第689話 嵐の先
凍土の月23日。快晴。
ロックウェルの港から、他を圧倒する巨大貨物船『大アトラス三世号』が出航する。蒸気船ではないので、大きな汽笛を上げることはないが、変わりのようにジャーン! ジャーン! と名のある武将でも登場しそうな勇壮なドラの音を鳴り響かせていた。
何故、ドラを鳴らすのか。良く分からないが、大きい船には必ず搭載されていて、出入港の際にはコレを鳴らすのが習わしなのだとか。汽笛の代わりなのか。
ともかく、莫大な量の貨物と俺達を乗せて、無事に船は砂漠の海を進みだした。
「砂の上を走ってんのは凄いけど、なんか途中で止まりそうな気がして不安になるな」
巨大な船体が風を切って砂漠を進むのはなかなかに感動的ではあるが、どうしても地面の上にいるのだと思うと、そんな不安感が湧いてくる。
「流砂が止まらない限り、それはありえないのでは?」
「まぁ、そうなんだけど」
「ここの流砂が止まるのは、海の波が止まるのと同じくらい、ありえないことだそうですよ」
このアトラス大砂漠で暮らしてきた者からすれば、船を動かすほどの砂の流れは自然の一部。ミアちゃんが現役だった遥か古代から、一度も止まることなく流砂は流れ続けているはずだ。
「それだけ、信じがたい光景ってことだよ」
「はぁ、これだけの砂の流れがあれば、浮かびさえすればどうとでもなると思いますけど」
ロマンの欠片もないことを言うフィオナであった。
「向こうに着くまでは一週間か」
「カーラマーラに着く頃には、月が変わっているでしょうね」
流砂の速さ次第だが、ロックェル・カーラマーラ間は一週間ほどかかる道行だ。これで豪華客船だったら、のんびりクルージング気分なのだが、あくまでこの船は貨物船。一週間も船に乗っていれば、退屈することもあるだろう。
そういう時は、じっくり腰を据えて黒魔法の開発でも……というのは、あくまで暇を持て余してからの話だ。
「よし、それじゃあ早速、探検でもするか!」
「わーい、探検するー!」
乗り込んだばかりの巨大貨物船。まずは、心行くまで隅々まで探索してみたいのが、男心ってもんだろう。
そして何より、俺達は本物の冒険者だ。冒険者ってのは、冒険するのがお仕事である。遊びでやってんじゃないんだよ!
「私は部屋に戻っています。砂ばかりの景色を眺めていても、仕方がないですし」
「マスター、私は念のため、船内で情報収集をしてきます」
「分かった。じゃあ、昼飯の時にみんな集まろう」
「クロノー、早く行こっ!」
「あっ、待てよ、リリィー!」
キャッキャとはしゃぎながら、勢いよく甲板を走り出すリリィを追いかける俺は、完全に心は少年だった。
そして、探索の途中でカーラマーラに売られる奴隷が集められた区画を発見し、気分がブルーになってしまうのは、また別のお話である。
そんな風に半分以上、観光客気分での船旅が続く。
この船は貨物船でもあるが、俺達と同じような乗客もかなりの人数がいた。三層構造となっている巨大な船倉区画は貨物用の倉庫であり、甲板上に乗員乗客含めた大人数を収容できる船室を備えている。
客船ではないので、船室は冒険者ギルドの宿部屋のように質素なものではあるが、巨大な船体のお蔭かそこまで狭苦しくはない。俺がこの世界で船に乗った経験といえば、パンドラ大陸に渡ってくる時と、リリィと共にパルティアへマンティコア討伐に行った帰りにセレーネへ渡った時の二度。
前者は倉庫の片隅の林檎箱に隠れていたので参考にはならないが、港湾都市ウーシアからセレーネへ渡った時の船室は、これの半分くらいだったからな。通常と比べて、倍近い広さを誇る船室なのだと思う。
もっとも、メンバー全員で一部屋なので、人数のせいで結局は手狭に感じるのだが。
俺は広い部屋がいいとか、一人部屋じゃないと落ち着かないとか、今更そんなワガママを言うほどお坊ちゃんではないので全然平気だけど。ただし、女性陣がこれみよがしに着替えをする時は除く。
いやぁ、どうしてこう、女の子が着替えをしているシーンってのは、ドキドキすると同時に妙な罪悪感を覚えるんだろう。堂々と見ても大丈夫な立場なのだけれど、いっつもそれとなく目逸らししつつ、チラ見の繰り返しだよ。
ともかく、気になることといえばこれくらいで、後は特に問題は起きなかった。
食事も悪くないし、いざとなればサリエルが何とかしてくれる。乗員も乗客も沢山いるが、この船に乗っているのはそれなりにマシな客層なのか、揉め事もなかったようだ。俺達の他にも冒険者の乗客はちらほらいるみたいだが、ランク3以上のベテランばかりのようで、流石にそれくらいの実力者になってくると旅をする際の分別もついてくるといったところ。
大体、ならず者とかチンピラ同然のガラの悪い冒険者ってのは、地元でくすぶっているような奴らだ。ランクを上げて旅をするスタイルの時点で、相応の実力を持っていることにもなる。そして、それだけの経験がある者ならば、わざわざ自ら厄介事やら面倒事は起こさないわけで。
そうして、何事もなく無事にカーラマーラへと到着する――と思われた、凍土の月30日。ちょうど夜明け前の時刻である。
ゴゴゴゴ! という音と震動が徐々に強まっていくのを感じ、俺達は起床時刻の前に目を覚ました。
「なんだ、この音は。それに、ちょっと揺れるな」
「マスター、どうやら砂嵐に入ったようです」
先に起きていたのか、すでに身支度を整え終わっていたサリエルが教えてくれた。
「大丈夫なのか?」
「多少の砂嵐は、大嵐の季節とは関係なく、一年中起こるもの。船の航行に支障はありません」
「それならいいけど、寝なおすにはちょっとうるさいな」
仕方ないからもう起きるか、と俺は寝床を抜け着替え、リリィはフィオナに寝癖を直してもらい、それぞれ支度を始めた頃、
ジャーン! ジャーン!
と、出航の際に聞いた以来の、ドラの音が響きわたる。
「今度は何だ」
関羽でも出てきたのか、と思うほど力いっぱいに叩かれる大ドラ。船のどこにいても聞こえるほどの大音量だ。
ということは、何らかの状況を知らせる合図ということのはずだが、
「どうやら、危険なモンスターと遭遇したようです」
「そうか、俺達の出番はあるかな」
「大抵の場合は船のクルーのみで対処可能。ですが、万が一に備えて、戦闘態勢は整えておくべきかと」
「ああ、そうしよう」
こういう時、大体ヤバいモンスターが出てくるからな……経験則から、俺達は大人しく装備を整え、甲板まで上がり様子を見ることにした。
「結界機の準備急げ! おい、三番機遅いぞ、なにやってんの!!」
「スンマセン! もう少しで――完了です!」
「一般船員は早く下がれ! さっさとしねぇと、空から攫われるぞ!」
「隊長、武装船員隊は全員、配置につきました」
「よし、迎え撃つぞ。付いて来い!」
甲板はすでに、慌ただしく武器を装備した船員たちが駆けまわっていた。それと、俺達の他にも警戒した冒険者達の姿もちらほら見かける。
まだ戦闘こそ始まっていないが、視界を隠す砂嵐の向こう側に、無数のモンスターの気配をはっきりと感じ取れる。
どうやら、かなりの数の群れで、しかも相手は空を飛ぶ奴らしい。
「まさか、タコが降っては来ないよな」
思わずそんな独り言をつぶやくと、
キョワアアアアアア!
と甲高い奇怪な鳴き声を上げながら、砂嵐に紛れるような茶色い鳥が現れた。
良かった、相手はグラトニーオクトじゃなくて、普通の飛行型モンスで。
「ランク1モンスター『サンドバット』。大砂漠ではありふれたモンスターです」
羽毛とクチバシのある鳥ではなく、翼膜と牙をもつコウモリ型のモンスターだ。血を吸うだけで満足はしない、普通の肉食性であり、砂漠のど真ん中を行く船に乗る人々は、奴らにとっては格好の獲物である。
臭いと超音波による探知に引っかかれば、餓えたサンドバット共は喜んで飛んでくる。それこそ、こんな砂嵐が吹き荒れる中でもだ。
「チイッ! もう乗り込んできやがったか、オラァ!!」
モンスターとの戦闘も担当する武装船員が、俺達の前に降り立ったサンドバットを、手にしたカトラスで一閃。砂色の固い表皮を持つサンドバットだが、カトラスの刃はちょうど継ぎ目のあたりを切り裂き、一撃で仕留めていた。相手に慣れた動きである。
日に焼けた褐色肌の船員は、俺達を一瞥すると、すぐに冒険者だと悟り、注意も文句も何も言わずに去って行った。
「なんか、このまま任せておいて大丈夫そうだな」
「いえ、そうとも言い切れません」
サリエルが反論した、ちょうどそのタイミングで、船員が一際大きく叫びを上げた。
「風塵結界、起動!」
甲板の床を走る、結構な量の魔力を感じた。船に搭載されている結界を発動させる装置が作動し始めたようだ。
その結界の効果は、吹き荒ぶ風と砂とを防ぐというモノ。
発動した『風塵結界』は、基本的には風属性の範囲防御魔法である。強烈な風を、術者を起点にドーム状に展開させ、飛来する矢を逸らしたり、有毒なガスを散らす、といった使い方をする。
今は、この吹き荒れる砂嵐そのものを風の結界は防いでいる。
大アトラス三世号を含む、半径数百メートルの広範囲に風塵結界は作用しており、その範囲内だけは砂嵐が晴れて視界も戻ってきた。
「おお、結構な数が飛んでるな」
そして結界のちょうど境界となる辺りには、無数のサンドバットが羽ばたいているのがはっきりと見えた。気配だけでも分かっていたが、いざこうしてその数を見せつけられると、危機感も上がるというもの。
ひとまず、強烈な風が渦巻く結界を前に、強引に突破しようとはせず様子見といった感じで、一気に雪崩れ込んではこないようだが、その膠着状態もいつまでもつかは分からない。
「いいえ、警戒すべきはサンドバットの群れではありません」
「ねぇ、クロノ、すごいおっきいのが、向こうの方にいるよー」
轟々と吹き荒れ視界を遮断する砂嵐の向こう側を、背伸びしながら指差すリリィ。その先で、大きな山のようなシルエットが、動いた……ような気がした。
「おい、なんだアレ。まさか」
「アレはまさか『要塞白鯨』ではありませんか?」
俺の代わりに、フィオナが声を上げた。
あれ、砂漠に出るランク5モンスターのクジラって、そんな名前だったっけ。
「『要塞白鯨』ってなんだ?」
「文字通り、要塞のような大きさと戦力を誇る、白いクジラのモンスターです」
勿論、危険度はランク5級。真っ向勝負で討伐するには、艦隊を率いて挑むより他はない、海上の一大戦力を誇っている。
そんな『要塞白鯨』の素材は、フィオナの『ワルプルギス』にも使われているらしい。
「フィオナ様、あれは『要塞白鯨』ではなく、アトラス大砂漠に生息するよく似た別種、『城塞砂鯨』です」
「はぁ、そうなのですか」
「はい。ただランク5と危険度は同じです」
「要塞でも城塞でもどっちでもいいけど、とにかくヤバいんじゃないのかあのクジラは!」
気のせいだと思いたいところなのだが、砂嵐の向こうにぼんやりと見える巨大な影が、ゆっくりと船に向かって近づいてきている。
「大丈夫じゃないですか? あんなのが生息している海域を進むなら、ちゃんと対応できる装備なりあるのでしょう」
なるほど、確かに、討伐はできずとも、追い払ったりとかそういう方向で危険な超巨大モンスターを避ける方法くらいはあって然るべき。しかも、これほどの巨大船なのだから、その辺の設備もしっかりしているはず。
「おい、マズいぞ、グラールがどんどん接近してる!」
「そんな馬鹿な、こちらから刺激したワケでもないのに」
「まさか、この船がデカすぎて、警戒しているんじゃないのか!?」
などと、慌てている武装船員達の話を小耳に挟んで、超絶嫌な予感が駆け抜ける。
「『城塞砂鯨』は基本的には温厚なモンスターで、警戒すべきはその背中に巣を作っている大量のサンドバット。ですので、砂漠船が対応できるのはサンドバットの群れ、その他の中型モンスターまでとなっています」
「だってさ、フィオナ」
「クロノさん、他人事のように言って、現実逃避している場合ではないですよ」
ああ、分かってるよ。ただ、ちょっと覚悟を決めるのに時間が欲しかっただけというか。
本来なら絡まれることもないノンアクティブなモンスターのはずが、大アトラス三世号の巨大さが仇となったか、あるいはたまたま虫の居所が悪いなど別の原因なのか、何にせよ『城塞砂鯨』がこちらを狙って近づいてきているのは明らかだ。
「流石に砂漠のど真ん中で遭難したくはないからな……火力を集中して、クジラを追い払おう」
「それしかありませんね。中途半端な威力では、かえって怒らせるだけの危険性がありますから、全力で撃つべきでしょう」
あのデカブツが「あ、これヤベーわ」と思わせるだけのインパクトがなければいけないからな。確かにフィオナの言う通り。決して、『ワルプルギス』満開でぶっ放してみたいだけではないのだろう。
「それじゃあ、やるか」
気合いを入れて、クジラが徐々に接近してくる側へと向かう。
その途中、いよいよ風の結界を強引に突破してくるサンドバットが現れ始め、俺とサリエルが適当に銃撃で散らす。ただ、数が数なだけあって、武装船員達もコウモリの相手で手一杯といった感じ。
想定外のクジラの接近に、何かしら有効な対応ができている動きは見られない。やはり、ここは俺達が何とかするしかなさそうだ。
平和な船旅だと思っていたのに、いきなりプレッシャーをかけられたもんだよ。
「近くで見ると、マジでデカいな」
「グラトニーオクトほどではない」
「アイツは触手の長さもあるから」
そろそろ『風塵結界』の境界辺りにまでクジラは迫ってきており、徐々にその巨体が明らかとなってくる。
全長こそグラトニーオクトほどではないが、マッコウクジラのような巨大な四角い頭のシルエットが、文字通りに岩山のように浮かんでいる。ざっと見て、頭から尻尾の先まで1キロは余裕で越えているだろう。
コイツと並べば、いくら巨大貨物船といえども、随分と頼りなく思えてしまう。タックルを一発くらえば、それだけで大破しかねない。
背中側は濃い灰白色の甲殻が岩山を形成しており、そこにサンドバットの群れが巣食っているようだ。敵に襲われることのない安全地帯、砂漠の海を動く島といったところか。潜った時はどうすんだろう……
しかし、最早モンスターの甲殻というよりも、自然の地形とでもいうほどの分厚さを誇るクジラの外殻部分に攻撃を加えても、どれほどのダメージが見込めるか。
目などの急所を狙うか。それとも、あえて甲殻にぶつけて、これを剥すことができれば、クジラもちょうどよく危機感を覚えてくれるだろうか。そのまま戦闘続行となっても、甲殻が削れていれば、そこをウィークポイントとして狙って行ける。
「ヒレの付け根辺りを狙おうと思う。どうだ?」
黒色魔力をチャージしつつ、すでに雷砲形態へ換装した『ザ・グリード』を向けて、メンバーに問う。
「いいんじゃないかしら、狙いやすくて」
リリィは『メテオストライカー』と『スターデストロイヤー』を手に、少女の姿へと変身を完了させて応える。
「甲殻もやや薄いので、火力を集中させれば一度で剥せるでしょう」
『ワルプルギス』を構えたフィオナも、俺と同じ考えのようだ。
「了解です、マスター」
そしてサリエルは、いつものように肯定しながら、『反逆十字槍』を手に、静かに佇む。
「クジラが『風塵結界』を越えた瞬間を狙うぞ」
簡単に段取りを決めておき、あとはそれぞれの武器を構えて、その時を待つ。
刻一刻と、『城塞砂鯨』はその身を船へ寄せながら、ついに結界の内へと入る――
グゥウウオオオオオオオオオオオオオオオオン!
大地を揺るがすほどの巨大な咆哮を上げて、クジラの接近がピタリと止まる。
俺がちょうど『ザ・グリード』のトリガーに指をかけたタイミングであった。
まさか、こちらの殺気や魔力の気配を読んで警戒したのだろうか。言葉の通じぬモンスターであるクジラが答えるはずもなく……ゆっくりと、けれど莫大な量の流砂をかき分けながら、急速に船から離れていく。
「おい、見ろ! グラールが離れていくぞ!」
「た、助かった……」
「よっし、これで後はコウモリだけだ!」
明らかに『城塞砂鯨』が離脱していくのを見て、甲板上では勝利同然の歓声に包まれる。
巣であるクジラから離れるわけにはいかないのだろう。サンドバットもギャアギャアとやかましく喚きながらも、次々と船を去り、クジラを追いかけるように飛び去ってゆく。
そうして、みるみる『城塞砂鯨』は砂塵の彼方へと消え、最後にまた一つ、大きな鳴き声を上げながら、完全にその姿は見えなくなった。
「……一体、どういう気まぐれなんだ」
「楽ができて、良かったじゃない」
「ええ、私としても、ランク5級のクジラなんて戦いたくない相手ですから。戦闘が避けられるに越したことはありませんよ」
危険な相手であることに変わりはなかった。向こうから去ってくれたのは本当にありがたい。
ほっと一息ついても良い場面……なのだが、俺はあまり、良い予感がしなかった。
「マスター、砂嵐が晴れたようです」
気が付けば、視界を覆う砂塵の幕はすっかり消え去り、頭上には抜けるような晴天が広がっていた。
どうやら、ちょうど夜明けを迎えていたようだ。砂の海の水平線からは赤々とした太陽が昇り切っており、雲一つない快晴を照らし出す。
そう、雲一つない青空であるにも関わらず――俺達の頭上には、黒々とした巨大な影がかかっていた。
「な、なんだよ、アレは……」
山が空に浮かぶ光景は、グラトニーオクトで見た。空中に超巨大な物体が浮遊するという光景を目撃した経験があるせいか、俺は我が目を疑うことなく、ソレを冷静に観察することができた。
一言で表すならば、空飛ぶ城だ。城という建築物である以上、空を飛ぶモンスターじゃないのは明白。
白一色の美しい城を乗せて、金属質の巨大な土台ごと、いや、アレは恐らく船だろう。
俺はすでに、空を飛ぶ巨大な船の存在も知っている。
「天空戦艦なのか」
「いいえ、マスター、あれは天空戦艦ではありません」
知っているのか、と問いかけるまでもなく、サリエルは応えた。
「空中要塞『ピースフルハート』。正確には、『天空母艦』という空母型の巨大飛行兵器です」
だが、俺にとって重要なのは、天空戦艦と同格の古代兵器が復活していることではない。
「あの城の主は、第十一使徒ミサ」
つまり、恨むべき仇の一人が、そこにいるということで、
「――あぁー、ようやく見つけたわ! アンタがクロノね!!」
天から降ってくるのは、頭に響くようなかしましい少女の声。
その声を聞いたのは、ほんの僅かしかないが、それでも俺は忘れない。忘れられるはずがない。
アルザスの戦いを、最悪の結末にしてくれやがった元凶。
第十一使徒ミサ。
奴は、向こうの方から、俺の前へと現れたのだった。
2018年11月30日
活動報告にコミック版『黒の魔王』第3話感想会場を更新しましたので、すでに3話を読んだ方はどうぞ。