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黒の魔王  作者: 菱影代理
第35章:復讐の牙
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第696話 顔の傷

「ちいっ……やっぱり、あの霊獣は始末しておくべきだったわ」

 フィオナの『煉獄結界インフェルノフォール』が消失し、元の砂漠船の甲板に戻ってきたリリィは、開口一番にそう吐き捨てた。

「すみません、リリィさん。あと少し、魔力が保っていれば」

 やや俯いて、後悔を語るフィオナは、すでに元通りのショートヘアへと戻っている。長い髪も、頭に生える二本角もない。魔人化を維持する力は完全に失われていた。

 第十二使徒マリアベルを仕留めようという段階で、すでにフィオナの魔力は限界であった。放った『黄金太陽オールソレイユ』は、発動ギリギリの魔力量の上に、術式は自分でもどうやって完成させたのかイマイチよく分からないほど簡略化させていた。

 そうして限界を超えてぶっ放した『黄金太陽オールソレイユ』は、サリエルを人質にとられて動けずにいたマリアベルを焼き尽くすはずだった。

 人質は、確かにマリアベル本人には有効であった。事実、頭上から落ち行く『黄金太陽オールソレイユ』を前にしても、ついに彼は何かしらの動きを見せなかったのだから。

 しかし、彼を主とする霊獣は違う。

 主人の愛する人だからといって、霊獣もそうであるとは限らない。彼らは、何よりも主たるマリアベルの命を優先して動いたのだ。

 まず、リリィによってボコボコにされていたエンガルドが、最後の力を振り絞って立ち上がり、『黄金太陽オールソレイユ』の前にその身を投げ出した。元より、炎の精霊であるエンガルドは、最高レベルの火耐性を持ちうる。

 もっとも、傷ついたエンガルドでは、炎の精霊すら焼き尽くす火力を秘めた『黄金太陽オールソレイユ』を止めることは到底かなわない。炸裂した膨大な熱量と爆発力とを前に、獅子の巨躯はあえなく消し炭と化すが――かろうじて、我が身を盾に、主を守り切るだけの威力を減衰させることには成功していた。

 エンガルドの犠牲によって、『黄金太陽オールソレイユ』の直撃を免れたマリアベル。とはいえ、ほぼ至近で炸裂した灼熱の爆風だけでも、無防備に立つ彼を殺傷するには十分。

 それを助けたのが、ラムデインである。

 傷ついたボロボロの翼を必死に羽ばたかせ、その足でマリアベルを掴んで、急速離脱。それでも完全に逃れることはできず、半ば爆風に飲み込まれながらも……ついに、ラムデインは空へと逃げ切った。

 そして、『黄金太陽オールソレイユ』を放ったフィオナは魔力が底を付き、魔人化の解除と同時に『煉獄結界インフェルノフォール』も消え去る。

 フィオナは大粒の汗を流しながら、息は荒く、もう立ってすらいられずに、がっくりと膝をついてしまう。魔力の限界は、魔女として戦う限界でもあった。

「アイツはどこに」

「マリアベルは、ピースフルハートへと戻ったようです」

 この中で比較的、余力を残しているのはサリエルだった。一切攻撃をしなかったマリアベルのお蔭で、ダメージは全くない。唯一の負傷は、味方であるリリィによって撃たれた右手のみ。

 風穴の空いた右手は痛々しいが、それを見てもリリィは謝罪の一言も発することはない。酷い? 否、あれが、使徒を退けるための最善策だったと信じているからだ。たとえ、役割が逆だったとしても、リリィは相手を責めることはないだろう。

「まずい、あそこにはまだクロノが――」

 限界を迎えたフィオナ、負傷したサリエル、彼女達よりも優先すべきはクロノの安否である。

 リリィはラムデインが飛び去ったと思しき、頭上に浮かぶ天空母艦を睨みつけ、そのまま輝く羽を広げて飛翔――そこで、眩い光が弾けた。

「ぷあっ!」

 と、自ら飛んだ上空数メートルの高さから、頭から転がり落ちてきたリリィを、サリエルは両手でキャッチ。

 その姿は、短い手足に小さな体の、幼女へと変わり果てている。フィオナと同じく、リリィもまた、自らの力の限界を迎えたのだった。

「あぁーっ! クロノーっ!!」

 己の無力を悟ったリリィは、幼い無垢な心のままに泣き出した。

 幼女リリィには、完全な飛行能力がない。どうあがいても、今すぐ空にある城へと辿り着く手段が、彼女達にはないのだ。

「マスター……」

 神を捨てたサリエルでさえ、祈るような気持ちで空を見上げたその時、一条の雷光が虚空を走る。

「あれは、ラムデイン」

 輝く紫電の尾を引きながら、空中要塞ピースフルハートから遥か地平線の彼方へ向かって一直線に飛んでゆくのは、雷の霊獣ラムデインに違いない。

 逃げている、のではない。アレは、遠ざけているのだ。

 サリエルの超人的な視力は、飛び出したラムデインのクチバシに、クロノが挟まれているのを、確かに捉えていた。

「ああっ、ダメ! クロノが、離れていく……」

 サリエルが抱いた胸の中で、リリィが手足をバタつかせて、今にも砂漠船の外へと飛び出していきそうになる。

 いくらなんでも、このまま流砂の海へ無力な……というには非力ではないが、幼女リリィを無策で飛び込ませるわけにはいかない。

 あっという間に、クロノを捕らえたラムデインは空の彼方へと飛び去ってしまっている。

「幸い、と言うべきでしょうか。霊獣で遠ざけたということは、使徒二人もクロノさんを仕留め切れなかったということです」

 フィオナの言葉を肯定するかのように、頭上に居座っていたピースフルハートが動き出す。

 まるでクロノから逃れるように、ラムデインが飛び去ったのとは真逆の方向へ、天空母艦はゆっくりと舵を切り、進み始めていた。

 それは明確な逃走。クロノを殺せない、トドメを刺せるだけの力すら残っていない、何よりの証であろう。

「では、一刻も早くマスターの捜索に――」


 ドズンッ!!


 と、重苦しい音を立てて、砂漠船の甲板の黒い塊が降って来た。

 見れば、髑髏の面の兜を被った『暴君の鎧マクシミリアン』である。小脇には、長い黒髪を砂漠の風にビュウビュウとなびかせるヒツギが抱え込まれていた。

「無事に戻ったようで、何よりです、メイド長」

 クロノとミサがどういう戦いを演じたのかは不明だが、呪いという意思を持つ彼の武具が、自ら敵地であるピースフルハートから脱して戻って来たのだということは、すぐに分かった。

「ど、ど、どどど、どうしようぅ……御主人様が、攫われちゃったですーっ!!」

「落ち着いてください。今すぐ、私が捜索に出ますので」

「ヒツギも行くですぅ!」

「いえ、リリィ様、ご一緒してください。マスターと通じている左目があれば、居場所を探る手掛かりになるかと」

 サリエルには、まだ自由に動けるだけの力がある。それに、ここの船倉には愛馬であるペガサスのシロがいる。空を飛ぶペガサスを使えば、遥か遠くへ飛び去って行ったクロノを追いかけ、探すための足となる。

 そして、リリィがいればクロノの居場所の割り出しにも役に立つし、近くまで接近すればテレパシーも届くようになる。まだ、諦めるには全てが早い。

「あっ、ダメ……見え、ない……」

 しかし、リリィの口からが絶望的な言葉が漏れる。

「見えない、見えないよ……どうして、何も感じない! クロノ、どこにいるのっ!!」

「リリィさん、まさか」

 要領を得ないリリィの叫びだが、力の本質を理解しているフィオナは、その意味するところをすぐに察した。

 クロノと通じているはずの、左目の感覚が途切れた。

 たとえ、気を失っていても、眠っていても、リリィは左目を通じてその存在を感じ取ることはできる。だが、それがないということは……

「マスターは、必ず生きています。私が探しだし、連れて戻ります」

「……サリエル、頼みます」

 そうして、一縷の希望をかけて、サリエルは泣きじゃくるリリィを抱えてペガサスで砂漠の海へと飛び出して行くのであった。




「んっ……ここ、は……」

 ミサが目を覚ますと、そこには見慣れたベッドの天蓋があった。

 どこか、と問われれば、ここは間違いなく自らの居城である空中要塞ピースフルハート、その自室であると答えられる。

 だが、何故ここで眠っているのかと聞かれれば、答えに窮する。

 どうして、自分は確か、サリエルの仇を討ちに乗り込んで……

「目が覚めたのか、ミサ」

「マリーちゃん」

 勝手な愛称で呼ばれたマリアベルは、いつもの通りに嫌そうな顔をする。だが、その表情にはどこか憂いが、あるいは、憐み、のような色が浮かんでいた。

「なんでアンタがここにいるのよ! まさか、ついに私の色香に負けて――」

「くだらない冗談を言い合っている場合ではないんだよ、ミサ。君は、どこまで覚えている?」

「はぁ? そんなの……」

 言われて、ようやくミサの思考は冷静に回り始める。眠気の靄が吹き飛んだ今ならば、自分が何を目的として、何をしていたのか、すぐに思い出すことができた。

「そうだ、クロノ! アイツは、あの男はどうなったのよ!」

「やっぱり、戦いの最中に我を忘れていたのか。全く、武装聖典に使われるようじゃあ、使徒としては未熟もいいところだというのに」

「うるさい、アンタなんて使われるまでも行ってない癖に」

「使いこなせない力に意味はない。ただ暴走させてるだけのミサとは違うんだ」

 そんなことより、とマリアベルは折れかけた話の腰を戻す。

「あの男は、生きているよ……君も、僕も、仕留めそこなったんだ」

「なっ、なん、でよ……」

 何故、というミサの言葉は、自分に対してか、マリアベルに対してか。いいや、それは使徒が二人も揃っていながら、たった一人の男を殺すことができなかった、ありえない不手際を指しているのだろう。

「認めるんだ、ミサ。僕らは、負けたんだよ」

 そう言い放つマリアベル、彼の顔をあらためて良く見れば、大きな火傷の痕が残っていた。首筋から、頬にかけて、美しい少女のように端正な美貌を汚すように、痛々しい大きな火傷が焼き付けられている。

 彼が身に着けているのは、いつものように気取った貴族風の衣装ではなく、静養中の病人が着るような、ゆったりした白い貫頭衣だ。手足には巻かれた包帯が覗き、恐らく全身に渡って何かしらの傷が残っていることを窺わせた。

 満身創痍と表現しても良い、その傷だらけの姿は、確かに敗者と呼ぶには相応しい。

「なによそれっ! ふざけんじゃないわよ、使徒が負けるなんてありえない……私は、私は負けてなんかないっ!!」

 それはミサらしい、考えナシの感情的な叫び。

 けれど、この期に及んで、恥も外聞もなくそう叫べるミサのことが、少し羨ましくもあり……だからこそ哀れであった。

「君も、鏡で自分の姿を見れば、嫌でも分かるさ」

 ベッドのすぐ脇に腰掛けているマリアベルは、あらかじめ用意していたのだろう、ミサの私物であるド派手な金銀細工が施された大きな手鏡を、彼女へと向けた。

「はぁ!? 鏡が何だって言うのよ!」

 ひったくるように手鏡を奪ったミサは、そこに映し出されるのが、この世で最高の美貌であることを疑わなかった。

 しかし、彼女は思い知る。鏡とは、ただ、目の前の現実を映しだすだけの、残酷なまでに公平な存在であると。

「えっ……な、に、コレ……」

 淡い桃色の豊かな長い髪に、輝くショキングピンクの瞳が浮かぶ円らな目。肌は透き通るように真っ白で、およそシンクレアの少女が憧れるような、美しく、可愛らしく、愛らしい、そんな第十一使徒の美貌は、半分。顔の右半分だけにしか、残っていなかった。

 ミサは鏡を覗き込んで、ようやく気付く。自分の顔、その左半分には、まるで仮面のように広くガーゼが張られ、包帯が巻かれていることに。

 そして、白く清潔な布の奥にある自分の顔が、ジワジワと存在を主張し始めたように、痺れるような痛みを発しているのだと。

「待って、なによこれ、わ、私の顔……どう、なってるの……」

 恐る恐る、顔半分を隠す包帯へ手を伸ばすミサ。

「それは、まだとらない方が君のためだと思うけど」

 可哀想な子供でも見るかのような、諦観の視線をマリアベルから向けられ、ミサの中で何かが弾ける。

 そんなはずない、ありえない、だって、この美貌は、白き神が授けてくれた奇跡なのだから。その思いが、ミサにとっての信仰。だから、彼女は祈った。

 しかし、聖なるものを傷つけるのは、いつだって悪魔の仕業。

 強引に解かれる包帯。剥ぎ取られるガーゼ。そして鏡は、あるがままに、ミサの顔を映しだす――そこには、呪いの傷痕が深々と刻みつけられていた。

「いっ、イィイヤァアアアアアアアアアアアアっ!!」

 絶叫と共に、ミサの脳裏に悪魔から受けた最後の一撃がフラッシュバックする。

 武器をとられ、体をとられ、無防備に陥ったその隙を狙って、頭上から襲い掛かって来た斬撃。

 クロノが放った必殺の一撃。ミサはその身に宿る全ての力をつぎ込んで、命だけは繋ぎ止めた。だが、それが限界だった。

 命は助かった。しかし、命と同じほど大切な美貌を失った。

「はぁ……だから、止めた方がいいと言ったんだ」

 発狂したように叫びを上げるミサ、その体からは白色魔力のオーラが溢れ、今にも部屋ごと吹き飛ばしそうなほど圧力を発し――かけたところで、マリアベルが止めた。

「安らかな眠りを――『深黒睡眠オクルス・シエスタ』」

 叫ぶミサの額に手をあてて、状態異常『睡眠シエスタ』に陥らせる上位魔法を発動。

 彼女は気付かなかったが、『睡眠』に特化した力を持つ精霊を寝ている間に体へ憑かせている。使徒の強靭な状態異常耐性があっても、精霊による仕込みと、同じ使徒自身が行使する上位魔法『深黒睡眠オクルス・シエスタ』の接触発動によって、我を忘れて暴れかけたミサを、瞬時に眠らせることに成功した。

 ミサが、自分の顔に刻まれた傷を見れば、こうなることは火を見るよりも明らかだった。恐らく、クロノとの戦闘中に『比翼連理アークディヴィジョン』の力に飲まれたのも、大方自分の顔か体に負傷をしたことがキッカケだろうと、マリアベルは予想している。

 同じ年頃で、同じ頃に使徒となった、同期のような間柄のミサとは、必然的に一緒にいる時間が長い。ミサという少女が最もこだわっているのが、自分の美貌であることを、マリアベルは嫌と言うほど知っている。

 何よりも大切な顔が傷つけばどうなるかなど、考えるまでもなかった。

「全く、僕は君のお守りをするために、一緒に来たワケじゃないというのに」

 安らかな寝息を立てて、再び柔らかなベッドに身を沈めるミサを見て、マリアベルは悪態を吐く。

 彼女に対する不平不満を上げればキリがないけれど……それでも、あれほど誇っていた彼女の美貌に、残酷なまでに痛々しい傷痕が刻まれているのを見れば、憐みの感情の方が勝る。

「死よりも残酷な仕打ち、とはこういうことを言うのだろう」

 ミサの傷は、治らない。

 使徒は戦闘能力だけでなく、優れた回復能力も合わせ持つ。その部位を丸ごと欠損でもしない限り、どんなに深い傷でも放っておけばその内に治る。治癒魔法を使えばさらに治りは早いし、手足を失っても適切な処置をすれば完全に元通りにするのも容易だ。

 しかし、クロノが刻んだ、この傷だけは治らなかった。

 空中要塞ピースフルハートには、ミサのための人員が乗っている。その多くは城の維持管理とミサの世話であるが、いざという時に備えて優秀な治癒術士も複数人揃えている。教会で選りすぐった人員を、第十一使徒のために仕えさせている、といえば聞こえがいいものの、ミサというワガママ少女を知るマリアベルからすれば、これほど無駄な人員の使い方もないだろうと思う。

 それでも、今回ついにミサが負傷という非常事態になったことで、治癒術士達の出番となったのだが……

「呪い、というものが、これほど厄介なものだとは」

 ミサに刻まれた傷は、どうやら非常に強力な呪いの武器によるものらしい。

 呪いの武器につけられた傷は、治りが遅い、などと噂程度に聞いたことはあったのだが、実物を目にするのはマリアベルも初めてのことである。

 無銘ネームレス程度なら問題はなかったが、クロノの剣に宿る呪いは相当に強いようだ。治癒術士の見立てでは、この傷痕の完治は不可能だと診断されている。少なくとも、ミサ自身の回復力と、ここにいる治癒術士全員が力を合わせても、どうにか出血を抑える程度に傷痕を塞ぐまでしか治せなかった。

 赤い肉が覗く、大きく裂けた傷は治らない。元通りの白い肌にはならないのだ。

 その残酷な呪いの傷痕は、ミサの左目から頬を縦一文字に走り、そこからさらに、左肩から胸を通って、脇腹まで伸びている。

 直撃していれば、ミサの体は頭から左右に両断されていただろう。

 だが、命だけは助かったとはいえ、顔だけでなく、その体にまで永遠の傷痕があるのだと知れば、ミサは果たして、どこまで正気を保っていられるか。

「しばらく君のお守りに加えて、僕自身も負傷し、挙句の果てに3体もの霊獣を失った……」

 自分の傷も深手といってもいいが、呪いの武器によるものではないので、時間をかければ完治するからまだいい。

 だが、エンガルド、ラムデイン、セイラム、いずれも自分の中でエース級の力を持つ霊獣を失ったのは非常に手痛い。いくら時間をかければ再び召喚できるとはいえ……このパンドラ大陸という敵地において、長期間、戦力が減少するのは最悪だ。

 もしも今、あの妖精と魔女に匹敵する者に襲撃されれば。あるいは、この空飛ぶ城であるピースフルハートに、野生のドラゴンが群れで襲来すれば。

「だから言ったんだ、ミサ。大人しく、機を待つべきだったと……」

 それを言ったところで、今更どうしようもないことは分かっている。最終的に、カーラマーラまで乗り込むミサに同行することを決めたのも、自分である。悪い結果になったからといって、それを誰かのせいにだけするのは、醜い行いであるとマリアベルは自分を戒める。

「そうだ、本当は僕だって、力を過信していた。使徒が負けるはずがないと」

 ミサが一人で乗り込んでいれば、確実に死んでいた。

 クロノ一人を相手にして、このザマだ。これにあの妖精と魔女が加わり、さらにサリエルまで敵に回っていれば、ミサの力では成す術もなく殺されていたに違いない。

 あるいは自分一人でも、彼ら全員を相手にして勝つのは無理だと思った。

 二人いたから、命を拾えた。

 そして、敵は使徒二人を退けるほどの実力があるのだと、はっきりと実感できた。

「認めよう、今回は僕らの負けだ」

 だがしかし、この命がある限り、神より授かった力の限り、使徒は決して悪魔に屈しない。

「次は必ず勝つ。サリエル卿も、絶対に救い出す……僕が、使徒である、この僕がやるんだ」

 目的は決まった。今は、一時の恥を忍んで、敗北者らしく無様に逃げ帰ろう。

 マリアベルは、城の主たるミサに変わって、空中要塞ピースフルハートの進路をアヴァロンに向けよと命令を下した。

 2019年1月18日


 新春お年玉企画・・・というワケではありませんが、次回は何と2話同時更新します! 第35章の最終回と、次の第36章の一話目、是非続けて読んで欲しいと思います。連続投稿2話目から読まないようにだけご注意を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっと主人公がヴァルカン達を虐殺した殺戮者に、ザマァを決めたことです。
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