第630話 機甲騎士
「むー、フィオナがいれば、火の壁で囲んで一人も逃がさないで殲滅できたのにー」
と、僅かに賊を取り逃がしてしまったことを、幼女リリィは不満そうに頬を膨らませて言う。
すでに、華麗に夜空へ出撃していったリリィは、幼女に戻っていた。本日の変身時間は終了である。
「いや、あれで十分だ、お疲れ様」
単独で百人規模の敵陣へ空から接近し、空爆を敢行。『雷電撃団』本隊を情け容赦ない光魔法のピンポイント爆撃によって、見事に壊滅させたのだから、十分すぎる成果といえるだろう。
それにしても、火の壁で囲めば、とかナチュラルに鬼畜な戦術を口にするリリィの才能が恐ろしい。いつか、十字軍の砦とかで試す日が来るかもしれない。
「それに、敵の大将も上手く生け捕りにできたしな」
「――ぐっ、クソがっ! 殺せ! さっさと殺せやぁーっ!!」
と、オークに掴まった女騎士のような台詞を叫ぶのが、『雷電撃団』三代目総長、ギャリソン・ライバックという男だ。
ド派手な金ピカの衣装と髪型、とその特徴的な外見情報はハイラムで聞いていたから、遠目に見てもコイツがそうなのだと分かった。あ、アイツが総長だ! と気づいた時には、もう『荷電粒子砲』をぶっ放す寸前だったから、巻き込んで殺さないよう慌てて射線を逸らしたものだ。
危うく消し炭にするところだったが、何とか捕獲に成功。
いやぁ、やっぱりこういう時にこそ、『雷撃砲』って便利だよね。
コイツの周囲にいたのはいわゆる幹部クラスというメンバーだったそうなので、とりあえず電撃で気絶させてその辺に転がしてある。
夜襲をかけたのは俺とリリィの二人だけだが、ここまではケイが率いる五十人ほどのハイラム防衛隊も同行してきている。今は散り散りに潰走していった賊を追っていったが、ほどほどで戻って来るだろう。
俺が捕まえた奴らは、ケイに引き渡せば後の処分はお任せになるが、その前に、やっておくことがある。
「暴走賊の総長となれば、処刑は免れないだろうが……お前には、聞きたいことがある」
というのは勿論、例の古代鎧の騎士連中のことだ。
一網打尽にするつもりだったが、奴らの中にそれらしい人物は一人もいなかった。リリィも空から見た限り、『雷電撃団』の陣地には間違いなくケンタウロスしかいなかったと、確認している。
ということは、この明らかに十字軍関係者と思しき連中は、最初から陣地にはおらず、奴らは奴らで別な場所に控えているということだ。
「おいコラ、この趣味の悪ぃ髑髏野郎が、この俺が仲間を売るとでも思ってんのかぁ!」
さっきまで電撃の余波でビクンビクンしていたのに、治ったらもう元気である。
でもまぁ、魔手の黒鎖で雁字搦めに縛ってあるのを、力づくで破るほどのパワーは感じないし、どれだけ彼が泣こうが喚こうが、さほど問題ではない。
「お前らと一緒にいた、白い鎧兜の騎士の奴らは、どこにいる?」
「へっ、知らねーな、そんな奴。ウチのチームカラーはギラギラ輝くゴールドだぜ。白なんつーシャバい色の奴は、俺が許さねーぜ!」
「お前達は、奴らに利用されているだけだ。義理で庇うほどの価値はない。素直に話せば、余計に痛い思いをしなくて済むぞ」
「ハハッ! テメェ素人かよ。こんなヌルい尋問してくるとは、どんだけ甘ちゃんのお坊ちゃんだよテメぇはぁあああばばばばばばばぁーっ!!」
ここで『魔手・雷撃鞭』発動。とりあえず、本気で拷問する気はありますよ、ということを伝えるために電撃を流してみる。
うーん、いざ、気絶もしない程度の威力でやってみると、感覚がいまいち掴めない。こんなもんでいいのだろうか。
「どうだ?」
「ぜぇ……はぁ……俺は、絶対ぇ……仲間は、売らねぇ……」
それなりに効いてはいるようだが、ギャリソンの目には激しい反抗心の炎が灯り、ギラギラと輝いている。
これは、ちょっと痛めつけた程度では、ベラベラと洗いざらい喋ってくれそうもないな。
コイツの言う通り、俺は拷問の素人だ。これ以上、痛みで脅していくのは、技術的にも気分的にも不可能である。
「そうか、残念だ。だが、こっちも急いでいるんだ、悪いが、手段は選ばない――リリィ」
「はーい!」
待ってました、とばかりに元気の良い返事を上げるリリィ。無邪気な万歳ポーズの彼女の手には、悪夢の魔法具が握られている。
「やってくれ」
「ホントにいいの?」
ソレを胸元に抱きかかえながら、可愛らしい上目使いで問うてくるリリィに、俺は迷わず頷く。
「ああ、構わない。『思考支配装置』の使用を、許可する」
「うん! それじゃあ、リリィ、頑張るね!」
悠長に尋問していられないなら、直接、脳を操って喋らせる。そんな悪魔のような方法を可能にするのが、リリィが作り出した『思考支配装置』だ。
手段を選ばずとは、こういうことである。
「……けど、幼女状態でソレって上手く使えるのか?」
覚悟はしたものの、素朴な疑問が。
「大丈夫だよ。コレはねー、リリィが本当のリリィになっているときに、ナントカしてあるから、リリィでも使えるの」
「ナントカ、って何だ?」
「さぁ?」
本当に大丈夫なんだろうか。これで失敗してギャリソンを廃人にしてしまったら……まぁ、その時は他の奴で試してみればいいか。
どうせ幹部クラスの奴らも、捕まれば同じく処刑である。
非人道的ではあるし、決して気分のいいやり方ではないものの、十字軍の陰謀を探るという目的がある以上、俺としては死刑確実の犯罪者の人権にまで配慮してやれる余裕はない。
「それじゃあ、えーと、頑張れリリィ」
「うん、頑張る!」
というワケで、ギャリソンへの洗脳尋問をリリィに任せた。俺はその最低最悪な方法を、目を逸らさずに見届けるのみ。
「ああ? おいおい、今度はこんなガキにやらせるつもりかよ。情に訴えようなんて最高に間抜けな作戦を思いついたんなら、今すぐやめとけ、ハハハっ!」
笑い飛ばすギャリソンの目の前で、カシュン、と音を立ててリングから何本もの針が飛び出す。
リリィの持つソレが、拷問器具だとでも思ったのだろう。流石に、ギャリソンも笑いが引きつった。もっとも、コレはもっと性質の悪いモノなんだが。
「お、おい、待てよ、まさかコイツを頭に被せようってんじゃあ……」
「よいしょ、それじゃあいくよー」
もがくギャリソンを魔手の縛りを強めて、身じろぎ一つとれないよう抑えつける。その間に、リリィがよいしょとギャリソンの馬体に登った。
「このドクズが、ガキにこんな真似させるたぁ、テメェは本気でイカれてやがる!」
ここで、そんなことが言えるギャリソンに、俺はちょっと見直してしまった。彼は暴走賊のトップで、ハイラムの街を襲った悪党だが、子供に拷問の真似事をさせる俺に対して罵倒する良識はあったということ。
彼の見当違いの非難を否定するのは簡単だが、それも甘んじて受けよう。
リリィにこんなモノを作らせてしまったのも、つまるところ俺なのだから。
「ちょっとチクっとするよ。痛かったら、痛い、って言ってね」
「やめろっ、クソ、待っ――痛っ! 痛ぇ!?」
「いくよー、えーい!」
「おい! 痛ぇって言って――おごぉっ!?」
そうして、無慈悲にリーゼント頭にリングをねじ込まれてから、三分後。
「はい、クロノ、できたよー!」
虚ろな目をしてブツブツと寝言のようにつぶやく、不気味で無残なギャリソンの姿がそこにあった。
無事にリングの支配は成功したようだが……とてもじゃないが、素直に喜べる気持ちにはならなかった。
拠点から南西の方向へ十数キロ、小さな林の中にある崩れた古代神殿の遺跡。
そこが現在、例の奴らが潜伏している場所であると聞き出すのに、五分とかからなかった。恐ろしいほど便利かつ正確な、『思考支配装置』による尋問だが、リングを外したギャリソンが元通りになるかどうかは五分五分だという。
非道さと引き換えに得た情報を元に、あの場は全て後方で待機させていたケイに任せて俺はメリーを飛ばして現地へ急行。
逃げた賊の中には、恐らくここを目指した奴もいるだろう。冒険者に襲撃されたという情報は、すでに奴らに伝わっている可能性が高い。
普通なら、予想外の襲撃を受けて味方が壊滅状態となれば、一も二もなく逃げ出すだろうが……
「――お前らが、賊と共にハイラムを襲った、白い古代鎧の騎士だな」
遺跡があるという林のすぐ前に、完全武装の騎士が十二人勢揃いして待ち構えていた。
林を抜け、遮蔽物のない草原に佇む奴らの姿はあまりにも堂々としていて、何かの罠かと勘ぐってしまうほどだが……どうやら、よほど古代鎧の力に自信があるようだ。
木々もまばらな林の中にも、だだっ広い草原でしかない周囲一帯にも、伏兵の気配はないし、そもそも潜ませるには無理がある。
ハイラムで聞いた通り、騎士の人数は十二人で全員揃っている。
こんな開けた場所でポツンと立っているのはどこかマヌケに見えそうなものだが、奴らが身に纏う美しい白銀の輝きを放つ鎧兜は、通常の重騎士のものよりさらに一回り大きく、並び立つだけで相当の威圧感を放っていた。おまけに、手にするハルバードは人間など軽く真っ二つにできそうな大型の刃が備わっており、大盾も普通のモノより倍近い厚さがある。
ただの人間なら持ち上げるのも難しい大型の重量武装を構えつつ、ただ静かに待ち続ける奴らから、尋常ならざる気迫のようなものさえ感じた。
だから、俺も姿を隠さず、堂々と並び立つ奴らへ真正面から進んで行く。
メリーを降り、俺は単身で奴らへと接近し、すでにお互いの攻撃魔法が届く十数メートルにまで距離をつめている。
「如何にも」
俺の問いかけに、真ん中に立っている一際大柄な隊長と思しき奴が、よく通る大声で応えた。
ソイツは兜にユニコーンのような一本角がついていたり、赤いマントがついていたりと、他の奴と鎧のデザインが異なっている。あからさまに、隊長機といった感じだ。
「『雷電撃団』は壊滅した。残っているのは、お前達『修道会』の機甲騎士だけだ」
「ほう」
ギャリソンに吐かせたのは、何も潜伏先だけではない。簡単に奴らとの付き合いの経緯や情報なども聞き出している。
コイツらが『修道会』と名乗っていることも、古代鎧を装備した奴を機甲騎士と呼ぶこと。
敵である俺がこれらの情報を知っていると分かっても尚、隊長の受け答えに動揺は見られない。もっとも、フルフェイスの兜で隠された顔は冷や汗を流しているかもしれないが。
「大人しく投降しろ。お前らには、聞きたいことが山ほどある」
「我ら機甲騎士団を前に、たった一人で挑もうとはとんだ愚か者――ではないのだろう。『エレメントマスター』の『黒き悪夢の狂戦士』クロノ、確かに、貴様は強い。その強さ、よく知っているとも」
まさか、兜の奥で冷や汗を流すのは俺の方になるとは。
コイツ、俺のことを知っている。いや、知っているだけじゃなく、面識がある。俺の顔と戦いぶりを、この隊長は見知っているのだ。
それでいて、顔まで隠れる『暴君の鎧』の格好が『エレメントマスター』のクロノである、という情報までちゃんと調べているということ。
随分と、恨みを買っているようだな。
「……ガラハドか」
「いいや、アルザスだ。そこで俺は、悪夢を見た」
なるほど、随分と古い因縁があるようだ。
もっとも、俺はアルザス村で殺した十字軍兵士の顔など、ほとんど憶えちゃいないが。
「貴様のせいで、俺は命以外の全てを失った……だが、こうして再び見えたのは、主のお導きというものだろう」
「たった十二人でこの俺に挑むとは、馬鹿め。折角拾ったその命、無駄に散らすことになるぞ」
「ほざけ! 我、神意を得たり。この力は、今日この場所で貴様を葬るために、与えられたのだとな!」
ちくしょう、下手な挑発はかえって逆効果だったか。
いや、何を言っても、コイツはアルザスで大暴れした俺のことを相当に恨んでいる。だからこそ、本来なら逃げるはずの場面でも、逃げずに待ち構えていたといったところだろう。
「俺に殺されて、天国に逝けると思うなよ。地獄の底で、後悔させてやる、十字教の狂信者共が」
これは挑発ではなく、本音。
最初から大人しくコイツらが降伏するとは思わなかったし……何より、恨みがあるのは、俺の方である。
お前ら十字軍と出会ったならば、殺し合いは避けられない。
「さぁ、行くぞ、エーテルの加護を纏いし騎士達よ! アルザスの悪魔の首を上げ、パンドラの地に白き神の威光を示すのだ!!」
応! という騎士の猛々しい声が響くと同時に、ガラハドでも聞いた甲高い機械的な駆動音が鳴る。予想通り、騎士達の背中にはブースターのついたバックパックがあり、そこからタウルスと同じ青白い燐光が噴き出しているのが見えた。
エンジンに火が入ったのと連動するように、白銀の鎧兜の各所に青白く輝くラインが浮かび上がる。その目立つデザインのせいで、どことなく見慣れた重騎士というよりも、宇宙で戦う人型ロボット兵器のような印象を持つ。
そんな起動した姿だけでも、もう十分に俺の『暴君の鎧』と同じ魔力を推進力として高速機動する鎧なのだと、理解できる。だが、ガラハド戦争を経験していないパルティアのケンタウロスに、そこまでの理解を求めるのは酷な話。古代鎧だとすぐに分かった領主が博識なのだ。
しかし、俺にはコイツらの鎧に驚いてやる必要はどこにもない。
むしろ、驚くのはお前らの方だ。
「リアクター反応ヲ検知、検索中……該当機体ナシ。所属不明機」
「所属は十字軍、恐らく試作機といったところだろう」
この時代で新たに造られた機体なら、遥か古代のデータベースを記憶している『暴君の鎧』に覚えがないのは当たり前。
どう考えても、機甲騎士の『機甲鎧』とやらは、『白の秘跡』が開発した新兵器だろう。そう、コイツらの鎧は、まだ造られたばかりの試作段階に過ぎない。
新造の『機甲鎧』に対し、こっちは古代から蘇った呪いの『暴君の鎧』。
一対十二でも、負ける気はしないな。
「行くぞ、ミリア。格の違いを見せつけてやれ」
「混沌主機・解放、精霊推進・起動――」
白い装甲に青い光の奴らとは、真逆の色合いである、漆黒の装甲に、真紅の魔力ラインが浮かぶ。
ミリアも同じ古代鎧が相手となって気合いが入っているのか、いつもより力がみなぎっている気がした。
まぁ、落ち着けよ。この獲物は逃げたりしない。喜び勇んで、向こうから来てくれるのだから。
「――突撃っ!!」
鋭い隊長の号令と共に、一斉に十字軍の機甲騎士が走り出す。地を滑るような、ブーストダッシュ。
やはり、速い。重厚な全身鎧に身を包んだ姿でありながらも、俊敏な猛獣のように凄まじい加速度を伴って進む。単純に直線を走るだけなら、『疾駆』を発動させた剣士よりも速度が出ているかもしれない。
熟練の剣士並みのスピードで動き出した機甲騎士だが、その速度に振り回されない程度には扱いになれている様子。奴らは、くの字型の陣形で、単独の俺を包囲するように展開していった。
「『連弾』っ!」
包囲を形成しつつ、奴らは白く輝く弾丸、連射式の『光矢』と思しき攻撃魔法をぶっ放してくる。
その出所は、ハルバードを握る右腕の手甲。分厚い装甲が重なり合う籠手は、小さな盾を装着しているように見えるが、その部分が弾丸を発射する武器、つまり腕部パーツと一体化したアームガンということだ。
手首のあたりにある大口径の短銃身からは、青白い輝きのマズルフラッシュが咲き誇り、本物の機関銃並みの連射速度で弾丸を放つ。
だが、そんなモノで俺が着込んだ鎧を貫けるとは、奴らも思うまい。どうせ牽制程度のつもりだろう。俺は動かず、あえて白い弾丸を鎧で受けた。
「この感触は『光矢』よりも『魔弾』に近いのか……神兵の研究を応用しやがったな」
キン、ギン! と火花を散らして漆黒の装甲に無数の弾丸が弾かれていく中で、その威力を実感する。この程度の火力なら何発当たっても『暴君の鎧』にヒビ一つ入りはしないが、生身で喰らえばそれなりに痛いし、普通の人間が食らえばあっさり貫通するだろう。
その威力の大半は物理的な衝撃によるもので、光属性としての高熱はさほど感じられない。白色魔力で作った『魔弾』、というのが最も正確な表現だ。
鎧を着ていればノーダメージと理解していても、白色魔力の弾丸といえば、ついサリエルの『杭』を思い出して、あまり良い気分ではない。
ともかく、サリエルでなくても『魔弾』を使いこなす神兵がいれば、その術式を黒魔法ベースではなく白魔法、あるいは光魔法へと応用させるのはそう難しいことではないだろう。
『魔弾』はシンプルに連射が利いて使い勝手が良いからな。正式採用されるのも分かる。おまけに、ハルバードなどの武器を握っていても発射できるよう、アームガンの構造にしてあるのも、初めて作ったくせに気が利いている。
まさか、適当な神兵からロボットアニメの情報を引き出して参考にした、ってことはないだろうな……
「今だ、挟み込め!」
白い弾雨に晒されながら、つらつらと考えている内に、いよいよ奴らが間合いを一気に詰めてきた。
やはり弾丸の連射は単なる牽制で、大型ハルバードで武技を叩き込むのが本命。まずは左右から、二人がハルバードを振り上げて急接近してくる。
人数と速度を生かした、波状攻撃を仕掛けるつもりか。すでに、他の奴らもワンテンポずつずらしながら、それぞれの方向から俺に向かって走り出していた。デカい鎧兜の奴らが、凄まじい速さでグルグル走り回っているもんだから、目が回りそうだ。
そのままバターにでもなってくれればいいんだが、
「『強大打』!」
「『大破断』!」
一秒と経たない内に大きな刃に強力な武技を込めて、二人の騎士が左右から挟撃。
鎧の機動力とパワーアシスト、そして、それを着こむ騎士の連携能力と武技の実力。本人と武装の全てが噛み合った、見事な同時攻撃――だが、
「こんなものか」
刃を、受け止める。
左右から振り下ろされたのは二本のハルバード。それを、左右の手でそれぞれ止めるのだ。こういうのも、白刃取りといっていいのだろうか。
「ぐうっ!」
「馬鹿なっ!?」
渾身の武技が、片手一本で受け止められたのが、そんなにショックなのか。まぁ、気持ちは分からないでもない。俺もサリエル相手に似たような経験があるし。
要するに、俺とお前達には、それだけの性能差があるってことだ。
俺が『暴君の鎧』を着ていれば、機甲騎士を相手にするのに加護も、武技も、呪いの武器さえ必要ない。
同じ系統の鎧を装備するコイツらが相手だからこそ、改めて分かる、ミリアの凄さが。
「――『黒化』」
掴んだ刃の先から、黒化をしかける。と同時に、力任せに騎士からハルバードを奪う。
「っ!?」
「ぐはぁっ!!」
武器を奪われ、離れると同時に盾でガード、するよりも前に、黒一色と化したハルバードの刃が騎士の脳天に炸裂する。
分厚い装甲の兜も、軽く叩き割れるとは、うん、なかなかいい感じじゃないか、このハルバードは。けれど、それ以上に――
「もっと感じさせてくれよ、ミリア、お前の力を」
今はただ、『暴君の鎧』を思い切り使ってやりたい気分だった。