあ、行くぞ————君の全てを受け止める」
「私の全てを貴方に捧ぐ」
若干、恥ずかしい詠唱を口ずさめば、俺とリリィはすぐに眩しく輝く光の繭に包まれた。
外から見ると、古代文字含む超複雑な術式がびっしりと描かれた、光球型の魔法陣になっているらしい。
だが、俺にとっては魔法の発動を自ら操ることはない。所詮、俺は術者ではなく、魔法効果を受けるだけの身だ。
だから、その全てを拒絶することなく、受け入れるだけ。
ああ、この感覚は、久しぶりだ。
思えば、これをマトモに戦闘で使ったのはガラハド戦争でサリエルと戦った時が最後。対使徒用の切り札の一つ。
俺とリリィは、再び一つとなる。
「————『妖精合体』」
そして、大迷宮攻略、最後の戦いは始まった。
『エレメントマスター』と『デウス神像』の戦いは、開幕から熾烈を極めた。
なるほど、コイツは確かにラスボスに相応しい強さ。すぐにそう実感できるほどの力を見せつけるデスス神像だが……俺達も伊達にランク5を名乗っちゃいない。
激しい攻撃の応酬を交わしてほどなくすると、ついに攻略をキッカケを掴む。
その急先鋒は、サリエルだ。
ゴォオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
と、巨大ホールを揺るがすほどの絶叫を、デウス神像は上げた。
「よくやった、サリエル!」
俺の言葉に、サリエルは空中でチラっと視線を向けて小さく頷いてから、即座に空を蹴って飛び退いていった。
デウス神像を倒すにあたって、最初にしなければいけないのは、宝玉と杯の破壊だ。
紫の宝玉は、妖精結界のように全身を覆いつくす万能な結界を展開する魔法具、いや、大魔法具である。通称、デウス結界。
この結界は、『星墜』が直撃しても揺るがない程の堅牢さを誇る。全員で最大火力をぶっ放せば破壊も可能かもしれないが、それは少々、効率が悪い。
こと攻撃魔法に対しては圧倒的な防御を誇るデウス結界だが、生身の人は弾かれない、という弱点がある。
要するに、結界を解除するためには、誰かが生身で肉薄し、直接、宝玉を破壊するしかないのだ。
素早い機動力を持つ前衛戦士の仕事である。
俺達は目くらまし代わりに適当な炎魔法を放つフィオナの攻撃に紛れて、デウス神像へ急接近。そのまま結界へ侵入。
結界の範囲は直径50メートルほど。おおよそ、ヤツが握る剣などの攻撃が届く間合いだ。
結界内では、俺が派手に暴れてデウス神像を引き付け、あとは隙を見てサリエルが破壊。
今そこ隙あった? みたいなタイミングで飛び出したサリエルは、瞬く間にデウス神像の体を駆けあがり、『反逆十字槍』で結界宝玉を一撃で貫いた————そして、直後には槍を投げて、そのまま杯を破壊した。
ちなみに、杯の能力は回復だ。
杯から湧き出る水銀のような液体は、デウス神像の体に吸収されると破損した箇所を即座に修復してしまう。それは体だけでなく、手にした武装も直るのだという。
苦労して他の武器を壊せても、杯があれば元通り。
だから、サリエルも宝玉を直される前に、即座に投げ槍で杯をぶち抜いたのだ。なんか簡単にやったみたいに見えるけど、槍一本の一発勝負で決めるサリエルは、やっぱ凄い。
そして、二つの武装をあっさり破壊されたデウス神像は、飛び退いていくサリエルを逃がさないと言いたげに体を向ける。
「おい、どこ見てんだ。目の前に絶世の美女が飛んでいるってのに————『黒凪』っ!」
正面の無表情から、右側面の怒り顔にかけて、『首断』で武技を刻み込んでいく。
呪いの刃は表面の金属面を超え、その奥にある巨大ゴーレムを動かすための仕掛けにまで届いたようだ。
切り裂いた傷跡からは、鮮血の代わりに、ドバっと水銀そっくりな液体金属を吹き出す。
体に悪そうな水銀の血飛沫を、俺はそのまま飛んで逃れる。
全長20メートルの巨人の顔。頭の位置は当然、ちょっとジャンプすれば届くような高さにはない。
しかし、リリィと合体した『妖精合体』状態の俺は、完全な飛行能力を有する。奴の顔の辺りを蚊のように飛んでちょっかいかけるのは、簡単なことだ。
「蝶のように舞う、と言って欲しいわね」
「そして、蜂の様に刺す!」
憑依する守護霊形態で、半透明の霊体と化したリリィには、俺の思考は筒抜けである。許せリリィ、決して妖精の飛行が虫みたい、とか思っているワケではないよ。
心の中でフォローしつつ、俺は取り出した『バジリスクの骨髄槍』を、怒り顔の目に叩き込む。
生物にとっては致命的に過ぎる猛毒だが、どうやら金属にも効果はあるようだ。
突き刺した先で解き放たれた濃密な猛毒ガスは、ジュワジュワと音を立てて神像の金属装甲を溶かしてゆく。
「なんだよお前、ただの金メッキだったのか?」
ォオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!
怒り顔から絶叫を上げながら、手にした武器が振るわれる。
骨髄槍によって、怒り顔の方は半分ほど顔面が焼け爛れたように溶け出す。中身までは金色ではなかったのか、ドロドロと流れ落ちる水銀の血と共に、黒い金属も流体となって黄金と交じり合っていた。
表面は黄金の装甲で、中身は黒い金属の肉体と、水銀の血が流れる、そういう構造になっているようだ。
「結界と回復は止めた。後は真っ向勝負で叩き潰すだけだな」
「ええ、時間も十分に残っているわ」
『妖精合体』状態の俺は、女の体となり、リリィの妖精としての能力も同時に使える。
前回の時はリリィが着用しているエンシェントビロードのワンピース姿だったが、今は『暴君の鎧』を着込んでいる。
女体に変化しても、鎧の内部を満たす赤黒いスライム質がフィットするので、違和感はない。
俺としてもワンピースをヒラヒラさせて飛ぶよりも、ガッチリと鎧で守られた方が安心である。スカートは股座がスースーして落ち着かないからな。おまけに、この無駄にデカい胸も揺れずに済む。
「おっと、普通に素手でも攻撃してくるのか」
空飛ぶ俺を狙って、剣と斧が振り回される中、宝玉と杯を失い無手となった両腕も振るわれてくる。
片方は拳で、もう片方は平手となって襲われるが……本当に自分が羽虫みたいになった気分だ。
「気分が悪いわ、少し離れましょう」
「折角、結界も壊したしな。アウトレンジで撃たせてもらおう」
わざわざ、六本も腕のある奴の間合いにへばりついてやる義理もない。結界がなくなれば、遠距離からの攻撃魔法でもダメージを通すこともできる。
さっと身を翻して後退していくと、デウス神像は俺を狙っていた剣と斧、それぞれに宿る属性を迸らせて、狙いを定める。
そして、次の瞬間には燃え盛る炎と吹き荒ぶ嵐が一体と化して放たれた。
「当たるかよ!」
轟々と激しく唸るファイアーストームが中空を薙ぎ払っていく。
炎の魔剣と風の魔斧による、火と風を交じり合わせた一種の複合魔法みたいなものだ。
広範囲を灼熱地獄と化すが、『妖精結界』があれば、少々強めの余波でも、ノーダメージで切り抜けることができる。
吹き荒れる炎の嵐を掻い潜りながら後退を続ける中で、さらに新たな魔力の気配を察する。
「ちっ、『極悪食』!」
「『白光矢』」
火炎の向こう側から飛んで来たのは、黄金に輝く魔力の矢。いや、槍と言うべきサイズを誇る、中級攻撃魔法だ。それが二本、正確に俺を追尾して飛来する。
片方は『極悪食』でガードし、もう片方はリリィが『白光矢』を撃って迎撃。
「素手で魔法も撃つのか。ギルドの情報にはなかったな」
炎の嵐が過ぎ去り、開けた視界の向こうでは、手のひらから黄金の輝きを放つ両手が見えた。
宝玉と杯を失い無手となっても、そのまま殴るだけでなく、攻撃魔法も放てるようだ。
中級以上の単体攻撃魔法で、誘導性能も付く。厄介ではあるが、専用の武器を使われるよりはマシだな。
「次は錫杖か」
デウス神像の握る錫杖は、広範囲の攻撃魔法を継続的にぶっ放す、厄介な性能だ。下手に喰らえば一気に全滅までありうる。
さっきは、金の光の矢を雨のように降らしつつ、ある程度、敵のいる範囲に絞って密度を上げて撃てるようでもあった。
これを発動されると、防戦一方となってしまう。
凌げばある程度の時間リキャストに入るようだが、矢の雨を受け続けるのはリスクが高い。
錫杖が魔力の波動と共に輝きはじめ、次の瞬間にも発動しそうだ。
今から撃って、破壊が間に合うか。
「大丈夫よ、もう間に合っているわ」
リリィのささやきと共に、灼熱が渦を巻いてすぐ脇を飛んでいく。
デウス神像がさっき放った火炎竜巻、それよりもさらなる火力を秘めた炎を纏う溶岩の体だ。
「————『炎龍砲』」
満開の『ワルプルギス』より放たれた、いいや、呼び出された炎龍が獰猛な唸りを上げてデウス神像へと襲い掛かる。
火山の化身たる炎龍は、その灼熱の牙を剥いて、輝く錫杖へと喰らい付く。
直後、激しい明滅と共に錫杖は暴発気味に魔法が放たれる————だが、炎龍は決して離さず、その長いマグマの躯体を腕へと絡めていく。
「助かった、フィオナ。このまま一気に押し込むぞ!」
結界を封じたことで、フィオナも直接的な火力支援ができるようになった。
錫杖は不発に終わり、こっちは思う存分、攻撃を叩き込める。
「エネルギー臨界点、いつでもどうぞご主人様!」
俺は右手に黒雷を迸らせた雷砲形態の『ザ・グリード』を携え、左手には、漆黒の拳銃を握る。
「コイツも一度、使ってみたかったんだ」
「思う存分、ぶっ放してちょうだい」
リリィの愛用武器である古代兵器の二丁拳銃、その片割れ『スターデストロイヤー』だ。
大砲と拳銃の二つを構え、弾薬代わりに詰め込まれた黒色魔力を全開で解き放つ。
「『荷電粒子砲』」
「『最大照射』」
二筋の黒いビームがデウス神像に直撃。
派手に大爆発を起こしながら、黒煙を噴き上げて巨大な神像が揺らぐ。
だが、こっちのターンはまだ終わらせない。
「今の俺は半分妖精だ、コイツも使える!」
デカい一発を放つと冷却を要する『ザ・グリード』を収納しつつ、代わりに握るのはリリィの二丁拳銃のもう片方、白銀に輝く『メテオストライカー』だ。
妖精の光の魔力を吸い上げて輝く白き拳銃と、俺の黒色魔力で再び弾倉を満たす黒き拳銃を、同時にトリガーを引く。
撃つ、撃つ、撃ちまくる。
デウス神像は俺達の猛攻に怯みながらも、反撃を試みる。
炎の剣で、風の斧で、雷の槌で。
奴の握る近接武器はどれも魔法を宿し、遠距離攻撃も放てるが、この猛攻撃に晒されては、散発的な苦し紛れの攻撃しか飛んでは来ない。
俺は奴の周囲を飛び回りながら、ひたすら魔力の弾丸を叩き込んでいく。
そんな中で、ボキリ、と鈍い音が響く。
見れば、錫杖を握っている腕が、肘の辺りから折れて床へと落下していくところだった。
腕に絡みついた炎龍は、その灼熱でもって金属の腕を溶かしつつ、さらに溶岩の体の圧力でへし折ったのだ。
グゥウォオオオオオオオオオオオオオオオッ!
やや苦し気に吠えるデウス神像。
錫杖の腕を失ったが、いまだ健在の炎龍は本体の方に巻き付いてゆき、さらなる攻撃を加え始める。
よし、ここだ。
「リリィ!」
「準備はできてるわ」
奴にトドメを刺す好機————だが、奴もまた今この瞬間が最大のピンチであると悟ったのだろう。
デウス神像は剣を持つ以外の五本腕を、全て炎龍の排除に向ける。
自分の体が傷つくこともいとわずに、斧を振るい、ハンマーを叩きつける。二本の素手はジュウジュウと焼ける音を立てながらも、喰らい付く炎龍の牙を握った。
そして、俺の方には炎剣を持つ腕を大きく振り上げる。
飛行する俺はその刃の間合いの外にいる。だが、渾身の一撃を繰り出すかのような大振り。さらに、剣の刀身は赤々と光り輝き、今にも刃が爆発でもしそうなほどの気配を放っている。
あのまま剣を投げて、大爆発させる気か。
自らの武器を失ってでも、ここで俺を仕留めるつもりなのだろう。
半分捨て身のような攻撃。だが、それをされれば俺の狙うタイミングは逸らされてしまう。
「————『魔神槍』」
刹那、瞬いたのは黒き雷光。
大きく振りかぶった炎剣の腕を、神像の背筋を駆けのぼっていったサリエルが渾身の必殺武技を叩きこんでいた。
膨大な黒雷を収束させた穂先は、剣を握る手、その指を抉り取る。
人差し指の付け根から、一気に小指まで粉砕し、駆けあがって行く。
黒い雷光と素肌を晒す『堕落宮の淫魔鎧』を纏ったサリエルが中空に飛び出すと共に、爆破寸前まで炎の魔力を高ぶらせていた剣が、その手を離れて落下を始めた。
「これで終わりだ————」
最高のフォローを受け、俺は、いや、俺達はデウス神像を打ち倒す、最後の一撃を完璧なタイミングで放つことができた。
「————『妖星墜!!』」