表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の魔王  作者: 菱影代理
第36章:最果ての欲望都市
723/1047

第717話 蠱惑のクリサリス

 砂漠の国の踊り子は、大陸一の美しさと華やかさを誇ると言われている。

 色鮮やかな際どい衣装に身を包み、シースルーのヴェールを揺らして、激しく、妖しく、夜を照らす灯りの中で舞い踊る。

 ファラーシャは、そんな踊り子の一座で育った。

 母親は流れの踊り子。父親は傭兵、らしい。

 物心ついた頃には、とある一座に置き去りにされ、母親はどこぞへと去っていた。そんなファラーシャを哀れな捨て子と思って、育ててくれた一座には感謝の気持ちが――あるはずもない。

 踊り子とはいえ、その実情は娼婦と何ら変わりはない。ただ、踊りという男を誘う技術の分だけ、ただの娼婦よりは芸達者というだけのこと。

 そして、一座が捨て子のファラーシャを育てたのは、母親譲りの美貌があったから。将来性を見込んで、一座に売られたのだということを、ファラーシャは初めて客をとった翌日に知った。

「今更、どうでもいいことか」

 12歳で純血を売ったファラーシャには、特にこれといって絶望も失望もなかった。かなりの高値で売れたので、まぁ良かった程度の感想。

 幼いころから一座で、つまりは踊り子達の表も裏も見てきた彼女には、ここがどういう世界で、自分がどういう境遇なのかというのは、とうの昔に理解できていた。

「くだらない、見せかけだけの世界――」

 ただ男に媚を売るためだけに、美しく着飾っては踊り狂う。大陸一の美しさ、などと聞こえと見栄えは良いだけで、やっていることは蜜に虫が群がる姿と何ら変わりはない。

「――けれど、私には才能がある」

 この虚しく汚らしい世界でも、いいや、だからこそ、ファラーシャには野望がある。

「私を天才に産んでくれたことだけは、感謝しておいてあげるわ、もう顔も思い出せないお母様」

 ファラーシャ、17歳。

 その時、彼女は名実共に、砂漠の国で一番の踊り子に登り詰めていた。

 波打つ白金の長髪に、完璧なプロポーションを誇る褐色の体に纏うのは、金糸の編みこまれた最高級の黄金に輝く衣装と、純金と宝石に彩られた数々の装身具。しかし、煌びやかな衣装も所詮は彼女の魅力を引き立てる小道具に過ぎない。

 そんな彼女につけられた二つ名は『黄金の舞姫』。

 舞台に立つファラーシャは、何よりも、誰よりも美しかった。

 彼女の流し目は心を奪い、舞い踊るしなやかな褐色の肉体は理性を吹き飛ばす。その類まれな美貌と、何より、他の踊り子と一線を画す見事な踊りは、彼女のステージを見た者を『魅了チャーム』に陥れる。

 踊り子としての名声と共に、ファラーシャの値段は天井知らずに跳ね上がって行く。彼女を買えるのは、すでにして一部の限られた王侯貴族や大商人のみとなっている。

 そして、圧倒的な魅力を振りまく彼女との関係を、たったの一晩で終わらせたいと思う男は、砂漠の国には一人もいない。

 あわや内乱か、というほど水面下で揉めた末に、ファラーシャはある大貴族の若い当主と結婚することとなった。

 決め手は、彼女自身が彼のことを愛していると公に語ったこと。

「ふふふ、なんて馬鹿な男……ただの踊り子を正妻に迎えるなんてね」

 ファラーシャに婚約を持ちかける男は無数にいたが、王侯貴族の中でも正妻に、とまでいう者はごく少数。彼女の魅力にどれほど狂っていようとも、どこの生まれとも知れない芸一本で身を立てただけの踊り子など、側室、妾、に留まるのが限界だ。

 だからこそ、ファラーシャは彼一人に狙いを定め、自らアプローチをかけた。私が本当に愛しているのは、貴方一人だけなのだと。

「愛なんて、あるワケないじゃない。いいえ、この世に愛なんてモノは最初っからないのよ」

 この砂漠の国で、自分ほど愛を語られた女はいないだろう。

 だが、ファラーシャは生まれてこの方、一度たりとも愛などという感情を覚えたことはない。愛を知らない。愛を信じない。

 愛は性欲の詩的表現、といつか流れの吟遊詩人がうそぶいていたが、正にその通りであるとファラーシャは思っている。

「愛なんていらない。だから、私にもっと金を、名声を、地位を、貢いでくださいな、アナタ」

 世界の汚さを知った時、自分の才能を理解した時、ファラーシャが抱いた野望。

 それは、この砂漠の国の王妃になること。

 卑しい生まれのただの踊り子、だが、そんな夢物語を実現すると本気で決めた。

 何故なら、この世に愛はなく、幸福を勝ち取るのはただの力に過ぎない。

 暴力、財力、権力。強い者、人の上に立つ者、支配する者は、力を持っている。

 だから、ファラーシャは魅力という、自分が持ち得た唯一にして絶対の力を信じて、生きていくのだと誓った。神にではなく、ただ、自分自身に。

 そうして、強烈な上昇志向を胸に秘め、群がる虫のように汚らわしい男達に笑顔を振りまき、血反吐を吐くほどダンスの特訓と、屈辱を押し殺し男を喜ばせる技術を磨く。

 必ず成り上がってみせるという鋼の意思と、血の滲む努力と、自分の信じた才能、その全てをもってファラーシャは最高の踊り子となり、そして今、大貴族の正妻の地位を射止めてみせた。

 だが、所詮はこれも通過点に過ぎない。

 これからは踊り子のステージではなく、社交界という新たな戦場を戦い抜かなければならない。

 若く才覚に溢れる夫ならば、今の国王を打倒するのも不可能ではない。その上、閨を共にすることで、王侯貴族の弱みを多く握った自分がいれば、この国を混乱の坩堝に陥れることもできるだろう。

 ファラーシャの持つ全てを生かせる才能と立場を持つからこそ、この男を伴侶に選んだ。王妃へ至る道も、いよいよ見えてきた。

「でも、その前に子供がいるわね。男が、どうしても息子がいる」

 世継ぎを生む。それは正妻に求められる、最大の役目である。

 流石のファラーシャも、男子を授かるかどうかは、砂漠の天に座す黒き神々へと祈りを捧げるより他はない。

 人の力では決して及ばない、天運にのみ賭ける生活はこれまでにない不安を抱くものであったが――果たして、彼女の祈りは通じた。

「おめでとうございます、奥様! お世継ぎの誕生ですぞ!」

 一人目の子供が、男子が生まれた。

 生まれて初めて、神に感謝を捧げた気がする。

 これで、最大の懸念だった問題はクリアした。あとは、この息子という駒を使って計画通りに成り上がって行くだけ――

「これが、私の子」

 ただ泣き声をあげるだけの、生まれたばかりの赤子。美しいとも、可愛いとも思えない、生まれたての赤ん坊は猿のようで……気持ち悪い、と思っていた。

 けれど、何故だろう。いざ、生まれた我が子をこの手に抱いてみれば、湧き上がってくる気持ちは。

 重い。ズシリと感じる重量は、ただ重たいだけではない。単なる荷物のような苦しい重みでもなければ、目もくらむ金銀宝石を腕いっぱいに抱えたような満足感でもなく、これが、命の重さなのだと思った。

 自分でもよくわからない、けれど、途轍もなく大きな感情のうねりが胸の奥から湧き上がってくる。ファラーシャは、ただ茫然と腕に抱えた我が子を見つめ続け、ふと、つぶやいた。

「ああ……可愛い、私の赤ちゃん」

 そうして、ファラーシャはただの女から、母となった。

 どうしてこんなに可愛いのか。

 抱き上げ、添い寝し、乳をあげ、おしめをかえる。母親の責務として、我が子の世話をし始めながらも、分からなかった。

 どうして、こんなにも可愛いのか、私の息子は。

 生まれてからずっと、目が離せない。気になって気になって仕方がない。ちょっとした反応で、ほんの僅かな変化で、一喜一憂させられる。

「んあー」

 特に意味のない、鳴き声のような声を上げて、抱き上げた胸の中で息子は笑った、ような気がした。

 その笑顔なのかどうかも分からない我が子の微笑みを見て、ファラーシャは悟った。

 どうしてこんなに可愛いのか――それは、愛しているからなのだと。

「ああ、なんて愛しい、私の子」

 それは、母となって自然に生じた本能的な感情なのか。

 いいや、これはきっと、愛などないと信じたファラーシャが感じた、初めての、本物の愛だから。

 愛を囁き、愛を叫ぶ男は、数えきれないほどにいた。

 けれど、誰も自分を愛しているとは思えなかった。その財産を、命さえも差し出したとしても、愛を感じることはない。

 何故なら、それはただ、狂っているからだ。ファラーシャの魅力という圧倒的な力を前に、男は狂わずにはいられない。

 つまり、狂えれば誰でもいいのだ。もしも、自分よりも魅力的な女がいたならば。

 けれど、この子には私だけ。母親であるファラーシャしかいない。母である自分だけを、心から求めてくれている。

 それを単なる生物としての本能だとは、思わなかった。

 少なくともファラーシャにとって、この胸に抱いた息子は、世界で一番自分を愛した男であり、そして、彼女は世界で一番、彼を愛した女であるのだ。

「好き、好き、大好き! 愛しているわ、私の坊や!」

 かくして、ファラーシャの野望は潰えた。

 成り上がって王妃に? 馬鹿じゃないの、何てくだらない。

 そんなことにかまけている暇があるならば、一寸でも長く息子と触れ合っていたい。初めて立ち上がる瞬間を、見逃したらどうしてくれる!!

 これまでの人生、費やした努力も時間も苦難も、何もかも、全て自分自身のためのもの。

 だが、それの何とくだらないことか。

 愛する者に自分を捧げることの、なんと幸せなことか。

 そうだ、これが、この子が私の全てであり、運命なのだ。だって、こんなにも愛しているのだから。

 母となり、息子を愛するファラーシャは、幸せの頂点にいた。

 惜しみなく愛情を注ぎこんだ愛息子は、健やかに育ってゆく。

 成長に伴って、幼い容姿に浮かんでくる、自分譲りの麗しい目元など堪らない。

 ヤバい、ウチの息子イケメンすぎ!? これ見つめられたら一発で魅了チャームかかるわー、美の神も愛する絶世の美男子だわー、国傾けちゃうわぁ……などと、我が子の成長を見守るファラーシャは幸福の絶頂にあり、明晰で狡猾な頭脳はすっかり蕩け切っていた。

 故に、彼女は気付かなかった。

 愛があるからこそ存在する、負の感情。七つの大罪が一つ。

「ねぇねぇ、お母様!」

 息子が5歳の誕生日も過ぎた、ある日のこと。屋敷の中を、手を繋いで歩いていると、息子は喜び勇んだ表情で、指を指した。

 ファラーシャがその先に目を向ければ、そこにいるのは屋敷に務めるメイドと、彼女の娘か妹か、まだ幼い少女が見習いとして共に掃除をしているところであった。

「あの子、すっごく可愛いね! 僕、友達になれるかなぁ」

 息子は、掃除に勤しむ小さな見習い少女を確かに差して、そう言った。

 ただ、屋敷の中では珍しい、自分と同じ年頃の子だったというだけで、興味を引いたのだろう。見習い少女は、言うほど可愛いらしくもなく、ごく平凡な顔立ち。踊り子としてありとあらゆる美少女、美女を見てきたファラーシャからすれば、歯牙にもかけない凡庸な少女に過ぎない。

「可愛い? あの、小娘が?」

 私の息子が、可愛いと言った。

 ただそれだけのことで、ファラーシャの中で久しく忘れ去っていた、誰かを憎む強烈にして醜悪な感情が燃え上がった。

 そう、本当の愛を知ったが故に、彼女はついに気づいてしまった。

 これが、『嫉妬』と呼ばれる感情であることに。

「このメスガキがぁ! 私の可愛い息子に色目つかいやがってぇ……」

 ぶっ殺してやる、と叫んでは寝室の鏡台を蹴り飛ばすファラーシャは、大荒れに荒れていていた。

 息子が可愛い、と言った直後、自分がどう言い繕ったのか、イマイチよく覚えていない。ただ、目の前が真っ赤になるほどの怒りで我を忘れていた自覚だけはある。

 それでも、その嫉妬の怒りを爆発させたのは、人目のない寝室まで戻って来るまで耐えられた自分は頑張った方だろう。どれだけの憤怒に駆られようとも、愛しい我が子の前では美しい母の姿は絶対に崩さない。

「そう、私はこの国一番の踊り子『黄金の舞姫』ファラーシャよ! 最も美しいこの私が、私だけが、あの子に相応しい女なのよっ!!」

 自分以外の女が息子の隣に立つ光景は、想像することすら忌々しい最悪の未来。他の誰にも、息子の隣に立つ資格などありはしない。

 恋愛? 結婚?

 必要ない。ただ私がいれば、それでいい。いいや、自分だけがそうなるに相応しい、ただ一人の女。

 何故なら、自分は最高の美女なのだから――

「あっ……」

 蹴り倒し、鏡が砕け散った破片に、自分の顔が写り込んでいた。

 相変わらず、美しい。今でも、ファラーシャに匹敵する美貌を持つ踊り子はいないといえるほど、妖艶な美貌がそこにある。

 だが、毎日眺める自分の顔だからこそ、気付く。

 それは、逃れられない運命。ファラーシャは永遠の少女である妖精ではなく、人間の女であるが故に。

「も、もしかして、私……」

 老けている。

 まだ、小じわの一つもない。ハリのある褐色の肌は瑞々しい――だが、あの平凡な見習い少女、恐らくは10にも満たない彼女の肌と比べれば。

 人間という生物ならば、それは当然の結果。そもそも、最高の柔らかさを誇るのは赤子の肌であろう。

 年齢には、決して勝てない。神が定めた残酷にして、絶対的な自然の摂理であった。

「あ、う、あぁ……」

 生まれて初めて、自らの衰えというものを実感したファラーシャは絶望した。

 これから先、一年ごとに息子は美しく、そして逞しく成長していくことだろう。

 だが、自分はどうだ。今はまだいい、『黄金の舞姫』の二つ名を名乗れるだけの容姿は保ち続けている。けれど、来年は、再来年は……十年後は、どうなっている。

 成人した息子の隣に立つ、十年後の自分は、果たして『黄金の舞姫』のままでいられるのか。

「……たい」

 愛しい息子と、釣りあう女であるために。彼女には、新たな欲望が生まれた。

「綺麗になりたい」

 美しくなりたい。若くなりたい。自分の持つ、最高の魅力を保ち続けたい。

 世の女性の大多数が一度は抱くであろう、ありふれた欲望はしかし――母の愛と、女の情念とに狂い始めたファラーシャの道を踏み外させる。

 永遠の美を保つ。

 その方法を彼女は必死になって探した。どんなことでもしたし、何でも試した。

 だが、えてして美容法など眉唾物の噂話も多ければ、効果がないばかりか、悪影響が出ることすらありうる。踊り子として美容技術の最先端にいたファラーシャには、そんなことは百も承知だったが、年齢という無慈悲なタイムリミットに抗う彼女は、藁にもすがる思いであった。

 無理なことは分かり切っている。

 それでも、願わずにはいられない。

 一年ごとに歳を経て、想像通りに、いや、想像以上に育ってゆく息子の姿に、途轍もない焦燥を覚える。

 そろそろ、政略結婚の婚約話も持ち上がってくる。息子自身も、女に興味が出てもおかしくない。

 そして何より、あの時、友達になりたいと言ったメイド見習いの少女と、この母の目を盗んで度々会っていることに、気付いていた。

「許さない……絶対に、許さないぃ……」

 最早、手段は選んでいられなかった。

 ほんのかすかに小じわの浮かび始めた顔に、嫉妬に狂った表情を浮かべて、ファラーシャはついに、最後の手段に打って出る。

 彼女の欲望に応えたのは、砂漠の国の影に蠢く、怪しい邪教の組織であった。

 邪教の司祭がファラーシャに与えたのは、一振りの短剣。

 純金で作られたかのような、刀身さえも黄金の輝きを放つ、魔性のナイフ。それは、おぞましい生贄の儀式に使われる、禍々しくも美しい、儀礼剣であった。




「――それでぇ、コレがその邪教の剣でーっす」

 と、殺し屋ヒルダは鞘から抜いた黄金の短剣を、これみよがしに振りかざす。

 永遠に色褪せぬ黄金の輝きを、緩やかな弧を描く片刃の刀身は放っている。純金の刃、という以上に、異様なほどギラついて見えるのは、その短剣が『呪いの武器』であるからに違いない。

 その名を『蠱惑のクリサリス』という。

「こういうのは大体、偽物なんだけどね、コレは本物。だから、あのファラーシャママも本当にコレを使って、若返ったのよ」

 本物の力を持つ邪教の儀礼剣を手にしたファラーシャ。彼女がそれで何をしたかという詳細な記録は、残っていない。

 今もアトラス大砂漠において、伝説の踊り子として語り継がれる『黄金の舞姫・ファラーシャ』。

 彼女の物語は、若き大貴族の当主と結婚をしたところで終わっている。

 その後のファラーシャの行いが語られないのは、それがあまりにもおぞましかったからかもしれない。

 少なくとも、当時ただの無銘でしかなかった邪教の儀礼剣が、彼女の手によって名を持つ呪いの武器と化したことだけが、紛れもない事実である。

「コレ、どうやって使うと思う?」

 金の刃はただ華麗な美しさを誇るだけ。そもそも、金は刃とするには不向きな金属である。

 伝説上には度々、黄金の武器が登場するが、それらは単なる純金製なのではなく、何らかの特殊な魔法や神の加護を得ているが故に、その輝きを放っているに過ぎない。

 そして、このファラーシャの短剣には、呪いという形で、数多の獲物を切り裂き続けた斬れ味が、今でも残っている。

「使い方は簡単、難しい呪文も、複雑な儀式もいりませーん! ただ、この刃で刺して、斬って、えぐって、血を浴びるの――こんな風に」

 無造作に振るわれた金色の刃が、俄かに鮮血の華を咲かす。

「ぎゃぁああああああああああああああああああっ!!」

 ヒルダが刺し、絶叫を上げたのは、一人の少年だ。

 鉄の柱に縛り付けられている彼は、その太ももを短剣によって貫かれた。

「そうそう、いい感じですねー」

 まだ命に関わるほどの深手ではない。だが、足を刺し貫かれた痛みは、子供でなくとも耐えがたい。

 何故、彼はこんな酷い目に遭わなければならないのか。

 それをヒルダに聞けば、こう答えるだろう。

 彼が、アッシュに助けられたことがあるからだと。

「それじゃあ、その調子で叫んで、早くアッシュを呼んでね。もしキミがダメだったら、次は弟クンにやってもらうから、頑張ってね、お兄ちゃん」

 そうして、ヒルダは反対の足にも、呪われし黄金の刃を振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>綺麗になりたい 呪いの武器のストーリーはやっぱ最高だぜ!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ