第761話 黄金魔宮(1)
「リリィさん、今のはちょっと大人気なかったのでは」
妖精少女から『紅水晶球』を奪い去り、妖精幼女に変わって大泣きに泣くルルゥを後にして先へ進み始めた矢先、フィオナは口を開く。
黄金の目はいつにもましてジト目気味になり「正直、引きます」とでも言いたげに、隣をご機嫌に歩く麗しの妖精少女リリィへと視線を向ける。
「ふふふ、ダンジョン攻略はいいわね。思いがけないお宝が手に入るんだもの。これぞ冒険のロマンね」
「あっ、特に反省はしていないんですね」
ちょっとやり過ぎたかも、などという殊勝な言葉はついぞリリィの口からは出ない。
「可哀そうに。あんな小さい子から奪い取るなんて」
「コレを持つ資格はあの子にはないわ。どの道、あんな調子じゃあ恨みを買って、誰かに奪われるに決まっているもの」
むしろ感謝して欲しいくらいだ。
妖精女王イリスの加護を宿す妖精族の宝を、いつか現れるであろう欲深き強者に奪われることなく、自分が大切に保管しておけるのだから。
「ありがとね、フィオナ。貴女のお陰で楽ができたわ」
「いえ、相手の弱点を突くのは基本ですし」
フィオナの編み出した『妖精殺し』は、妖精相手にはあまりにも致命的な威力を誇る。
魔法生命である妖精から、固有魔法を完全に封じるという破格の効果。かかった瞬間から、ルルゥが何もできなくなったのも無理はない。
「貴女がいれば、同族相手に負けることはない、というより、勝負にもならないわね」
「そもそも、妖精同士で殺し合いする方がおかしいんですけどね」
妖精は人間とは根本的に違う。ソリが合わずに嫌いあい、いがみあい、喧嘩をすることはよくあるが、心の底から憎悪して殺しあうことは決してしない。精々が、かつてのリリィのように、泉から追い出されて村八分にされる程度である。
故に、妖精同士での戦闘は想定されない。戦術も磨かれることはない。
だが、人間であり、魔女であるフィオナはリリィという最強の恋敵を討ち倒すために、作り上げた。同族たる妖精を利用することで、固有魔法を封じる『妖精殺し』を。
「上手くいって良かったわ」
「私も、あまりにスムーズに発動できて驚きです」
本来の術者はフィオナである。
発動させるのはフィオナでなければできないが、必ず妖精の存在を必要とする。特殊な魔法の発動には、特定の触媒や供物などを要することもある。その例に倣えば、妖精は触媒扱いとなる。
リリィと戦った時は、捕獲したヴィヴィアンを生体パーツ扱いで武器に組み込んでいたが、今回はリリィ自身が触媒となっている。
だが、傍目にはリリィが『妖精殺し』を行使したように見えただろう。
そのカラクリは、『女王鎧』である。
かつて嫉妬の女王と化したリリィは、捕らえたフィオナ達の力を利用した特殊な精神魔法を使用した。
夢を見せることで本人に術式を発動させ、テレパシーを通じて自らが行使する。
だが、大本になる術者本人が、リリィに対して協力の意志を持っているならば、話は変わる。夢を見せて誘導する必要もなく、リリィにその魔法を使わせることができるのだ。
もっとも、本人がいるなら自分で発動させたほうが確実かつ、十全な威力を発揮する。あまり遠くに離れすぎていれば『女王鎧』のテレパシーも届かない。何より、術者とリリィ、互いにそれなり以上の信頼がなければ、魔法を発動させるほどに通じ合えることはないだろう。
「本当にバカな子だったわね。私は一言も一対一で決闘するなんて口にしていないのに、ふふ、一人で張り切っちゃって」
「リリィさん、そんなに同族をイジめて楽しいですか」
「心外ね、むしろ憐れんでいるくらいよ。身に余る力はいずれ己を滅ぼすわ。これで、少しはあの子も大人しくなるはずよ」
「どう考えても復讐に燃えるとしか思えませんが」
妖精幼女と化して、大幅に力が減退したルルゥが、これからどう生きていくのか。その行く先にリリィは興味などない。
どれほどリリィを恨もうとも、無駄なこと。
所詮は恋を知らない子供に過ぎない。誰かを愛する、というこの世で最も強力な感情がなければ、リリィの相手にはならないだろう。
「素敵な恋をしてから、出直して来るといいわ」
第4階層のボス『ラピスサラマンドラ』は、深い藍色の結晶装甲を身に纏ったサラマンダーである。だが、最早別種と言ってよい独自進化を遂げていた。
空を舞うことなく洞窟の中に生息するため、飛竜最大の特徴である巨大な両翼は、翼膜が退化し、代わりに羽ばたく腕部が肥大化することで、強靭な両前脚となっている。
飛行能力はなく、滑空するのが精々。しかし、その翼を捨てた代わりに発達した両腕は、容易く大地を抉り取る膂力と、ラピスラズリのような藍色の結晶から供給される魔力による青い雷の魔法が、その手には宿っている。
煌めく結晶の洞窟を駆ける、青き雷竜。ラピスサラマンドラは第4階層のボスとしてはトップスリーに入る強敵だが————
「うーん、やっぱり『紅水晶球』は最高ね」
極大の流星剣によって、その首を両断されてラピスサラマンドラは倒れた。
リリィは血の一滴も零さず灼熱で溶断しきった生首の傍らで、クルクル回って喜んでいる。
「やっぱり、ただ新しい『紅水晶球』が欲しかっただけなのでは」
「リリィ様の力が増したことは事実。殺してでも奪い取る選択は正しい」
「死んでないですよ」
そんなことを無表情で言い合いながら、フィオナとサリエルは特に出番がなく終わってしまったボス戦に、これといった感想もなくさっさと次に進むために必要な行動を始めた。
「これが転移魔法陣で間違いありませんね」
「コアの摘出、完了」
「次でようやく最後ね。さっさと行って、早く終わりにしましょう」
そうして、『エレメントマスター』は第5階層へと到達する。
「うーん、悪趣味な部屋ね」
転移の光が晴れた先に広がる光景は、黄金に輝く回廊だった。
長く続く広大な空間。左右には高さ10メートルはあろうかという巨大な円柱が等間隔で立ち並ぶ。
そして、その円柱も壁も、全てが黄金で彩られている。
「————いいや、このギラつく黄金の輝きこそ、人の持つ欲望を最も端的に表す、真実の光景だ」
リリィの呟きに応えるかのように、円柱の影から一人の男が姿を現す。
亜麻色の髪をした、端正な顔立ちの青年。
男性アイドルとして人気を博しそうな容姿をしているが、その身に纏うのは漆黒の鎧兜。精巧な金細工の装飾が施されている美術品のような鎧だが、そこから発せられる濃密な魔力の気配は、大魔法具と呼ぶに相応しい力を感じさせる。
「この輝きを求めるならば、所詮はただの愚者よ。少なくとも、私にはこんなにたくさんの黄金はいらないわ」
リリィは驚く様子もなく、当然といったように青年の言葉に応える。
無論、ただ話を合わせただけではない。
足元に広がる赤い絨毯を踏みしめて立つリリィ達は、すでに臨戦態勢だ。
「ほう、言うではないか————面白い、お前がリリィだな。アイドルか、冒険者か、あるいはもっと別の何か、か?」
「お陰様で、顔は売れたみたいね。そう、私がリリィ。アイドルはちょっとしたお遊びよ。本業はただの冒険者。今はまだ、ね」
「そのお遊びで、俺の妹は随分と傷ついたようだがな」
「ああ、あの女のお兄さん。それじゃあ、やっぱり貴方がゼノンガルトなのね。カーラマーラ最強の冒険者さん」
「如何にも、俺がゼノンガルトだ」
名乗ると同時に、左右の柱から『黄金の夜明け』のメンバーが姿を現す。
リリィ達を中心に、正面にはゼノンガルトが一人。右後方には『剣豪』アイランと『魔弓射手』ティナ。左後方には『重騎士』セナと『精霊術士』ウェンディ。
5人のメンバーは、三角形で囲むような配置についていた。
転移の気配を察し、待ち構えていたことは明らかだ。
「よくぞここまで来た。ランク5の実力は本物のようだな」
「これでも実力は半分以下よ。だって、一番大事なリーダーが不在なのだからね」
「戯言を、と切って捨てることはできないな。お前達の力は認めざるを得ない。しかし、あえて言わせてもらおう————女を手にかけるのは、趣味ではない。退くがいい」
堂々と言い放った、ゼノンガルトの宣言に、しばしの静寂が訪れる。
リリィは本気で、まさかそんなことを言い出すとは思わなかった、とでも言いたげに目を丸くしてから、ようやく理解したように、微笑みを浮かべて応えた。
「ふふっ、あはは、貴方、ユーモアのセンスもあるようね」
「俺は美しいものが好きだ。お前達の、それぞれ輝くような美貌を傷つけたくはない」
「今度はナンパかしら、色男さん」
「俺のモノになれとこの場で言うほど、傲慢ではない。ただ、美しいものは美しいままにあるべきだという、個人的な主義ではあるが……我が野望の前に立ち塞がるならば、容赦はできんのでな」
「ふーん、野望、ね。もしかして、魔王になる、とか言わないわよね?」
「古の伝説、誰もが憧れ、しかし叶えられなかった夢物語。だが、現代においてそれはついに現実となるのだ————そう、この俺、ゼノンガルトが魔王となり、パンドラ大陸を統一する」
「ああ、やめて、これ以上、笑わせないでちょうだい。貴方、面白いわね。大人しく私の前に跪くなら、見逃してあげてもいいわ。今も、この後も、ね」
「ふん、これより後に、何があると言う」
「カーラマーラは、私のモノになるのよ」
再び、静寂が満ちる。
笑いを浮かべたのは、今度はゼノンガルトの方だった。
「そうか、やはりオリジナルモノリスの秘密を知っているな」
遺産放送の直後、外周区でライフラインが断たれた。それが『カオスレギオン』に最近現れた協力者、リリィによるものだという見当はついていた。
モノリスを操ることで、カーラマーラのライフラインを制御する。
それだけならば、古代魔法を読み解き、モノリスの操作をある程度できるようになれば不可能ではない。
しかし、確信をもってカーラマーラの全てを手に入れると宣言するに足る自信があるのは、オリジナルモノリスについても知り及んでいるからに他ならない。
つまり、狙いは自分と全く同じ。オリジナルモノリスを完全掌握することによる、カーラマーラの支配。
「残念だ。すでにそこまで知っているならば、見逃すワケにはいかん」
「私は見逃してあげても構わないのだけれど……」
チラリ、と左右へ視線を向ければ、『黄金の夜明け』のメンバーは油断なく武器を構え、すでに魔力を迸らせている。
流石はカーラマーラ最強と謡われるランク5パーティ。見目麗しい美少女、美女のメンバーばかりだが、感じる力は相当なもの。使徒を除けば、人として最高峰の実力者揃いであろう。
「いいわ、相手になってあげる」
次の瞬間には、刃か、矢か、攻撃魔法が飛んできてもおかしくない緊迫感が満ちる中、リリィは悠然と両手を掲げて言う。
「フィオナ、サリエル、そこで見ていてちょうだい」
「一人でやる気ですか、リリィさん」
「ええ、私は今、気分が良いの」
「そりゃあいいでしょうね、新しい『紅水晶球』が絶好調で」
「リリィ様、『黄金の夜明け』は油断ができる相手ではありません」
「大丈夫、必要になったら呼ぶから」
慢心ともとれる台詞を口に、リリィは不敵に笑い、正面に立つゼノンガルトを見やる。
「さぁ、どこからでも、かかって来なさい」
「疾っ————」
真っ先に動いたのは、『剣豪』アイラン。
ただの剣士ではなく、剣豪のクラスを名乗る実力は伊達ではない。
目にも止まらぬ高速の踏み込み。鍛え上げた肉体と、そして磨きぬいた武技によって、流れるような動きで間合いを侵略する。
気配は最小。だが速さは最高速で。
音もなく抜き放たれた腰の刀は、煌めく白刃をあらわに、無防備に立ち尽くすリリィの背中を襲う。
「————『嵐の女王』」
刹那、リリィとアイランの姿が交差する。
「なっ……なに、この、速さは……」
驚愕の表情を浮かべ、アイランが振り返る。
虚しく空を切った刀を手にしたまま、リリィへ視線を向けた時に、ようやく気付いた。
「『流星剣・ベテルギウス』」
すでに、自分が斬られていることに。
リリィの右手には、研ぎ澄まされたような細く、薄い、けれど超密度で形成された蒼白の光刃が浮かび上がっていた。
先に仕掛けたのは、間違いなくアイランだった。
油断も隙もなかった。愛するゼノンガルトに舐めた口を利くリリィの姿が、気に食わないという個人的な感情もあり、自身が持てる最高速度の抜刀術で仕掛けたのだ。
だが、後に動いたリリィに斬られた。何の構えもとらず、背中を向けていたにも関わらず。
なぜ、どうして、一体どんな魔法を————だが、答えは至ってシンプルだった。
「私の方が、速かったわね、剣豪さん」
「くはぁ!」
カルラ流剣術の伝統胴着を切り裂き、白いアイランの肌に深々と刻み込まれる灼熱の創傷。
致命の一撃に血を吹き、アイランはそのまま倒れた。
「っ!? よ、よくもぉおおお!!」
一拍遅れて、飛び出してきたのは『重騎士』セナ。
着こんだ古代鎧は魔力全開でブースターを吹き出し、高速で突っ込んでくる鉄塊と化してリリィへと迫る。
青白く輝くエーテルの光を背負った超重量の重装甲に対し、細身の少女に過ぎないリリィは如何にも頼りない。そもそも、妖精であるリリィに力勝負は専門外。真正面から受けて立つような真似は、非力な妖精少女は決してしない。
だが、リリィはその場から一歩も動かなかった。
大盾をかざし、迫り来る古代鎧のセナに対し、リリィは細い右腕をそっと突き出す。
まさか、片腕一本で受け取めようというつもりではないだろう、とセナは眼前のリリィを見て思ったが————その、まさかだ。
「『炎の女王』」
ゴガァアアアアアアアアアアアンッ!!
けたたましい金属の衝突音が響き渡る。疾走する装甲馬車が人を轢いても、ここまでの音はするまい。
どれほどの衝撃を伴って、分厚い聖銀合金の大盾がリリィにぶつかったか。
そう、確かにぶつかった。正面衝突だ。
しかし、リリィはそこに立っている。
「止められたっ!? そんな、こんなパワーが————」
リリィは本当に、右腕一本でセナの突進を止めていた。
大盾のど真ん中に添えられた手のひらは、ミスリル合金の装甲を凹ませている。
白い柔肌の乙女の細腕が、一方的に巨大な金属塊を受け止める光景は酷く現実離れしているが、それを実現させているのは、リリィの右腕に渦巻く、燃えるような真紅のオーラ。
爆発的な膂力の増大をもたらす第一の魔王の加護は、その力をさらに右手へと集約させてゆき、
「さぁ、力勝負よ、受け止めなさい————『憤怒の拳』」
刹那、弾ける大爆発。
灼熱の黒色魔力『黒炎』を超圧縮した上で、インパクトの瞬間に全開放する必殺の拳だ。
無論、リリィにはクロノのような超人的な腕力はない。パンチの威力はゼロ。
だが、そこに上乗せさせる『黒炎』の力は、古代鎧を着こんだ重騎士一人を吹っ飛ばすには十分な威力を発揮してくれた。
「がっ……あぁ……」
大きくひしゃげた盾と共に、セナは真っ直ぐ吹き飛び、黄金の円柱に激突。ガツン、と金の破片をまき散らしながら、円柱を半壊させて動きを止めた。
「接近するのは危険です。このまま撃ちます」
「分かってる、ティナちゃん、合わせるよ」
前衛二人が軽く蹴散らされたが、後衛は動揺することなく、間髪入れずに遠距離攻撃を叩きこもうとしていた。
アイランかセナ、どちらかが僅かでもリリィの動きを止め、そこに正確な攻撃魔法を撃ち込もうという手はずだったのだろう。
だが、前衛を失ったことで、味方を巻き込むリスクはなくなり、さらに敵に対する脅威度も上げたといったところか。
後衛の二人、『魔弓射手』のティナと、『精霊術士』のウェンディは、今まさに放たんとする攻撃に宿る魔力の気配が跳ね上がる。
ティナが番えた白と金の壮麗な弓には、螺旋を描くような炎の矢に紫電が迸る。
ウェンディが突き出した女神を象った長杖から描き出される大きな魔法陣は、氷の青と風の緑に彩られている。
共に、双属性の魔法にして、その威力は上級以上を思わせる。
同時に放たれれば、たとえ空に舞い上がろうとも逃げ場がないほどの広範囲を薙ぎ払うだろう。
「ふふ、私は妖精よ。魔法の方が得意なの」
両手を広げると共に、光が灯り、次の瞬間には、二挺の銃が握られる。
右手には、白銀の『メテオストライカー』。
左手には、漆黒の『スターデストロイヤー』。
白黒の二挺を手にしたリリィは、その場で両手を交差させて、それぞれへと銃口を向け、トリガーを引く。
「————『星墜』」
二発、同時。
ティナとウェンディ、それぞれの頭上に、瞬間的に巨大な魔法陣が描き出される。
今まさに撃ち出さんとしていたところで、頭の上から超威力の光魔法が降ってくる。迎え撃たねば死ぬ。
結果、二人はリリィへの攻撃を中断した。
すでに、二つの光り輝く破滅の星が、落下を始めたが故に。
ティナは素早く身を翻しその場を飛び退くと共に、番えていた炎と雷の矢を頭上の星に放つ。
ウェンディは氷と風の魔法を放つと同時に、重ねて土と氷で防御魔法を唱えた。
そこまでの姿をリリィは見届けると、二つの『星墜』は凄まじい光と熱と衝撃を伴って、爆ぜた。
「これで、残りは貴方一人ね」
黄金の回廊に無残な破壊痕が二つ穿たれている。
片方の隅には、煤けた姿でティナが壊れた弓を手放さずに倒れ伏し、もう片方の中心では、ローブとドレスのような衣服が灰と化し、半裸となったウェンディが倒れている。
カーラマーラ最強を謡う『黄金の夜明け』のメンバー4人は、瞬く間に戦闘不能となったのだ。
頼れる仲間として、そして愛する女性として、4人のメンバーが倒れた姿を見て、ゼノンガルトは口を開く。
「リリィ、お前のその力、もしや————」
「それ以上は言わないで。一応、まだ秘密ということになっているから」
ゼノンガルトは仲間が倒れたことよりも、リリィが振るった力だけを見つめていた。
テレパシーで、彼の心のざわめきが届く。
だが、すぐにそれも収まった。
「そうか、そういうことか……ふっ、まさか、こんな時に、こんなところで相見えるとはな。これが運命と言うものか」
「私はもうとっくに運命と出会っているけどね」
「お前こそ、我が覇道の前に立ち塞がる最後の試練だ。リリィ、魔王の加護を持つ娘よ」
「いやだわ、調子に乗って、見せびらかすんじゃなかったかしら」
お陰で、酷い勘違いをしているようだ。
かといって、今の彼にそれを指摘するような無粋な真似をする気は、リリィにはなかった。
「お前を倒し、俺が魔王となる。刮目せよ、これが俺の、新たな魔王の力だ————『黄金魔宮』」
2020年3月6日
かなり久しぶりに、活動報告を更新しました。コミカライズ3巻と最新話について語らせてもらっていますので、よろしければ合わせてどうぞ。