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黒の魔王  作者: 菱影代理
第36章:最果ての欲望都市
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第736話 黄金の夜明け

「ふーん、仮面の下はそういう顔なのね」

 などと、エミリアがすっかり余裕で言っているのは、無事に第一階層を脱して地上へと戻ったからである。

 すっかり日も落ちて、夜のとばりが降りている……のだが、煌々と照らす灯りの数々に、ネオンサインのように輝く光の看板、大きなヴィジョン、カーラマーラの街は夜でも明るい。特に、こういう夜でも人通りの多い表通りはな。

「これも素顔ってワケじゃない。最低限の変装はしている」

「サングラスに髪の色を変えただけって、変装としては最低以下のお粗末なものね」

 ぐっ、流石は普段から変装して日常生活を送っているトップアイドル様だ。変装レベルが桁違いか。

「仮面のまま歩くよりはマシだろ」

 ダンジョンの中では顔を隠せれば何でもいい。しかし、街中を歩く時は、普通に目立たない格好の方が良い。

 正直、エミリアに最低以下と言われたこの変装で、どこまで誤魔化せているのか不安になっているが。

「私はそっちの顔の方が好きよ。オモチャみたいな仮面よりもね」

 オモチャの仮面なんだけどな。

 しかし、こうもストレートに顔のことを褒められたのは……思えば、初めてのことかもしれん。

「そ、そうか」

「ふふっ、なに照れてるのよ?」

 くそっ、無駄に初心な反応をしてしまった。

「褒められ慣れてないんだ。お世辞でも、この顔にそう言うヤツはいない」

「そう、別に言うほど酷いものじゃないと思うけど。その鋭い目元も、個性的でいいじゃない」

「このグラサンそんなに透けてる?」

「私くらいになると、分かるものなのよ」

 ふふん、とちょっと得意げなエミリアは、子供っぽい無邪気さを感じる。

 すまし顔でいるよりも、こういうふとした表情の変化こそ、破壊力が高い。恐ろしいな、美少女ってヤツは。

「しかし、道はこっちで合ってるのか?」

「少し遠回りになるけれど、人通りの多い道の方が安心でしょ」

 いくらカーラマーラでも、大通りのど真ん中で人攫いをするほど末期ではない。ましてエミリアを狙うなら秘密裏に行いたいだろうし、今回は人目につく場所にいた方が安全なのは確かだ。

「それで、『黄金の夜明けゴールデンドーン』って冒険者パーティはそんなに有名なのか?」

 これからエミリアを保護してくれるのが、彼らである。

 口ぶりからして有名な冒険者っぽいのだが、まだまだ情勢に疎い俺にはさっぱりだ。

「カーラマーラではトップクラス、いえ、名実ともに一番のパーティよ」

「そんなに強いのか」

「大迷宮完全踏破数12回で、歴代で最高記録を更新中」

「……大迷宮って周回できるのか」

「えー、そっからぁ?」

 ああ、そこから説明が必要なくらい、俺は大迷宮初心者だ。いや、第一階層には結構詳しくなったから、中級者になりたて、くらいということで。

「大迷宮の第4階層からは、入る度に場所が違うんだって」

 本職の冒険者ではないエミリアの説明はややたどたどしいものだったが、要約すると、大迷宮のラスボスは毎回違う、お宝も違う、とのこと。

 基本的にエリアの性質は同じだが、一定周期で内部の構造が変化するらしい。だから、第4階層からはしっかり自分でマッピングしていかないと、普通に迷う。

 挑戦する度に初見エリアとなるのは、それだけでかなり難易度が上昇する。現れるモンスターも、今までに見たことのない奴が出てくる可能性もあるらしい。

 事前の情報収集、準備、対策、に限界があるのだ。

「なるほど、それは厄介な場所だな」

「で、そんなところを12回も攻略してるのが、『黄金の夜明けゴールデンドーン』というワケ」

 大迷宮の完全攻略、というのはカーラマーラにおいては大きなステイタスだ。

 最初の大迷宮攻略者が、かの有名な冒険王ザナドゥである。

 その大迷宮の性質から、彼に続く第二、第三の攻略者もまた、英雄と呼ぶに相応しい。

 少なくとも、常に変化を続ける最深部を攻略するには、ダンジョン攻略の実力と、ランク5モンスターを打倒しうる戦闘能力、どちらも求められる。両方を兼ね備えたならば、それは確かに冒険者として超一流と呼ぶべきだ。

 大迷宮の完全攻略は、何よりも分かりやすい証明である。

 だからカーラマーラで超一流と褒め称える冒険者は、ただランクが最高の5というだけでは足りず、大迷宮を攻略しなければ認められないという。

「一生に一回でも攻略できれば冒険者としては大成功ね。何度も攻略できるようなパーティはさらに限られるし、どんなに多くても10回以上は無理」

「それで12回も攻略している上に、今もまだ挑み続けているってことか」

「そう、だから兄さんはカーラマーラ最強の冒険者なの」

「……兄さん?」

「『黄金の夜明けゴールデンドーン』のパーティリーダーは、私の兄なのよ」

 なるほど、ご兄妹でしたか……そりゃあ確かに、保護してもらうには確実なところだ。

「兄貴は最強の冒険者で、妹はトップアイドルとか、とんでもない兄妹だな」

「ええ、私も兄さんも、天才よ」

 実に堂々とした答え。ここまで言い切られると、嫌味もなにもなく、むしろ爽やかですらある。

「ねぇ、お腹空いたんだけど」

「いきなりだな」

「しょうがないでしょ。昼に捕まってそのままだったんだから」

「まだ護送中だぞ、あんまりノンビリ食事はしていられない。その辺の屋台で食べ歩きになるけど、それでいいか?」

「うん、そういうのがいい」

 うーん、最初から買い食いする気満々な顔だ。

 ちょうどいい、俺も小腹が空いてきたところだし。本来の予定通りなら、もうとっくにアパートへ帰って、レキとウルスラと慎ましい夕食をとっていたところだ。

「こんなに帰りが遅れたら、流石に心配してるだろうな」

 こういう時に携帯電話がないってのは不便である。

「ねぇねぇ、アレ美味しそうじゃない?」

「あれ絶対甘いやつじゃん」

 ドーナツとチュロスの合いの子みたいなお菓子である。メープルのような香りはなかなか美味そうではあるが、空きっ腹に甘味ってどうなんだ。

「カロリーは必須でしょ」

「むしろ制限しないといけないんじゃないのか?」

「硬いこと言わないの。ほら、奢ってあげるから」

「幾らなんでも、そこまで金欠ではないからちゃんと自分で払うって」

 今のエミリアは俺を護衛として雇っているようなものだから、必要経費として食べ物を買うのもおかしいことではないかもしれないが、そこはほら、雰囲気っていうのもあるじゃん?

「そう、ちゃんと報酬に代金は含めておいてあげるから、安心してね」

「俺そこまでケチだと思われてんの!?」

「十人の子供を食べさせるんでしょ」

「それはそうだが……まぁいいや、報酬は弾んでくれよ」

「期待してなさい。このエミリア様を助けたヒーローなんだから」

 いいねぇ、金払いの良い依頼者は大好きだ。素直に期待しよう。

「んっ、甘いモノを食べたら今度は喉が」

「ワガママだなぁ」

「自然の摂理よ」

「水しかないぞ」

「お茶がいいんだけど。ファーレン産の茶葉のやつ」

「ああー、キンキンに冷えた水は美味いなー」

「えっ、なにそれ冷えてんの? なんで?」

 そりゃあ疑似氷属性の『黒氷ゼロフリーズ』をちょこっと吹きかければ、水筒の水なんてあっという間に冷え冷えだ。あんまり急激に冷やし過ぎると、過冷却水になったりするので地味に注意が必要だったりもする。

「冷たい水でいいのか? それとも、頑張って歩いてナントカ産のお茶探すか?」

「水でいい」

 いいのかよ。だったら最初から難易度高そうなワガママ言うのはやめて欲しい。いや、それが女の子というものなのか。

 ならば俺は減点か。別にデートじゃなくて、ただの護衛任務だから、色気も何もあったものじゃないが。

「あっ、アレって最近人気のヤツじゃない? ちょっと食べてみたいかも」

「はいはい、分かったよお嬢様」

 けれど、エミリアとの屋台食べ歩きは、なかなかに楽しいものだったが。




「――冒険者って、極めると城も買えるのか」

 ようやくたどり着いた『黄金の夜明けゴールデンドーン』の拠点は、小さいながらも城と呼ぶべき場所だった。

 堅牢な石造りの城壁に、四隅は塔になっている。正門は固く閉ざされ、鎧兜の衛兵まで立っていた。

「別に、これくらいなら他の人も持ってるんじゃない? それに、ここは郊外だから土地も安いし、大したことないわよ」

 幸いと言うべきか、ここの拠点はカーラマーラの外周区、普段俺が利用できるエリアにある。だからこそ、ダンジョンを出てから徒歩でやって来ることもできたワケだ。

 高位冒険者ともなれば、ブルジョワなカーラマーラ民と同じように中央の街に住むのが大半である。

黄金の夜明けゴールデンドーン』がここに居を構えているのは、大迷宮へ入るための専用の転移魔法陣があるからだという。流石、ナンバーワンの冒険者ともなると、それくらいの設備も持つってことか。

「おい、何者だ。そこで止まれ」

「今日はもう面会の予定はないはずだが」

 真正面から正門へと近づいていくと、当然ながら衛兵に止められる。

「エミリアよ。急ぎの用で、兄さんに会いに来たわ」

「これは……エミリア様。失礼しました、すぐにお通しします」

「ご苦労様」

 貫禄の顔パスである。

「エミリア様、そちらの怪しい男は」

「最近、新しく雇った護衛よ。人相は悪いけど、腕は確かだから。しばらくは私の専属になるわ」

「えっ」

「左様でしたか」

 色々とツッコミどころのあるエミリアの返答だが……いや、無難に切り抜けるために適当こいただけだろう。

 あえて何も聞かず、俺は自分の家のように遠慮なく門をくぐってゆくエミリアの背中を追いかけた。

「ようこそ、お出で下さいました、エミリア様。ご主人様がお待ちです」

 正門を通った直後、目の前にいきなりメイドが現れた。

 メイド服を着ているから、メイドで間違いないだろう。胸元は開いているし、スカートも随分と短い、実にコスプレチックなメイド衣装だが、カーラマーラではきっとこれがスタンダードなのだろう。流石は欲望の街、メイド衣装も男の欲望に忠実である。

「早いわね、ティナ」

「たまたま、お声が聞こえたものですから」

「相変わらず耳がいいわね」

 などと、エミリアとメイドが気さくにお喋りしているので、どうやら顔見知りである模様。

 ティナと呼ばれたメイドは、細長い耳をピクピクさせているので……おお、これは間違いなく、本物のエルフだ。やっぱり、本物エルフはハーフよりも耳が長い。

 俺はリリアンのハーフエルフ耳も可愛くて好きだが。

「それでは、ご案内いたします」

 挨拶もそこそこに、すぐにメイドは城内の案内をしてくれる。

 先導する彼女の細い背中を眺めながら、俺はついエミリアに聞いてしまった。

「あのメイドの首輪って、ファッションでつけてるのか?」

「ああ、アレは本物の奴隷の首輪よ」

 エルフの奴隷だとぉ……実在するのは分かり切っていたが、いざ目にすると、なんかこう、思うところが色々と。

「なに、ああいうのが好みなの? 随分と古臭いセンスね」

「カーラマーラじゃ奴隷エルフは時代遅れのジャンルなのか」

 設定としては嫌いじゃないが、ガチの奴隷制度を目の当たりにしてきた俺としては、あんまり素直に奴隷の存在を喜べない。

「まぁ、あの子は好きでつけているだけだから。あんまりツッコまないであげて。というか、聞いたら長いから」

「何が?」

「惚気話が」

 ご主人様にベタ惚れのエルフ奴隷だとぉ……

「お前の兄貴は主人公かよ」

「はぁ?」

 絶対に伝わらない感想を抱きながら、俺達はすんなりとラノベ主人公疑惑のあるエミリアの兄貴へ面会と相成った。

 通されたのは城の最上階。客間というより、私室といった部屋である。実の妹を招くのだから、当然なのかもしれない。

「――珍しいこともあるものだ、お前の方から押しかけてくるとはな」

 この男が、エミリアの兄、カーラマーラ最強の冒険者か。

 部屋の中、でっかいソファにふんぞりかえっている姿は王者のような威圧感がある。ゆったりした白いガウンみたいな格好で、今さっきまで風呂上りでくつろいでました、みたいな感じだ。

 だが、その身長と体格はおおよそ俺と同等。改造実験でマッチョになってる俺と同じくらいなのだから、それなり以上に鍛えている体つきだ。

 しかし、顔の方は……おのれ、普通にイケメンかよ。流石はエミリアの兄貴だけある。亜麻色の髪と目の色は、彼女と同じだ。

 容姿だけで、この二人は間違いなく兄妹だと断定できる。

「ちょっと捕まっちゃって。今夜はここに泊めて」

「まったく、困った奴だ。だからあれほどウチの護衛をつけろと言っただろう」

「ごめん、そこは反省してる」

 エミリア、お前ウザいから護衛断ってたのか? 危機意識が低いぞアイドル。

「それで、そこにいる――なるほど、お前がアッシュか」

 だらしない格好で寝そべっているが、彼が俺を射抜く視線はなかなかに鋭い。

 まだ名乗ってはいないし、仮面も被ってはいないのだが。

「分かるのか?」

「この街にいる黒魔法使いは全て知っている。知らん顔は、最近現れた仮面のヒーローだけだ」

「これでも、魔力は抑えているつもりなんだが」

「一般人と言い張るには、無理があるな」

 鋭い魔力察知だ。

 あるいは、俺の隠蔽が甘いだけか。

 こういうの、別に得意でもなんでもないし。

「妹が世話になったようだな。仮面で顔を隠すような怪しい輩ではあるが……褒美はとらせる」

 良かった、とりあえず報酬を払う気はあるようだ。

 こんな冒険者の大物を相手に、揉めたくはないし。

 などと思っていると、メイドのティナが金貨の詰まった小袋を俺へ差し出してくれる。

「こちら、100万クランになります」

「うーん、もう一声」

「エミリア様、これは護衛依頼の相場を上回る褒賞金額ですので」

「構わん、もう少し色をつけてやれ」

「かしこまりました、ご主人様」

 と、追加で金貨の袋が!

 ありがとうエミリア!

「確かに頂戴した。それじゃあ、俺は帰らせてもらう」

「なによ、もう帰るの?」

「人を待たせているからな」

「ああ、子供がいるんだっけ」

 二人の婚約者が、とは言えないな。まだ子供なのは事実だし。

「じゃあね、アッシュ。またお願いね」

「また、って何だ。頼むから、もう捕まったりするなよ、エミリア」

 最後までそんな気安いやり取りを経て、そそくさと退散しようかという時である。

「アッシュ」

 俺を呼び止めたのは、兄貴の方だった。

「俺はゼノンガルト。魔王となる男の名だ、覚えておけ」

 その宣言は、俺に対する威嚇なのか、それとも恭順でも求めていたのか。

 彼の意図は分からなかったが、ただ一つ理解できたことは……どうやら、本当に魔王に憧れる男ってのは、多いらしいということだ。

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[一言] ベタベタなボーイミーツガールて感じだったけどこの作品で正統派ヒロインが勝ち残るのは無理そう
[一言] ゼノンガルド初出回はアツい
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