第750話 第一階層・廃墟街攻略(2)
『黄金の夜明け』の拠点は、ゼノンガルトが呼び寄せたメンバーや協力者などが集まり、他の勢力の襲撃に備えるために物々しい警備体制が敷かれている。
これまでの大迷宮の攻略で得た金銀財宝に、希少な古代の装備品や魔法具を多数保有しているここは、宝の山といってもよい。しかし、ここの主であるゼノンガルトにとって、最も重要なのは、実の妹であるエミリアただ一人。
もっとも、そんな兄心などつゆ知らず、エミリアは大広間にて一人、くつろいでいた。
いや、くつろいでいるようには見えるが、その内心は不安と心配とで満ちている。
彼女は食い入るように、広間に設置された大きなヴィジョンを見つめていた。
「ちょっと、こんなどうでもいい冒険者なんて映してないで、早くアッシュを見せなさいよ! 私のアッシュを!!」
過激なアイドルファンが自分の贔屓の子を求めるような身勝手な叫びを、トップアイドルたるエミリア本人があげていた。
今、カーラマーラ中のヴィジョンには、大迷宮の攻略の模様が生中継で放送されている。
一体誰が、どうやって、大迷宮の中の戦いを映しているのかは誰にも分らないが、それを気にする者は一人もいない。地上に残った住民の大半は、次代のカーラマーラを統べる新たな冒険王が誕生する瞬間を見逃すまいと、攻略に挑む冒険者達の激しい戦いを見つめている。
映し出される冒険者達の姿は、ヴィジョンによっては異なる映像が映ったり、画面内で四分割され別々な映像が流れたりと、様々である。
エミリアは、自分の思い人であるアッシュの無事を確かめたいがために、彼の姿が映るのを待ちわびていた。
「アッシュは本当に大丈夫なの……今の第一はゾンビで溢れ返ってる暴走状態だし……」
黒仮面アッシュのホームである第一階層『廃墟街』が、俗に言う暴走状態であることは冒険者ですらないエミリアでも、一目見て分かった。暴走の話は元奴隷のエミリアは聞いたことがあるし、そうでなくとも有名な話である。
だが、現実にソレが起こっているのを見た者は少ない。ギャング勢力がのさばるカーラマーラ冒険者ギルドではあるが、暴走の発生だけは避けるよう、最低限のルール徹底はされてきた。
その最悪の事態が今正に発生している。画面越しとはいえ、無数のゾンビが街に溢れる光景は、この世の終わりのようだ。特にゾンビがトラウマなエミリアにとっては卒倒せんばかりの衝撃映像である。
だが、アッシュの無事を一心に祈る彼女は、この凄惨なゾンビ地獄から目を逸らさない。
無残に食い散らかされる冒険者の映像を、顔を手で覆った指の隙間からチラ見ではあるが。
「あっ、兄さんだ」
血肉と臓腑に塗れた灰色の街から一転、ヴィジョンの映像は深緑の木々と小川のせせらぎが聞こえてくる、実に心安らぐ景色となる。
そんな静かな森の中を行く一団は、エミリアにとって最も見慣れた兄の率いるパーティであった。
「にゃはは、第二階層なんて来るの久しぶりすぎるよねー」
パーティを先導して歩く少女は、鼻歌混じりで全くの無警戒に見える。
事実、彼女はほとんど警戒してはいない。
「アイラン、あまり油断はしすぎるな。ザナドゥはかなり大迷宮を弄ったようだからな、何が出て来るか分からんぞ」
「分かってるって、ゼノ。でも、ボクの気配察知を潜ってこれるヤツが、この辺にいるとは思えないけどね」
能天気に答えるアイランに、ゼノンガルトはやれやれ、と言わんばかりに溜息を吐くだけで、それ以上は何も言わなかった。
それは呆れ半分、もう半分は彼女の実力への信頼である。
ランク5冒険者アイラン。クラスは『剣豪』。授かった加護は『冥剣聖ヨミ』。
燃えるような赤い長髪の、細身の美少女だが、剣術の腕前はヨミの加護に恥じない達人級だ。
腰に差した刀は対人用、背負った大太刀は対大型モンスター用。白い法衣のような衣装はヴェーダ法国を代表するカルラ流剣術の伝統的な胴着である。
アイランは修行と称して、遠く大陸中部のヴェーダ法国からカーラマーラまで単身やってきた、生粋の剣客。大迷宮に潜って瞬く間にその剣の腕と名を広めたが、ゼノンガルトとの決闘に敗れ、パーティ入りを果たす。
当初は屈辱の敗北だったらしいが、紆余曲折あって、今ではゼノンガルトの恋人として、楽しく、甘く、充実した冒険者生活を送っている。
「で、でも、やっぱり油断するのはいけないと思います。セナも索敵しますので、安心してください、ゼノ様!」
張り切った幼い声を上げるのは、メンバーの中で最も大きな鎧兜から発せられている。
重厚な黒い鎧を纏う大柄なゼノンガルトをさらに越え、2メートルも半ばまで達するほどの巨躯を誇るのは、鮮やかな青色に黄金の装飾と追加装甲を纏った全身鎧。
ランク5冒険者セナ。クラスは『重騎士』。授かった加護は『蒼雷騎士アルテナ』。
メンバー中、最年少で最も小柄な、去年成人したばかりの半獣人の少女だ。
青い毛並の猫耳と尻尾を生やす小さな彼女は、元々は莫大な魔力量を見込んだ魔術士クラスであった。
しかし、魔法の才に欠けることに加え、保有する魔力は多くても、放出できる量が劇的に少ないという特異体質のミスマッチによって、その実力はランク2にも届かなかった。
圧倒的な魔力量という大きな才能を持ちながらも、全くそれを活かせず、とうとう組んでいたパーティからも追放され、露頭に迷いかけたその時、彼女はゼノンガルトと出会った。
その時、ゼノンガルトがセナに与えたのは、五度目の大迷宮攻略で獲得した、古代鎧だ。
間違いなく強力無比な性能を誇るが、稼働するのに尋常ではない魔力を消費する。これを乗りこなせる者はいない、と持て余していたところである。
そして、セナと古代鎧の相性は最高だった。
それこそ、ランク1から瞬く間にランク5まで駆け上がり、名実共に『黄金の夜明け』の一軍に君臨するに相応しい実力を発揮した。現在のカーラマーラでは、このセナがゼノンガルトを抜いて、最短のランクアップ記録保持者となっている。
たとえ鎧ありきの力といえども、今では欠かせない重要戦力だ。大魔法具の大盾に、古代の変形機構を搭載した巨大な戦斧を使う、不動のタンク。
そしてさらに、成人を迎えると共に、恩人にして憧れであるゼノンガルトに告白し、念願叶い恋人にもなった。
「セナ、そう気張る必要はない。アイランほど気を抜けとは言わないが、お前はいつも頑張りすぎる。もう少し余裕を持っていい」
「はうぅー、ゼノ様ぁ」
「まったく、ゼノ君は小さい子には本当に甘いんだから。その優しさの半分くらいは、私に向けてくれてもいいんじゃないのかな?」
「ふん、どの口が言う、この魔女め」
相変わらず酷いなぁ、とケラケラ笑っているのは、ダークエルフの美女。
ランク5冒険者ウェンディ。クラスは『精霊術士』。授かった加護は『幽姫オフィーリア』。
年齢不詳だがパーティ最年長であることは間違いない。ダークエルフらしいグラマラスな体に、肩口で切り添えた銀髪と切れ長の目にかかる眼鏡は、理知的な美貌を引き立てる。
ゼノンガルトが冒険者を始めた頃から、すでにランク5冒険者として名を馳せていたウェンディ。冒険者の先輩として指導という名のちょっかいをかけられ続けたものだが、彼女に助けられたこともあるし、何より、初めて大迷宮の攻略に成功した時の協力者でもあった。
なんだかんだで腐れ縁はずっと続き、最終的にはゼノンガルトとの婚約を条件に『黄金の夜明け』へと移籍してきた。
その実力と実績は折り紙つき。ゼノンガルトの攻略計画に真っ向から意見を言えるのもウェンディくらいなものであり、パーティのナンバー2、参謀といったポジションにあたる。
「あーあ、昔はあんなに可愛かったのに。お姉さんは悲しいなぁ」
「黙れ、昔の話はよせ、年寄り臭いぞ」
「ふふん、子供の頃の話を嫌がるのは、まだまだ未熟な証拠だよゼノ君」
「ウェンディ様、それはあまりにゼノ様への失礼が過ぎるのでは。ご自重ください」
「あー、ごめんごめん、ティナちゃんはホントにゼノ君のこと大好きだねぇ」
「よせ、ティナ。いつものくだらん軽口だ」
「申し訳ございません。出過ぎた真似をしました」
律儀に深々と頭を下げて謝罪しているのは、メイド服を着込み、首には奴隷の証たる首輪をつけた、エルフのティナ。
だが、パーティメンバーは誰も彼女を奴隷身分と蔑み、侮る者はいない。
ランク5冒険者ティナ。クラスは『魔弓射手』。授かった加護は『天癒皇女アリア』。
ゼノンガルトがまだ奴隷だった子供時代に出会い、そして彼女を買い上げ同じ日に冒険者となった、最古参である。
奴隷の首輪は彼女なりの信念。とっくの昔に自由身分となり、誰もが認めるランク5冒険者だが、ティナはゼノンガルトへの絶対的な服従をこそ願っている。
パーティメンバーの女性たちは、全員が全員、ゼノンガルトと恋人として結ばれてはいるが……あくまで奴隷だと言い張るティナこそが、彼にとっての一番であろう。
「そろそろ、だな」
つぶやいたゼノンガルトの言葉に、打てば響くようにアイランが応える。
「うーん、この感じはエルダートレントだよ!」
「やはり、ボス部屋以外にも現れているか」
「ショートカットも禁止、各階層のボスはきっちり順番に倒して行け、というザナドゥの意図なのかな、コレは」
「冒険者としての試練といったところか。全く、余計な真似をしてくれる」
「うぅー、セナ、頑張ります!」
そうして、駆け出しの頃には何度も挑んだ懐かしいボスであるエルダートレントを、五人が一撃で吹っ飛ばしたところで、『黄金の夜明け』の中継は途切れた。
「やっぱり、兄さんの心配はいらないわね」
他の中継では、どこもいまだに第一階層攻略の最中。
第二階層を進んでいるのはゼノンガルト達だけである。ヴィジョンを見た限りではトップ独走といってよい。
予想通りの快進撃を見せる兄の姿に安堵するエミリアだったが、次に移り変わった画面を見て、心臓の鼓動が跳ね上がる。
「リリィ……」
映し出されているのは、リリィに間違いなかった。
その姿を見たのは、ドリームステージに出演していた一度きり。あのライブの時は、歌声だけが響いていたので、生で見たことはない。
それでも、その光り輝く姿は見違えようもない。
アイドルの衣装として相応しい黒いエンシェントビロードのワンピースドレスを身に纏ったリリィは、逃げ惑うゾンビの大群を消滅させながら、堂々と道を進んでいる。
冒険者の戦いに詳しいワケではないエミリアでも分かる。あれは普通ではない。圧倒的な力があるからこそできる、王者の行進だと。
あんな真似ができるのは、兄貴だけだと思っていたが――
「見られているわ」
リリィの銃口がエミリアに向けられる。
否、リリィはその姿を映している『何か』に対して銃を向けただけだ。ただ画面を見ているエミリアのことなど、分かるはずもない。
だが、それでも、撃たれたと思った。
画面は暗転し、リリィを映した映像は途絶える。
「に、兄さん……」
エミリアは直感する。リリィは間違いなく、兄の前に立ちはだかる。このまま、大迷宮の最下層まで必ずやって来ると。
兄の力は信じている。誰よりも、妹のエミリアが一番。
けれど、リリィを前にして、どうしようもない不安感が募る。
こんな気持ちは、兄が初めて冒険者として大迷宮へ潜ると言った以来であった。
「お願い、兄さん……リリィを、あの女を、必ず倒して……」
「――参ったな、こりゃあ。ギガスが三体もいやがる」
「フツーのボス部屋より難易度高くねぇか」
「これ下手に抜け道使うより、素直にボス部屋挑んだ方がいいんじゃね?」
第二階層へ降りられる入口のある、すぐ手前の角で、どっかで見覚えのある三人の冒険者が話し合っている。
それぞれ赤、青、黄色の髪の色をした、信号機みたいなトリオだ。
「そうかもな。今から戻るか」
「いや待て、ボス部屋方面は人が多いぞ。余計なのに絡まれると厄介だ」
「ちょっとキツいが、今なら邪魔は入らず戦えるな」
入口には、ギガスという大型のアンデッドモンスターが三体、まるで門番の如く鎮座している。
通常、第一階層の中心にあるボス部屋には、ギガス相当の強さを持つボスモンスターが一体で出現する。ズブの素人や駆け出し冒険者ではとても相手にならない、パワフルとタフネスを誇る強敵だが、力を磨けば決して倒せない敵ではなく、正に最初の階層に相応しい強さのボスだ。
「この感じだと、どこもボス並みのモンスターが守ってるみたいだな」
「でもギガス三体はやっぱキツいぞ」
「他の入口も見に行こうぜ。近くにまだ幾つかある。マシなとこを探そう」
それがいい、と三人の意見は一致して、冒険者トリオはその場を去って行った。
「――というワケで、どうやらどこの入口もボスに守られているらしい」
俺は彼らの近くに隠れ潜んで、盗み聞きした内容をレキとウルスラに伝える。
というか、あの三人組は俺にエルダートレントが農場襲っていることを教えてくれた奴らだ。今思い出した。彼らも遺産レースに参加していたのか。
「これもスタンピードのせいデス?」
「ザナドゥが大迷宮を操っている、という説も聞こえたの」
ここまで第一階層を進んできて、暴走状態にあるということを除いても、いつもと違う状況になっていることは察せられた。
俺達自身もそう感じるし、さっきの冒険者トリオのように普段と様子が違うという話を、そこかしこで聞いている。
「暴走の影響にしろ、ザナドゥが操作してるにしろ、いつもより攻略難易度が跳ね上がっているのは間違いない」
ゾンビの大群だけでも相当なのに、下の階層へ続くショートカットを潰すようにボス級モンスターが配置されているとは。
道中に盗み聞きしてきた冒険者達の話からは、普段は通れるルートが封鎖されていたり、逆にいつもは開かないはずの扉が開いていたり、という内容もあった。
この状況は、かえって大迷宮に慣れている者ほど苦労しそうだ。
そういう点では、経験者とのアドバンテージを縮められるので、俺達のような新参者には有利になる。もっとも、難易度上昇した大迷宮を突破できればの話だが。
「だが、今はとにかく進むしかない。サリエル達がこんなところで躓くはずもないからな」
奴にとっては、ギガスなど物の数ではない。アイツでも足止めを食らうとなれば、やはり第五階層くらいだろう。
それを考えると、やはりサリエルに追いつける可能性があるのは最深部にいる、最後のボス部屋あたりになりそうだ。
「じゃあ、この入口を突破するの?」
「ああ、他に楽そうなところを探すより、さっさとギガス倒した方が早いだろう」
俺達は三人で、ギガスも三体。
一人で一体始末すれば、それでお終いだ。
「よし、行くぞ」
「ゴー、ゴー、ゴーッ!」
先陣を切って飛び出していくレキ。
入口となる扉の真正面に立っているギガスに向かって、剣と斧の二刀を振りかぶり突撃してゆく。
正面ギガスの左右に、それぞれ一体ずつギガスが控えており、目に見えて分かりやすく飛び出してきたレキに向かって、挟み込むように動き出す。
右ギガスはそのまま突進するように走り出し、左ギガスはコンクリの地面を抉り取って、投石攻撃を仕掛けようとしていた。
「させないの」
左ギガスの投石を、ウルスラが阻止する。
物質化されたアナスタシアの腕が、今正にコンクリの塊を投げつけようとしたギガスの右腕を掴んで止める。
同時に、ドレインの腕が体へと絡みつき、ギガスの魔力を奪い去って行く。
「ウゴゴゴ……」
ドレイン攻撃はなかなか効果的なようだ。
第三階層のゴーレムとは違い、特にドレインに対する耐性はないのだろう。闇の魔力をエネルギー源として動くアンデッドモンスターであるギガスには、偽りの命の源を直接奪われるドレインは致命的だ。光属性に次ぐ弱点といってもいいだろう。
そんな感じで、左ギガスはほどなくして沈む。
投石に邪魔されることもなく、レキは真っ直ぐに正面ギガスへと切りかかろうとしている。
ならば、消去法的に俺の相手は側面からの突進を敢行している右ギガスということになる。
「『魔弾』――」
以前、学校の校庭にいたギガスは余裕で魔弾を弾いた。
コイツくらいの外殻になると、魔弾では通らなくなる。何発撃ち込んでも効果はない。
だから、より貫通力のある高い威力の魔弾を開発した。弾が弾かれるなら、貫通できる弾を撃てばいいじゃない、という至極当たり前の考え。
実験体時代では、高威力の弾丸が欲しくて『アンチマテリアル』を編み出したからな。
今回はソレの強化版、というか派生強化みたいな感じで作った。
求める性能は、近、中距離での高威力。ギガス級の防御を誇る相手でも、貫ける弾丸だ。
「――『剛弾』」
ドドンッ! と通常の発射音よりも重い響きを伴って、二発の魔弾を放つ。
突進する右ギガスの側頭部を狙う。
奴の頭部はアメフトのヘルメットみたいな形をした頑強なヘルムで守られており、胴体部と同等の装甲を誇る――だが、ぶっ放した『剛弾』は見事にヘルムを割り、中の腐った脳みそをぶち壊す。
流石に反対側まで貫通するには至らなかったが、頭の中で二発もの大口径弾がストップしたのだ。その衝撃は、頭蓋の中を一瞬でシェイクにしたことだろう。
「ウゴッ……」
完全に頭部を破壊され、右ギガスの疾走が止まる。
だが、すでに加速していたギガスの巨体は、足が止まっても勢いのまま前進してゆく。
レキの邪魔になったら悪いから、除けておこう。
「ついでにコイツも試し撃ちだ――『徹甲榴弾』」
赤い閃光の尾を引きながら、一発の弾丸をさらにギガスへと喰らわせる。
脇腹に深々と突き刺さった、次の瞬間に爆発。
黒い爆炎を吹きながら、そのまま横方向へとギガスの巨躯が吹き飛び、入口のある建物の壁へとぶちあたった。
しっかりと腹の中に食い込んだ上で爆破した徹甲榴弾は、半ばまでギガスの腹部を吹き飛ばしていた。叩きつけられた壁には、そのデカい腹の中に抱えていた腸を焦げた肉片と共に盛大にぶちまけられており、なかなか酷い惨状と化している。
ギガスを骨と皮のミイラのようにして倒し切ったウルスラに対し、ド派手に腐った血肉をぶちまける俺である。スラッシャーの館から、まるで進歩していない。
「でも、想定通りの威力は出たからオーケーということで」
最初に使った『剛弾』は、ノーマルの弾丸よりも大口径化し、さらなる弾丸の硬質化と発射威力の上昇をさせた魔弾だ。
通常の弾丸は黒色魔力をそのまま金属のように硬く物質化したものを使っているが、剛弾には疑似土属性『黒土』に変換して作っている。
土属性とはいうが、鋼のように硬く頑強な物質を形成するなら、この属性が一番優れている。思えば、そのまま使うだけで土魔術士は石コロを放てるのだ。頑張れば金属の硬度にまで近づけることだってできるだろう。
そうしてひと手間かけて作り上げた『剛弾』、その威力はギガスの頭をヘルムごとぶち抜いた通りだが、連射はきかないし、次弾を用意する時間もかかってしまう。
現状では、装填状態で6発程度といったところ。リボルバーの装填数と同じ。
それから、ギガスの巨体をブッ飛ばした『徹甲榴弾』は、すでにある着弾と共に爆発する『榴弾』の進化系である。
徹甲弾とは名がつくものの、その構造はHEAT弾、成形炸薬弾、と呼ばれるタイプになるだろう。
弾丸の中で火薬にくぼみをつくって詰めると、弾の金属が流体となって超高圧で噴射されるメタルジェットが起こり、コイツが凄い威力になって戦車の重装甲をも貫通するスーパーパワーを叩き出すとか……確か、そんな感じのヤバい弾だ。
詳しい原理を正確に理解しているワケではないが、ようはこのメタルジェットを発生させればいいわけだ。
あとはトライ&エラーで試行錯誤。実験時代とは違い、第一階層にいれば好きな時に好きなだけぶっ放すことができるのだ。手さぐりで黒魔法開発するにはいい環境だった。
そんな苦労の末にようやく形になったのが、『徹甲榴弾』である。
爆発する榴弾要素の秘密は、メタルジェットで噴射されたメタル部分そのものが爆発すること。
上手くメタルジェットが吹き出すような弾丸の作りに、爆破するメタルを疑似火属性『黒炎』と疑似土属性『黒土』の複合合金として物質化と、これまでにないほど複雑な構造となっている。
お蔭で、装填しておける数は2発。
再び弾を作るまでにかかる時間と集中力は、『剛弾』の比ではない。
さらに言えば、これだけ苦労して発動させるくらいなら、量産品の剣を『黒炎』による赤熱黒化させて、刺さると同時に爆発する『裂刃』の方が使い勝手が良いのでは、というなかなか残念な結論に。
だがしかし、剣そのものを消費する『魔剣・裂刃』より、自前で賄える『徹甲榴弾』の方がコスパはいい。とりあえずで撃ってみるには惜しくない一発だし、剣の手持ちが尽きてもなんとかリロードもできるのだ。
それに、苦心したメタルジェット機構は黒化剣を突き刺すより貫通力は高い。
手札の一つとしては、十分に実戦で使える効果だ。
「装填数と連射数は、俺次第だしな」
今回、ようやく完成して初お披露目となった『剛弾』と『徹甲榴弾』は、今後の自分の成長による性能アップに期待しよう。
などと、試し撃ちの結果に満足している間に、レキが正面のギガスを仕留めていた。
そのまま真っ直ぐ切りかかり、『レイジブレイザー』の連撃で斬り倒したようだ。
野太いギガスの手足はそこらに千切れ飛び、胴体には幾筋も深い傷が刻み込まれている。ややオーバーキルな印象もあるが、連撃系の武技って途中で止めるの難しいんだよな。俺も『二連黒凪』を一撃目で止めるの苦労するし。
「ヴィクトリー!」
「これで第一階層は突破なの」
ギガスが倒れ、ゴウンゴウンと両開きのシャッターが開いて行き、俺達の前に下へ続く階段が現れる。
「よし、それじゃあ第二階層に降りるぞ」