第712話 イチから始める黒魔法使い(1)
冥暗の月5日。
レキとウルスラの熱烈な告白から、そのままベッドで一夜を過ごすことになったのだが……どうにか、ただの添い寝だけで朝まで乗り切ることに成功した。
「二人が同い年だったら、絶対に流されるがままだったな」
一足先にベッドから抜け出した俺は、実に子供らしいあどけない寝顔の二人を見て、昨晩の自分の判断が正しかったと思い直す。
同時に、布団をよけた際に見えてしまったレキの白い裸体とウルスラの褐色の裸体にちょっと反応してしまったことで、より一層の自制心が必要なことも感じた。おのれ、俺にもうほんの少しでも女性に対する免疫があれば……流石にソレは人体実験で鍛えられることはなかったからな。
そんな益体もないことを寝ぼけ頭で考えながら、俺は一人で洗面所へと向かった。
顔を洗い、寝癖を整え、歯を磨く。当たり前の朝の身だしなみではあるが、こんな異世界でも普通に歯ブラシがあることにちょっと驚いたものだ。
まぁ、作り自体は単純だし、需要もあるだろうから、歯を磨くブラシくらい作られていても何もおかしくはないのだが。それでも、庶民にも普及する程度には安価で購入できるアメニティグッズで、良かった。木の枝で磨いてます、とかだったら流石にちょっと抵抗もあったと思う。
「それにしても……何で左目が赤くなってんだ」
前々から何となく気づいてはいたのだが、こうして落ち着いて鏡で自分の顔を見ると、今更ながらに気になってくる。
俺の左目の瞳は最初からそうだったかのように、赤く染まっている。恐る恐る触れてみても、コンタクトレンズが入っているワケでもなかった。
「これもあの人体実験の結果なのか……?」
あの頃は鏡で自分の顔を確認する余裕もなかったからな。
何らかの薬品や魔法の影響で、目の色が変わるくらいあってもおかしくない。
「実は魔眼になっているとか」
様々な魔法の効果を宿す目、『魔眼』持ちは存在する。かなり珍しいようで、貴族の中には代々受け継ぐ『魔眼』が自慢というのもいるくらい。そして、大体どれも強力な効果を発揮するらしい。
しかし、残念ながら俺の左目はただ赤いだけで、これといって魔力的な強さは感じない。本当にただ何かの副作用で赤くなっただけだろうが……もしかすれば、自分でも分からないほどに、強く封印されている可能性もなきにしもあらず。
いいじゃないか、それくらい夢を見たって。だって、右黒左赤のオッドアイとか、なんかカッコいいじゃん。このカッコ良さに見合った特別な力があったっていいじゃないかよ。
「くっ、俺の左目が……魔眼の真の力が抑えきれない……!」
と、左目を抑えて呻くフリの一つもしてみたくなるってもんだ。
あーあ、本当に俺の左目に隠された真の力があればなぁ。
「俺の魔眼が解放されれば、もう誰にも止められない……サリエルも楽勝でブッ飛ばせるくらいに!」
「おはよう、クロノ様」
「うわぁーっ!?」
果たして、俺の叫びは単なる驚きか、それとも羞恥によるものか。
「お、おはよう、ミア。いきなり現れるから驚いたぞ」
気配感じなかったのはマジだからね。足音殺していただろ。
黒い髪に赤い瞳をした、割と年上のこの子はミアだ。昨日のバーベキューで一人だけ次元の違う喰いっぷりをみせていた食いしん坊だから、よく覚えている。
「えへへー、驚かせようと思ってー」
「ああ、十分、驚かされたよ」
はっはっは、と大人の余裕でもって笑って流す。
「で、魔眼の真の力ってなに?」
「あああー!!」
聞かれてんじゃねぇかよちくしょうめ!
「な、なんのことだか……」
「ねぇねぇ、僕にだけ教えてよ、クロノ様の魔眼の秘密」
「秘密だから、本当に誰にも秘密だから……誰にも言うなよ、ミア」
「えー、しょうがないなー」
渋々、といった様子で引き下がったミアに、俺は大いに胸をなでおろした。危機は去った。
アホなことやってないで、さっさと歯を磨いてしまおう。
俺はミアと二人並んで、シャコシャコ歯磨きを始めた。
「あ、そういえば、クロノ様」
「なんだ」
「昨晩はお楽しみでしたね」
「ブっ!!」
ゆすぐために含んでいた水を、ちょっと噴き出してしまった。良かった、ここが洗面所で。
いや、よくはない。
「……何を言ってるんだ」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいよ。若い男女が一つ屋根の下とくれば、こういうことは自然の成り行きだからね」
いや、マジで自分が何を言っているのか分かっているのか、この子は。
こういうことにさも理解があります、とでも言うように、したり顔でうんうんと頷いている。
「あー、それは何かの本で読んだのか?」
「失敬な、僕はこう見えて、恋愛経験は豊富なんだから!」
ムフー、とやたら得意げな顔のミアは、どこからどう見ても10歳をちょい超えたくらいの年ごろにしか思えない。
いやしかし、幼稚園でも小学校でも、男子と女子が付き合ったとか何とか、そのテの話題はゼロではなかった。マセている子は、恋愛事も真似たくなる年頃で、実際にそれはなかなかどうして男女の付き合いらしくなったりもする。キスしてる奴とかもいたしな。
俺には全く無縁の話だったけど……
「そうか、モテるんだな」
「そりゃあもう、モテすぎて大変だったんだから。僕は戦場よりも修羅場の方が、死を覚悟した回数は多いからね」
「あんまり、女の子を泣かせる様な真似はするなよ」
「ふふん、その言葉そっくりお返しするよ」
「言ったなコイツー」
「あははっ、やーめーてーよー」
などと、適当にミアをもみくちゃにして遊んでいる内に、他の子も起き出したようで、洗面所へと集まって来た。
昨日のバーベキュー大会のお蔭で、多少は距離が縮まった感もあるが、まだまだ子供達にとって俺は慣れない大人のような扱いである。とりあえず、今朝のところは普通にみんなと挨拶ができただけで上出来としよう。
しかしそれを思うと、一切物怖じることなく俺に軽口を叩いて見せたミアは、肝が据わっているというか。ああして遠慮のない言葉をかけられたことで、むしろ俺の方が気が楽になったくらいだ。
天然なのか。そうだとしても、ああいう子が将来大物になったりするんじゃないだろうか。
「ねぇねぇクロノ様、今日は何するデスかー?」
「あー、なにするかな……」
和やかに朝食を終えた辺りで、俺は今日の予定が何一つなかったことに今頃になって気が付いた。
必死こいて拠点を確保し、昨晩は子供達と打ち解けるためのイベントもこなし、ついに俺は今すぐやらなければいけない事、というのはなくなった。その気になれば、このまま地下で一ヶ月引きこもり生活だって送れる。
「あとは大嵐が過ぎるまで、じっと待っていればそれでいい。これでようやく、ゆっくりできるの」
ウルスラも俺と同じ認識でいるようで、昨日よりもちょっとゆるんだボンヤリした顔をしている。俺と出会ってからずっと、毎日気を張っていたのだろう。
「確かに、このまま大人しくしていることもできるが……そういうワケにもいかないな」
「クロノ様、何かあるの?」
「ハッ、もしかして、シルヴァリアンを潰しに行くデス!?」
「いや、流石にそれはない」
何のために隠れ潜んでいられる拠点を確保したのか、レキは分かっているのだろうか。この子の理解度には、たまに不安になる。
「こっちから仕掛けるつもりはないが、万一には備えておきたいからな」
「これ以上、なにか備えることがあるの?」
「ああ、俺はまだ、自分の力すら満足に扱えてないからな」
記憶こそ失われているが、俺自身がその間に経験した戦いによって成長した体は健在だ。俺が覚えているのは、あの実験施設を脱出した直後だが、その時点よりも明らかに飛躍的な魔力の向上を感じられる。その身に宿す魔力量だけでなく、その出力や、術式を扱うための集中力、ありとあらゆる面で、俺が知っている自分とは比べ物にならない能力と化している。
果たして、かつての俺がいかにしてこれほどのレベリングを施したのかは不明だが……俺の体にある力ならば、早いところ使いこなせるようにすべきだ。
「大嵐が止んで、カーラマーラから脱出する時が最後の関門だ。ギャングの奴らも総力を挙げて襲ってくるかもしれない。だから、その時までに強くなっておくに越したことはないだろう」
そうでなくても、ここがバレて刺客が送り込まれてくるかもしれない。現状に満足したまま、のんびり過ごせるほど平和な状況じゃない。
「おおお、クロノ様、修行デスね!」
「あー、そういうことになるのかな」
改めて修行とか言われると、大袈裟でやや恥ずかしい気もするが。
「それじゃあ、私はクロノ様と二人で行ってくるから、レキはお留守番よろしくなの」
「ホワっ!? なんでーっ!!」
叫んでいるレキと意味合いは違う気もするが、俺としても何故ウルスラが当然のように同行しようとしているのか、イマイチ分かりかねる。別に遊びに行くワケじゃないし、年頃の少女が喜ぶようなことなど一つもないと思うのだが。
「クロノ様は黒魔法の修行をするの。なら、魔術士である私が一緒の方が役に立つ」
「レキだって役に立つデス!」
「それじゃあ、開拓村にいた頃のクロノ様が使っていた魔法を覚えているの?」
「そ、それは……ドカーンってしたり、ニョロニョロしたり?」
え、ちょっと待ってレキ、ニョロニョロする魔法ってなに。そんな擬音で表現されるような変な魔法を俺は使っていたのか。
「爆発する遠距離攻撃魔法は『榴弾砲撃』。黒色魔力の疑似火属性を利用しているの。黒い触手を操る魔法は、基本的には敵を拘束するのに使われるけど、両手を使わないサブアームとして他にも色々と応用をきかせていた。触手は物質化によって形成されていて、かなりの本数を出せたし、その全てを正確に制御していた」
「なるほど、よく分かった」
ウルスラの流れるような魔法説明を受けて、以前の俺が使っていた黒魔法のイメージがすぐに理解できた。確かに、どっちも俺が編み出しそうな魔法である。
「うー、ううーっ! 自分の頭の悪さが憎いデス!」
「レキ、そんなに自分を卑下するな。人には向き不向きってのがあってだな」
「じゃあクロノ様は、レキとウル、どっちを選ぶデスか!?」
「ウルスラさんお願いします」
「ファーック!!」
ごめん、レキ。俺としても以前の自分の魔法の詳細については知りたいのだ。自分の心に嘘はつけない。
「ふふん、同じ魔術士クラスとして、クロノ様に相応しいのは私なのは明らかなの」
「だから煽るなってウルスラ」
「ぐぎぎ……」
「な、泣くなよレキ……あー、そうだ、明日はレキに組手をお願いするよ。身体能力の方も、まだ持て余す感じだから、もうちょっと本気で体を動かしたいんだ」
その点、かなり立派な戦士としての実力を誇るレキなら相手にちょうどいい。少なくとも、ワンパンで沈んだギガスよりはマシだ。
「ウォー、イエスっ! 絶対デスよ、クロノ様!」
一瞬で復活したレキ、大喜びである。だが、女の子が野郎と組手するのをそんなに楽しみにするのはどうなのだろう。
はっ、もしかして、これが女子特有の「好きな男には合わせる」というやつなのでは……?
「イェーイ! ヒャッフー!」
いや、ないな。レキは心から喜んでくれている。
もしこれで演技なのだとしたら、俺は喜んで騙されてやろうじゃないか。それくらい、レキはいい笑顔だった。
「それじゃあ、ちょっと行ってくる」
というワケで、やって来たのは拠点であるギガスの砦こと学校の敷地を一望できる、付近で一番高いビルの屋上だ。
ここなら、何者かが学校に接近してもすぐに分かるし、いざって時は速攻でかけつけられる。何なら、レキが大声で叫んでも聞こえるくらいだ。
それでいて、多少離れたこの地点なら、黒魔法を試し撃ちでぶっ放しても学校が拠点であることを確定させるほどでもない、はず。
「とりあえず、さっきウルスラが言ってたグレネードと触手ってのをやってみるか」
一番簡単なのは触手だ。魔力を現実に触れる物体として発現・形成することを『物質化』というが、これは弾丸を撃てるようになった時点で自然と習得できている。そもそも、黒色魔力の場合は魔力を集中させて固めて行けば自然と物質化が起こるので、難しいことはなにもない。
強いて言えば、ただ魔力を固めて硬質化を目指す弾丸と、伸縮自在に稼働する触手とでは、物質化の方向性が違ってくるので、これをどこまで上手くできるかってところか。
「うーん……こんな感じ?」
「おお、ニョロニョロしてるの」
案ずるよりも、ってやつなのか、いざ試してみれば不気味にうねる真っ黒い触手としか言いようのない物体を、影から作り出すことに成功した。
「思ったよりも簡単、というか妙に体に馴染んでいる感じがする」
発動の感覚を体が覚えているのだろう。ウルスラの話によれば、俺はかなり自然に触手を使っていたっていうからな。使用頻度もそれなりだったはず。
「これは、繊維のように編みこめば強度が増すな。いっそ、弾丸と同じ硬質化させて鎖を作ってもいいのか」
思い付きでやってみれば、これもまた簡単に成功する。
細い触手を何十と束ねてより太く大きな触手にしたり、鎖の形状にしたり。どちらもやはり馴染んだ感覚がするので、どっちも以前の俺がすでに編み出していたと思われる。
「凄い、あっという間に変化した」
「これぐらい、思いつけば誰でもできるんじゃないのか?」
「ううん、魔法を術式に沿った効果から変化させるのは難しい。初心者なら、火球を一回り大きなサイズにするのにも苦労するの」
「現代魔法って言うんだったか。俺にはそっちの方がさっぱりなんだがな」
ウルスラは『ジェネラルセオリー』という初心者向けで、様々な属性の基礎的な魔法が使える魔道書を持っているが、ソレをチラっと見せてもらったことがある。
結論から言うと、俺の頭では魔法に関わる言語は解読不能ということが判明した。魔法を使う時に唱えている、正に詠唱というべき言葉が、俺には聞き取れない。
だが、明らかに日本語ではない異世界人の言葉は理解できているので、普通の言語は自動翻訳されているのだと思われる。あのマスク共が散々、俺の頭の中を弄繰り回した時に何か仕込んだのは明らかだ。
「できないなら、無理にやる必要はない。クロノ様は原初魔法タイプ。私と同じ」
どう考えても、俺は正規の育成法で魔法使いになってはいないからな。奴らが『黒魔法』と呼んでいたこの力は、一般的に普及している現代魔法とは全く異なる系統の魔法であることは間違いなさそうだ。
「長所を伸ばした方がいいってことか」
「うん、私もそう教わったから」
かつて俺が、呪いと呼び恐れられていたウルスラの力を制御できるよう訓練した時に、そう言ったらしいのだが……やはり覚えがない。だが、俺もウルスラも自分だけのオリジナル魔法の使い手だから、それをメインにして成長させるという方針は正しい。
苦労して現代魔法を覚えて、火の玉を一発撃てるようになってもしょうがないしな。
「問題はグレネードの方なんだが、上手くいくか」
黒色魔力による疑似的な炎属性の再現というのは、機動実験時代の俺には不可能だった芸当だ。
しかし、それが可能であることを俺は知っているし、現実に見たことも、喰らったこともある。
そう、思えば俺が初めて殺した人間ということになる、同じ実験体の少年。仮面で顔を隠し、いつものライトゴーレムだと思って躊躇なくパイルバンカーで貫いてしまったものだ。あれから同じように実験体の少年少女を何人も殺したワケだが……今は感傷的な気分に浸っている場合ではない。
重要なのは、俺と同じく黒魔法使いとして改造された彼が、俺とは違い黒い炎を放つ魔法を身に着けていたことだ。すなわち、アレこそが正に黒色魔力による属性変化というものだろう。
「黒色魔力は炎になるし、俺はすでにそれができる力がある。あとは、爆発に必要な魔力とその構造――」
要するに、着弾と同時に爆発を起こすよう弾の中に魔力を仕込めばいいってことだ。そこまで複雑な術式にはならないはずだし、弾丸や砲弾の形状は最も作り慣れている。
これも、そんなに難しい魔法ではないはずだ。今の俺なら、きっと出来る。
「――『魔弾・榴弾砲撃』」
ウルスラから聞いた、かつての俺の魔法名を唱えると共に、突き出した掌から射出される大口径の黒い砲弾。ドンッ、と砲撃のような音と衝撃をもって放たれたソレは、隣に立つビルの屋上にある給水タンクらしきモノに着弾し、
ドゴォオオオオッ!!
「おおお……思ったより大爆発したな」
「私が見た時よりも、威力が上がってるの」
どうやら大成功だったようだ。
給水タンクが木端微塵に吹き飛んでるし、屋上も半壊している。気合いを入れてそれなりに魔力を込めはしたが、かなりの爆発力だ。これは即実戦に投入できるな。
「疑似火属性を作る感覚も掴めた」
最大の収穫だ。いざやっていれば、これも当たり前のように変化させることができた。
今では、どうしてこんな簡単なことができなかったのか、いや、気付けなかったのか、というような感覚である。
そしてもう一つ、掴んだ事実があった。
「ウルスラ、俺は疑似火属性以外にも使ってたか?」
「使っているのは見なかったけれど、雷や氷も使えると言っていたの」
やはり、そうか。
俺は火以外にも、他の属性に変化させられることに気が付いた。
「凄いなこれは……多分、全部の属性が使えそうだ」
試しに、手元で作ってみる。
かざした掌からは、まずメラメラと燃え盛る真っ黒い炎を灯す。
次には、黒い粒子が溢れて指の間から流れ落ちる砂と化し、それが弾けるようにスパークを散らす雷光となる。
それから、結晶のように固まった黒い氷の塊を成し、次の瞬間には崩れ去る様に黒々と渦巻く風となった。
黒い風は雲のように固まった直後、雨となったように零れ落ちる水となり――最後には、輝く光となって消え去る。
「す、凄い……火、土、雷、氷、風、水、光、全ての属性が再現されてるの!」
「闇は元々使ってるようなもんだから、確かにこれで全部だよな」
現代魔法で定義されている八つの属性がこれだ。実験体の中には、二つか三つくらいは属性を操る者はいたが、それでも八つ全てを行使する奴はいなかった。この世界での魔術士も、基本的には自分の得意な属性を一つか二つ、多くても四つ五つ程度だと聞いている。
「クロノ様は『エレメントマスター』なの」
「それって俺のパーティ名だっけ」
「それだけじゃない。八つの属性、全てを使いこなす魔術士は『エレメントマスター』と呼ばれるの」
全属性の使い手は、魔術士の中でもかなり稀有な存在だという。
発現させるだけでも難しい上に、その全てを実戦レベルにまで行使できる魔術士は相当な凄腕である。だからこそ『エレメントマスター』という専用の称号も存在すると。
恐らく、かつての俺が名乗っていた『エレメントマスター』というパーティ名も、それにあやかったネーミングなのだろう。
「おお、なんかカッコいいな」
不思議と心に響くネーミングである。元文芸部員の魂が震えるようだ。
もっとも、俺の場合は黒色魔力を基に変化させただけの疑似に過ぎないが。厳密には偽物みたいなもんだが……効果が変わらなければ何の問題もない。
「それじゃあ、『エレメントマスター』の名に相応しくなるよう、頑張るとするか」
全ての属性が使える。それを前提として、俺の頭は新たな黒魔法の開発アイデアでフル回転を始めていた。ふはは、夢が広がる!