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黒の魔王  作者: 菱影代理
第33章:黒き森
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第658話 子供達の旅

 清水の月13日。

 ガタゴトと荷馬車を揺らして、大きな二頭立ての馬車がファーレンの国境検問に向かっていた。

「そこで止まれ」

 ダークエルフの警備兵の指示に従って、馬車はすぐに停止。三人ほどの兵士が、馬車へと近づく。

「通行証を」

「ほらよ、『バクスター総会』だ」

 馬車の御者を務める男は、顔に傷のある如何にもならず者といった風貌。面倒くさそうに、兵士に対して差し出した通行証と、セットで一枚の書類を差し出した。

「……奴隷商人か」

「そんな嫌な顔しなくたっていいじゃねぇか。こっちも商売でやってるんでねぇ」

 ファーレンでは精霊信仰の教義によって遥か昔から奴隷は禁じられている。ダークエルフの兵士は、彼が奴隷商人であると分かると、あからさまに顔をしかめてしまったのは、ファーレン人からすると真っ当な反応であろう。

 しかし、奴隷の禁止はあくまで自国内での掟であり、法である。他国間での奴隷売買と、あくまで商品の輸送ということで、ファーレン領内を通行させることは、スパーダなど隣国との貿易協定で許されている。

 故に、忌むべき奴隷商人であっても、正式な許可をとりつけてあれば、入国と出国は可能だ。

「荷を検めさせてもらう」

「早くしてくれよな。こちとら、急いでいるんでね。ナマモノを運んでいるからよ」

 下種な物言いに、ダークエルフの兵は内心穏やかではないものの、粛々と己の職務を全うする。

 荷馬車の後ろの扉を開き、運んでいる荷物、つまり、奴隷を確認した。

「……子供か」

 中には、不安そうに俯いた、暗い表情の子供たちが十人ほど座っていた。荷馬車の内部は、空いたスペースにこれでもかと箱型の荷物が積みこまれており、とても快適とはいえない窮屈な様子。

 ただでさえ、哀れな奴隷。それも、こんな年端もいかない子供達ばかりとなれば……もし、涙ながらに助けを求められたら、大いに悩んでしまうだろう。

 そんな気持ちもあってか、荷物の点検は早々に切り上げ、通行許可は下りた。

「通ってよし」

「はいよ、ご苦労さん」

 そうして、可哀想な子供達を満載した奴隷の荷馬車を、ダークエルフの兵士は沈痛な面持ちで見送った。

 それから、30分後。

「ヘイ! さっさと失せるデス、このゲスが!」

 ドン、と思いっきり蹴飛ばされて、奴隷商人の顔傷男は馬の背から転げ落ちた。

「ぐぅ、クソっ……ガキどもが……」

「舐めた口きいてると、折角拾った命を落とすことになるの」

 ぐぬぬ、と呻きながら、顔についた泥を拭い男は立ち上がって、馬車の上でふんぞりかえる二人の少女を見上げた。

 短めの金髪に、犬の耳のように跳ねたくせ毛が特徴的な色白な少女が、レキ。

 一見すると、明るく元気な少女にしか思えないが、パンチ一発で騎馬兵をブッ飛ばすほどの超人的な怪力を誇ることを、男はすでに知っている。

 長いウェーブがかった銀髪に、ダークエルフのような褐色肌の少女が、ウルスラ。

 一見すると、大人しい物静かな少女にしか思えないが、白い霧のような謎の魔法を操って、人間を瞬時に骨に変えてしまう恐ろしい魔術士であることを、男はすでに知っている。

 この二人は、スパーダを出発する直前に、急遽、入荷された商品だった。身寄りのない、ド田舎から冒険者に憧れて首都に出てきた、身の程知らずのガキ。だが、二人とも違った魅力の、そうはお目にかかれない可愛らしい少女である。さらってでも、手に入れる価値があると、この稼業も長い男には一目で分かった。

 そして、レキとウルスラを加えて出発したその日の晩に、反乱が起こった。

 突如として、固く閉ざされた荷馬車の扉が吹き飛んだ。鉄で補強までしてある、奴隷を閉じ込めるための特別仕様の扉がだ。

 そして、男は地獄を見た。

 たった二人の少女を相手に、それなりに護衛としての実力があるベテランの傭兵達が、ほぼ一方的に蹂躙された。

 気づいた時には、もう自分一人しか残ってはいなかった。

「ふん、どうせお前らは、すでに売られた奴隷だ。バクスター総会から、逃げられると思って――」

「ファック!」

 レキが投げつけた石コロが、男の頭部にクリーンヒットすると、そのまま仰向けに倒れて昏倒した。

 そうして、気絶した男を道端に置き去りにして、とりあえずガタゴトと馬車は出発する。

「……それで、これからどうするんだい?」

 御者は乗馬ができるレキに変わり、車内に残ったウルスラへ、奴隷組みの最年長である少年、クルスはどこまでも不安そうに問いかけた。

「ひとまず、国境を越えたからすぐに追手がかかることはないの」

「でも、あの男も、他に逃げた傭兵もいるから、僕らが逃亡したことはすぐにバクスター総会に知られることになるよ」

「全員始末できなかったことが悔やまれるの」

「こ、怖いこと言わないでよ……」

 傭兵達はレキとウルスラのコンビなら余裕をもって全滅できる程度の戦力だったが、流石に荒事には慣れているのか、不利とみるや、一目散に逃げて行った。元々、馬に乗っていた彼らを、追撃するだけの足を二人は持ち得ておらず、半数ほどの逃走を許してしまった。

 生き残りの顔傷男を、あの場で殺さずにここまで同行させたのは、スムーズにファーレンへ入国するのに必要だったから。一度国に入れば、もう用済みである。

 殺した方がより安全、ではあるが、戦いの勢いがない状態で、平然と人殺しができるほど、レキもウルスラも慣れてはいない。それに、小さな子供達がいる前で、あまり殺しはやりたくなかった。

「確かに、その内に追手がかかるのは、間違いないの」

 二人をさらったバクスター総会は、本拠地をアヴァロンに置く、中部都市国家群では有名な、大手の奴隷商である。

 奴隷売買という職業柄、こういった違法行為に手を染めることも間々あるが、表向きには公に認められた活動をしている。セレーネの海運を利用することで、大量の奴隷を売買できる。レキとウルスラも、捕まったままであれば、どこかの港に運び込まれて、遠い異国へと売られていったであろう。

 だが、多数の国家間をまたいで活動するほどの大手だからこそ、ファーレンへの入国手続きを簡単に行える便利な通行証も所持していたのだが。

「ファーレンは活動が盛んではない、けれど……逃亡奴隷を探すくらいのことはできるだろうね」

「二度と奴隷と言うな」

「えっ」

「私もレキも、クルスも、ここにいるみんなを、奴隷と呼ぶのは許さない。私達は自由なの」

 不機嫌に口を尖らせるウルスラに、クルスはドキリとさせられる。

 クルスは自分を含め、ここにいる子供たちは全員、経済的な事情で売られた正式な奴隷である。両親から直接売られた子もいるし、身寄りのない孤児として、孤児院や村から口減らしの為にやむなく売られた子もいるだろう。

 あと一年で成人を迎える14歳のクルス以外の子は、みんな、10歳前後。その幼さで、奴隷という存在のことを本当に理解できている子はどれだけいるだろうか。あるいはクルスでさえ、まるで分かってはいないかもしれない。

 何となく、苦しい未来が待っているのだという、漠然とした不安を抱えているのは同じ。そして、それを感じていながらも、奴隷として売られた自分の境遇に、諦めてしまっているのも、同じであった。

「私達は奴隷じゃない。だから、今はちょっと、悪い奴らから逃げている最中なだけなの」

「そ、そっか……そう、だよね……ありがとう」

「なんで感謝してるの。意味不明」

 本気で首を傾げるウルスラには、あえて自分の気持ちを説明する気にはなれなかった。

 奴隷ではない、と堂々と言い切ったその一言に救われた気持ちなど、言葉で説明するのは無粋というものだろう。

「それでも、僕らはみんな売られてしまっているから、故郷に帰るワケにもいかないんだ」

「それは私とレキも同じ。帰るつもりはない」

「そうなると、自分達だけで生きていかなきゃいけないけれど……」

「しばらくは何とかなるの。あぶく銭があるから」

 まんまと睡眠薬を盛られて身ぐるみはがされた二人は、クロエから与えられた金貨は全て巻き上げられていた。残るのは着の身着のままだった修道服だけである。

 だが、護衛の傭兵を蹴散らした今、この馬車を含めて所持していた荷物は全ていただいている。流石は大手奴隷商だけある、所持金は結構なモノだし、高価な魔法具マジックアイテムなどもあった。十人ほどの子供が食べていくだけなら、しばらくは持つ金額が、手元にはある。

「でも、追手がかかれば、どこかに落ち着いて暮らすことも難しいよ」

 奴隷商にとって、逃亡奴隷の発生は何としてでも阻止しなければならない問題だ。商品としての損失だけでなく、管理体制など、信用の問題にも関わる。

 さらに、奴隷の存在が公に認められるということは、奴隷は所有者の財産ということでもある。これを不当に損失させることは、法的にも許されない。

 好きな女が奴隷になったからといって、対価を払わずに連れ去っていくのは、正義ではなく、単なる犯罪行為。他人の財産を盗んだ、泥棒である。

 故に、逃亡奴隷などの捜索は、場合によっては国の騎士団が行うこともあるし、少なくとも情報が回り、見かけたら所有者へ連絡するくらいの仕事は果たされる。

 つまり、逃亡奴隷は、騎士団や憲兵の目がある街中で大手を振って暮らすことは難しいのだ。

「しばらくは逃亡生活になるの。だから、そのための準備が必要」

「と言っても……どうするつもりなんだい?」

「だから、今度こそ冒険者になるの」

 ふんす、と鼻息荒く気合を入れるウルスラに、「今度こそ」ってどういう意味なのか、問いただすことはクルス少年には戸惑われた。




「ふぉおおー、これがギルドカード、デス!」

 レキが天高くかざしたアイアンのギルドカードが、陽光を受けてキラリと輝きを放つ。

 つい先ほど、ファーレンの冒険者ギルドにて発行されたばかりの、ランク1を示すギルドカードであった。

 クラスは『戦士』と表記されている。

「やっと冒険者になれた……長い道のりだったの」

 ウルスラも、手にしたギルドカードをしみじみと眺めていた。

 クラスは『魔術士』と表記されている。

「な、なんで僕まで……」

 と、困惑した顔で、クルスは自分のギルドカードを見る。

 クラスは『治癒術士』。

治癒魔法ヒールが使えるなら、治癒術士デスよ」

「冒険者パーティに回復役ヒーラーは基本なの」

「いや、ホントに僕は『微回復レッサーヒール』が使えるだけで、魔力も全然だし、そもそも戦いなんて無理だし!」

 このまま真っ直ぐ最寄りのダンジョンに突撃していきそうな二人に対して、クルスは割と本気で己の無力を訴えかけていた。

 奴隷商の傭兵達を簡単に蹴散らした、レキとウルスラの力は尋常ではない。特別な能力を秘めた、あるいは加護を授かる二人だというのは、あの戦いぶりを見れば子供のクルスでも一発で分かる。そんな二人に、何ら特殊な力など持たない自分が一緒に冒険者をやるなど、振り回される予感しかしない。

「そう心配しなくてもいいの。クルスはついでだから」

「こんな貧弱ボーイを戦わせるワケにはいかないデース」

 バンバン、とレキが背中を叩いてくるのが、地味に痛い。けれど、彼女の馴れ馴れしさが恥ずかしくもあった。

「バトルはレキ達のお仕事!」

「クルスの役目は、基本、子守りなの」

「男として情けない気はするけれど、そうさせてもらうよ」

 ややホっとするクルス。二人の戦いになど、どう頑張ってもついていける自信がない。

 無力な少年ではあるものの、今のメンバーの中で最年長であることは紛れもない事実でもある。故に、他の子供達の面倒を見るのは、まずは最も年上であるクルスの役目になるのは当然でもあった。

 しかし、こんな状況になれば、小さな子供達など邪魔者にしかならない。

 どこか適当なところで、なんなら、このまま冒険者ギルドの前に停めた馬車の中に放置したまま、自分だけ逃げ出したっていい。

 レキとウルスラは間違いなく、冒険者として独立し、すぐに成り上がれるだけの実力がある。たまたま同じ馬車に乗せられていただけの、赤の他人の子供など放っておいて、二人でどこへなりとも行けばいい。

 クルスにしても、読み書き計算と多少の学はあるし、『微回復レッサーヒール』という一応の魔法技術も持っている。何とか、一人で生きていけるだけの技能があるのだ。

 下手にこの子供達の面倒を見るせいで、追手に捕まるかもしない。逃げた奴隷の子供が、全員一緒にいるままなら、バラバラに逃げるよりも遥かに目立つ。発見のリスクも格段に高い。

 身の安全を考えれば、子供達を見捨てるのが最善だが――それを、レキもウルスラも、一度も口に出したりはしなかった。

 いっそ、その方法に気づいてさえいない、というほどに、彼らの世話をしていくのは当然といった態度である。

 まだ出会って数日、だが、話している内に、レキはともかく、ウルスラはかなり頭が良い子だというのを、クルスは感じていた。だから、最善の方法に気づいていない、なんてことはありえない。

 だから、これはきっと、二人の意思であり、意地であり、正義なのであろう。

 そこまで察しておきながら、クルスは「子供達を見捨てた方が安全だよ」などと、言い出せるはずもなかった。言ったら、その場で二人に半殺しにされる想像が容易に浮かんだ。

 ともあれ、クルスとしても、遠くオルテンシアから道中一緒で、途中は励ますこともあったし、全員の名前を覚えるほどには知り合ってしまった子供達を、見捨てていくのは忍びない。冷酷な選択をせずに済んだこと、そして、子供達をみんな抱えても何とかやっていけるだけの力を持つ二人に、クルスは素直に感謝の念を抱く。

「それで、次はどうするんだい? このままクエストでも受けるのかな」

「旅に必要なモノを揃えたら、この町はすぐに出るの。ここに私達が寄ったことは、すぐに追手にも分かるはずだから」

 奴隷商の馬車をそのまま奪っているので、基本的に旅に必要なものは揃ってはいる。だが、これからはどこまで行くか分からない、あてどもない逃避行が続くはず。十人の子供達が旅していく用意はしておきたい。

 それに、倒した傭兵から剥ぎ取った、余分な武器や防具などもある。いらいないモノはさっさと売り払って、荷物を減らしてクランも欲しい。

「でも、途中でモンスターが出たら、フリーで倒して稼ぐデス!」

 いざとなれば、モンスターを狩って収入を得られるのが、冒険者としての強みでもある。

「うん、君たち二人がついていれば、大丈夫な気がするよ」

「ふふん、レキ達に任せるデス!」

「必ず、みんなで逃げ切ってやるの」

 そうして、子供達の旅は始まった。




 清水の月16日。

 ガタゴトと荷馬車を揺らして、大きな二頭立ての馬車がファーレンの街道を進んでゆく。鬱蒼と生い茂る森の中を貫くように敷かれた街道は、優しい木漏れ日に照らされて、美しくも静かな空間となっている。

「オイ、待ちやがれっ!」

 だが、激しい怒声と、けたたましい馬のいななきによって、静謐な空気は一変。俄かに、剣呑な気配に包まれる。

「行けっ、馬車を止めろ!」

「囲め、囲め!」

 街道を勢いよく駆けてきた、何十機もの騎兵によって、ゆっくり進んでいた馬車はあっという間に取り囲まれ、行く手を遮られる。強引な走路妨害によって、馬車はその歩みを止めるより他はなかった。

「へへっ、ようやく追いついたぜ、ガキども」

「バクスター総会から逃げ切れると思ってんのかよ」

「さっさと出てきやがれ!」

 停止した馬車に向かって、怒声を張り上げる彼らの正体は、勿論、大手奴隷商『バクスター総会』が派遣した、逃亡奴隷捕縛の追手である。

 その先頭には、ファーレン入国に利用された、顔に傷のある男が立っていた。奴隷の子供にいいようにされて、彼の傭兵として、戦う男としてのプライドは酷く傷ついているのだろう。馬車を睨む男の目は、殺意と憎悪でギラギラ輝いている。

「オラァ、出てこいガキどもぉ! ぶっ殺されてーかぁ!!」

 本当に後先考えずに、殺してしまいそうな怒りの叫び。

 それに応えるかのように、ギィイ、と馬車の扉は開かれた――その瞬間である。

「消し飛べ――『白流砲ホワイト・ブレス』」

 真っ白い竜巻が、解き放たれた。

 それは、風属性の上級攻撃魔法『大嵐剣舞エール・フォースブラスト』のようでありながら、無数に舞う風の刃で切り刻むよりも、さらに凶悪な力を秘めていた。

吸収ドレイン』。あらゆる魔力を吸収する効果は、その出力が強まれば、瞬時に生命力を根こそぎ奪い取り、相手を骨に変えてしまう。

 その力を収束し、一挙に解き放つ『白流砲ホワイト・ブレス』は、ウルスラの必殺技。体長十メートルを誇る大型のグラトニーオクトの成体を一撃で滅するほどの威力を誇る。

 ウルスラという少女が、白い霧状の吸収魔法を行使する、ということは、最初の反乱を経験した顔傷男は承知していた。だから、怒りに燃えながらも、警戒はしていた。

 ガードできるように、今回は魔術士を三人も連れて来たし、自身も魔法防御に特化した防具で身を包んでいる。

 だが、彼は完全に見誤っていた。前の戦いの折、ウルスラは持てる力の半分も出してはいなかったと。

 その結果、街道には乗っていた馬諸共、綺麗に白骨化した遺骨がバラバラと転がった。

 右から左に、大きく薙ぎ払うように放たれた『白流砲ホワイト・ブレス』の射線上にいた者で、無事な者は一人としていない。

 生き残ったのは、馬車を止めるために、前方へと回り込んでいた、数人の傭兵のみ。

「えっ、はっ? なんだよ、今のは……」

「み、みんな消えた……オイ、聞いてねぇぞ、こんなヤバい奴が相手なんて――」

 僅か十秒もしない内に壊滅状態となったのを目の当たりにして、傭兵達は慄く。

「ヘイ、今回は、一人も逃がさない、デェーッス!!」

 そして、彼らが逃げ出すよりも早く、右手に大剣、左手に大斧を握った、バルバトスの猛獣が襲い掛かるのだった。

「フゥー、お疲れサマー、デス!」

「『白流砲ホワイト・ブレス』を撃つと疲れるの」

 首尾よく追手を殲滅したレキとウルスラは、いつものように無邪気に喜びあう。

「う、うわぁ……本当に、全滅、してる……」

 戦いが終わるまで、馬車の中で子供達と身を寄せ合って大人しくしていたクルスは、外の様子を見て戦々恐々としている。二人の強さを知っているつもりではあったが、何十人もの傭兵を一網打尽にした光景は、想像を絶していた。

「悪い奴らはレキ達が倒したデス! さぁ、みんなで剥ぎ取るデスよ!」

「根こそぎ奪いとってやるの」

 子供達とて、ただ過保護にしているだけにもいかない。小さな子供であっても、できることはやってもらう。お手伝い、否、これは生きていくために必要な、立派な仕事である。

「うわぁ、ほ、骨だぁ……」

「骨のお化けなの?」

「私知ってる、スケルトンっていうんだよ」

白流砲ホワイト・ブレス』によって、綺麗な白骨死体と化した傭兵を、子供達はおっかなびっくり、つついてた。

「ヘイヘイ、こんなのただの骨骨ボーン、怖がることはないデスよ」

「この骨の持ってるモノが、お金になって、今日の美味しいご飯になるの」

 だから、早くみんなで追剥ぎしよう、とレキとウルスラが子供達を先導している。

「はぁ……これじゃあ、どっちが悪者だかわかんないよ」

 平然と死体から金目のモノを奪い去って行くのは、如何にもな悪行。

 だがしかし、子供達と一緒に楽しそうな笑顔で、骸骨の装備を剥ぎ取って回るレキとウルスラの姿は、かつてお世話になっていた修道院の壁画に描かれた、愛らしい天使のように見えたのだった。

 2018年4月27日


 今回で第33章は終了です。

 先日、活動報告にて簡単に近況報告などもしました。気になる方はどうぞ。

 それから、前の第32章と今回の第33章について、近い内にまとめて解説のための活動報告を更新したいと思いますのでも、こちらの方も合わせて読んでいただければ幸いです。

 それでは、次回もお楽しみに!

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