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黒の魔王  作者: 菱影代理
第35章:復讐の牙
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第690話 変わり果てた姿

 辺り一面の焼野原。その中心、黒々と焦げた残骸の山の頂上で、二人の少女が向かい合っていた。

 一人は、長い桃色の髪の少女。

 一糸まとわぬ白い裸体を晒しているが、その身には火傷どころか、すす汚れ一つありはしない。

 彼女の体から迸る、莫大な白色魔力の発露たる白銀のオーラが、傷も汚れも許しはしない。

 オーラを全身に纏う少女の姿は神々しく光り輝いているが、その目は憎悪の炎で燃え盛っている。恨むべき相手は勿論、その周囲さえも巻き込み、さらには差し伸べられる救いの手にすら噛み付くような、そんな、激しい憎しみを込めた視線を向けて、彼女は目の前に立つもう一人の少女へと問うた。

「……誰よ、アンタ」

「第七使徒サリエル」

 翻る長い銀髪と、純白の法衣に身を包むサリエルは、少女と同じく白銀のオーラを放っている。だが、轟々と燃え盛る炎のような勢いの少女のオーラとは対照的に、薄ぼんやりとかすかに光る、静かな輝きとしてその身に纏う。

「第十一使徒の覚醒を確認。おめでとうございます、貴女は白き神の加護を授かった」

「はぁ、そんなの分かってるわよ」

「速やかに、エリシオン大聖堂で祝福の儀を。教皇聖下が待っている」

「なに、指図しようっての……神に選ばれた、この私にぃっ!」

 爆ぜる。サリエルの足元が眩い光の輝きと共に大爆発を巻き起こした。

 詠唱もなく、術式すら組まれていない、ただ高密度の白色魔力を叩きつけるだけの力技。収束されていない魔力は即座に霧散するが、消失するよりも物理的な破壊現象を引き起こす方が早い。

 それほどまでの圧倒的な密度の魔力を、少女は己の激情と共に放っていた。

 黒焦げの材木とレンガと無数の残骸が、まとめて吹き飛ばされる。その渦中に人がいれば、粉微塵と化して散るだろう。

「覚醒のショックによる、錯乱状態と推測」

 しかし、サリエルは爆発になど気づかぬような素知らぬ顔で佇んでいる。立ち位置は少女の背後。

 爆発の寸前に、そこへの移動はすでに完了していた。

「貴女には少しの間、眠っていてもらう必要がある」

「ふっざけんじゃないわよっ! もう、誰の言うことも聞かない、私は自由、自由なの!」

 再び、光の爆発が巻き起こる。

 連続的、かつ広範囲に渡って巻き起こされる破壊の力はしかし、同じ使徒であるサリエルにとっては、止まっているような攻撃も同然。いや、そもそもこれは攻撃ですらない、ただの八つ当たり、泣きわめく子供が手足を振り回して暴れるような、癇癪に過ぎない。

「こんな世界は間違っている、私の思い通りに、だって、私の意思が神の意思になるんだから、そうじゃなければ、どうしてっ!!」

 支離滅裂な言葉を叫びながら、少女は眼前をひたすら白き光で塗りつぶす。目に見える全てを壊すように。この目に映る全てを拒絶するように。

「貴女がどのような人物であるか、どのような過去があるのか、その全てに、意味はない」

「うるさい、うるさい、うるさぁいっ!! 私はミサ、誰よりも美しく、気高い、神に愛された、この私がぁっ――っ!?」

 サリエルはすでに、少女の背中へとピタリと張り付き、その白い細腕を首へ回している。

「これより貴女は、ただ第十一使徒としての使命を果たすためにある。白き神の意思を叶える、聖なる使命を」

「ふっ、ぐ、がぁっ!?」

 サリエルの超人的なパワーによる締め付けは、迸る白銀のオーラの守りすら押し潰し、少女の首を絞める。息は詰まり、声も出ず、加護の他には見た目通りのか弱い少女でしかない彼女は、数秒とせず意識を失うであろう。

「神のご加護がありますように」

 サリエルの聖句を聞き届けるまでもなく、少女は気絶した。

 決して穏やかではない、けれど、少女にとって……ミサにとって、それが紛れもなく、サリエルとの最初の出会いであった。




 砂嵐を抜けると同時に現れた、天空母艦こと空中要塞『ピースフルハート』によって、甲板上は騒然となっていた。

「な、な、なんだアレはっ!? 空を飛んでいるのか、城がっ、あ、ありえねぇ!」

「ウソだろオイ、この船よりもデカいんじゃあねぇのかよ」

「夢でも見てんのかな俺……」

「おい、何か聞こえるぞ! 女の声だ!」

 つい先ほどまで、勇猛果敢にサンドバットの群れと戦いを繰り広げていた屈強な武装船員達も、想像すらできない空飛ぶ城を前に、慌てふためいている。俺だって、こんな古代の巨大兵器が実際に空を飛んでいるところを見るのは初めてで、少なからぬ驚きの感情はある。

 けれど、そんなささやかな驚愕も、周囲の喧騒も、何もかも、俺の胸の奥から湧き上がる激情の前には無に等しい。

「リリィ、フィオナ、サリエル……頼む、俺に力を貸してくれ。フォーメーション『逆十字アンチクロス』を仕掛ける」

 俺達が使徒に対抗するための最善手。

 まだ第七使徒だった頃のサリエルも追い詰めた『逆十字アンチクロス』だ。今ならば、当時よりもさらに俺達の実力は上がっている。今度こそ、使徒を殺し切ってみせる。

「まさか、こんなところで使徒が出て来るなんて。でも、見つけたからには、始末しないといけないわよね」

「こんな場所では、逃げ場もないですし。どの道、戦いは避けられないでしょう」

 俺とは違い、気負った様子もなく、リリィもフィオナも対決の意思を示す。

「マスター、撤退を進言します」

 しかし、サリエルだけは毅然と反対意見を述べた。

 彼女は、俺達の力を侮っているわけでもなければ、まして、元は仲間である使徒と戦うのを忌避するはずもない。

 ならば、それはどこまでも冷静に弾きだされた、戦力差ではないのか。

「俺達ではミサに勝てないと言うのか?」

「相手は第十一使徒ミサだけではなく、もう一人、使徒がいます」

 使徒が二人いる。

 その事について俺が何かを考えるよりも先に、答えが目の前に降って来た。

「――ふん、どこかで見た顔ね、アンタ」

 遥か頭上にある空中要塞より、白く輝く人影が甲板に降り立つ。ドンッ! と音をたてて生身で着地を決めるのは、使徒の証たる白銀のオーラを纏ったミサである。

「なるほど、如何にも悪魔そのものといった顔だ」

 そしてミサの隣に降り立ったのは、見覚えのない金髪の少女……いや、コイツ男か。シモンよりは男だと判別の付きやすい、美少年といった面である。

 見知らぬ野郎ではあるが、その身を包む十字教の法衣に、迸る白銀のオーラはコイツも使徒であることを何よりも雄弁に物語っていた。

 初めて見るが、事前にサリエルから聞かされていた情報からして、コイツが第十二使徒マリアベルという奴だろう。

 まずい。フォーメーション『逆十字アンチクロス』は使徒一人に対するのを想定している。

 いや、二人同時でもいけるか……だが、いくら妖精合体エクセリオンでも、使徒二人を真正面から相手にしてどこまで戦えるだろうか。

 勝てるかどうかじゃない。怨敵が目の前にいて、オマケにもう一人、どうせいつかは倒さなければならない使徒がいるのだ。ここで殺さないワケにはいかないだろうが。

 そう思う一方で、サリエルの進言に従って、どうにか撤退すべきではという考えも湧く。怒りに任せて戦った結果、返り討ちではシャレにならない。

 本来ならば、使徒を一人ずつ、確実に始末していくのが大前提だろう。複数人の使徒を相手にしても勝てると言うほど、俺達は自分の力を過信してはいない。

 戦うにしろ、逃げるにしろ、どうすべきか。

 サリエルからは、彼女が知る限りの使徒の情報、つまり戦闘能力については教えてもらっている。第十一使徒ミサと第十二使徒マリアベル。この二人の能力は――

「マスター、私が二人と会話して時間を稼ぎます。その間に準備を」

 リリィを介したテレパシーでサリエルから伝言が伝わる。俺が対応を考えあぐねているのを見越してか。ひとまず、了承の意を返すと、サリエルは俺を庇うかのように前へと出た。

「お久しぶりです。ミサ、マリアベル」

「サリエルっ!?」

「そんな、サリエル卿……生きていたのですか!」

 サリエルの無感動な挨拶に、二人は死人が出歩いているのを見たとでも言うような驚愕の表情を浮かべていた。第七使徒は戦死、と向こうには伝わっているのだろう。

 まぁ、捕まって敵の奴隷になって、甲斐甲斐しくメイドとして働いていますなんて、かつての使徒の変わり果てた姿など分かっていたとしても、公に宣伝できるはずがない。

「私は、ガラハド戦争で死んだことになっているのですね」

「ふ、ふふん、まぁ、私はアンタが死んだとは思っていなかったけどね!」

「では、神を裏切った私を、抹殺しに来たということですか」

「ばっ、バカ! 違うわよ、そんなワケないでしょ、相変わらず空気の読めない奴!」

「良かった、サリエル卿、貴女が生きていてくれて、本当に良かった!」

 どうやら、思ったよりも仲間からは慕われていたようだ。

 ミサは憎まれ口のようなことを言っているものの、その表情は喜色に溢れているし、マリアベルの方は素直に再会を喜んでいる。

 この二人は、サリエルよりも後に使徒になった、いわば後輩。二人が使徒に目覚めた時にも立ち会ったし、幾つかの戦いも共にしているから、付き合いは長い方だと聞いている。

 だが、傍から見ていると、彼らの話しぶりは単なる高校生のようである。事実、二人は見た目通りの年齢だという。使徒の中には、優に百年以上を生きる者もいるから、容姿はアテにならないらしいが、ミサとマリアベルに関しては本物の少年少女だ。

「一つ、聞かせてください」

「アンタが質問なんて、珍しいわね。今は気分がいいから、何でも答えてあげるわ」

「次の第七使徒は、目覚めたのですか」

「ハァ? なによアンタ、聞いてないの?」

 いや、サリエルはガラハド戦争後、一度も十字軍に戻ってないのだから、聞くもなにもないだろ。

 だが、サリエルは地味に気になっていたことをよくぞ聞いてくれた。サリエルがいなくなっても、第二、第三の第七使徒が……などというパターンは想定してはいたが、あまりにも次の使徒の誕生が早いと、なかなか厳しいものがある。

 使徒はその番号の者がいなくなれば、その都度、次が補充されるワケではなく、正しく神の気まぐれによって目覚める。使徒が十二人全員揃わない時代というのも、そう珍しくはないそうだし。

 だが、次の者が即座に現れないとも限らない。可能性は低いが、それでも大きな不安要素ではあった。

「第七使徒は永久に欠番とする、と神託が下りました」

「私はあんまりよく聞こえなかったけど、勇者様もミカエル先生もそう言ってたから、間違いないわよ」

 つまり、第七使徒は未来永劫、現れないということか。

 もしかして、使徒を全員寝取ったら、永久に全滅できるのでは……

「そうですか。それが、私に対して神が下した罰なのですね」

「どうでもいいわよ、そんなこと。アンタが使徒じゃなくなったってだけのことでしょ」

「そうですよ、サリエル卿がたとえ使徒の資格を失ったとしても、関係ない。僕にとって貴女は――えっと、その、友達ですから!」

 使徒ではなくなったからといって、急に見下すとかそういうのはないらしい。

 ミサもマリアベルも、なかなか友達甲斐のあることを言っているようだが、うーん、少なくとも裏があるようにも見えない。本当にサリエルのことを思ってはいるようだ。

「それじゃあ、さっさと帰るわよ。サリエルが生きてたなら、もうこんなド辺境の魔窟になんて一秒でもいたくないわ」

「サリエル卿、さぁ、一緒にエリシオンへ帰りましょう」

 ここだけ見れば、死んだと思った友人を敵地で発見し救出。故郷に帰ってめでたしめだたし、といったシーンだが、そんなエンディングはありえない。

「それはできない」

「はっ? なんでよ?」

「私は神を裏切り、第七使徒の位を剥奪された。もう二度と、十字軍に戻ることはない」

「なによっ、そんなのどうでもいいじゃない! 私はいいって言ってんだから、いいのよ。誰にもケチなんかつけさせないわ」

「そうですよ、サリエル卿は何も心配しないで、後のことは全て僕達に任せてください。もう、貴女が十字軍で戦う必要なんてない……これからは、僕が守りますから!」

 神様の決定よりも、友達を優先する。何とも泣かせる、厚い友情である。マリアベル君の方は、もう半ば告白染みたことを叫んでいるが……もしかしなくても、サリエルのことが好きなのか。

「もし、私のことを案じているのでしたら、その心配は必要ありません。私は十字軍にもシンクレアにも、帰る意思はない」

「な、なに言ってんのよ、バカじゃないの、そんなのいいわけないでしょ!」

「そうですよ、何故ですか、サリエル卿!」

「私が、黒乃真央の奴隷だから」

 爆弾発言、であろう。ミサとマリアベルにとって。そして多分、俺にとっても。

「……は?」

「ど、どういう、意味ですか」

「私の身も心も、全て彼に捧げた。私は彼の所有物であり、自由意志などありません」

 ちょっと待て、サリエル。その言い方には語弊が――

「私が第七使徒の位を失ったのは、ただ戦いに敗北したからではない」

「サリエル、アンタまさか……」

「私は純潔を失った」

「う、ウソだ……嘘だそんなことぉおおおおっ!!」

「使徒ではなくなったことが、その証明。黒乃真央は私を神から奪ってくれた。だから――」

 それはきっと、サリエルにとっては、自分の身を案じてくれた友人に対する、精一杯の慰めの言葉だったのだろう。

「――私は今、幸せです」

 火にTNT火薬をキロトン単位で放り込む発言。

 弾けたのは爆発ではなく、殺意であった。

「ああ、そう……そういうこと、だったのね……」

 ここで初めて、ミサはサリエルのすぐ後ろに立つ俺の方を見た。

 可愛らしい顔立ちは、憤怒と憎悪で割と酷い形相となっている。ギラギラ輝くピンク色の瞳が印象的で……なるほどね、特に何もしない状態でも、軽い『魅了チャーム』を宿しているってことか。

「そんな、どうして……こんなこと、あっていいはずがない」

 一方のマリアベルは、ショックを受け止めきれない絶望的な表情である。好きな女の子が経験済みだと知れば、男としては仕方のないリアクションではあろう。

 もしかして、ここでサリエルの初めてを奪った時のことを詳細に語ったら、彼の心を完全に撃ち砕いて再起不能まで持っているのではないだろうか……いや、怒りのあまりに変に覚醒して強くなられても困る。相手は使徒だ、どんな超絶パワーアップをしでかしてもおかしくない。

 それに、俺にとっても、サリエルにとっても、名誉のためにあの夜のことは言いふらしたくはないし。

「私は二人と戦う気はない。このまま、退いてはもらえませんか」

 いやサリエル、その台詞は奴隷暴露する前に言うべきだったと思うぞ。

 見ろよ、ミサもマリアベルも、もう不退転の決意を固めて、麗しき第七使徒の純潔を奪った悪魔を睨みつけていやがる。

 これは、どうあがいても戦闘は避けられそうもない。

「退けるワケ、ないでしょうが。アンタが生きてるなら、他のことはどうでも良かったけど……決めた、アイツは必ず私が殺すわ」

 そうかよ、俺はもっと前から、お前は俺が殺すと決めていたんだけどな。

 だが、いいだろう。ちょうどこっちも、どうするかプランを決めたところだ。

「行くぞ、フォーメーション『逆十字アンチクロス』!」

 叫ぶと同時に、一気に駆け出す。わざわざ相手に先手を譲ってやる道理もない。

 作戦はテレパシーですでに通達済み。相手が目の前にいる以上、声でやり取りするのは得策ではない。使徒二人は随分と感情的になっているから、俺達の会話になど聞き耳をたててはいないと思うが、念のためだ。

 俺は『絶怨鉈「首断」』を抜き放ち、ミサを狙う。

 同時に、サリエルはマリアベルの方へと向かう。

 作戦はこうだ。『逆十字アンチクロス』はミサに仕掛ける。俺とリリィとフィオナの、ガラハド戦争と同じメンバーだ。

 その間、サリエルは一人でマリアベルを抑える。

 一人で使徒の相手は戦力的には無理なのだが、アイツはサリエルに惚れている。念のためにリリィにも意見を求めたが、間違いはないとのこと。

 要するに、アイツはサリエルを殺せない。惚れた女を手にかけるなんて、できるワケがない。俺なんて、付き合ってもいない白崎さんでも、サリエルを殺せなかったからな。

 俺達がミサを仕留め切るまで、サリエルはマリアベルを戦いでもお喋りでも何でもいいから、時間を稼いで足止めしてもらう。

 というワケで、まずはフィオナの『煉獄結界インフェルノフォール』にミサを捕らえなければいけない。サリエルと戦った時も、まずはここから始めたものだ。

 条件としては、おおよそ半径百メートル以内に相手を留まらせておくこと。

 大体の奴は『煉獄結界インフェルノフォール』の発動を察知してから、結界の範囲外に逃れることは無理だが、使徒の能力ならばやってできないことはない。確実に足を止めておく必要がある。

 そして、その役目は基本的に俺のものだ。フィオナは立派な大魔法の部類に入る、次元魔法ワールドディメンションたる『煉獄結界インフェルノフォール』の発動に集中するから、援護までは望めない。リリィもまた『妖精合体エクセリオン』のスタンバイのために、あまり戦闘には集中できそうもないのだ。

 だから、俺がこれみよがしに鉈を振るって斬りかかる。ミサ、お前も俺を斬りたいのだろう。なら、正々堂々、相手にしてやる。さぁ、かかってこいよ。

「アンタは八つ裂きにしてもまだ足りないっ! 楽に死ねるとっ、思うなぁっ!!」

 怒りの叫びを上げながら、ミサの手元で白い光が瞬く。光属性の攻撃魔法ではなく、飛び出て来たのは巨大な翼、いや、刃だ。

 それは、翼を象った装飾のついた、派手な大鎌である。刃の根元、柄の先端はデカい黄金の十字になっており、翼の刃がなければそのまま十字教司祭の長杖スタッフみたいな、煌びやかなデザインだ。

 死神の鎌とは真逆の印象を抱く神々しいミサの大鎌は、あまり戦闘向きではないように思えるが、あれが彼女にとっての最大の武器であることに違いはない。

 第十一使徒の武装聖典『比翼連理アークディヴィジョン』。

 この使徒専用武器の存在についても、サリエルから聞いている。彼女も全ての使徒の武装聖典は知らないが、後輩であるミサに関しては十分な情報を持っていた。

 ミサが瞬時に抜いた『比翼連理アークディヴィジョン』は、まだそこに秘めた能力は解放していない。だが、特に何もしていない状態でも、超密度の白色魔力が渦巻く。

 その刃は軽い一振りで剣も鎧兜もまとめて切り裂く威力を誇るが、俺の『絶怨鉈「首断」』なら真っ向から斬り合える。

「黒凪っ!」

「らっぁああああっ!」

 呪いの大鉈と、聖なる大鎌がぶつかり合う。

 技もなにもない、力任せにか細い片腕一本でミサは『比翼連理アークディヴィジョン』を繰り出し、対する俺は真面目に武技を放ったというのに――チイっ、この重さ、やはり使徒ってのは化け物染みていやがる!

 基礎ステータスが違いすぎる。パワー、スピード、魔力量、何もかも使徒の方が上。当然だ、その人間に許されざる力を、白き神は神様ルール無用で授けているのだから。

 だが、それでも……今の俺は、その単純なパワー勝負だけで吹っ飛ばされてやるほどヤワじゃない。

 この一合は、ただ受け止められれば、それだけでいい。

「フィオナっ!」

「――堕ちろ、原初の残り火へ『煉獄結界インフェルノ・フォール』」

 二撃目を繰り出すよりも先に、フィオナは使徒を閉じ込める煉獄の世界を展開させる。

 目の前で大爆発が起こったような、凄まじい紅蓮の炎が広がり――

「ふん、バカね、捕らえたのは私の方よ――『飛べ(エンター)』!」

 炎の景色は、白い光によって上書きされる。何だ、と思う間もなく、気が付けば光は収まり、視界が戻ってくる。

 煉獄の赤い空も、噴火する火山も溶岩の大河が流れる荒野もない。『煉獄結界インフェルノ・フォール』の中ではなかった。

「なんだ、ここは……どこに飛ばされた」

「ようこそ、と一応は言っておいてあげる」

 見れば、ミサがそこに立っている。

 清々しいほどの青空と、白亜の城を背景に、彼女はまだまだ怒りが収まらないといった不機嫌な表情でふんぞり返っていた。

「天空母艦の上か……ちっ、転移の効果範囲だったのか」

 どうやら俺は、転移魔法で頭上に陣取っていたミサの天空母艦にまで飛ばされてしまったようだ。

 リリィもシャングリラ近辺ならば、鏡の転移魔法で自在に移動ができていた。恐らく、ミサも天空母艦に備わっている転移機能を利用して、俺ごとここまで飛ばした。正確に言えば、分断したのだ。

「ここはピースフルハート、私の城で、私の庭。そして、アンタの処刑場よ」

 天空戦艦シャングリラと同等の機能を有しているというなら、当然、防御結界もある。展開されれば、外に出ることは不可能だ。破れないこともないだろうが、そのために隙だらけの背中を使徒の前に晒すことになる。現実的な考えではないな。

「サリエルと他の雑魚はマリーに任せておいたから、私はここでじっくりアンタを処せるってワケ」

 巨大な鎌を軽々と振るって、俺の方へと向けて決めポーズ。

 奴にとっては、ここに俺一人を閉じ込めた段階で、万に一つも逃げられる可能性を潰し、確実に殺す舞台を整えたといったところか。

 消耗してもいない、ほぼ万全と見られる使徒を相手に、たった一人で戦えと。なかなかに、絶望的なシチュエーションだな。

「サシで勝負か……上等だよ」

 いいぜ、やってるやるよ、第十一使徒ミサ。仇は必ず、とらせてもらう……なぁ、そうだろう、ヴァルカン。

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― 新着の感想 ―
[良い点] サリエルが思っていた以上に後輩達に慕われていたことです。
[一言] うわぁ……これは相手方からしたらキッツいNTRだ…
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