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黒の魔王  作者: 菱影代理
第36章:最果ての欲望都市
744/1054

第738話 デビューの動機

「――どういうつもりだ、エミリア」

 大盛況の外周区初ライブが終えた後、俺は楽屋でエミリアにようやく問い詰めることができた。

「どうもこうも、全部ステージで話した通りだけど?」

 エミリアは恵まれない子供達を助けたい。

 そこで、その第一歩として訴えたのは寄付だった。

 基本的に孤児院は寄付で経営しているが、他人の善意を前提とした収入モデルのため、どこも資金不足が常である。

 エミリアはそんな孤児院への寄付を呼びかけ――ではなく、自分に寄付するよう呼びかけた。

 その方が金を集められる、というトップアイドル様の自負だ。

 事実、ファン心理からするとその通りではあろう。特に関係性の無い孤児院へわざわざ寄付しに行くよりも、応援するアイドルに金を落とす方が、満足度は違う。支払だって、ライブで興奮したノリで財布の紐も緩まるというものだ。

 そうして、エミリアは寄付金を自分の元に集めることで、平等な配分をしていく建前、もとい慈善事業となっている。

「これからは積極的にチャリティーライブもするつもりだから、またよろしくね」

「いや、どう考えても俺いらなかっただろ……」

 呼ばれた勢いで舞台に出た俺だったが、正直、自分でも何を喋ったのかあまり覚えていない。

 あんなに沢山の人の注目を真正面から受ける機会など、ただの高校生でしかなかった俺にあろうはずもない。俺がステージの上で注目を浴びた機会といえば、新入生を相手に文芸部の部活紹介をしたくらいだ。

「そんなことないって、ちゃんと盛り上がってたし」

「見世物にされた気分だ」

 本物かどうか、なんて誰にも分かりはしないのだが、エミリアが直々に紹介したということで、特に誰も疑うようなことはなかった。

 なんだかんだで俺の存在は面白おかしく噂にはなっていたようで「アイツがアッシュなのか」と、好奇の視線が殺到したものだ。

「アッシュは必要なの。大切な、私の同志だから」

「同志になった覚えはないが……」

 黒仮面アッシュは何の見返りもなく、第一階層で危機に陥った奴隷の子供を助けて回っている。その行いはすなわち、そういう子達を助けたいエミリアの志と一致する――ということにされた。

 エミリアはステージの上でアッシュの行いは素晴らしいと語り、本物のヒーローであり、みんなも応援してあげて欲しいなどなど、大絶賛であった。

「でも、エミリアがやろうとしていることには、素直に賛成できる」

 エミリアはアイドルとして子供達に夢と希望を与え、アッシュはヒーローとして子供達のピンチを救う。

 真の意味で子供達を救うなら、どちらも必要だと思う。

「そうでしょ。アナタなら、絶対そう言ってくれると思ってた」

「事後承諾じゃないかよ。なぁ、マジでこういうのは今回限りにしてくれ」

「あはは、ごめんごめん、次はちゃんと事前に打ち合わせするから」

 もうステージに出る気はないっての。

 こっちはエミリアと違ってトーク力に自信があるわけでもないんだ。喋りなんて素人のソレである。

 今日は勢いで何か色々とカッコつけたこと言ったような気もするけど……いや、よそう、思い出すと恥ずかしくなってくる。

「それで、幾ら欲しいの?」

「なんのことだ?」

「報酬よ、払ってあげるわよ」

「……なんの?」

「私を助けた報酬よ」

「なに言ってんだ、それはもう終わった話だろ」

「兄さんの褒賞金のこと? あれは兄さんが勝手に渡しただけで、別に私が払ったワケじゃないし」

 ええー、なんだよその理論、詐欺じゃん! 150万も払ってんだぞ!?

「言ったでしょ、報酬は弾むって」

「それは、そうだが……」

「なに渋ってんのよ。追いはぎするくらいお金に困ってるくせに」

 それとこれとは話が違う。アレは正当な報酬として漁っただけで、いわれのない金を貰うのは抵抗感があるわけで。

「確かに、金はいるからな……でも、無理しないで払える範囲でいいぞ」

 坊主の言う「お気持ちで」ってワケではないが、エミリアさんはアイドルでたっぷり稼いでいるんだろああん? みたいな感じでたかる気はない。

「気にしないでいいわよ、今日はかなり儲けられたから」

「そうなのか? 中央の方が儲かりそうな気もするけど」

「ほら、今日は寄付もあるから」

「それは手ぇつけたらダメな金だろ!?」

「必要経費ってやつよ」

 慈善団体は全員がボランティアで働いているワケではない。その運営には当然、金もかかるわけで。

 エミリアが呼びかけて募った寄付金は、その中からこれから運営していくことになる慈善団体の費用も含まれることになる。

「エミリア……まさか大半を中抜きしてボロ儲けする気じゃあ……」

「なるほど、そういうコトもできるのか。うーん、他の奴らに真似されないよう気を付けないとダメね」

 どうやら、まだそのテの収益構造はカーラマーラでは確立していない模様。エミリアの団体がその先駆けとならないよう祈るしかない。

「ねぇ、アッシュ」

「なんだ」

 急に真面目な顔のエミリア。

 その凛とした遺志の強い瞳に真っ直ぐ見つめられると、少しばかりドキリとさせられる。

「私と契約して」

「どういう意味だ」

「私は本気よ。本気でこのカーラマーラにいる子供達を救ってみせる。そのためには、アナタの力が必要なの」

「……俺なんかより、兄貴の方が強くて頼りになるんじゃないのか?」

「兄さんには兄さんの夢があるから。私のワガママを多少は聞いてくれるけど、本気で力を貸してくれることはないわ」

 例の魔王になる、というやつだろうか。本気でパンドラ大陸統一を目指しているのだとすれば、確かに慈善事業などにかまけている暇はないだろう。

「私の夢を叶えるためには、力もいるわ。この街で子供を守り通せるだけの、強い力が」

「邪魔する奴が現れると?」

「いずれね。子供の奴隷制度が揺らげば、商人もギャングも、そして財閥の奴らだって黙っていない」

 今はまだ、始めたばかりで単なる慈善事業で済む。しかし、一人残らず恵まれない子供、すなわち、大迷宮に潜らなければ生きていけない奴隷の子供をなくすのならば、それで儲けている奴らは反対するに決まっている。

 奴隷労働による利益を得ているのは、エミリアの言う通り、表は商人から裏はギャング、そしてカーラマーラ最大のザナドゥ財閥もそうだ。

 邪魔者を排除するためならば、この国では如何なる方法でもまかり通る。そういう汚れ仕事を嬉々として引き受ける奴らも、幾らでもいるのだ。

「だからアッシュ、私と、これから私が救う子供達を守って」

「どうして俺なんだ」

「アナタしかいない。こんな馬鹿げた私の夢を本気で助けてくれるのは、馬鹿みたいにお人よしなヒーローだけよ」

 信頼されている、のだろうか。

 エミリアは自分が助けられたから、それで俺の力を過大評価しているだけかもしれない。

 俺には、全てを守り切れる力なんてないのに。

「エミリア、俺はお前が思っているほど強くはない。目の前で助けられなかった子供もいる。それに、俺より遥かに強い奴もいる」

 俺は決して最強じゃない。絶対の勝利が約束されたヒーローでもない。

 ただ、少しばかり力があるのだけ、ヒーロー気取りでしかないのだ。

「それでも、俺にできることはやれるだけやりたい。一人でも多く救いたいと思う。そして、エミリアならきっと、俺一人よりもずっと多くの子を助けることができる。だから――」

 覚悟なんて決める必要もない。それはきっと、ここで見てきたことを考えれば、当然の結論だから。

 俺は、エミリアへと手を差し出した。

「――俺に協力させてくれ」

「ありがとう。やっぱり、アナタは私のヒーローよ」

 俺の手を固く握り返し、契約は成立した。

「じゃあ、次のライブの時もお願いね?」

「護衛だけだぞ」

「えー、そこをなんとか」

「無理だって」

「顔見せだけでもいいから」

「それ逆にやりづらいだろ……」

 やけに俺をステージに出そうとするエミリアに、早くも俺は契約したのは間違いだったかと悔やむのだった。




 その日、その時、悪魔の契約が結ばれた。

「――我、ジョセフ・ロドリゲス、以下『カオスレギオン』全員は、妖精姫リリィ、貴女に従うことをここに誓います」

 頭を垂れ、跪くのは漆黒の悪魔ディアボロス。

 対するは、幼い姿でありながらも、堂々とその忠誠を受け取る妖精。

「そんなに、かしこまらなくってもいいわよ。今はまだ、私に協力してくれるだけでいいのだから」

 にこやかな微笑みに子供らしさは皆無である。

 ボスとしての面子を立たせるかのように、リリィはすぐに起立を許す。

 ここには『カオスレギオン』のボスとしてジョセフと、名実共に最高幹部であるオークの老執事とサキュバスの秘書、ミノタウルスの護衛の三人がいる。

 ジョセフの後ろで控えている三人は、完全に気配を殺しているかのように静かなものだ。リリィを見るその目に、ボスであるジョセフを下した怒りや恨みの色は見られない。

 このことを心から納得しているのか、それとも心を押し殺しているのか。リリィにとって、それは些末なこと。あえて心を読んで知ろうとも思わなかった。

「席についてちょうだい。計画を説明するわ」

 正直なところ、何故ジョセフがここまですんなりと無条件降伏のような真似をしているのかリリィには不可解だったが、協力の意思は間違いなくあるので、気にしないこととした。

 慌てるような無様は見せないが、それでもリリィの内心はずっと焦りでいっぱいだ。

 早く、一刻も早くクロノと再会しなければ……理性を越えた、強烈な本能が彼を求めてやまない。自分でも、いつ禁断症状が出るか分かったものではない。

 そんな自分で自分を抑えきれなくなる恐れを抱え込んだまま、リリィは席に着いたジョセフへ単刀直入に本題を切り出すこととした。

「まず、最優先で実行して欲しいことは、人を探すこと」

「何者ですか」

「クロノ」

 リリィの婚約者。最愛の人。

 ランク5冒険者パーティ『エレメントマスター』のリーダーであり、使徒との戦いの末に記憶を失い、カーラマーラのどこかにいる。

「でも、今はアッシュと呼んだ方がいいかしら」

「アッシュ……それは、噂の黒仮面アッシュということでしょうか」

 大嵐の到来と共に、突如として現れたヒーロー。

 第一階層で酷使されている奴隷の子供のピンチを救っては、パンの施しまで与えて去るという――そんな酔狂な真似をする人物は、クロノ以外にはありえない。

「断片的な噂の情報だけでも、アッシュが間違いなく私が探しているクロノだと分かるわ」

「分かりました、信じましょう」

「アッシュは第一階層のどこかに潜伏していると思うのだけれど、それ以上はまだ調べられていないの」

「ふむ……つい先日、『極狼会』がアッシュと接触していると聞きました。すでに住処は彼らの縄張り、イーストウッド辺りに移したかもしれません」

「そう、意外と良い耳をしているのね」

「すでに我が元を去っても、義理を果たそうとする者達は多いもので。ありがたいことです」

 残念ながら、あまり組織だった諜報機関を持つわけではないようだ。

 ジョセフの人望で、何とか情報網だけは維持しているといったところである。

「すぐに調べさせましょう。爺、頼んでよいか」

「はっ」

 新たなボス、リリィが最優先と言うだけあって、即座にジョセフはアッシュの調査を命じた。

 あとは、所在さえ判明すれば、文字通りリリィが飛んで行けば解決する。

「貴方にとってはここからが本題になると思うけれど――そうね、今のところは、取り込めるところから取り込んでおきなさい。必要があれば、私に言って。外周区なら、どこでも好きな場所を、好きなだけ『止められる』から」

 ライフラインの制御を握るリリィにとって、外周区に住む者に敵はいない。

 そして、力を見せつけて相手を脅し、屈服させるのはギャングの仕事である。

「勢力の拡大となると……手近なところでは、離れた者に声をかけるところからとなりますが」

 経済的な事情で、やむをえずに『カオスレギオン』を抜けた仲間を呼び戻すのならば、手荒な真似はしたくない。

「それはちょっと地道すぎるわね。それじゃあ、まずは手っ取り早く資金を集めた方がいいかしら」

「そうですね、何をするにしても、恥ずかしながら我が組織には活動資金が……」

「外周区で儲かってる商会のライフライン全部止めるわ。金払いのいいところから復旧させてあげる」

「えええっ、そ、それは酷すぎ……いえ、あまり大がかりに脅すと、早々に敵を作ることになる恐れが」

「他のギャングと繋がりの薄いところから狙いましょう。こっちが自由にライフラインを操れると知れば、向こうからすり寄って来るわよ」

 もっと酷い提案が出たよ……と思いつつも、ジョセフは肯定以外の言葉は喋れなかった。

 実際、リリィの言う通りでもある。

 ライフラインという生活基盤をダイレクトに握っている存在がいると知れば、まずそこに与しなければ、このカーラマーラという砂漠のど真ん中で生きていくことすらできないのだ。

「外周区に住む者は、決して私の掌からは逃れられない。冒険者、傭兵、殺し屋、なんでもいいから、腕利きに心当たりがあれば、早めに引き込んでおいて。借金をしてでも、彼らの報酬は即金で用意してもかまわないわよ」

 いざとなれば、借金元のライフラインを止めてやれば、喜んで帳消しの提案を持ちかけてくれるだろう。

「そ、そこまで急いで戦力の増強を求めるとは……直近で戦のご予定でも」

「私達には、シルヴァリアンだの極狼だのというギャングなんかよりも、さらに強大な敵がいる」

「えっ!?」

 そんなの聞いてないよぅ!? と泣き叫びたいジョセフであったが、ここは我慢。我慢の男である。

「今すぐその敵が現れる可能性は低いわ。けれど、備えだけはしておかなければいけない」

「そ、その敵というのは一体……」

「今それを語る必要はないわ。目の前に奴らが現れでもしない限りはね」

 スパーダやアヴァロンのある中部都市国家群ならいざ知らず、南の果てにあるカーラマーラで十字軍の脅威など届きようもない。

 その恐ろしさと強大さを説いたところで、この国の人間には遠い世界の夢物語にしか思えない事だろう。

「そうでなくても、他のギャングがちょっかいかけても大丈夫なくらいの備えは、どの道、貴方には必要でしょう、ジョセフ」

「おっしゃる通りで」

 とにもかくにも、これでリリィの目的であるクロノ捜索と使徒の襲来に備えること、そしてカーラマーラ征服の第一歩が踏み出せた。

 ジョセフが本当に一晩で服従を選択してくれたことは、リリィにとっては僥倖だ。のらりくらりと話を引き延ばす真似だって、彼にはできたはずなのだ。

 そして、日に日にクロノを求める気持ちが募ってゆく一方のリリィにとって、今はただ時間の経過そのものが苦痛と化してきている。

 しかし、そんな内心は誰にも、フィオナとサリエルにさえも現さず、リリィは最善を尽くす。

「それじゃあ、詳しい計画は任せていいわね、ジョセフ」

「お任せください。リリィ様のお力があれば、『カオスレギオン』が往年の勢力を取り戻すことは容易でしょう」

「まずはそれくらい建て直してもらわないと。大迷宮の最深部を目指すのは、それからでいいわ」

「――失礼いたします」

 と、そこで部屋へ入って来たのは、クロノ捜索を命じられてつい先ほど出て行ったばかりの爺である。

「うむ、どうしたのだ爺」

「クロノ様を見つけました」

「どこ!?」

 凄まじい勢いで食いついたのは当然リリィで、その席から飛び上がらんばかりというより、本当に空中に浮いたリアクションを見てビビったのはジョセフである。

 しかし、人生の全てを忠義の奉公に捧げた老執事は慌てない。事実をありのままに、主人へと伝える。

「今しがた、放送中のヴィジョンに黒仮面アッシュが出ております」

「早く見せて」

「中庭に大きなヴィジョンがありますので、ご案内いたします」

 というワケで、ゾロゾロと中庭へと移動することに。

 執事が気を利かせたのか、今日も別室で待機させていたフィオナとサリエルにも声はかかっていたようで、ちょうど屋敷の中庭で鉢合わせた。

 中庭のヴィジョンは街頭にあるような中規模のサイズ。大きな骸骨の石像が上に掲げ持っているような、不気味なデザインとなっている。

 個人で所有するにはかなり大きなサイズのヴィジョンは、ノイズが混じることもなく、綺麗に映像を映し出している。

 その画面には、煌びやかにライトアップされたステージの上に立つ、灰色のローブに黒い仮面を被った男の姿があった。

「クロノ!」

「あれはクロノさん」

「マスターに間違いない」

 三人が三人とも確信する。たとえ、仮面で顔を隠していても、その姿を見れば一目で分かる。

「――そうだ、俺が黒仮面アッシュだ」

 クロノは堂々と偽名を名乗っている。

 一体、どういう経緯でアッシュを名乗るに至ったか。そして、どういうつもりでヴィジョンに映り、大勢の人々の前にその姿を現したのか。

 気になる点は幾らでもあるのだが、リリィはただ、久しぶりに見た愛する人の姿に――

「誰よ、あの女」

 そこにいるのは、愛するクロノだけではなかった。

 彼の隣には、ぴったりと寄り添うように、長い亜麻色の髪をした、美しい少女が一人。

「彼は本物のアッシュよ。今日は私のために来てくれたの」

 キラキラと輝くような魅力を発するその少女は、カーラマーラの頂点に君臨するトップアイドル。

 リリィとて、この街で暮らせば嫌でも目に入る。その歌を聞いている。その名前を、知っている。

「アッシュは私の夢に協力してくれる、子供達を救う本物のヒーローなの」

 意味が分からなかった。

 何故、彼女がクロノの隣にいるのか。

 いいや、違う。

 どうして、自分はクロノの傍にいないのに、あんな女が彼の隣に立っているのか。

 ただ、それだけのことがリリィにとっては憎悪すべき理不尽であり、激怒すべき不条理であり、そして――嫉妬するべき、大罪であった。

「アッシュは私と共にあるわ!」

星墜メテオストライクぅううううううううう!!」

 目の前が真っ赤になるほどの怒りと嫉みのままに、リリィは力を解き放つ。

 ただでさえギリギリの我慢と忍耐を続けていたというのに――クロノの隣に別な女が居座っているという事実に、リリィの理性は一瞬で崩壊した。

「ひぃいいい……なに、なに今の? 我のヴィジョン粉々なんだけどぉ……」

 古代遺跡の遺物は頑強そのもの。生半な攻撃では傷一つつかない――はずなのだが、眩い輝きが起こった次の瞬間には、中庭にクレーターができている。そこに立っていた強固なヴィジョンは、土台の骸骨像ごと木端微塵に吹き飛び、消滅していた。

「リリィさん完全にキレてますね」

「当然の反応。アイドルエミリアがマスターと共にいる可能性など、全く考えられなかった」

 全力の八つ当たりでヴィジョンを壊され戦々恐々としているジョセフのことなどまるで気にせず、フィオナとサリエルはキレて我を失ったリリィに変わって、落ち着いて言葉を交わしていた。

「エミリア……そう、そういえば、人気のアイドルなんだっけ」

 二人の会話が耳に届いているのかいないのか、リリィはそんなことを呟く。

 何故、トップアイドルのエミリアがクロノと一緒にいるのか分からない。

 どうして、彼女があんなにもクロノに熱いまなざしを送っているのか分からない。

 けれど、これだけは分かる。

 あの女は、敵だ。

「――エミリア、ぶっ潰す」

 2015年10月25日


 24日にコミック版黒の魔王、最新話更新です! お忘れだった方は、是非このまま読みにコミックウォーカーかニコニコ静画にどうぞ。


 それから、今章について、感想欄ではあまりに本筋から離れすぎて話が進まない、とのお声がかなり多くみられています。

 勿論、自分なりに意味を込めて話を書いてはおりますが、まだクロノの記憶は戻らないし、リリィ達と再会することもないまま、話数が重なり続けていることに違いはありません。

 ですので、今の私にできる精一杯の対応として、次回から2話連続更新させていただきます。

 ひとまずは、現在の第36章終了まで続け、次章からはストックと相談しながら、という風にしたいと思います。


 それでは、これからも『黒の魔王』をよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
コワイ・・・コワイ・・・
ヤンデレ補充するならやっぱこの作品よな!ガンガン欲望が満たされるぅ…
[良い点] ヤンデレなリリィが全くブレていないことです。
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