第648話 バグズ・ブリゲード
「――というワケで、緊急クエストに参加するぞ」
「おー!」
「はぁ」
「了解です、マスター」
宿に戻って、ざっと事のあらましを語り終えると、三者三様の返事がきた。
幼女リリィは話半分しか聞いてなさそうで、フィオナは普通に眠そうで、サリエルだけ真面目に聞いてくれた感じだ。
そりゃあみんな、ランク5冒険者だけど、ちょっと余裕こきすぎではないだろうか。
「えーと、大丈夫か?」
「何がですか?」
「一応、緊急クエストで、相手もランク5級なんだけど」
「今回は『エレメントマスター』がフルメンバーですよ。クロノさんの試練も終わりましたし、相手は野生のモンスターですので十字軍も関係ない。それに、別に私達だけで戦うわけでもないですし、そう身構えることもないでしょう」
淡々としたフィオナの回答を聞けば、なるほど、ただボーっとしてたワケでもないようだ。
確かに今回の緊急クエストは、俺達だけが頑張らなければいけない話でもない。グラトニーオクト討伐のように、俺達しか倒せる見込みのある者がいない、っていう絶望的な戦力状況ではないからな。
むしろ、たまたま現場に居合わせただけの俺達みたいな冒険者は、ちょっとした支援程度で、矢面に立つ必要すらないかもしれない。モリガンを守るための戦いならば、ここに住む者達が主役となるべきだ。
「そうだな、今回は俺達があんまりしゃしゃり出なくてもいい戦いだよな」
「マスター、敵戦力によっては、私達の力が必要になる可能性はある」
おっと、ここで一番真面目ちゃんのサリエルが意見を出したぞ。わざわざ彼女が口を挟むということは、それだけ意味があるということだ。
「『バグズ・ブリゲード』の巣には、二種類ある」
「ああ、ただの住居になってる巣と、女王がいる中枢巣だろう」
『バグズ・ブリゲード』は、名前からして当然、ポーンからキングまでのモンスターが揃っているのだが、繁殖して数を増やせるのはクイーンのみだ。
ハイヴと呼ばれる普通の巣は、クイーンは不在で、それ以下の虫型モンスターが集まっている住居、いや、さらなる勢力圏を拡大するための、前哨基地としての役割を果たしている。
このハイヴは本隊が増援を送らない限り、モンスターの数が増えることはない。災害級の危険度には認定されているが、まだ対処が楽な方で、しっかりと戦力を揃えれば損害を出さずに潰すこともできる。
しかし、クイーンのいるセントラルハイヴとなれば、話は別だ。
こっちは放っておけば、どんどん繁殖して敵兵力が増えていく。巣を攻略するための兵力を集める時間さえ、限られてくるのだ。
「黒き森の巣がセントラルハイヴだった場合、今回の戦いの危険度は跳ね上がる。合わせて、モリガンは地形上、戦力の集結を速やかに行うことは難しい。場合によっては、モリガンの戦力のみでセントラルハイヴを攻略するか、王都からの援軍が到着するまで防衛に徹する、という選択もありうる」
「もしセントラルハイヴ攻略を強行するなら、私達の力が必要となる可能性が高い、と」
「それなら、そうなってもいいように、準備と覚悟はしておこうじゃないか」
不運に巻き込まれたようなものだが、理不尽とリスクは承知で、目の前の障害を乗り越えていけなければ、きっと十字軍に勝つことなどできないだろう。
フィオナなんかは、今回のは余計な戦いだと思ってあまり気のりはしないかもしれないが……緊急クエストと銘打たれるほどの危機があれば、飛びこまなければ嘘だろう。すでに俺は、試練を乗り越えて、魔王の加護を授かっているのだから。見て見ぬフリなんてダサい真似、できるはずないだろう。
「では、明日に備えて寝ましょうか」
「それでいいのかよ」
「いいですよ。ほら、リリィさんももう寝てますし」
気が付けば、リリィは俺の膝の上ですぴーと寝息を立てている。
まぁ、もう真夜中だし、リリィでなくてもとっくに寝ている時間帯だ。
「そうだな、細かいことは夜が明けてからでいいか」
というワケで、事情説明もそこそこに、早々に就寝することに。
「それでは、おやすみなさい、マスター」
「ああ、おやすみ」
眠るリリィを猫のように抱えて、サリエルが部屋を出ていく。
そして、フィオナが当たり前のような顔をして残っていた。
「なぁ、フィオナ、これはその、そういうことなのか」
「いざという時に備えて、私も『暗黒太陽』が撃てるよう、黒色魔力は補充しておこうと思って」
いよいよ発想がサキュバスじみてきたな。
「そうか、望むところだ」
「珍しいですね、クロノさんがそこまでノリ気なのは」
別に性欲がないわけじゃない。ただ、相手が大切な人だからこそ、そうストレートに性欲はぶつけられないだろう。
けど、今夜ばかりは少々、勝手も異なる。
「あんなに強力な誘惑を断ってきたからな。正直、大人しく寝るには苦しいんだ」
「そうですか。私も、嫉妬心が燃えて、一人で眠れそうもありません」
「そうなのか?」
「メラメラです」
ブリギットに迫られたくだりも、俺はありのままに話してある。彼女達も予想はしていたのだろうか、話している最中は、特に口を挟まれることもなかったが……やはり、こういうことがあれば、良い気分ではないだろう。
「悪いけど、今夜はどこまで抑えられるか、自信がない」
「いいですよ、私も随分と慣れたものです。もう、最初の頃のような無様は晒しません」
「……本当に大丈夫?」
「余裕ですよ」
フィオナ特有の、不安感を煽る自信満々の顔である。
けど、今夜ばかりは、甘えさせてもらおう。
すでにしてベッドに座り込み、薄着のフィオナに体を寄せられた体勢で、いい加減に我慢できそうもない。
「それじゃあ、頼むぞ」
「どんと来いです」
あんまり雰囲気のない変な物言いのフィオナが、妙に可愛くて仕方がない。いよいよ抑えの利かなくなった俺は、いつもよりやや強引に、彼女の体を抱き寄せて、唇を落とした。
翌日、白金の月13日。
俺とブリギットが戻ったのは夜中だったが、『バグズ・ブリゲード』出現の情報は緊急性が高いものだ。夜の内に情報は町中に広がったようで、早朝からモリガンは慌ただしくなっていた。
人々の不安や焦燥が入り乱れるこの感じは、まさに戦の気配。事態が動き出したことを実感しながら、俺はベッドを抜けた。
「フィオナ、大丈夫か?」
「少し、一人にさせてください……」
布団にくるまって、背中を向けるフィオナの言葉が弱々しい。
「あー、その、なんだ……ごめん」
「謝らないでください。かえって、惨めになるじゃないですか」
「まぁ、そんなに気にするな。これから少しずつ、慣れていけばいいじゃないか」
「うぅ……」
あっ、いかん、もう泣きだしそうだ。
これ以上は一緒にいない方がいいだろうと、俺はそそくさと服だけ着て部屋を出た。
「おはようございます、マスター」
「うおっ、サリエル!? いきなり出るなよ」
「申し訳ございません」
気まずい気分でドアを開けた途端に、待ち構えたかのようにサリエルと出くわし、思わず理不尽なケチをつけてしまった。そんなことに素直に謝るサリエルは、まだ人形的だと嘆くべきか、メイドの鑑と褒めるべきか。
「朝食の準備はできています」
「そうか。あー、でも、フィオナはちょっと……」
「フィオナ様の分は後ほど、部屋に運ばせるよう手配しておきました」
「ああ、その方が助かる……っていうか、何でそんなに気が回る?」
「メイドとして当然の務めかと」
ヒツギみたいなこと言いやがる。ジワジワと影響されつつあるのだろうか。
「いや、そうじゃなくて、何でフィオナが起きてこないのか、もう知ってるんだと」
「昨晩のマスターは性的に昂ぶっていた。フィオナ様が激しい行為に耐えられないとの推測は容易」
やめてくれ! そういうの、冷静に分析しないで!!
でも、大正解。
ちょっと久しぶりに、フィオナが白目剥いて気絶するところを見てしまった。
実のところ、いつもは彼女の体に無理がかからないよう、俺は基本的にじっと寝たままで、動くのは全て相手に任せる感じにしている。
でも昨晩だけは俺もちょっと興奮してたもんだから……その……つい……
「嫌な予感はしてたが、そこまで見透かされてるとめっちゃ恥ずかしいんだけど」
ほら、フィオナの女性としての名誉もね?
「恥じる必要はありません。第四の加護の影響を受けるマスターを相手に、人間の女性であるフィオナ様の肉体が快楽に耐えきれないのは、当然の結果。どちらにも、取り立てるほどの非はない」
「そういうフォローはかえって傷つくから、フィオナには言うなよ」
「はい、マスター」
さて、気まずい朝を乗り越えて、どうにかこうにか、俺達『エレメントマスター』は満を持して、モリガン冒険者ギルドへと向かう。
実際に外を出て町を歩くと、その慌ただしさは肌で実感する。行き交う人々は、モンスターの脅威と不安を語る言葉ばかり。どうやら、一部の住民は早くも隣の町へ避難するよう準備を始めているらしい。
それでも、宿とギルドのあるこの辺はマシな方だろう。避難を優先するのは、黒き森に接する東側の地区だ。逃げ出す市民と、防衛、あるいは討伐に向けて兵が集結しているだろうし、かなりの混雑が予想される。
ちなみにモリガン冒険者ギルドは、ツリーハウスではなく、ちゃんと地面の上に建つ大きな館である。
「おお、冒険者ギルドも賑わっているな」
「ちょうど今頃、緊急クエストの受注手続きが始まっているのでしょう」
昨晩の醜態をまるで感じさせない、いつもの表情に戻ったフィオナが言う。うん、早めに立ち直ってくれて、一安心である。
「俺達も急ごう」
そうして、堂々とギルドへと乗り込む。
扉を潜れば、目立つのはやはり、ダークエルフの冒険者たち。流れの冒険者も、わざわざモリガンまで足を運ぶ者は少ないだろう。多くは地元の冒険者であろうと思われる。だから、俺達のようなメンバー構成は、普段よりも目立つ。
褐色肌のいかつい野郎どもから、一斉に値踏みするような視線が突き刺さる。
「よう、アンタ見ねぇ顔だな?」
見ているだけで我慢できなかったのか、野郎共の中から、一人の男が俺へと絡んできた。
がっしりした体系のダークエルフの男。使い込まれたモスグリーンのマントを纏い、装着した鎧は、革と金属製が半々といったハイブリッド。自分の戦闘スタイルに合わせた、実に冒険者らしい装い。
無造作に伸びたような銀髪に、白い髭を生やした上に、頬には大きく縦に走った傷までついており、粗野な雰囲気の強面だ。しかし、エルフと並んで美形のダークエルフだけあって、こんなナリでもハリウッド俳優のようなナイスミドルである。
首から下げられたギルドカードは金色。ランク4だ。
「ああ、モリガンには初めて来た」
「可愛いお嬢ちゃんを三人も連れて、良い御身分だな。お坊ちゃんの物見遊山なら、今日はもう帰った方がいいぜ?」
へへへ、と笑い声がちらほらと聞こえた。
典型的な挑発の台詞ではあるが、それを言った本人の目は笑ってはいない。
なるほど、この如何にもベテランといったダークエルフの冒険者の男は、ホームで余所者相手にイキがる単なるチンピラではないようだ。
不意に思い出したのは、ヴァルカンと冒険者ギルドで決闘した時のこと。
「心配には及ばない、俺達は冒険者だ」
「へっ……知ってるぜ、ランク5冒険者パーティ『エレメントマスター』。スパーダを救った、ガラハド戦争の英雄様だろ?」
ほらな、やっぱりコイツ、分かっていて絡んできたのだ。
「緊急クエストを受けにきた」
「スパーダの次はファーレンでも名を上げようってか?」
「ただの通りがかりだ」
「そのまま通りすぎてもらっても構わねぇぜ――ここはモリガン、俺達、ダークエルフの街だ。ここにはここのやり方ってのがある。功に逸って、邪魔だけはしてくれるなよ?」
「ああ、注意しよう」
「俺はランク4のディラン。クイーンを倒すのは、この俺だ。お前らの出番はねーぜ」
「クロノだ。俺は虫を始末できれば、それでいい」
一応の自己紹介を交わし、ディランと名乗った男は、そのまま去って行った。
「どこにでも、ああいう輩はいるものですね」
「そう言うなよ、フィオナ。多分、あの人は余計な騒ぎが起きないように、あえて自分から釘を刺しにきてくれたんだ」
緊急クエストが発令され、さらに、相手は『バグズ・ブリゲード』だから、モリガン出身の冒険者からすれば、緊張と不安で気が立っている。そこに、超絶美少女三人連れたハーレム男の余所者が現れれば、それだけで気に障って余計な揉め事が起きる可能性は高い。
しかし、ランク4で恐らくは地元でも実力者として名前が売れているだろう、あの男が最初に俺に絡んできたから、後に続く奴はその気が削がれる。結果、揉め事は何も起こらないといった寸法だ。
何も知らずにいれば、一方的に偉そうにケチをつけられて、嫌な気分になるだけだが、これも冒険者流の気遣いだと思えば、悪い気はしない。
「んー、あの人、ランク5に上がりたいから、リリィ達のことすっごい警戒してたよー?」
「マジか」
本当にただのイチャモンだったとは……勘違い恥ずかしいです。
今すぐ帰りたい気分になったが、ここへ来た目的は果たさなければ。
緊急クエストは、大きな掲示板に見落としようがないほど、デカデカと依頼書が張り出されていた。
緊急クエスト『セントラルハイヴ攻略』
報酬・30万クラン・追加報酬アリ
期限・ハイヴ攻略完了まで
依頼主・モリガン神殿大神官・アグノア・ミストレア
依頼内容・黒き森の中層域にて、『バグズ・ブリゲード』のセントラルハイヴの出現が確認された。巣はすでに大きな規模にまで拡大しており、放置すれば一週間と経たずにモリガンは虫モンスターの大群に飲み込まれる。一刻も早く、女王を倒し、巣を完全に駆除しなければならない。尚、今回のクエストは神域たる黒き森で行われるため、騎士団および冒険者は全て神殿の指揮下に入る。
「――やっぱり、女王がいるのか」
クエスト名は堂々とセントラルハイヴと銘打たれ、依頼内容でも女王が確認されていると明記されている。
俺達が戻った後、すぐに調査隊を派遣したのだろう。
「なぁ、女王って大体、巣の一番奥にいるもんなんじゃないのか? よく確認できたな」
「セントラルハイヴは、通常のハイヴと構造が異なる。女王の姿を確認する必要はない」
「詳しいな、サリエル」
「『バグズ・ブリゲード』はシンクレア共和国でも、一時、猛威を振るった危険なモンスター。私も以前、セントラルハイヴの攻略に参加したことがある」
まさかの経験者である。
「その時は、どんな感じだったんだ?」
「まだ巣は小さく、敵兵力も少数。使徒の力があれば、単独で潜り、女王を討つことは容易。討伐時間は、約7分」
第七使徒だった頃のサリエルは、やっぱり強すぎて戦いの経験が全く参考にならないな。
「クロノさん、冒険者の討伐隊の第一陣は、昼過ぎに出発する予定だそうです」
「そうか、待った方がいいかな?」
「今回は時間の猶予はない。現場へ急行する方が望ましい」
みんなと足並みを揃えるよりも、万一に備えて俺達だけでも駆けつけた方がいいってことか。確かに、奴らの方が先にモリガンへの進軍を始めても、俺達がいればある程度までは足止めすることも可能だ。
『エレメントマスター』がフルメンバーだから、充実の火力である。
「それじゃあ、すぐに行こう」
「道は分かるんですか?」
「任せろ、近道を知ってる」
つい昨晩、通って来たばかりだからな。忘れるはずがない、というより、どうせまた使うだろうと思って、魔手の触手をちょこちょこと枝に巻いて、目印を残してある。
あのアクロバティックな樹上の悪路も、ウチのメンバーなら走破するのに問題はない。
善は急げとギルドを飛び出し、俺達は黒き森へと向かった。
「一応確認するけど、『バグズ・ブリゲード』と戦った経験はあるか?」
つい先ほど、サリエルからソロ攻略の経験を語られたので、気になってしまった。
「私は普通のハイヴ攻略には参加したことあります。大した規模でもなかったですし、突入組でもないので、特に詳しいわけではありませんね」
そりゃあ暴走魔女全盛期な学生時代のフィオナを、狭苦しい巣の中に同行させたいと思う奴はいないだろう。
遺跡系ダンジョンは、オーバーテクノロジーな古代の建築物だからかなり頑丈にできているものの、モンスターが作った程度の場所なら、大爆発一発で崩壊しかねない。
「リリィはねー、森に蟻さんがきたことあるよー」
「妖精の森に? 大丈夫だったのか?」
「リリィが全部焼き払ったから、大丈夫だよ。二十年くらい前かなー」
幼女の姿で二十年前の思い出話されると、ちょっとリアクションに困る。
どうやら、妖精の森付近に通常型の巣ができたことがあったらしく、そこからやって来たポーンアントの尖兵が、森に入ったところ、守護神たるリリィに殲滅させられたという。巣の方は、順当にダイダロスの騎士団と冒険者の合同で駆除されたらしい。
「みんな、何だかんだで経験あるんだな」
「割とありふれたモンスターですからね」
アーク大陸でも、パンドラ大陸でも、存在しているのだから、かなりの生息範囲であるのは間違いない。そして、その数の脅威から、どこでも災害級モンスターとして危険視されているのだ。
「俺は昨晩に戦ったのが初めてだよ」
相手はカマキリと蜘蛛の二種類。大した数じゃなかったから、上手く凌げたと考えるべきだろう。
全ての兵が揃った軍団で襲われたら、流石に武器もないと逃げる以外の選択肢はない。
奴らの基本的な構成は、以下の通り。
『ポーンアント』。名前の通り、兵隊アリである。最下級に属し、最も数が多い。危険度ランク1だが、サイズと群れの数によって、ランク2にもなる。
『ナイトマンティス』。騎士カマキリ。アリより何倍も強い、奴らにとっての精鋭兵。危険度ランク3。
『ビショップビー』。僧正蜂。軍団の航空兵力を担う、蜂型のモンスターだ。『毒』や『麻痺』などの効果を備えた毒針と、下級だが攻撃魔法も行使する。アリと同じく、サイズと群れの数によって、ランク2から3に変動する。
『ルークスパイダー』。砦蜘蛛。岩の様な大きく分厚い甲殻に、巨躯を備える大型モンスター。俺が戦った奴らは、あれでかなり小さいほうだ。砦の名に相応しい巨体を誇る奴は、基本的に巣の防衛に徹している。危険度ランクは4。
この辺までが、主に戦うこととなる奴らだ。コイツらの中には『変異種』と呼ばれる、より大型になったり、足や羽が増えたり、扱う属性が異なったりと、姿と能力が変わったより強力な個体が存在する。大抵、どこの巣にも一種類くらいは変異種がいるという。
セントラルハイヴとなれば、この変異種の数も多く、より強力な能力を備える奴らが待ち構えているだろう。
それで、次の女王からは、一個体しか存在しない特別な種となる。
『クイーンバタフライ』。女王蝶。
「……」
「どうしたの、クロノ?」
「いや、なんでもない」
禍々しい赤黒い蝶の羽を持つ、嫉妬の女王リリィとは、何の関係もない。
そんなリリィと無関係の女王蝶は、軍団を率いる実質的な支配者にして、唯一、繁殖能力を持つ個体。
蝶とは名づけられているものの、その実態は女王蟻である。腹部が肥大化した巨大な産卵器官を持ち、餌さえあれば単独でポーンからルークまでの配下を生み出す。普段は巣の最奥で動くことなく繁殖を続けているが、名前の元となるように、巨大な蝶の羽を持ち、有事の際や巣を移す場合、自ら飛行して移動するらしい。
かなり大型のモンスターだが、繁殖に特化したためか、戦闘能力は低い。
『キングアラクニド』害虫王。
『バグズ・ブリゲード』の頂点に立つ真の支配者であるが、このキングが巣にいることは非常に稀であるらしい。セントラルハイヴでも、ほとんどが女王単独で運営しており、キングが発見されることは十年に一度あるかないかといった希少さだ。
しかしこのキング、もし存在した場合は最も危険な個体として対処される。『バグズ・ブリゲード』は女王の繁殖力と、その無数の兵力でもって危険度ランク5の災害指定されているが、キングは単独でランク5である。つまり、災害級のドラゴンに匹敵する、超危険なモンスターなのだ。
キングは発見ごとに毎回異なった外観をしており、能力も異なる。人型で人間サイズだったことも、女王を越える巨体だったこともあるという。そして何より、行使する能力が違うため、決まった攻略法が存在しないのが厄介な点だ。
一説では、女王はキングを生み出すために巣を拡大し続け、無数の獲物を喰らい、そこから王に相応しい能力を集めているのだとか。
「最悪、キングがいる可能性もあるのか……」
こういう時、大体、最悪のパターンを引き当てるんだよな。
嫌な予感を覚えつつも、俺達は秘密の近道を通って、黒き森の神殿へと急いだ。