第673話 審判の矢
土砂降りの夜にも関わらず、道を走る馬車がある。
月明かりを遮る分厚い雨雲に、叩きつけるように激しく降り注ぐ大粒の雨。道はドロドロにぬかるみ、操作を誤れば転倒の危険性が常に付きまとう。
そんな最悪の天候と時間帯にも関わらず、あえて馬車を走らせる者は限られる。よほどの急ぎか、よほどの隠し事か。どうやら、この馬車は後者であるようだった。
「待てっ!」
鋭い制止の声が、豪雨の中に響き渡る。
御者はその声を確かに耳にしたが、待てと言われて素直に止まるワケにはいかない。だからこそ、馬車の背後を追う人影は、力ずくの手段に打って出た。
一つ、二つ、三つの火球が飛来する。
あくまで、馬車を止めるのが目的であり、木端微塵に吹き飛ばすつもりはないようだ。二つは、馬車の間近で炸裂し、ささやかな爆風を浴びせるのみにとどまったが、三つ目は見事、馬車の後輪に命中。
その衝撃と、突如として増加した付加によって、馬はいななきを上げると共に、ついにその足を止めた。
「ようやく……ようやく追いついたぞ、この外道共め!」
隠しきれない怒りを込めた声を叫んだのは、一人の女である。
火球を放ったと思しき短杖を握りしめ、豪雨と共に吹き付ける強風に、身に纏ったローブがおおきくはためく。風のあおりをうけて、めくれあがったフードの下から現れたのは、凛々しい獅子の顔であった。
年若き獅子獣人の女。彼女の後ろには、同じ種族の屈強な戦士の男達が続いている。
停止した馬車を、獅子の追跡者達は素早く取り囲んでいく。
「さぁ、観念して出てこい!」
その声に、素直に従ったワケではないだろう。ガン! とけたたましい音を立てて、馬車の荷台の扉が開かれる。いや、扉ごと吹き飛んで行った。
「チッ、うっせーな家畜野郎共が」
いかにもチンピラ染みた悪態をつきながら、のっそりと吹き飛ばした乗降口から現れたのは、黒い髪の大男である。
筋骨隆々の肉体に、鋭い目つきの、オークのような恐ろしい顔つきだが、種族は人間であるらしい。
「お前が『紅魔拳』のガシュレーだな」
「様をつけて呼びやがれメス猫がぁ、ニャーニャー鳴いて媚びてみろよ。お、可愛がってやるぜ?」
安い挑発の言葉。だが、生まれてからここまで下品な台詞を浴びせられたことの無かった獅子の彼女は、俄かに怒気を帯びる。
「お嬢、ここは俺らに任せてくれ」
「あの野郎には、すでに仲間を殺られてる」
今にも杖で魔法を放ちそうな彼女を止めるように、獅子の戦士が前に出た。音もなく、剣を抜き放ち、二人の戦士がガシュレーと呼ばれる大男へ接近してゆく。
「おいおいおい、かかって来るなら全員で来いよ、礼儀だろ?」
「シャアッ!」
挑発の言葉は無視し、間合いに入った瞬間、獅子獣人の身体能力を十全に活かした俊敏な動作で一気に襲い掛かる。
相手は『紅魔拳』と異名をとる男。油断はなく、全力で仕掛ける――だが、ガシュレーの言葉は挑発でも何でもなく、事実であると直後に証明される。彼らは、全員で襲い掛かるべきだったのだ。
「アスラ流血闘術――」
ガシュレーの両腕に刻まれた入れ墨が、俄かに真紅の光を放つと同時、その固く握られた巌のような拳が動く。
強烈な、鈍い打撃音と共に、戦士の二人の体は軽々と宙を舞って吹き飛んだ。受け身もとれずに、そのまま無様に泥にまみれた地面に落ちた戦士は、すでに意識はない。
「手加減したんだ、死んでくれるなよ。獅子獣人の戦士なら、活きのいい生贄になるからなぁ」
「生贄だと……くっ、やはりお前らは!」
「なぁおい、どうせお前ら、攫われた同胞を返せ、とかいう感じで来てんだろ? なら、ちょうどいい、このすぐ先がウチのアジトだ、寄って行けよ」
「このっ邪教徒共め! 我ら『大牙の氏族』を舐めるな! 皆の者、かかれぇー!!」
「俺はただの雇われだからよ、あのイカれた連中と一緒にしてくれるなや。でもまぁ、給料分は働かせてもらうぜぇ!」
今度こそ、全力でもって目の前の男を叩き潰すべく、獅子の戦士達は全員で動き出す。
対するガシュレーも、先よりもさらに濃密な魔力を拳に込めて、その異名通りに真紅に輝く拳を打とうとした――そこで、手を止めた。
流星のように輝く、光の矢が飛来する。
光属性魔法の『光矢』ではない。よく似ているが、青白く輝きを宿す魔法の矢は、そこに宿す魔力の質が異なっている。
その青い矢は光の雨となって、拳を振るうガシュレーを追い越し、襲い掛かる戦士達を次々と射抜いてみせた。
「ぐわぁああああああああああっ!」
響く、苦痛の大合唱。
身に纏った高ランクモンスターの革を用いた鎧を軽々と光の矢は貫き、その手足を大地へと縫い止める。何十と飛来した矢は、どれも戦士の体のどこかを射抜き、外れたものは一本たりともない。
必要な数を、必要な分だけ命中させた。矢は、全て急所だけは外され、戦士達から戦う力のみを奪い去っていた。
「チッ、久しぶりにいい運動ができると思ったのによぉ……人の獲物を横どりたぁ、ちっとばかしお行儀が悪いんじゃねぇのか司祭サマよ?」
「いえ、ここはすでに私の領域ですから。貴方が動く必要はありませんよ」
ガシュレーの言葉に、どこからともなく返事の声が響く。右を見ても、左を見ても、声の主の姿はない。
しかし、そのことに驚く必要はない。司祭と呼んだ青い矢の射手は、この『神殿』周辺の全てを知覚し、また、その声を余すところなく届かせる、不思議な魔法の力を持っていることをガシュレーはすでに知っている。
比喩でもなんでもなく、単なる事実として、ここは彼の支配領域なのだ。
「そんじゃあ、早いとこ迎えを頼むぜ。あのメス猫が馬車を壊しやがってよぉ」
「ええ、すぐに派遣します」
会話は打ち切られ、再び雨の音だけが響くのみ。ぬかるんだ道をガシュレーは大股に歩きながら、戦士達と同様に手足を矢で貫かれた、一団の頭である女獅子の前に立つ。
「う、ぐぅ……お、おのれ……」
「なぁ、野生動物ってぇのはよ、本能で勝てない相手は避けるって言うじゃあねぇかよ。なら、力の差ってヤツが分からねーお前らは、ハハッ、やっぱ連中の言う通り劣等種なんじゃねぇか。獣でも人でもない、中途半端な失敗作の欠陥品、ってなぁ!」
ガツン、と毛並みの良い獅子の頭が蹴り飛ばされ、押し殺したような苦悶の声が漏れた。
「まぁ、俺にとっちゃどうでもいいことだが……あのイカれた司祭に目を付けられたのは、ツイてなかったよな、お前ら。アイツは本気で、獣人種を根絶やしにするつもりらしいぜ?」
「ば、馬鹿な……そんなことが、本当にできると思っているのか……」
「さぁな、できるんじゃねーの? なんたって奴らは、古代遺跡の――」
「おっと、お喋りが過ぎますよ、ガシュレーさん」
振り向けば、そこには一人の男の姿があった。
青い男だ。鮮やかなブルーの法衣に、つばの広い帽子。手にした長杖の先端には、サファイアのように美しく大きな宝玉が煌めく。
長く伸びた髪、そして瞳の色も、青一色。若々しい、整った容姿の男であるが、最も注意を引くべきところは、その姿ではなく周囲にある。
降り注ぐ土砂降りの中にあって、濡れていない。彼に振りかかるはずの雨粒は、全てその寸前で弾かれている。
さらに、その足元。綺麗に磨かれた革のブーツには、一点の泥汚れもない。
一歩を踏み出せば、その足が泥の地面を踏みしめていないことに気づけるだろう。どういう魔法なのか、彼は僅かに宙に浮いているのだった。
「へっ、お早い到着で、司祭サマ」
「なかなかの獲物がかかったようなので、飛んできましたよ……ふむ、確かに『大牙の氏族』ライオネルの娘に間違いない」
「お前がっ――」
瞬間、右腕に刺さったままの光の矢を強引に引き抜き、隠し持っていた猛毒付きのナイフを抜く。手負いの女獅子が、のこのこと目の前に顔を出した敵の頭目に対して、起死回生の一撃を放った。
「これはいい、実にいい。コレがあれば、『大牙の氏族』を潰すのは容易い。素晴らしい、早くも三大氏族の一角を崩せる算段がつきましたよ」
「そりゃあ、めでたいこって」
人間など、カスリ傷一つでも即座に昏倒するほど強力な毒を秘めた刃は、果たして届くことはなかった。すぐ目の前の至近距離、外すことはありえない。狙いは精確だったが、その毒の刃は、降りしきる雨粒と同じく、司祭に触れる寸前であえなく弾かれていた。
「そんな、何故だっ!?」
「『聖堂結界』、この私が授かった、神の御技の一端ですよ。ああ、実に素晴らしい、この力を体感する度に、私の聖なる祈りが神に届いたのだと――」
「感動しているとこ悪いけどよ、さっさと取り押さえた方がいいんじゃねーの? まだ一本か二本、隠し持ってるぜコイツぁ」
「ご心配には及びません。今や神の加護を一身に受けるこの私には、最早、不浄なる半獣の手が届くことは、決してありえませんので。ああ、これこそ正に、神の奇跡――」
酔いしれるように言い放つ司祭に、ガシュレーは「これが始まると長ぇんだよな」とウンザリした顔で、自分が代わりに手を下すことにした。もう一度、女獅子の頭を蹴飛ばす。さっきよりも、やや強めに。
強かに脳を揺すられた彼女は、その一撃で今度こそ完全に反撃の力を失った。
「おお、青き光の神よ、どうか我ら『審判の矢』にご加護を!」
土砂降りの中、ただ、青い司祭の祈りの声だけが響いていた。
蒼月の月23日、鉄血塔のオリジナルモノリスの調査を無事に終えた俺達は、首都ダマスクを出発し、次の目的地へと旅立った。
立ちはだかるバルログ山脈は険しいが、それでも標高が低く、比較的なだらかな山間に大きな街道が開かれているので、思ったよりも進みやすかった。道中でも、モンスターと出くわすこともなかったし。もうフレイムオークの大軍や、炎龍が唐突に出没することもないだろう。
順調ではあるが、アダマントリア領を出るには、かなりの距離を進むことになっている。一週間ほどかけて、ようやく国境を越えて、次の国へと入った。
これも一つの都市国家というべきだろう。商業都市サラウィンと呼ばれる場所が、俺達が向かうヴァルナ森海へ入る玄関口となる。
オリジナルモノリスがあるヴァルナ森海は、獣人の部族が同盟して一つの勢力圏を成している。『ヴァルナ百獣同盟』という名の下に、森に暮らす全ての種族が集う、一種の合議制のような形で統治されているらしい。
商業都市サラウィンは、この同盟圏とアダマントリアの中間地点に位置し、どちらにも属していない。サラウィンは、同盟圏を抜けた先のカーラマーラと、すぐ北のアダマントリア、そして、遥か西側へと街道が続いていく、交易の合流地点となっている。交易が盛んな商人の街として発展するのは、半ば必然の立地といえよう。
だからこそ、多種多様な人々で賑わい、そして、出入りもほとんどフリーであった。
「凄いな、ギルドカードも出さずに入れてくれたぞ。色んな意味で大丈夫か」
「防犯よりも、商売の効率化を優先した結果。少なくとも、この都市では問題にされていない」
要するに多少の問題はあるけど、それを越えるだけのメリットがあるから、こんなガバガバ関所になってるってことだ。面倒がなくて、俺達からすれば楽でいいのだが。
さて、首尾よくサラウィンまでやってきたワケだが、早速、二手に分かれての別行動となっている。俺はサリエルと情報収集。リリィとフィオナは、適当なクエストを受注して出かけている。
フィオナは『ワルプルギス』の製作で、現在かなり懐が寂しくなってるらしい。
『フレイムオーク討伐』のクエストで結構な金額も振り込まれているから、素寒貧どころか普通に小金持ちには返り咲いているが、彼女からすると最低限の貯金として確保しておきたいそうだ。
自由に使える分の金はほとんどなく、これでは買い食いもままならないというワケで、軽く小遣い稼ぎ感覚で、日帰りで戻れて、かつ、報酬も良さそうなクエストを見繕って、さっさと出て行った。
確か、受注したクエストは『ガーゴイルの砦』だったか。
ガーゴイルは悪魔の石像がそのまま動き出したようなモンスターで、一応、ゴーレムの一種という分類になっている。
野生のモンスターとして奴らが出現した場合の厄介な点は、頑強な石造りの巣を作ることだ。下手な建築物よりも頑丈な巣は、まさに砦と呼ぶにふさわしい。大型かつ多数の群れともなれば、城とか要塞とか、そういうレベルにまでなることもあるらしい。
今回は通常サイズの巣だそうだ。とはいっても、ランク3モンスターとなるガーゴイルが、群れを成して石の砦に立て籠もっているのだ。クエストのランクは一段階上がって4とされている。
しかしながら、フィオナとリリィのコンビなら大丈夫だろう。予想以上に頑丈で攻めあぐねるようだったら、ほどほどのところで切り上げてくるだろうし。無理してクリアしなければいけないようなクエストでもないからな。
さて、こっちはこっちで、情報収集をしなければ。ヴァルナ森海のメテオフォールにあるオリジナルモノリスに、波風立てず穏便に調査をするためのプランはまだ立っていない。どうするか、まずは現地の情報を集めなければどうしようもない。
アダマントリアは大きな国家だから、スパーダの肩書きもそこそこ通用したりもしたのだが、国ではなく部族同盟で、あまり他国と関わり合いの少ないヴァルナでは、いよいよ効果はないだろう。強いて役に立ちそうなものと言えば、ランク5冒険者というステータスくらいか。
それにしても、今まで俺は大して情報収集という仕事をしたことがない。俺に出来ることと言えば、せいぜい冒険者ギルドで聞く程度。
その冒険者ギルドも、俺はロクに聞き込みもせずにさっさと出てきてしまった。だって、クエスト受けたらフィオナとリリィのコンビは即座に出発するし、それに続いてサリエルもさっさと出ていったし。
「なぁ、ちょっとくらいギルドで聞いてきても、良かったんじゃないのか?」
「冒険者ギルドが公開している情報は、すでに聞いてきました」
「そ、そうだったのか。いつの間に」
「マスターがフィオナ様とリリィ様と共に、クエストを選んでいる最中に」
何とも手際の良いことで。
若干気まずい思いをしつつも、いつも通りの無表情で通りを歩くサリエルに、俺は黙ってついていく。
商業都市と名乗るだけあり、やはり表通りは人が多く実に賑わっている。商店や露店がそこかしこにあり、元気の良い呼び声が常に響きわたってくる。
行き交う人々は、獣人三割、ドワーフ三割、人間三割、その他といったところ。やはり、それぞれのアダマントリアと同盟圏から、ここへ訪れる者が多いからこその構成だろう。人間が獣人とドワーフと並んで多いのは、西方の商人が人間中心であることと、このサラウィンの住民も人間が多いからだ。
パンドラ大陸南部となるこの辺からは、日差しも強く暑い気候となるせいか、浅黒い肌の人が多く見受けられる。
海があれば爽やかでいいのだが、この辺は見渡す限りの乾いたサバンナ地帯である。
「それで、何か気になることはあったか?」
「現段階では、まだ。次の調査次第」
「そうか」
今更なのだが、サリエルはいつも、どうやって情報収集をしているのだろうか。実は、以前からちょっと疑問だった。
論理的思考が優秀なのは間違いないが、こう、何というか、人とお喋りするコミュニケーション力という点においては、サリエルはかなり怪しい。なにせ、自ら人の感情が理解できないと豪語するホムンクルスである。他人から情報を聞き出す、といえば、やはり口が上手い、演技でも嘘八百でも、相手に合わせて会話する話術というスキルが重要なはずだ。リリィのテレパシーはチートなので例外とする。
そして、サリエルには話術スキルが優れている、ということはないはず。俺だって、優れてはいないけど……
ともかく、そんな彼女がどうやって的確に情報収集をしているというのか。実は、こういう時にはめっちゃ饒舌になって愛想もいいとか?
「……『審判の矢』」
不意に、ポツリとサリエルがつぶやいた。
「最近、『審判の矢』を名乗るカルト宗教が、動きを活発にしているそうです」
「それはまた、如何にも怪しい連中だな……っていうか、いきなりどうして分かったんだ」
「人々の会話を聞き取り、話題に上る頻度、評価、脅威度などを総合した結果、現在このサラウィンにおいて、最も怪しい存在が『審判の矢』であると判断した」
「そうか、お前……盗み聞きで情報収集してたのか」
サリエルの超人的な身体能力は、五感にも及ぶ。つまり、集中すれば聴覚も凄まじいレベルになるってことだ。
さらに、サリエルならばただ耳が良いだけでなく、聞こえた無数の会話内容を全て把握することもできるだろう。彼女はリリィを倒しに神滅領域アヴァロンを攻略した際に、あのシモンでも完璧にはできなかった、騎士の巡回ルートの割り出し計算を難なくこなしたという。サリエルは機械的な計算・演算能力なども非常に優れているのだ。
リアルタイムで他人のお喋りを聞き取りながら、同時並行で会話内容を分析することなど、彼女にとってはそう難しいことではないのだろう。
勿論、俺だったら聴覚に集中して聞き取ることはできるだろうが、全ての会話を正確に聞き取ろうとすれば頭がパンクするに違いない。常人にはとても真似できない……サリエル、実はホムンクルスじゃなくて、アンドロイドなんじゃないのか。
「こんな盗聴まがいの真似して大丈夫なのか?」
「私は、ただ耳を澄ませているだけ。聞こえる声を聞いているだけで、違法性は一切ない」
確かに、それはそうなのだが……まさか、こんな超精度で聞き耳立てている奴がいるとは、誰も思っていないだろう。聞かれたくない内緒話をしている者もいるはずだ。
「どれくらいまで聞こえるんだ?」
「そこの、石造りの建造物の二階にいる人物の声までは聞こえる。内容は、もうすぐ本当に妻と別れるから、あと少しだけ待ってほしい――」
「やめろ、それは他人が聞いちゃいけない類の話だ」
やっぱりかなりの範囲でプライバシーがダダ漏れじゃねぇかよ。
いや、でもそういう情報を悪用せずに、サリエル個人の胸の中に仕舞い込んでおく分には、問題ないか。別に、誰にバレるわけでもないし、盗聴器を仕掛けているわけでもないからな。たまたま、そう、たまたま、歩いていたら聞こえてしまっただけのことなんだ。そういうことに、しておこう。
「それで、『審判の矢』って奴らは」
「これから、それに関わる会話内容を優先して聞き取ります」
そして、おおまかに情報が出揃ったら、詳しいことを情報屋などに裏を取りにいくそうだ。サリエル曰く、情報屋は欲しい情報を調べるよりも、仕入れた情報の裏をとるために使うのがベター、らしい。
「そこまであからさまに怪しいっていうなら、少し調べる必要はあるか」
ファーレン、パルティア、アダマントリア、と各国では特に十字軍の影を感じることはなかったが、いよいよ、そういう奴らの登場かもしれないしな。