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黒の魔王  作者: 菱影代理
第32章:修道会の影
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第627話 第七の加護

 紅炎の月14日。太陽が地平線の彼方まで続く大草原へと落ち行く、夕刻。眩しいオレンジ色の輝きを背景に佇む、小さな砦を俺は眺めていた。

「あれがマンティコアの巣か」

 砦はレンガ造りのように赤茶けた色合いで、闘技場のような大きな円形をしていた。スパーダでもアヴァロンでも見ない変わった形状の砦は、すでに滅びた昔の国の建築様式だったという。

 二百年以上も前に、パルティアの大草原に侵攻してきた国があり、その半ばまで占領したものの、最終的にはケンタウロスの弓騎兵に破れて追い出されたという戦争の歴史がある。この砦は、当時の敵国が残していったものの一つだ。大草原には今も、こういう砦や街の跡などが点々と残っているらしい。

 そんな敵国人にとっては重要拠点となる砦も、ケンタウロスにとっては無用の長物。そのまま放置されるのみで、補修も取り壊しもしていない。ここの砦も、激しい戦いの記憶を残すように半壊しており、天井部分も半ば以上、崩れ去っている。

 そうして天井が開きっぱなしになってるから、マンティコアみたいな大型モンスターが中に入り込んで巣にしちゃうんだろうな。

 元々、森林に住まうマンティコアにとって、この遮蔽物が何もない草原は落ち着かない環境だろう。そこにポツンと一つだけ立っている巨大な岩場、つまり砦があれば、そりゃあここを巣にするしかない。

 そもそも、どうしてマンティコアがわざわざ森を離れて草原まで出張って来ているのかが謎なのだが。ラースプンのように森に超ヤバいモンスターが現れて、追い出されたのだろうか。だとしても、今はもう試練のモンスターを探す必要はないから、そんな危険に首を突っ込んで行くつもりはない。

 冒険者とはいえ、俺としても出来るだけ人の役に立つようなクエストを受けたいとは思う。報酬が低くても、このマンティコア討伐を選んだのはそういう気持ちも少なからず影響している。しかし、だからといって、パルティアの平和の全てを請け負うつもりもない。

 俺は俺に、出来る範囲でやればいい。自分の力の限界なんて、俺自身が一番よく知っているのだから。

「それじゃあ、頼んだぞ、リリィ」

「うん!」

 目的地も確認したことだし、早速、仕事にとりかかろう。

 リリィは俺の呼びかけに応えると共に、光の空間魔法ディメンションから一つの宝玉を取り出し、頭上に掲げた。

 小さな掌の上に収まる宝玉は、エメラルドの結晶のように透き通った鮮やかな緑色に光り輝いている。

 これまで使っていた『紅水晶球クイーンベリル』は、エンヴィーレイに変化したから、今はもう完全に消滅している。だから、この翡翠に輝く宝玉が、新たにリリィを変身させる大魔法具アーティファクトなのだ。

 その名は『紅水晶玉プリンセスベリル』。元、リリィの左目だ。

 彼女の左目には、今も俺の目玉である『悪魔ノ眼イヴィルアイ』がはめ込まれている。この力で大暴れしたことへの反省なのか、瞳の色は元のエメラルドグリーンに見えるように戻しているのだが。

 そうして俺の目玉が入る代わりに、元々あったリリィの左眼球は当然、抉り出されていることになる。ソレをやった時、リリィは自分の目玉は不要だと捨てたのだが、エンヴィーレイが食べた、いや、吸収した、というべきか、ともかく、取り込まれてしまったらしい。

 そして、俺との戦いの果てに、エンヴィーレイが魔王へ捧げられて消滅した後……何故か、リリィの手に『紅水晶玉プリンセスベリル』として結晶化した自分の目玉が戻っていたという。恐らくは、妖精女王の贈り物だと思われる。

 捨てたはずの目玉が手元に返ってくるとはちょっとしたホラーだが、『紅水晶球クイーンベリル』を失ったリリィに、代わりとなる宝玉が必要になるのも確か。リリィは素直に、妖精女王に感謝の祈りを捧げたという。

 それにしても、どう見てもエメラルドグリーンの宝玉なのに、名前は『紅水晶』のままというのは……恐らく、リリィが本気になると赤く光るんじゃないだろうか。もう、あの禍々しい真紅の輝きは見たくないのだが。出番がないことを祈ろう。

「へーんしーん!」

 そして、新たな『紅水晶玉プリンセスベリル』の力によって、リリィは真の姿へと変身を果たす。

 眩い輝きを放ちながら、光の中で小さなリリィの背はぐんぐんと伸びて行き、それに伴い、迸る魔力の気配が急激に増大する。ちょっと、鳥肌が立つくらいに。

 俺の心はリリィを愛していても、体の方は彼女の恐ろしい力を忘れられないのだ。つい、反射的に強張ってしまった。

「――ふぅ、そういえば、コレで変身したのは初めてだったけど、うん、悪くないわ」

 シャングリラの回復ポッドで見た以来の、少女リリィの姿が現れる。

 その背中の羽が、よく見慣れた妖精本来のモノであることを確認して、思わずホっとしてしまった。

「なぁに、クロノ、どこかおかしいかしら?」

「いや、別に、いつも通りだぞ」

 俺の心を知ってか知らずか、リリィはあざといくらいの上目使いで聞いてくる。

「本当? 髪の毛、跳ねてたりしてない?」

「大丈夫だって」

「この服も、似合ってる?」

 トレードマークと化していたエンシェントビロードのワンピースは、俺の手でズタズタに破れ去ってしまったので、当然、今のリリィは違う服装だ。ひとまず、戦闘に耐えうる防御力、幼女から少女に変身してもサイズが合うよう『伸縮フィット』の付加エンチャント付き、なおかつ、リリィに似合う可愛い服、という厳しい条件をクリアしたのは、一着しか見つけられなかった。

 いや、どちらかといえば、一目惚れと言った方が近いかもしれない。ソレを店頭で見た瞬間、コレだ! とピンときてしまったのだから。

 その服は、簡単に言ってしまえば、不思議の国のアリス、だろう。そう、あの白と水色のエプロンドレスである。

 あの服、欧米ではピナフォアとか言うらしい。全身を覆うエプロンとワンピースを重ね着したような、シンプルだが洗練されたキュートさを持つ衣装。この異世界ではメイド服が定番のスタイルだが、単純に子供服のような感じで、カジュアルな着こなしも一部ではされているらしい。

 あまりメジャーではない、だが、ないワケでもない。よって、この超高級品なエプロンドレスも稀少ながら存在したということだ。

 勿論、俺の見立て通り、リリィにはあつらえたように似合っている。これで、今すぐに不思議の国でも鏡の国でも殴り込みに行ける。

「似合ってるよ、ちゃんとサイズもピッタリになってるし。超カワイイぞ」

「それならいいわ」

 ふふん、と勝ち気に微笑んでから、フワリとリリィの体が浮いた、と思った次の瞬間、一気に顔が近づく。

「――それじゃあ、行ってくるね」

 こういうのも、いってらっしゃいのキス、とかいうのに含まれるのだろうか。

 下らないことを考えながら、俺は砦に向かって真っすぐ飛んでゆくリリィを見送った。

 さて、今回の作戦はこうだ。

 まず、リリィが単独で砦に乗り込み、マンティコアを適当に挑発しておびき出す。砦にはオスとメスの二頭がいて、恐らくオスだけが外敵を倒すべく出てくるはず。メスは卵を守るために砦に残るので、後回しでいい。

 そして、オスが砦の外に飛び出てきたところを、俺が倒す。

 いや、それもう二人で突入して倒せばいいじゃん、ってなるのだが、今回はただ倒すのではなく、俺の第七の加護の力を試す練習も兼ねている。というか、ケイには悪いが、こっちが本命の目的でもあるしな。

 俺に今すぐできることといえば、やはり、加護の習熟。ついに全ての試練を乗り越え、七つの加護が揃ったのだ。その力を自由自在に操れるようになれば、俺は一人でも使徒と対等に戦えるようになる……はず、多分、恐らく、なるといいな。

 ともかく、可能性としては未知数だが、加護を鍛えることは絶対に必要なものだ。ダイダロスの十字軍が再びガラハドに押し寄せるまでに多少の猶予があるとはいえ、アリア修道会の動きもあって、またいつ大きな戦いが起こらないとも限らない。あるいは、使徒だって不意に現れたりすることもありえなくはないのだ。

 ミアが言っていたように、きっと俺達にはさほど余裕はない。少しでも早く、強くならなければ。

「――始まったか」

 ドーン、と激しい光の柱が砦から突き立つのと共に、大きな爆発音が響いてくる。あの輝きは、間違いなくリリィの光魔法。何度も見たし、最近は随分と撃たれたから、見間違うことはもう絶対にない。

 結構デカい光をぶっ放したようだが、ひょっとしてアレでマンティコア死んだりしてないよな?


 グォオオアアアアアアアアアア!!


 俺の不安をかき消すように、大きな魔物の咆哮が響きわたる。

 想像通りに、巨大な獅子の体に翼の生えたシルエット。だが、その動きは予想以上に俊敏で、砦の天井から飛び出すなり、ヒラリと地面へと降り立った。

 どうやら、リリィは上手くマンティコアの誘い出しに成功したようだ。猛る魔物の周囲に、ホタルのように光の球体が飛び回っている。妖精結界オラクルフィールドを纏ったリリィが目の前を飛べば、さぞや気になって仕方ないだろう。というか、顔面に容赦なく『光矢ルクス・サギタ』をぶち込まれれば、無視できないほど痛いに決まってる。

 奴の顔は人面だと聞いていたが、生で見ると、人間の顔というよりも、彫刻像か仮面のように硬質な印象を覚える。硬く発達した顔面の甲殻が、結果的に人の顔のように見える、といった進化の形なのだろう。

 マンティコアは鋭い咆哮を上げなら、猛然とリリィを追いかける。トゲトゲした甲殻に覆われたサソリの尻尾をブンブンと振り回しては毒針を連射し、口からはバリバリと雷撃をぶっ放したりして、かなり荒れている模様。

 なるほど、あの暴れぶりは確かに、ランク4でも上位に匹敵する危険さだ。並みのパーティでは、毒針と魔法の乱射に晒されただけで手も足も出ないだろう。

 けれど、今アイツが相手にしているのは、リリィだ。この程度の攻撃などそよ風同然に受け流しつつ、優雅に飛びながら真っ直ぐ俺の下へとやって来る。

 よし、全て予定通りに進んでいる。あとは、俺が決めるだけ。

「さぁ、来い」

 すでに『暴君の鎧マクシミリアン』を装着し、手には『絶怨鉈「首断」』を握っている。俺は鉈を大上段に構え、静かに、マンティコアが間合いへと飛び込んでくるのを待つ。

 第七の加護は、もう俺の中にある。最後の七つ目だ、発動は初めてでも、その使い方は分かる。

「――っ!?」

 感じる、大きな力のうねり。こんな感覚は、初めて加護を発動させた時とよく似ている。体の中を走る魔力回路に、許容量以上の力を強引に流し込む、そんな感じ。

 構えているだけでやっと。手が、震える――

「クロノっ!」

 一瞬、飛びかけた意識を繋ぎ止めてくれたのは、リリィだった。

 名前を呼ばれる。ただそれだけで、今にも闇に飲み込まれそうな意識を、踏み留まらせてくれる。

 流石は俺の相棒。最高のフォローだ。

 お蔭で、無事に発動できた。第七の加護――

「――『光の魔王オーバーリミット』」

 その時、黒い光が瞬いた。

 眩しいのか、暗いのか、それすら判別のつかない、輝く闇が広がっている。視界はゼロ。いいや、視覚どころか、五感の全てが吹っ飛んで行ったかのような感覚。

 何も見えず、何も感じず――けれど、全て分かる。

 敵は、そこにいる。

 ならば、俺は斬ろう。

 いっそ余裕さえ感じるほど、静かな闇の中で、俺は思い出したように感じた『首断』の柄を握りしめ、振り下ろす。

「『闇凪』」

 刹那、闇は晴れる。

 黒い光の中から、俺は現実へと戻ってきた。そして、その時にはもう、全てが終わっていた。

「……俺が、やったのか」

 我がことながら、思わずつぶやいてしまう。

 目の前には、頭から尻尾の先まで綺麗に真っ二つになったマンティコアの死骸。晒された断面は一切の凹凸がない、何かの標本みたいに平らだったが、思い出したかのように、支えを失った腸が零れ落ち、盛大な血飛沫を噴き出した。

 ドっと崩れ落ちたマンティコアの死骸。大型モンスターを一刀両断。確かに、物凄い威力ではあるが、今までの俺でも決して不可能ではない芸当だ。

 だから、俺が驚いたのは、マンティコアをぶった切ったその先――何故か、草原にまで深く刻まれた斬撃の跡が続いていることだ。

 鮮やかな黄緑色の草は薙ぎ払われ、黒々とした亀裂が大地に、測ったかのように綺麗な一直線となって走っていた。

 そしてその亀裂はどこまでも真っ直ぐに伸び続け、遥か数百メートは先に建つ砦までも、両断していた。

 おいおい、嘘だろ。

 あんな遠くまで斬撃が伸びていったのも驚きだが、砦までぶった切っているとは、全く予想もしなかった。狙ったワケじゃないし、狙ってもできない。

 俺はただ力の限りに、マンティコアを叩き切っただけだ。

 その結果がこれとは……そうか、これが第七の加護『光の魔王オーバーリミット』の能力。

 純粋な魔力の強化。

 俺の体から解き放つ魔力量の上限をブッ飛ばす。つまり、瞬間火力を何倍にも引き上げることができるということ。

 武技を放てば斬撃はデカくなるし、魔法を撃てば大爆発を起こすだろう。

 無論、その絶大な攻撃力を得ることの代償は――

「クロノ! 大丈夫っ!?」

「あっ、ああ、大丈夫……とは言い難いな、コレは」

 心配する声を叫ぶリリィが、文字通りに飛んできたところで、俺はようやく第七の加護発動の対価に気づく。

 腕が動かない。ピクリとも動かない。というか、一切の感覚がない。

 まるで石にでもなってしまったかのような、という例えが出てきたのは、俺の目には無機質な灰色が映ったからだろう。

 俺の両腕を包み込む『暴君の鎧マクシミリアン』の漆黒の装甲が、色を失い石像にでもなったかのような灰色と化していた。ちょうど肘から先が石化していて、そこから指先まで、いいや、握り絞めた『首断』の切っ先までも、灰一色に染まっている。

「不明ナエラー発生。両腕部ノ回路切断。機能停止中」

 ミリアが見たままの状況報告をしてくれる。やはり、腕の装甲そのものがダメになっているようだ。無論、その中身である生身の両腕も……

「いや、それより『首断』は――良かった、なんとか無事か」

 耳を澄ませば、すぐに応えてくれる。まぁ、内容はいつもの通り「殺す」とか「斬る」とか物騒なつぶやきなのだが。

 しかし、『首断』の怨念の声がこれほど消え入りそうなほど小さく聞こえてきたのは初めてのことだ。なにより、全く力を感じない。恐らく灰色と化した今の『首断』は、ナマクラ同然の切れ味であろう。

 俺の両腕も、鎧も、鉈も、石化によって深刻な影響を受けている。

「クロノ、これは……加護の反動、なの?」

「それしか考えられないな」

「すぐに治癒を――」

「いや待て、それはかえってまずいかもしれない」

 呪いの武器を握り、呪いの防具に包まれた両腕をピンポイントで光属性の治癒魔法をかければ、トドメを刺されたように木端微塵に砕けてしまうかもしれない。時と場合にもよるが、普通の治癒魔法をアンデッドにかけると、ダメージが通るという現象も起こる。少なくとも、清らかな治癒魔法と、呪いとの相性が良くないのは確かだ。

「大丈夫、今の私は黒魔法だって使えるんだから――黒化」

 リリィがそっと、石のように固まり切った俺の両手を包み込むと、ジワリと温かいモノが染み込んでくるような感触をかすかに覚えた。凍り付いた手をぬるま湯につけたような心地よい感覚だが、リリィの掌から発しているのは禍々しい黒いオーラである。黒魔法を行使しているのだから、当然のエフェクトなのだが。

「おお、少しだけ、感覚が戻ってきた気がする」

「良かった。やっぱり、この症状は石化じゃなくて、魔力欠乏の一種ね。限界以上に黒色魔力を解き放った反動で、一瞬の内に生命力まで消え去ってしまったの」

 俺がぶっ放した『闇凪』の超威力は、生命力を根こそぎ絞り尽くしてまで強引にかき集めた魔力が上乗せされたからこそだ。第七の加護はただ威力を上げるだけではなく、強化に必要な魔力を強引に、かつ瞬時に引き出す、というのが効果の肝なのだろう。

 無理矢理に魔力をかき集めたから、生命力まで強制的に引き出され……その結果、凄まじい威力の吸収ドレインを食らったような状態になってしまった。

 でもそれなら、骨になるんじゃないのか。ウルスラがアナスタシアを暴走させてゴブリンのドルトス騎兵を倒した時は、奴らは丸ごと白骨化していた。

「クロノの肉体が弱ければ、骨になってたでしょうね」

「……頑丈な体に感謝だな」

「鎧と手袋のお蔭で、さらに肉体的ダメージは軽減されているはずよ」

「ありがとう、ミリア、ヒツギ」

 気付いたら両腕が骨になっているだなんて、切り落とされるよりもゾっとする話だ。

 いや待て、俺と『暴君の鎧マクシミリアン』は腕は体の一部に過ぎないけど、ヒツギは手袋が本体である。ということは、最も干からびている危険性が高いのは、ヒツギということに。

「おい、ヒツギ、大丈夫か!?」

「ご、ごしゅんさま……ヒツギは、もう、ダメそうです……」

「良かった、無事だな」

 この声は、実際に辛くはあるが、さらに辛そうに演技して気を引こうとしている声だ。呪いの気配もちゃんと感じるから、とりあえず放っておけば自然回復で大丈夫だろう。

 それにしても、両腕だけで済んで良かった。

 勝手に生命力までつぎ込まれる第七の加護の力は、恐らく、術者を守るための一切の処置がない。発動を任意で停止させることすら、この感覚では怪しい。

 一度発動してしまえば、「ヤバい、死ぬ!」と察知する前に、意識を失うほどの生命力を奪われてしまう可能性も高い。

 となると、次は『魔弾バレットアーツ』一発だけに加護をかける方がよさそうだ。元の魔力消費量が小さければ、威力の増大もたかが知れる。初っ端から『闇凪』なんて、使うんじゃなかった。

「この反動はあまりに危険だわ。治るからいいものの」

「治るのか?」

「時間と魔力をかければね。クロノも自分で黒化を使えば、もう少し早く元に戻せそうだけど……こんな技を使ったら、もう戦闘の継続は無理ね」

 いざとなったら噛み付いてでも、という気迫もあるが、出来れば狂戦士な俺としても、両腕が使用不能になったら退きたいところだ。

 弱い魔法を発動元にすれば、その分だけ反動も軽減されるだろうが、そうなると肝心の威力がついてこない。

 使徒を殺すほどの超強力な一撃が欲しければ、自分が戦闘不能になるほどの代償を覚悟しなければいけない。

「コイツは今までで一番、使い勝手が悪いな」

「でも、その分、威力は一番よ」

 両腕と『首断』を犠牲にする代わり、離れた砦さえ真っ二つにする。高いリスクに見合ったリターンがあるともいえる。

 いいや、この力をノーリスクで使いこなせるようになれ、という魔王様の無茶振りなのかもしれない。最後の試練を越えたと思ったら、また新しい試練に直面したような気がする。

「やれやれ、先は長そうだ」

「どんなに長い道のりでも、クロノと一緒に歩けるなら、私は満足よ」

 リリィの笑顔が眩しすぎてつらい。

「それじゃあ、ちょっと私も使ってみようかしら。クロノの失敗を省みて、私は『光矢ルクス・サギタ』で試してみるわね。制御のコツが分かったら、教えてあげる」

 そして、当然のように俺から魔王の加護を引き出せるリリィが、頼もしすぎてつらかった。


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