第710話 十一人いる
想定していたギャングの襲撃もなく、無事に買い出しを終えた俺とレキは、大迷宮第一階層の地下シェルターへと戻ってきた。
子供服をはじめ、館からの強奪だけでは揃えられなかった生活必需品などなど、これでようやく一ヶ月以上の引きこもり生活を送れるだけの全ての準備が整った。つまり、俺はあの奴隷商船を飛び出してから、ようやく人心地がつける状況にまで至ったのだ。
いや、それは俺だけでなく、レキ、ウルスラ、クルス、十人の子供達も同様であろう。まだ油断を許さない潜伏状態ではあるが、つかの間の平穏をようやく掴みとったという安堵感のようなものが、みんなの間に広がっている。
「というワケで、これまでの苦労を労って、バーベキュー大会をしたいと思う」
そんな俺の宣言の前に、地下シェルター大広間に集った子供達は、何とも言いようのないポカンとしたリアクションをくれる。
参ったな、あまり掴みがよろしくない。
「あー、えっと、要するに、今日はみんな好きなだけ肉を食えるということだ」
「おおー」
小さいながらも、ちょっとしたどよめきが起こる。
俺を前に、リリアン以外の子供達はほぼ全員、怯えたような警戒心全開の表情だが、そこはそれ、食欲に素直な部分はある。
子供達を飯で釣るような真似をしているワケだが、これは全て、ウルスラの入れ知恵である。
「生活環境が整ったのなら、次にすべきことは、みんながクロノ様を受け入れることなの」
とは、館を漁っている作業中に、ウルスラが語ったことだ。
今までは目の前に問題が山積みだったので、俺はロクに子供達と話もできず対処に追われていた。
しかしこれから一緒に住むにあたって、いつまでも余所余所しいままではお互いにとって良いことにならない。俺を兄のように慕ってくれとまでは言わないが、それでも自分達に危害を加えない味方である、くらいの認識にはなって欲しい。
俺自身が子供達を怯えさせるストレスの原因となったとあっては、俺の方が先にストレスと自責の念で潰れそうである。
そんなワケで、俺は早急に子供達に取り入る、もとい、溶け込む努力が必要だ。
そのための機会としてウルスラが提案したのが、このバーベキュー大会である。
「家計はいつもギリギリアウト。だからお肉は滅多に食べられないデース」
レキが苦しい食事事情を語ってくれたのは、今日の買い出しの最中でのこと。とりあえず、肉を腹いっぱい食えるなら、皆が喜ぶのは間違いないと太鼓判を押されている。
今の俺はランク5冒険者らしく、ちょっとした小金持ち。子供達の腹を満たすだけの肉を買うなど、容易いこと。
調子に乗って散財は避けるべきだが、かといってケチりすぎても精神的によろしくはない。とにかくカーラマーラから脱出できさえすれば、後で堂々と金を稼ぐことだって可能なのだから、今はケチかるよりも、少しでも快適に過ごすために金をかける価値がある。
「それじゃあみんな、遠慮しないで食べてくれ」
俺の思惑は置いておくとして、早速、バーベキュー大会を始めようじゃないか。
場所は、地表にある学校らしき校舎、その中庭だ。
校舎はロの字型になっていて、四方を壁に囲まれた中庭がある構造だった。ここなら屋外に出ても、外から俺達の姿が見えることはない。
それに、子供達には少しでも外に出る機会は増やしてあげたい。安全とはいえ、あんな地下に籠り切りでは大人だって息が詰まる。
そんな中庭という安全な屋外スペースで、俺は影空間に入っていた、冒険者時代に使っていたと思しきグリルを出し、それでみんなの肉を焼くことに。
パーティメンバーを含む複数人での利用を想定していたのか、結構なサイズであり、なかなかに上等な品であることが分かる。だが、ほぼ新品同様で、あまり使われた形跡がない。
買ったはいいが、調理するのが面倒で保存食で済ませていたのか。それとも、他に料理してくれるメンバーがいたのか。
今の俺には見当もつかないが、バーベキューをするにはうってつけだ。
「――『点火』」
ウルスラが魔法で炭を満載したグリルに着火。
俺が手動で火起こししようと思ってたのに……でも、魔法で火をつけた方が遥かに早い。生活面においても魔法ってのは便利だな、と思いながら、俺は火の灯りはじめた炭を扇ぐ作業に従事した。
一方の子供達は、俺とレキが買い込んできた肉を、串に差しているところだ。肉といっても、鳥、豚、牛から、その他、聞いたことのない名前の動物やらモンスターやら、色々と揃えてきた。
子供だって自分で選んだ方が楽しいだろうし、俺も純粋にモンスターの肉の味がどんなものかは興味がある。普通に店先で売っていた以上、ヤバいものはないはずだ。
「いい火加減になってきたし、そろそろ焼いていいぞー」
俺は満を持してそう声を上げた。
緊張の一瞬……というのは、ここで子供達は俺へ肉を手渡しするからだ。一人ずつ、順番に。要するに、ここで自己紹介もしていくワケだ。
肉は早く食べたい。だが、俺に近づくのは怖い。そんな葛藤が、肉の串を手に立ちすくむ子供達の姿からはありありと伝わってくる。
俺と子供達の間に、えもいわれぬ緊迫感の沈黙が流れる中――意を決したのか、ついに一人の子が歩み出た。
「……クロノ様、お願いします」
「ああ、リリアン、任せておけ」
案の定というべきか、最初に俺の下へやって来た子は、唯一俺に抵抗がないリリアンであった。
改めて見ると、本当に可愛らしい幼女である。透き通るような金髪に、キラキラとしたエメラルドの瞳。その愛らしい容貌はまるで妖精のようだが……どうにも、この子は表情変化に乏しいらしい。
俺はまだ、この子が笑っているところを見たことがない。奴隷商船に捕まったことがトラウマになっているのかもしれない。だとすれば、少しでも心の傷を癒すことができればいいのだが。
そんなことを思いながら、リリアンの小さな両手で握った串を受け取り、グリルへと乗せる。
「ところで、子供にまでクロノ様って呼ばせるのは」
「クロノ様はクロノ様、デス?」
「他に呼び方などないの」
地味に気になったのだが、レキとウスルラが譲る気配がないので、このままにするしかなさそうだ。いやしかし、子供に自分のこと様付けで呼ばせるって相当だぞ……
「ええい、最年少のリリアンに先陣を切らせて置いて、何を躊躇う! 我は行くぞ、続け、みなの者!」
妙に芝居がかった元気のいい声を上げて、いよいよリリアンに続く二人目の子が俺の下へとやって来た。
「君の名前は」
「我が名はヴィルハイト!」
我が名は、ときたか。随分と仰々しい物言いをする子だな。
「もしかして、元貴族とかそういう出自だったりする?」
「ウチの子にそんな秘密の設定がある子は一人もいない」
「借金のカタに売られた、普通の子デース」
ヴィル、と呼ばれる赤い髪にオモチャの片眼鏡をつけている男の子だ。親は商人らしく、盛大に事業が失敗したので一家全員奴隷商人に売られたらしい。
ただ、商人の息子であるためか教育はそれなりで、子供達の中では唯一、文字が読めて、簡単な計算ができる。十人の子供達の中では、一番年上の10歳だという。
ウルスラ曰く、頭脳明晰で金勘定ではレキとクルスよりも頼りになる、けれど、読ませた本の影響でちょっと変なキャラ付けされている、とのこと。
「10歳で中二病に目覚めるとか、将来有望かよ」
そんな早すぎた中二覚醒者ヴィルに続いて、二人目の子もやってきた。
「君の名前は」
「僕はシャモンです。よろしくお願いします、クロノ様」
今度は、随分と礼儀正しい子がきたな。灰色の髪を肩口で切り揃えた、可憐な少女だが、僕っ子ときたもんだ。
「シャモンはこう見えて男の子なの」
「一番しっかりしてる良い子デスよ」
男だったのか……俺に見る目がない、というより、この子が美形すぎるのだ。一発で男と見抜ける奴はいないだろ。
レキ曰く、子供達の面倒をよく見てくれる、頼れる子、シャモンに任せておけばオールオーケー、とのことだが、あまり頼りすぎるなよ。確かに、受け答えもしっかりしているが、まだ9歳だぞ。
そして、シャモンに続き、今度は一気に三人来た。
「俺はカイル! 腹減った、早く肉焼いてくれよクロノ様!」
食欲勝って堂々と両手に握った串を差し出す姿は、如何にも元気な男の子だ。くせ毛なのか、ツンツン尖った金髪に、整った容姿。将来確実にイケメンになるだろうが、今は年相応に子供らしい。レキを真似しているのか、背中に木剣なんか背負っている姿は、なかなかに微笑ましい。
「ヤンチャ盛りで一番手を焼いている、困った子なの」
「カイルは絶対、剣の才能がある凄い子デス!」
ただし、今度その木剣振り回して他の子を怪我させたり物を壊したら、ボディブローでは済まさないとレキは言った。体罰って、あんまりよくないと俺は思うんだが……
「それで、そっちの二人は」
「ハルキア、です」
「……ルオラ」
カイルの背中に隠れように立つ二人は、彼と同じく金髪碧眼。ウルスラのようにウェーブがかったロングヘアなのがハルキアで、ストレートロングなのがルオラ。
もしかしてカイルの妹なのか、と思ったが、
「こう見えて男の子なの」
「同じ孤児院から売られた、三兄弟デス」
まさかの、こう見えて男の子シリーズ、二人目、三人目である。男子五人の中で三人がこれだ。この子達どんだけ見目麗しいんだよ。
レキは三兄弟といったが、厳密には血のつながりはないらしい。三人とも孤児として拾われ、孤児院時代から仲が良く、売られた後も一緒にいるのだ。血のつながりはなくとも、実質、兄弟同然と言ってもいいだろう。
これで、男の子は全員俺の下へ来たわけだが……女の子の方がやはり恐怖心が勝るのか、なかなか一歩を踏み出せないでいた。
「ほら、いつまでも立っていたら、お肉が食べられないよ。クロノ様は優しい人だから、安心して行ってきなさい」
と、クルスが懸命にネゴシエーションした結果、ようやく一人の女の子が進み出て来てくれた。
「君の名前は」
「フィアラ」
恐れてた割りに、実にそっけなく答えるフィアラ。淡い水色のショートヘアで、瞳は輝くような黄金。
伏し目がちなその目元はどこかミステリアスで、リリアン同様、抜群に整った容姿をしている。将来は魔女とか呼ばれる魔性の美女にでもなりそうな気配だが、
「フィアラ、まだ寝ちゃダメ!」
「ちゃんとご飯を食べてから寝るの」
レキによっかかるようにグデーンとするフィアラは、どうやら食欲より睡眠欲の方が勝っているようだ。瞼が下がり気味の目元は、本当にただ眠かっただけ。
俺のことを怖がっているんじゃなくて、眠いから動きたくないだけのようだが……まぁ、余計に恐れられるよりはマシだと思いたい。しかし、めちゃくちゃマイペースな子だ。
レキに抱っこされて用意しておいた椅子へフィアラが座らされた後、三人目の女子がようやくやって来た。
「君の名前は」
「サリィ、でーす」
物凄い渋々、といった感じでそっぽを向いての自己紹介。
しかし、このサリィ……ちょっと似ている、サリエルに。
真っ白い肌と髪に、血のように真っ赤な瞳。いわゆるアルビノというやつで間違いないのだろう。
しかしながら、あの未来からやって来た殺人マシーンみたいに圧倒的な絶望感と無感情を貫いていたサリエルに対し、すでにして憮然とした表情のサリィは、感情表現は豊かなようだ。
中身の方は全く似ていないが、どうしても、こうアルビノの美少女を見ると、俺のトラウマが刺激されて……いかん、この子、苦手かもしれん。
「サリィ、ちゃんとクロノ様に挨拶するの」
「だってぇ……」
「いや、いいんだ、ウルスラ。これから、仲良くなれればいいだろう」
そう、俺も自分のつまらないトラウマなど吹っ切って、ちゃんとこの子とも接してあげなければいけないだろう。
そう覚悟を決めながら、サリィの分の串をグリルで焼き始めていると、とうとう最後の女の子二人がやって来た。
「ネルルです」
「……ベルル、です」
完全に緊張で身を固くしている二人の幼女には悪いが、俺の視線は二人の頭に固定されてしまった。
その艶やかな髪は、紛れもなく黒。俺と同じ黒髪なのだ。
もっとも、二人とも瞳の色は黒ではなく、共に青色だったので日本人じゃないのは明らかだ。顔立ちも、日本人離れしているし。
「クロノ様、二人はまだちょっと怖がってるけど、許して欲しいの」
「分かってる、気にしないでくれ」
ストレートに小さい女の子に怖がられるのはショックだが、俺とて経験がないわけではない。一度や二度ではないし……とにかく、気にしてないから。
「ネルルとベルルは本当の姉妹デス。いつも一緒デスよ」
「そうなのか」
三兄弟とは違い、二人は本物の姉妹。こそっとウルスラから聞いた話によると、貧しい村から口減らしにまとめ売りさられたらしい。
近代的な街並みのカーラマーラを見たせいでイメージが湧かなかったが、どうやら実りが悪く食い扶持を減らさねば、という状況は辺境ならば普通にありうる世界のようだ。
特に、彼女達が売られてきたオルテンシア王国は、パンドラ大陸でも最北に位置しており、風雪に閉ざされる厳しい冬がある。
「奴隷商人の需要もあるわけだ」
それぞれ理由は違えど、こうして十人もの子供達が奴隷とされている。しかも、こんなのはごく一部に過ぎない。最も奴隷が多いと言われるカーラマーラの実情を、以前に兄弟を助けて俺はすでに知っている。
現実を知らないワケではないが、それでも、現代日本の価値観を持つ俺からすれば、とてもじゃないが気持ちのいい話ではない。
「なぁ、ウルスラ。この子達全員、容姿が整っているのは偶然じゃあないんだよな」
「うん、私達は全員、高級奴隷として売られる予定だった」
胸糞の悪い話である。だがしかし、奴隷商人としては当然の商品管理であり、差別化である。
レキとウルスラは高級品とされるだけの容姿を持ち得たからこそ、彼らと出会えたとも言える。逆にいえば、二人と出会えなかった他の奴隷は、何も運命が変わることもなくそのまま。
それは別に、レキとウルスラには何の責任もない。他の奴隷を、全ての奴隷を助けろと、誰が言えるのか。この異世界では、それなり以上の強さを持っているらしい俺ですら、今この場にいる子供達だけを守るので精一杯だ。
「……奴隷を解放した地球って、凄かったんだな」
曲がりなりにも、奴隷商人という者達が大手を振って活動し、当然のように人身売買が横行する世界ではないだけ、地球というのは先進的だったことだろう。俺はこんな超人的な力を得ても、奴隷解放なんて革命を起こせる気には全くならない。社会を、世界を、変えるということ。その壮大に過ぎる困難さを、俺は多少の現実味を持って実感するのだった。
「すみませーん」
と、ネガティブな思考に囚われていると、声をかけられた。
顔を上げると、そこにはまだ見たことのない子供が立っていた。
「あ、えーっと、君の名前は」
「僕はミア」
黒い髪に、真っ赤な目をした、少女、いや少年か。女の子と見間違う男の子ばかりだからな。
いやしかし、だからといって実は本当にボーイッシュな女の子だったとしたら、非常に申し訳ない。うーん、これは保留で。
「さぁ、クロノ様、どんどん焼いてね!」
満面の笑みで、ミアは両手どころか、両手の指の間に串を挟んで、合計八本も俺へと突き出してきた。コイツめちゃくちゃ図々しいぞ。
「食べ過ぎには注意するんだぞ」
「大丈夫だよ。僕、バーベキュー大会には自信があるんだよね」
などと大言壮語を吐きながら、俺へ串を押し付けて、さっさと子供達の群れへとミアは去って行った。
一切の気負いもなく、平然と俺と会話をしてのけたミアは、随分と度胸の据わった子である。
「……そういえば、子供達の数って十人じゃなかったか?」
確か、ずっと「十人いる」と聞いてきた覚えがある。
「何言ってるのクロノ様、子供達は最初から十一人いるの」
「そうだっけ?」
「分かるデスよ、レキもたまに何人だったか分かんなくなりマース」
あっけらかんと言い放つレキに、何の疑問も抱かないウルスラの表情。
「悪い、俺の勘違いだったみたいだ」
ともかく、俺はこの十一人の子供達を、無事にカーラマーラから連れ出さなければいけない。
自分の使命を再確認しながら、俺はひたすら肉を焼き続けるのだった。
十一人もいるといっても、まだ小さい子達ばかりだから……などと甘く思っていた。すでにして食べ盛り+普段から餓えている、というのもあって、この子達とにかく食べる。
「おかわりー」
「クロノ様、次焼いてー」
焼けた端から、食う、食う、喰らい尽くす。
そして俺は、追加される肉を焼く、焼く、ひたすら焼く。
おい、このグリル小さいぞ、なんでもっとデカいのを買わなかった過去の俺よ。焼ける面積も足りないし、火力も足りない。炭を追加で投入だ。
「クロノ様、まだー?」
「待て、もうちょっとで焼けるから――こら、生焼けのまま持っていくんじゃない!」
忙しい。大家族の父親って、こんな感じなのだろうか。
十一人もの子供達がそれぞれ好き勝手に動き続けているのだ。一人に対処していれば、その隙を突くように別の子が動く。レキ、ウルスラ、クルス、と三人もの援護があってもこの有様……いや、すでにレキは肉の誘惑に負けて、食べるのに徹している。
「ダディクール」
とか言いながら、焼き上がった串をどんどん持っていく。あっ、それは俺が密かに育てていたやつ……
「あーん」
「ありがとう、リリアンは優しいな」
何が楽しいのか、すぐ隣に立ってジっと肉を焼く俺を眺め続けているリリアンが、たまに俺へと串を差し出して食べさせてくれる。
果たして、本当にリリアンが忙しそうな俺のことを案じて肉を食べさせてくれているのか、それとも動物に餌やりするみたいで面白いのか、その心は分からないが、今の俺にとってはこれが唯一の補給線であった。
「クロノ様ーお肉足りないよー」
「ミア、お前はもうちょっと抑えてくれ頼むから」
「えへへ」
笑って誤魔化すな。この中で一番食っているのが実はお前だということは、分かっているんだぞ。
「この皿の分は、小さい子から順に配ってやるんだぞ」
「はーい」
焼き上がった肉を満載した皿を両手にして、ミアが持っていくが、すでにその口には串が咥えられていた。
「うわぁああああああああん!」
「うおっ、どうした!?」
ミアが去った直後、子供の泣き声が上がる。
「ヴィルとカイルが喧嘩してたら、シャモンが巻き込まれて泣き出したの」
「泣いている子が他にもいるんだが?」
「一人が泣き出したら、関係ない子も連鎖的に泣き出す。よくあること」
ウルスラは何でもないように言っているが、早いところ止めてやって欲しい。
「コラーっ! 喧嘩は両成敗デーッス!」
「げえっ、レキ姉ぇ――ぐはぁ!」
「ちょっと待て、我は悪くな――ぐほぉ!」
飛び出して行ったレキが問答無用で当事者の二人を殴りつけ、泣かせていた。
「おい、被害が拡大してるぞ! レキの対処はまずかったんじゃないのか!?」
「よくあることなの」
子供達の大半が泣き叫ぶ光景を前に、俺はこれから上手くやっていけるかどうか大いに不安になるのだった。