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黒の魔王  作者: 菱影代理
第37章:支配者降臨
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第760話 第四階層・結晶窟攻略(5)

「————ハッ!?」

「お目覚めですか、お嬢様」

 鎧女ことレヴィの硬い背中の上で、ルルゥは目を覚ました。

「おい、クロノは!」

「先へ進みました」

 そして自分たちは、大人しく第二階層の森にある拠点へ帰るところである。今更、遺産を求めて、あるいはリベンジしにクロノの後を追いける気はない。

「ルルゥは……負けたのか……」

「はい。顎に拳を受け、一撃で昏倒なさいました」

 完全に意識を失い倒れたルルゥの前に、満身創痍だが確かに己の足で立ち、トドメを刺すには十分な力を持ったクロノがいた。その構図が成立した時点で、勝負は決している。

 そして、その光景をルルゥはレヴィからテレパシーで読み取り、自ら敗北の姿を確認した。

「ま、負けた……ルルゥが、負け……」

 信じられない、というような呆然とした呟きに、嗚咽が混じる。

「う、うぅ……うぅあぁああ……」

 傍若無人に暴れ回り、カーラマーラ最高の賞金首となった妖精少女ルルゥはしかし、今だけはその幼い姿に見合った泣き声をあげていた。

 テレパシーなどなくても、レヴィにはその心中を察するには余りある。

 妖精として破格の能力を持ったルルゥ。彼女を真っ向から止められるものは、誰もいない。

 ルルゥが生まれて13年、一度も負けたことはなかった。

 どれだけ苦戦しても、相手を退けることには成功している。膝を屈し、倒れ伏し、相手に自らの生殺を握られたことはない。

 その強さこそが、その勝利こそが、ルルゥの傲岸不遜を支え続けてきた。

 自分は世界で最強なのだから、誰に憚ることはない、自分の思うままに、好き勝手に生きるのだ。

 しかし、最強による自由の保障は砕け散った。クロノに負けたから。

 人生で初めての敗北は、ルルゥのプライドだけではない、もっと心の根幹にあるものを揺るがせた。

「ううー、あぁあああ! 負けたぁああああ!!」

 もっとも、とうとう声を隠すことなく大声を上げて泣き出したルルゥの姿は、年相応の少女らしい。

「尊い、お嬢様の純粋な涙、尊い」

「うるせー、泣いてねぇ! ルルゥは泣いてねぇ!」

 レヴィは頭をポカポカと小さな拳で叩かれながら、可愛いお嬢様の新しい一面を見られたことに満足そうに表情を緩ませている。

 ルルゥはまだ13歳。敗北を知るには長すぎたが、遅すぎたということはない。クロノが相手で、良かったと心から思う。

 優しい男だ。伊達にヒーローは名乗っていない。

 自分はあんなにボロボロになりながらも、ルルゥには傷一つつけずに勝利だけをもぎ取ったのだから。

 ルルゥには、まだ敗北の口惜しさだけでいい。

 敗者がたどる無残な末路、屈辱と絶望を味わうことだけは避けなくてはならない。

「……次は、負けねぇ」

「はい、そうでございますね」

 今はただ、ルルゥが人生初の敗北を糧に、成長してくれればそれで良い。

 そんなレヴィの心は知らずに、ルルゥはどこまでも素直に、再戦に向けた決意を固めた。

「————あ、リリィさん、見てください、妖精ですよ」

 その時、巨大な結晶洞窟のトンネルに、能天気な声が響いた。

 ルルゥ達の前方から姿を現したのは、三人組のパーティ。

 冒険者というよりは、ヴィジョンの中で華やかに歌って踊るアイドルグループといった方が相応しい、美少女の三人組である。

 レヴィは一目見て驚愕する。そのあまりのレベルの高さに。

「もしかして、妹さんですか?」

 隠すこともなく声を発しているのは、ミステリアスな黄金の瞳をした青いショートヘアの魔女。

「サイズから見て、間違いなく半人半魔」

 大きな白銀のポニーテールを揺らした、人形のような無表情で平坦な声音を漏らしている、アルビノの少女。

 街で見かければ二度見、三度見、では済まないガン見レベルの美少女ぶりの二人だが、さらにその後ろに続く、光り輝く三人目に、レヴィも、そしてルルゥも目を奪われた。

「妹? そんなの私にいるワケないじゃない。他の泉から出てきたんでしょ」

 つまらなそうに、こちらへ視線を向けるのは、プラチナブロンドの長髪にエメラルドの瞳をした幼女。そして何より、その背から生える二対の羽は、紛うことなく妖精の証。

 ルルゥと似ている、だが、明確に違う。妖精幼女だ。

 ルルゥを一目見た時から、この娘こそ世界で最高の美少女だと見込んで、当時の任務も立場も全て放り出して仕えることにしたレヴィだが、その忠誠心が一瞬とはいえ、揺らいだ。

 それほどまでの可愛らしさ。いっそ暴力的なまでのカワイイ。

「ハッ、いけない、私にはお嬢様というものがありながら……」

「ああぁ? なーに見てんだコラぁ!」

 レヴィの葛藤をよそに、ルルゥは全くもっていつもの調子で、不躾な視線を向けてくる相手に対して吠えた。

 すでに気絶した間に魔力も回復してきている。

 力強く『妖精結界オラクルフィールド』の輝きを放ちながら、フワっとレヴィの背から飛び立ち、美少女パーティに向かって仁王立ち。

「あの子、物凄くガラが悪いですよ。リリィさんも、昔はあんなだったりするんですか?」

「そんなワケないでしょ。呆れるほどに品がない、同じ妖精と認めたくないわね。実はここのボスモンスターじゃないかしら?」

「おい、聞こえてるぞテメぇ!!」

 クロノに負けたばかりとはいえ、ヤンキー気質には何の変化もないルルゥは、明確に侮蔑の意味が籠った言葉と、それ以上に、強い意志をテレパシーに刺激されて、瞬間的に怒りのボルテージが上がる。

 そのストレートな怒声を受けて、妖精幼女————リリィは、その幼い容姿にあるまじき、心の底から軽蔑するような冷たい眼差しをルルゥへと向けた。

「————おい、なんだよその目は。ルルゥ様に喧嘩売ってんのか、このチビが」

「仮にも女王陛下から力を賜っておきながら、その下劣極まる口の利き方……まったく、呆れるわ」

 リリィは、ルルゥを一目見て理解した。

 彼女は自分と同じように、『紅水晶球クイーンベリル』を持つことで、少女の体を維持しているのだと。

 どうやら、リリィと違って変身時間に限りはないようだ。それを才能と呼ぶべきか、あるいは、ずっと持ち続けることで適合率を上げたのか。

 どちらにせよ、生まれ故郷である光の泉を出て、外の世界で活動し続けた時間はルルゥの方が長いであろう。永続的な変身能力を持っているというだけで、リリィよりも優れた戦闘能力があると言える。

「今すぐ泣いて謝れば、ガキだと思って許してやってもいいぞ」

 ルルゥもまた、リリィを見て気づいている。

 幼い姿は、変身時間に制限のある証拠。こうして、流暢にお喋りしているだけでも、力を使っていることに。

 同じ半人半魔の妖精として、格が違う。

「人間はね、昔、猿だったんだって」

「ああ?」

「猿は人間よりも力が強い。鋭い牙と爪を武器に、毛皮で身を守った」

 いきなり何を言い出すのか。

 妖精同士、テレパシーで繋がれば言葉など発しなくとも通じ合えるが、逆に拒絶することも可能。リリィは今、一切の本心を漏らしていない。

 故に、何が言いたいのか、ルルゥには分からなかった。

「戦えば、人間は猿に敵わない。牙も爪も捨てて、毛皮を失い、力も衰えた」

 しかし、それはあくまで互いに丸腰で、一対一で戦えばの話。ただの人間は、野生の類人猿には敵わない。

「でも、猿如きが人間の相手になるワケないわ」

 牙や爪よりも鋭い刃を、毛皮よりも硬い鎧を。人間はその叡智でもって作り出す。

 頭脳。その一点をもってして、人は野生動物でもモンスターでもなく、世界に文明を築き上げた。

「滑稽ね、猿が人に向かって吠えるのは。自分の方が強いと、牙を剥き出しにしてキーキー吠えているわ」

 つまるところ、それは単なる煽りであった。

 妖精として、何も持たず、何も纏わず、万能にして絶対の『妖精結界オラクルフィールド』の輝きのみに包まれた、裸身のルルゥ。

 対するリリィは、第4階層という高難度ダンジョンの中にあっても、アイドルとしてステージに立つような、フリルのついた黒いワンピースドレスを身に纏っている。

 どちらが猿で、どちらが人か。

「テメェ、ぶっ殺す!!」

 かつて、これほどまでにコケにされたことがあっただろうか。

 ルルゥのただでさえ低い沸点が、瞬間的に限界突破する。

「お待ちください、お嬢様、彼女たちは恐らくかなりの実力者。ここで相手をするのは危険————」

「黙ってろレヴィ! コイツは、コイツだけは許せねぇ……同じ妖精だからなぁ、尚更に許せねぇんだよぉ!!」

「そうね、貴女は同じ妖精だから。その野蛮な態度は見過ごせないわ」

 激しく『妖精結界オラクルフィールド』の輝きを明滅させるルルゥに対し、リリィはぼんやりと、仄かに灯る程度に光を発している。

 結晶洞窟のど真ん中に、よく似た姿の、けれど相反する二人の妖精が対峙する。

「フィオナ、サリエル」

「はぁ……しょうがないですね、リリィさん」

「了解」

 振り向きもせず、ただその名を読んだだけで、二人のパーティメンバーは理解を示す。

 同じように、ルルゥの相棒たるレヴィも、近年稀に見るレベルの怒り狂った様子に、それ以上の口は出せずに引き下がらざるを得ない。

 どこまでも冷めた顔の妖精幼女リリィに、燃え盛る怒りの表情を浮かべる妖精少女ルルゥ。

 互いに睨み合う静寂は、一拍のこと。

「はぁあああああああああああああああああああっ!!」

 眩い光を放ちながら、ルルゥは怒りのままに突っ込んだ。

 最初から、全力全開。

 同族としての情けも、容赦もない。本気の一撃。消し炭にする勢いで、ルルゥは必殺の光剣を振るう。

「『流星剣スターソード・ベテルギウス』っ!!」

 大きく横薙ぎに振るわれた、蒼白の光刃フォースエッジは、小さなリリィの体を丸ごと飲み込むほどの巨大な刀身と化している。

 どれほどの魔力量が込められているのか。灰すら残さず蒸発しそうなほどの凄まじい熱量を秘めた剣。

 対するリリィは、その小さな手をサッと翳して、ただ一言、唱えた。

「————妖精殺しリリィスレイヤー』」

 刹那、青白く輝く巨大な光剣は消失する。

 ただの幻であったかのように、跡形もなく。

「……はっ?」

 真っ赤に燃えるような怒りすら忘れた、間の抜けた声が響く。

 ルルゥには、何が起こったのか全く分からなかった。

 魔法が消えた。

 自らが誇る光魔法、強力無比な妖精族の固有魔法エクストラ

 その扱いは、二本の足で歩くように、二対の羽で飛ぶように、できて当たり前のこと。

 そんな当たり前が、消えた。

 理解不能。

 ルルゥは呆然とした表情で、硬直してしまった。

「ばーん」

 愛らしいウインクと共に、差し出されたリリィの小さな人差し指の先から迸ったのは、一発の『光矢ルクス・サギタ』。

 ゴブリンすら殺せそうもない、か弱い一撃はしかし、乙女の柔肌に至近距離で炸裂する。

「っぁあああ!?」

 ルルゥは、胸元で弾けた光の熱と衝撃に、絶叫を上げて倒れこむ。

 その身に駆け抜ける熱さと痛みは、生まれて初めて感じるモノ。

 無理もない。ルルゥは常に圧倒的な防御を誇る『妖精結界オラクルフィールド』に守られている。それが完全に破られたのは、つい先ほど、クロノの最後の一撃を受けた時が初めてだ。

 痛みなど感じるまでもなく、意識を刈り取る優しい一撃とは違う。

 焼けるような痛みを刻み込まれ、ルルゥはその苦痛に叫ぶより他はなかった。

「情けないわね。あれだけ吠えて、この体たらくとは」

「いっ……あぁ、なんで……結界、がぁ……」

 ルルゥが真に驚くべきは、『流星剣スターソード・ベテルギウス』が消えたことではなく、『妖精結界オラクルフィールド』も同時に消失したことだ。

 攻撃を受けて、痛みを感じて、初めて気づく。

 自分の身を守るものが、何もないことに。

 呼吸をするための空気があるのが当然のように、常にあるべき光の結界が存在していない。

「これで分かってもらえたかしら。自分の愚かしさを」

「くっ、くぅ……くっそぉ……」

 痛みをこらえて涙を零しながらも、ルルゥは気合で上体を起こし、腕を突き出す。

 しかし、リリィに向けられた手のひらには、一切の光は宿らない。

「くそぉ、なんで、どうして……力が出ない!」

「分からないわよ、貴女程度の頭じゃね————」

 さらにもう一発、光の矢がルルゥを襲う。

 さほど殺傷力はない、回避する余地があるほど低速で放たれた『光矢ルクス・サギタ』を前に、ルルゥは味わう苦痛を予感し、戦慄する。

 どれほど願っても、『妖精結界オラクルフィールド』は出ない。ルルゥにできたことは、ただ顔の前に腕を交差させる反射的な守りの姿勢だけだった。

「うぁあああああああああああああああああ!!」

 炸裂する光と共に、再びルルゥの体が転がる。

 一切の光の守りを失ったルルゥの体には、地面を転がった土の汚れが黒々とついてゆく。文字通りの全裸そのもので、無様に地に伏す主の姿に、

「お嬢様!」

 咄嗟に飛び出しかけたレヴィの足は、一歩目で止まる。

「……」

 紺色の修道服を翻し、黒き十字槍を手にしたサリエルが、邪魔者を遮る。

 まだ槍を構えてもいない。ただ目の前に立っているだけ。

 けれど、それだけでレヴィは一歩も踏み込めない。

 隙が無い。逆に、自分が隙を見せれば一瞬で貫かれる。

 自分と同等以上の力量を持つことを見抜いたレヴィは、完全に動きを封じられていた。

 そして、誰の助けが入ることもなく、残酷にも、いいや、ごく自然な結果として、強き勝者は弱き敗者へトドメを刺さんと迫る。

「う、くうぅ……」

 倒れこんだルルゥは、今度こそ起き上がることはなかった。

 目の前に悠然とリリィが歩み寄り、上からその顔を覗き込んでも、もう何も言えず、何もできなかった。

「貴女は相応しくない」

 リリィの冷たい眼差しが降り注ぐと共に、土のついたシューズの靴底も降ってくる。

「うぐぅ!」

 小さなリリィの体重が乗った、軽すぎる踏み付けでも、無防備な裸の少女が腹部に受ければうめき声を漏らす程度の衝撃にはなったようだ。

 もっとも、リリィに足蹴にされるのは、痛みよりも屈辱を覚えるべきものだが、ルルゥの体は動かなかった。

「ただの痛みで倒れるような貴女には、その力は相応しくない」

 苦痛に呻くルルゥの耳に、届いているかどうかは怪しいが、それでもリリィは歌う様に語り続ける。

「妖精女王の力は、愛を知る者だけが手にする資格を持つの」

 掲げたリリィの右手が、うっすらと白い光を纏う。

「まだ恋の一つもしていない貴女に、この力は過ぎたものよ。身の程を弁えるといいわ」

 そして、輝く右手をゆっくりと、ルルゥの薄い胸元へと下し————指先が真っ白い柔肌に触れ、そして、沈む。

「ぐうっ、がぁああああああ!?」

 リリィの右手がルルゥの胸を貫き、絶叫が響く。

 だが、鮮血の飛沫は上がらない。

 半人半魔のルルゥは生身の肉体を持つ。胸を穿たれれば、当然、血は出るし、その奥には鼓動を刻む心臓がある。

 しかし、手首まで沈み込んだリリィの右手には、一滴の血痕もつくことなく、目的のものを抉り出す。

「凄いわ、私のより大きいじゃない」

 リリィがルルゥの胸の奥から取り出したのは、心臓ではなく、深紅の輝きを発する宝玉。

 妖精女王イリスの加護を発現させる大魔法具アーティファクト、『紅水晶球クイーンベリル』である。

 それはまさしく、ルルゥが故郷の光の泉から持ち出した、自身の力の源となる最も大切な宝物。いいや、これは最早、自分の体の一部といってもよい。

 それを、リリィは空間魔法ディメンションに干渉し、奪い去った。

「あ、ああぁ……か、返せぇ……それは、ルルゥの……」

「いいえ、これは今日から私のモノよ、おチビさん」

 そこで、初めて可憐な笑みを浮かべたリリィが、眩しく光り輝く。

 同時に、絶望の表情を浮かべるルルゥも、同時に光を放つ。

 リリィを包み込む強烈な輝きの中で、小さな人影は、手足が伸びてゆき瞬く間に成長する。

 一方のルルゥは、少女の体が縮み、見る見るうちに手足の短い幼児の体へと退行してゆく。

「————うん、いい感じね。やっぱり、『紅水晶球クイーンベリル』の魔力は一番馴染むわ」

 バッチリ化粧でもキメたのを確認するように、少女の姿と化したリリィは身をくねらせる。

 その美しい表情は実に満足げに微笑み、足元に転がる小さな妖精幼女のことなど、まるで目に入っていないかのよう。

「う、嘘だ……なんで、こんな……」

 ルルゥはすっかり縮んでしまった短い手足を、愕然とした表情で見ている。

 こんなに小さな、こんなに弱い姿、これまでになったことはない。ルルゥは生まれながらに完璧な少女の美貌を以って生まれ、光の泉を飛び出た後も、『紅水晶球クイーンベリル』の力によってその姿と力を維持し続けてきた。

 だが、光の泉という妖精女王イリスの加護が届く場所の外にあって、『紅水晶球クイーンベリル』という力の源を失ったならば、その能力を十全に維持することなどできはしない。

紅水晶球クイーンベリル』を奪われたルルゥは、大幅に魔力も知能も低下した妖精幼女と化すのは当然の結果。

 しかし、だからといってそれを素直に受け入れられるはずもなく、

「返せぇ! 返せよぉー! ルルゥのだぞぉー!!」

 一も二もなく、ルルゥは目の前にいる許されざる強奪犯、リリィへと突撃する。

 スラリと伸びた長い脚に、幼女となったルルゥが縋り付くが、

「うふふ、可愛いじゃない。貴女にはその姿がお似合いよ」

 にっこりとした優しい笑顔と共に、情け容赦の欠片もなく、足は振るわれる。

「んあぁ!」

 容易く蹴飛ばされたルルゥは、三度、地面の上をバウンドしながら転がった。

「あ、あぁ、うぅ……あああ……」

 擦り傷だらけの裸の体。何よりも大切な宝物。全てを奪った憎い相手。

 けれど、リリィには全く歯が立たず、抗うことすらままならない。

 一つたりとも自分の思い通りにならない。想像すらしたことのない最悪の状況。

 残酷な現実を前に、全く成す術がないことを、ルルゥはついに悟る。

 そう、これが本当の敗北。

 敗れ去った者の、絶望。

「ううぅああぁああああああああああああああああああ!」

 とうとう、蹲って大泣きするしかなくなった。

 そんな実に子供らしい姿のルルゥに、リリィはいっそ優し気な微笑みを浮かべ言い放つ。

「それじゃあ、これからはもっとお淑やかに生きなさい。妖精女王イリスは、いつだって私たちを見守ってくれているのだから、はしたない姿を見せてはいけないわよ」

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― 新着の感想 ―
え、えげつねぇ・・・ルルゥの再起を願う
[良い点] リリィが相変わらずだということです。
[良い点] やっぱ容赦ないリリィ先輩を見ると安心する [気になる点] ルルゥ再登場はあるかしら
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