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黒の魔王  作者: 菱影代理
第35章:復讐の牙
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第677話 カチコミ

 日が沈み切るギリギリのタイミングで、滑り込むようにサラウィンの門をくぐって町へと入った。目的の場所は、奴らが大々的に宣伝もしているお蔭で、すぐに見つかった。

「アレが第四支部ってヤツか」

「はい、間違いありません」

 昼に俺とサリエルが訪れた毛皮店は、第一支部らしい。あそこに比べれば、一回り小さい建物ではあるが、白い壁に鮮やかな青色に塗られた屋根と、どこかの南国リゾート地にでもありそうな洒落た構えをしている。キャスリンという女の趣味なのだろうか。

「ここは、店はやってないようだな」

「そうですね、関係者以外立ち入り禁止という雰囲気がありますし」

 オフィスビルみたいなものなのだろう。で、その業務の中に妖精誘拐も含まれるってか。いいぜ、首を洗って待ってろ、首断先輩の準備は万端だぞ。

「マスター」

 と、逸る俺を止めるかのような、というか、サリエルがちょこんと裾を握っている。

「なんだ」

「『審判の矢』はいまだ容疑の段階。もし失敗した場合、社会的な制裁を受けるのは私達の方となる」

「サラウィンの憲兵、じゃなくて、治安維持部隊でしたっけ? 別に、追われても普通に逃げ切れそうな程度に見えましたが」

「逃亡は可能。ただし、サラウィンに滞在するのは難しくなる」

「分かってるさ、これからやるのは、普通に犯罪行為になるってことはな」

 つまるところ、ライオネルと同じ強硬手段に出ているワケだ。なりふり構っていられない。

「はい、最低限の準備はすべき。せめて、顔を隠すことを推奨する」

「……なるほど、それもそうだよな」

 別にサリエルは俺が犯罪行為に手を染めるのを正義感から止めようとしていたのではなく、悪いことするならちゃんと用意しろよと言いたかったのだ。確かに、止めてくれなかったら、俺はこのまま素顔丸出しで突入していたよ。

「うーん、それじゃあ『暴君の鎧マクシミリアン』の兜だけ被るか」

「こういう場合は、普段と全く違う装備か、一般的に広く流通しているものを使用するのが望ましい」

「でも、他に顔を隠せそうなモノは持ってないんだよな」

 今から武具店でフルフェイスタイプの兜だけ買いに行くっていうのも……

「これをお使いください」

 と、サリエルがすかさず俺に差し入れてくれたのは――白い仮面。いや、仮面というか、これは、

「ホッケーマスク?」

「正確には、それに酷似したデザインの仮面です」

 材質こそプラスチックではなく、モンスターの白い甲殻だが、デザインはほぼそのままだ。目元と、顔中に空いた小さな穴というシンプルな外観は、どこか無機質な恐ろしさを感じさせる。

 もっとも、俺達にとってこのマスクが恐怖の象徴のように思えるのは、あまりに有名な殺人鬼キャラクターがいるからだろうけど。

「よくこんなの見つけたな。っていうか、何で持ってる?」

「こんなこともあろうかと」

 冗談なのかマジなのか、サリエルは至って真面目な顔でそう言い放った。そんなに俺って、いつか顔を隠して悪事をするだろうと思われていたのだろうか。

 だが、役に立ったのも事実である。

「分かった、ありがたく使わせてもらおう」

 覚悟を決めて、ホッケーマスク風仮面を被り、何の変哲もない私服に着替え終われば、準備は完了。俺は背も高いしガタイもいいから、これで斧かチェーンソーでも持てば、かなりのクオリティのコスプレになるのではないだろうか。

 ついでに、フィオナとサリエルも顔を隠し、普段とは違う装いとなる。これで、パっと見では普段の俺達とは違うように見えるだろう。

「中には俺一人で突入する。フィオナは、出入り口を壁で塞いでくれ。サリエルは万が一、ターゲットが逃亡した時に備えて、フィオナと一緒に外で待機だ」

「分かりました」

「了解、マスター」

 手筈を確認し、いよいよ、第四支部へと俺は踏み込んだ。

 まだ営業中なのか、正面玄関に鍵はかかっておらず、押せばそのまま両開きの扉は開く。

「いらっしゃいませ、『審判の矢』へようこ……そ……」

 入った先には、受付らしき窓口があり、そこに座る受付嬢がにこやかな挨拶をかけてくれるが、その途中で顔をひきつらせた。

 今の俺は怪しい白仮面の大男である。彼女の反応は実に正しい。

「キャスリン支部長はいるか?」

「ヒッ、あ、あの……どういったご用件で……」

「いるかどうかと、聞いているんだ」

「も、申し訳ございません……支部長は大変お忙しく、事前に予約がなければ、お会いすることはできま――」

 無言で受付テーブルを叩く。

 今の俺は犯罪行為を働く悪人だ。ならば、こういう時は黙って威嚇に限る。

 軽くドンとしてやるだけで、木製のテーブルはバッキリと真っ二つだ。思ったより脆いな、安物なんじゃないのかコレ。

「います! 支部長は三階広間ですぅ!」

 涙ながらに受付嬢が白状してくれた。良かった、ターゲットはちゃんといるようだ。

 それが分かれば、もうここに用はない。

 受付嬢の叫びと、俺がついウッカリ壊してしまったテーブルの音が響いたせいか、その辺から青ローブの信者たちが「なんだ、どうした」と現れる。もっとも現れるだけで、俺に向かって「この不審者め!」と詰め寄ってくる奴は一人もいなかった。

 ホッケーマスクの威圧効果のお蔭だろうか。まぁ、俺だってこんな格好の奴に、絡んで行きたいとは思わない。

 誰も近づかないのをいいことに、俺は悠々と三階広間とやらを目指す。

 正面にあった階段を登れば、すぐについた。広間というからには、目立つ配置で迷うことは一切ない。階段を上り切ったすぐ先の廊下、赤いカーペットが敷かれた奥の大きな扉が広間で間違いないだろう。

 扉の前には、青ローブ、ではなく、青いベストを着たボディーガードのような厳つい男が二人、配置されている。俺が姿を現すなり、あからさまに眉をひそめて警戒した顔つき。

 流石に、ガードマンともなれば怪しい人物はスルーというワケにはいかないよな。

「おい、止まれ」

「何だお前は」

 招待客かもしれないだろうに、最初から不審者だと決めつけるような言い方はどうなんだ。実際、不審者というか、襲撃者だけど。

 腰に下げた剣に手をかけながら、ハッキリと臨戦態勢を整える二人のガードマンに、俺は黙って両手を伸ばす。

 そのまま、顎をなぞるように軽く拳を喰らわせる。狙い通り、というか、俺の動作を全く目で追い切れなかったらしいガードマンは、綺麗に打撃がクリーンヒットし、一発で昏倒。糸が切れた人形のように、ガックリと膝を折って赤カーペットの床に倒れ込んだ。

 もうちょっと腕のいい護衛を雇っておけ。やっぱケチってるんじゃないのか。

 止める者は誰もいなくなり、俺はいよいよ広間の扉へと手をかける。

「キャスリン支部長ってのは、どいつだ?」

 広間の中は、パーティの真っ最中といった様子であった。てっきり、怪しい儀式でもしているのかと思ったが、より広く顔を売るためのイベントといったと感じだろうか。

 青ローブの信者たちに加えて、それなりに身なりの良い男女がそこかしこで、酒の入った杯を片手に談笑に興じている――ところだったが、俺という乱入者の出現によって、静まり返っていた。

「ハァ? 誰よコイツ、こんな変態的な奴、呼んだ覚えないんだけどぉ?」

 広間のほぼ中央にある、他よりもちょっと豪華なソファー席みたいなところで、ふんぞり返っている派手な格好の女が、俺の問いかけに応えた唯一の人物だった。

 ウェーブのかかった長い金髪に、やけに濃いメイクをした、そこそこの美人。青いドレスは大胆に胸元が開いており、寄せられた胸の谷間がこぼれんばかりのセクシーさだが、気になるのはそこに輝く大振りのサファイアのような宝石。

 如何にも高そうなネックレス。だが、その青い宝石からはかすかに魔力……いや、この感覚は白色魔力、つまりエーテルを感じられた。

 この場には、他にエーテルの気配を発するモノを持った奴はいない。

 中心的な配置と特殊なアイテムを身につけていることからして、彼女がキャスリン支部長だろう。思ったよりも随分と若いが……『審判の矢』の教祖も若い男だというし、幹部クラスも若手で構成されていてもおかしくはない。そう思うと、なんかベンチャー企業みたいなイメージが。

「お前が支部長か」

「ちょっと警備ぃー、何やってんのよ、さっさとこの不審者つまみだしてよねぇ」

「スミマセン、キャスリン支部長」

「今すぐ叩き出しますので、どうぞご安心を」

 俺の問いかけにはガン無視だが、彼女の取り巻き兼ガードマンの男達の声で、図らずとも正体は確認できた。やはり、あの女に間違いないようだ。

「おいテメーどっから入ってきやがった」

「冗談じゃ済まされねぇぞ、分かってんのか変態仮面ヤロー」

 チンピラみたいに威圧的な態度で、拳をバキバキならして近づいてくるガードマン二人。さっきの扉にいた奴よりは大柄だが、おいおい、こんな堂々と乗り込んできた不審者に対して、素手で相手をしようなんて、随分と生ぬるい対応だな。こういう時は、問答無用で切り捨てるのが正解じゃないのか。

 とりあえず、コイツらの相手をしている暇はない。

「退け」

 立ち塞がった二人組を、片方を右手で突き飛ばし、もう片方は左手で胸倉を掴んでその辺に放り投げる。全く無抵抗にブッ飛ばされた二人は、図体だけで大した腕前ではないようだ。

「うわぁっ!」

「キャアアアアーっ!」

 俄かに上がる叫びと悲鳴。

 吹っ飛ばされた二人は、それぞれ酒と料理が並んだテーブルに頭から突っ込んで、ガラガラとやかましい音を立てていた。

 荒事に慣れてはいないのか、客の何人かはさっさと逃げ出したり、腰を抜かしていたりしているようだ。バタバタと騒がしくなった広間の中、俺は真っ直ぐキャスリンの元まで歩みを進める。

「ふぅーん、力には自信アリってやつぅ? ふふ、凄いじゃないの、やっぱり男はこうでなくちゃ」

 ガードマンをあっさり退けた敵が目の前に立っているというのに、この女は随分と余裕の表情である。まだ俺のことを脅威と感じていない。何か隠し玉を持っているのだろう。

「ねぇ、アンタさぁ、雇ってあげよっかぁ? 報酬は弾むわよ。それとも、コッチの方がいいかしら?」

 挑発的な目線に、わざとらしいほど胸を強調するポーズ。まぁまぁセクシーではあるけど、残念ながらブリギットの誘惑に比べれば、微笑ましいレベルである。

「本拠地に案内しろ。お前なら、結界を通れるんだろう?」

「ええー、なになに、何のことぉー? 知らなぁーい」

 白を切るのは当然か。こっちは別に、何か決定的な証拠をつきつけているワケではないし。

「あっ、分かった。アンタ、獣人の連中に騙されてるんじゃない? 私らが誘拐してるとか何とか言っちゃってさぁー」

「大人しく案内すれば、手荒な真似はしない」

「やめなって、あんなケモノ共に肩入れしたってイイコトないわよ? それより、私達と組みなよ。アンタ人間でしょ、なら、大歓迎だから」

 全く話が噛み合わない。そりゃあ、お互い自分の方が優位だと思っているからな。力関係がはっきりしないと、話し合いもままならないってか。

「その気がないなら、仕方ない」

 とりあえず力ずくで拉致ってしまえば、身の危険を感じて大抵のことは白状するだろう。それでも頑として口を閉ざされれば、その時はその時だ。フィオナとサリエルに相談しよう。

 そんな短絡的な考えの元で、ハナから話し合いする気もない俺は、無遠慮にキャスリンへと手を伸ばす――だが、すぐに止まる。

「これは――」

「結界よ。とっても強力なの、そこらの防御魔法とは格が違うんだからぁ」

 まるで窓ガラスでもあるように、透明な結界が俺とキャスリンの間を隔てている。彼女の胸の谷間に輝く青い宝石が、ぼんやりと青白く発光しているのを見れば、ソレがこの結界を展開しているアイテムであることは分かる。さっきよりも、エーテルの感覚も強く放出されているしな。

 微かに青白い光を放つエーテル結界は、リリィの『妖精結界オラクルフィールド』のように、キャスリンの全身を包み込み、その身を守っている。

 なるほど、余裕の正体はコレか。

「それと、こっちは銃っていうんだけど、知ってるかしら?」

 キャスリンがおもむろに腰元から抜いたのは、確かに銃である。見覚えのある拳銃、というか、シャングリラの武器庫にあったハンドガン『ウインド』と全く同じだった。

 どうやら、リリィが予想した『審判の矢』は古代遺跡を利用している説は大当たりだったようだ。本拠地を隠す隠蔽結界も、古代遺跡の機能だと思えば、その高性能ぶりに納得がいく。

「おい、両手を上げろ」

「動くなよ。妙な真似をすれば、コイツをぶっ放す」

 キャスリンが結界越しに銃口を向けるのと同時に、周囲からゾロゾロと集まって来た他のガードマン達が左右から挟み込むように立ち、同じ銃を構えて俺へと突きつけてきた。

 そこそこの人数に配れるだけの銃は持っているのか。いや、拳銃の『ウインド』しか持っていないのであれば、大した武器庫は確保できていないのだろう。

「大人しく従った方がいいわよぉ。この銃っていうのはね、高性能な魔法の杖みたいなモノなの。人の体なんて簡単に貫いちゃうんだから」

 ただの人間なら、当たりどころによっては小口径の『ウインド』でも貫通はするな。しかし、俺のように肉体そのものが頑強だと、ちょっと痛い、程度のもんだ。『暴君の鎧マクシミリアン』を着ていなくても、このまま撃たれたってノーガードで耐えられる。

 だからといって、大人しく銃弾を喰らってやるつもりもないが。

 さて、とりあえず銃を振り回す取り巻き共を黙らせなければ、この女も自分の立場ってものが分からないだろう。

 手っ取り早いのは、魔弾バレットアーツを人数分、同時発射して撃ち殺すことなのだが……サリエルから、注意は受けている。顔を隠している以上、身元が割れるような真似は極力控えるべき。俺の使用頻度ナンバー1である黒魔法『魔弾バレットアーツ』は見せない方がいいということだ。

 そうなると、大人しくパンチとキックの格闘戦で行くことになるが、とりあえず、なんでもいいからさっさと終わらせよう。

「お前ら、銃を向けたんだ。当然、自分が撃たれる覚悟もあるんだろうな」

「ハァ?」

「何言ってんだ、コイ――ツぁああっ!?」

 一番、俺から距離の近い奴の背後に回る。ガードマン共は、どいつもこいつも、俺の動きについてこれない冒険者ランク3未満な奴らだ。

 まるで、目の前から俺が消えた、みたいなリアクションをしている最中に、左手でガードマンの襟首を掴み、右手はソイツが持つ銃を握る。格好としては、俺が背後から彼を人質にとっているような体勢である。

 これでコイツは俺の盾であり、ついでに銃もオマケについてくる。

「なっ!? オイっ、やめろ、撃つな――」

 自分がどういう状況になっているのか察して、慌てて引きつった叫びを上げる彼には悪いが、俺はもう右手を握りしめて、発砲している。

 前にサリエルとシャングリラで遊んだ時に、この『ウインド』含め、銃火器を試射させてもらったからな。撃ち方はバッチリ覚えてる。安全装置がかかったままだぜ……なんて間抜けなことはしない。

「ぐあっ!」

 俺が撃った弾は、見事にガードマンの胸を貫く。

 銃で武装しているなら、防弾チョッキに準じる防具くらい着こんでおけよ。誤射したり、流れ弾に当たったり、あるいは、いきなり味方に撃たれるってこともあるかもしれないだろ? こんな風にな。

「うがっ! くそっ、撃て!」

「構うな、撃て! 撃てぇ!!」

 俺が三人目くらいを撃った辺りで、流石に奴らも反撃に転ずる。

「おい待てやめろっ、マジで、ちょっ、待って、やめ――ぎぁあああっ!?」

 仲間から放たれた弾丸が、無慈悲に突き刺さる。俺が盾にしているのだから、当たり前なのだが。

 何発もの弾を全身に喰らって即死した男を、適当にその辺の奴に向かって投げつける。それなりの速さで投擲された成人男性一人分の重量は、二人ほど巻き込んでガシャーンとクラッシュしていた。

 盾は捨てたが、銃はそのまま貰い、射撃を継続。

 コイツら、身体能力もイマイチなら、射撃も下手くそだな。まるで当たる気がしない。せめて、ちゃんと両手で握って、よく狙いを付けて撃てよ。おい、そこのお前、カッコつけて銃を横にして撃つんじゃない。これならむしろ、下手に避ける方が危ない気がする。

 しかし、彼らが銃という武器を手にしたのはごく最近のことだろうから、扱いに慣れてないのも当然か。銃の威力に目が眩んで、その性能を過信しているのだろう。ついでに、自分の実力ってやつも。

 そんな素人丸出しの銃撃に晒されながら、俺は次の獲物へと向かって行く。

 折角、拳銃を使って戦っているんだ。二丁で使わせてくれよ。

「うわぁっ! く、来るな、来るなぁ!?」

 俺に狙われていると察したのか、絶叫を上げて拳銃を乱射するガードマン。だから、よく狙って撃てとあれほど……

 当たる気がしない銃火を真正面から潜り抜け、俺は二挺目の拳銃をいただく。手首を軽く殴打すれば、ソイツはあっさり銃を手落とす。床に落ちるその前に、左手で拾って、即発砲。

「やっぱり、両手に武器がある方がしっくりくるな」

 二丁拳銃を構えた感覚に満足しながら、俺は思う存分、撃ちまくる。

 といっても、敵はもう十人も残ってはいないのだが。人数分だけ発砲して、アッサリとカタはついたのだった。

「……な、なによ、この化け物」

 邪魔なガードマンを始末し、キャスリンに目を向ければ、この言い草である。

「もう一度だけ言う。お前らの本拠地に案内しろ」

「こっ、来ないで! 誰かっ、人を呼んでっ! 治安維持部隊を――」

 流石に銃で武装した奴らを軽く蹴散らされて、ようやく危機感を持ってくれたようだ。キャスリンはさっきの余裕の態度はどこへやら、顔色を青くして、助けを叫んでいる。

 こういう時だけ警察、じゃなくてサラウィンでは治安維持部隊か、それに頼るとはカルト宗教な犯罪組織のくせに、虫のいい奴だ。けど、対応としては正解だけどな。後ろ暗いことしている自覚があるから、こうしてマスクを被ってるし。

「さっさとしろ」

「脅しても無駄よ! 私には、この守護結界があるの! アンタは私に、指一本も触れることはできないんだから!」

 なるほど、結界で自分の身を守りつつ、応援が駆けつけるのを待つと。援軍が期待できるなら、籠城ってのは上策である。

 けど、ソレはあくまで、時間を稼げるほど強固な防御力がなければ成立しない作戦だ。

「フンっ!」

 とりあえず思いっきりぶん殴る。

 薄らと青白い光となって、物理的なダメージを遮断する結界は、自然と黒色魔力が浮かぶ俺の拳を受け止めるが――すぐに、ミシミシと悲鳴のような軋みを上げ始めた。

 なんだ、思ったよりも脆い。素手でも破れる程度なのか。強度的には、実験部隊を率いていたキプロスが身に着けていたロザリオで発動してた結界と同じくらい。あの時は魔力も底を尽きかけて、必死で殴りまくって破ったっけ。

 懐かしい思い出と共に、拳は結界を打ち砕く。ガシャン! とガラスが割れるような音を響かせながら、光の結界は粉々に砕けたように消え去った。

「えっ……ウソ、なんで……」

 キャスリンの顔から、今度こそ完全に表情が消えた。信じていたモノに裏切られると、人はこういう顔になるのかもしれない。

 若干、哀れに思う気持ちも湧くが、悪いけど、リリィに手を出された以上、あまり優しくはしてやれないな。

「ま、待って、お願い、分かったわ……貴方の話を聞いてあげるから、まずはそこに座っ――キャアアっ!?」

 俺は話し合いに来たのではなく、攫いに来たのだ。今更、対話の姿勢を示されても、意味はない。というかこれで話に乗ったら、治安維持部隊が駆け付けるまでの時間稼ぎになって、俺が不利になるだけだろうが。

 なので、俺は黙ってキャスリンの胸倉を掴み上げる。あ、胸元ガバガバなデザインのドレスだから、掴んだ拍子に胸がブルンと零れ落ちて……いかん、今から乱暴しますみたいな感じになったけど、これは不可抗力なんだ。

「い、イヤッ、やめてっ! 私は悪くないの、私はただ、雇われただけで、信者じゃないし、ただ、凄く稼げるからって、それでぇ……」

 聞いてもいないのに勝手に自己弁護を始めるキャスリン。そんなのどうでもいいから、とりあえず黙って欲しいのだが、生殺与奪と貞操とを握られていると思えば、こうなるもの仕方がないか。

 そうだ、こういう時は凶器をチラつかる方が効果的。

 俺はまだ持っていた拳銃『ウインド』を、涙と鼻水で濃い化粧が崩れ始めた彼女の顔に、これみよがしに突きつけた。

「大人しく、ついて来るんだ。いいな?」

「は、はい……」

 俺はようやく静かになってくれたキャスリンを、そのまま荷物のように肩に担いで、その場を後にした。

 待ってろよ、リリィ。鍵は手に入れた。すぐに、助けに行くからな。

2018年 9月6日


 本日、私が住んでいる北海道で大きな地震がありました。幸い、私の住む場所ではすでに電力も復旧しているので、こうして無事に投稿できております。

 以上、生存報告でした。

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