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黒の魔王  作者: 菱影代理
第31章:嫉妬の女王
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第613話 クロノVSリリィ(2)

「うふふ、クロノ、どこ? どこにいるのー」

 上空から降り注ぐ大きな光弾が炸裂する大爆音の合間に、リリィの無邪気な声が聞こえてくる。

 気分は凶悪な殺人鬼から隠れ潜んでいるホラー映画の主人公か、一方的な空爆に晒されて頭を抱えて伏せているしかできない二等兵か、といったところ。共通するのは、どっちも無力なことだ。

 リリィは今、ランド内に隠れた俺をあぶり出すために、自ら飛んで四方八方を爆撃して回っている。ジェットコースターのレールは吹き飛び、メリーゴーランドは炎上し、お化け屋敷が倒壊する。

おい、ここって二人きりで過ごすための愛の楽園じゃなかったのか。流石に俺も瓦礫の山の廃墟で愛し合うのは御免なんだが。

 あまりに容赦のないリリィの大破壊ぶりに思考が逸れかけるが、重要なのは、空を飛んだリリィに対してどう仕掛けるか、である。

 普通なら、詰んでいる。リリィにとって空を飛ぶ、というのは妖精として当たり前にできる動きなのだが、剣士や戦士などの近接戦闘職はこれだけで手の打ちようがなくなる。

 そりゃあ、俺だって武技も黒魔法もそれなりに強力なモノを持っているが、空を飛んでいる相手に対してはさほど有効とはいえない。『荷電粒子砲プラズマブラスター』をぶっ放したところで、この距離ではリリィも余裕を持って回避できるだろう。チャージを必要とする溜め技である以上、必中を確信するタイミングでなければ撃てない。

 かといって、ただの魔弾バレットアーツを対空砲火のように撃ちまくったとしても、強固な妖精結界オラクルフィールドを纏うリリィに対して決定打にはならないだろう。また、魔手バインドアーツで掴んで引きずり下ろすというのも、リリィの機動力を考えれば難しい。

「空を飛ぶ魔法を真面目に開発しておくべきだったか……」

 まぁ、リリィと『妖精合体エクセリオン』して空を自在に飛ぶという経験をした俺からすると、やはり人間では生身だけで空を飛ぶのは無理だろうってのは分かり切っていることなんだが。魔法を使っても、構造的に無理なモノは無理だったりする。

 さて、ないモノねだりをしても仕方がない。無為に悩んでいても、リリィの爆撃もその内に俺が隠れているこの場所にヒットすることだろう。

「よし、準備完了だ」

 こっちの仕込みが終わる前にリリィのラッキーショットを喰らわなかったのは幸いだろう。流石に何か所かはあえなくブッ飛ばされたが、実行するのに問題はない。

 俺の持つ手札で、空を飛ぶ空爆モードのリリィ対策。

 その第一段階は、まず自由に移動できるフィールドである空という空間を潰すことだ。

「『魔剣ソードーアーツ暴風撃ストームスロワー』」

 ランド内の各所に点々と仕掛けてきたのは、いつもの魔剣ソードアーツ用の安物量産長剣だ。小さな影空間を作り、そこに突き刺してきた。影空間からは髪の毛一本ほどの太さしかない極細の触手で、設置個所の影空間に繋がっており、最終的に俺が隠れ潜んでいる今のポイントが大元となる構造。

 これは、それなりに離れた場所から発射することで俺の居場所を誤魔化すためだ。それに加え、わざわざ触手で電線のように送っているのは、あまり離れすぎると、黒化の操作ができなくなるからだ。

 こんな細い糸のような触手でも、俺と繋がっていれば直接魔力を操作して、いつも通りに飛ばすことができる。

 というワケで、逃げ隠れながら仕掛けて回った数十か所のポイントから、一斉に魔剣ソードアーツがロケットのように上空に向かって撃ち上げられた。

「『スターデストロイヤー』――」

 当然、リリィに向かって飛翔する魔剣ソードアーツなど、黒い銃の一撃であえなく消し飛ばされる。

 ハナからリリィに直接ヒットするとは思ってない。それは本命を撃墜されないための囮。自分に向かって飛んでくる攻撃があれば、まずは最優先でソレを狙うからな。

 そして、俺の本命はリリィから最も離れた空中に向かって放ったものだ。無事に目的の高度にまで達した魔剣は、そこに秘められた黒魔法『暴風撃ストームスロワー』を解放した。

「黒い嵐……そう、疑似属性はすでにクロノのモノ。加護を封じていても、使えるのね」

 黒い炎や黒い雷の疑似属性は、ミアの力によって発現する特殊な神の魔法ではなく、黒色魔力そのものが本来持つべき性質変化の一つに過ぎない。加護のオマケのように使えた疑似属性の数々だが、なんだかんだで使い込んでいれば、俺だってその使い方、変化のさせ方くらいは分かってくる。

 思えば、実験時代からして他の実験体には早くも疑似属性を使う者がちらほらいた。黒い火炎放射を放ってきた奴は、そういえば、俺が初めて人を殺した実験体の少年だったな。

 俺にはあまり疑似属性使いとしての才能はなかったが、脱走せずにそのまま実験を続けていれば、各属性の魔法を黒魔法だけで再現するような魔術士としての能力も獲得したことだろう。

 ともかく、今の俺は魔王の加護のオマケでついてきた疑似属性を自分のモノにしている。そして、ほぼサリエルのお蔭で達成したグラトニーオクト討伐により手に入れた、風の疑似属性を利用して開発したのが、この『暴風撃ストームスロワー』である。

 その名の通り、暴風、リリィが言ったように『黒い嵐』を発生させる黒魔法だ。

 上空で炸裂した魔剣ソードアーツは、濃密な黒煙スモークを発生させると共に、凄まじい勢いで周囲に吹き荒れる。風速何メートルなのかは正確に測れないので分からないが、それでも、本物の台風と同じ程度には激しい風が吹き付けるはずだ。

 そして、空を飛ぶ者の宿命として、風の影響というのは決して逃れることはできない。鳥も羽虫も、ペガサスもドラゴンも、そして妖精だって、嵐の夜に空を飛ぶことはないのだから。

「凄い風だけれど、この大空を覆うには足りないわよ」

 魔法の嵐は、自然の嵐には及ばない。発生する暴風もごく限られた範囲だけ。特にコイツは黒く色づいているから、どこに風が渦巻いているのかは一目瞭然だ。

 巻き込まれて墜落なんて馬鹿なことはありえない。避けようと思えば、実に容易く避けられる。

 だが、それでいい。

 リリィはすでに、当たり前のように黒い嵐の吹かない方向へと動いている。

 そして、その方向こそが、俺が隠れている場所に最も近づく道筋なのだ。

 今、俺がいる場所は、このランドで二番目に高い建物の屋上。派手な高層ビルの外観をしたフリーフォールのアトラクションである。地上100メートルはありそうな高さのビルは、それだけ、リリィの飛ぶ空に近い。

「『魔手バインドアーツ大蛇オロチ』」

 『蛇王禁縛ヒュドラバインド』の一匹バージョンである、太い触手の蛇を作り出す。必要なのは、とにかく長さ。

 リリィはこの瞬間、『暴風撃ストームスロワー』の風を避けてこちら側に接近している。だが、まだかなりの距離がある。

 俺にはサリエルほど空中疾走できるだけの技はない。瞬時に空中を一っ跳びできる『嵐の魔王オーバースカイ』も使えない。

 ならば、少しでもリリィとの距離を詰められるよう、橋をかければいい。

「うぉおおおおお――」

 のっそりと鎌首をもたげるように起き上がった大蛇の背中を、全力で駆け抜ける。リリィに向かって喰らいつこうとするかのように、大蛇は頭を伸ばすが、くっ、流石に届くまで伸ばすのは難しいか。ヒツギがいればできたかもしれないが、いないものはしょうがない。

 リリィへの架け橋は半ばで途切れる一本道だが、後はもう、気合いと根性で大ジャンプの空中ダイブだ!

「『メテオストライカー』――」

 ここまで堂々と飛び込んで来れば、リリィも即座に反応するに決まっている。

 すでに大蛇の頭を蹴飛ばして、全力の跳躍を決める俺に向かって、リリィは冷静に銃口を向け、放つ。

黒煙スモーク!」

 リリィに撃たれるその前に、俺が放つ真っ黒い煙。それは周囲に発生させた『暴風撃ストームスロワー』から一陣の風となって、俺の前へと集まる。

 結果的に、自ら煙幕を発したのと同じ程度には濃密に黒色魔力の煙に包み込まれたその瞬間に、闇を切り裂くような強烈な閃光がリリィの銃から解き放たれた。

「さぁ、根性見せろよ『極悪食』、喰らい付けっ!!」

 ォオオオオ! と唸りを上げて、牙の刃がアギトのように大きく開かれる。そこに飛び込んでくるリリィの光線は、やはり、重い。

 だが、光魔法は黒色魔力の煙の中では、その威力を大きく減衰してしまう。威力の減少効果は、イルズ村を焼いた十字軍司祭の野郎を相手に、すでに証明済みだ。

 無論、リリィのビームとなれば、黒煙を突きぬけても尚、人を消滅させるに足る熱量を維持し続けるが……それでも、ただの空気中で放つよりも威力は下がっている。

 そして、多少なりとも威力を落とすことができれば、『極悪食』で受け止めきれる。

 コイツだって、呪いの対話のお蔭でより力を引き出しているのだから。その代り、手綱を握りづらい、暴れ馬、もとい、暴れ狼と化しているのだが――

「うっ、おおっ!?」

 思った傍から、ガクン、とビームを受け止める反動以上に大きな衝撃が、柄を握った腕にかかる。

 思わず手離して、剣ごとぶっ飛んで行きそうになるのを、さらに握力を込めて引き留める。


 グルルッ、ゴァアアアアアアアアアっ!!


 そんな獣の雄たけびが聞こえたと同時に、展開させた極悪食の刃が倍以上に膨れ上がった。強固な物質であるはずの牙の刃、だが、それはまるで最初からその大きさであったかのように、黒々とした質感のまま、瞬時に巨大化したのだ。

 ビームから受ける反動はさらに小さく、その一方で、ガタガタと剣が自ら飛び出していきそうな強い抵抗を感じる。

 これが、呪いの対話の成果。俺が不用意にも、極悪食に眠るカオスイーターの目を覚まさせた結果である。

『暴食餓剣「極悪食」』。この呪いの武器に秘められているのは、第十一使徒ミサによって非業の死を遂げたヴァルカンの怨念……だが、それはほんの一部でしかないということを、俺は呪いに触れて初めて知った。

 コイツの中にある最も大きな呪いの念は『餓え』だ。

 そもそも剣の素材となっている、カオスイーターが持つ強烈な飢餓。ヴァルカンの死によって呪いの武器と化した時、カオスイーターの残留思念が形を持った。あるいは、ヴァルカンの怨念そのものを剣が食らうことで、自ら呪いの武器へと進化を果たした、ということなのかもしれない。

 どちらにせよ、この剣に宿る意思のメインはカオスイーターなのだった。ヴァルカンの怨念は呪いの一部であり、触れた者に最初に流れ込む表層意識として形成されている。その奥に、より大きく深い飢餓の呪いが眠っていた。

 きっと、ヒツギはそれを分かっていたから「ワンちゃん」と仇名をつけていたに違いない。

 ともかく、呪いの主たるカオスイーターが活性化したことで、極悪食の力は高まった。その結果が牙の刃が巨大化する現象。そして、それに伴う自立行動……コイツ、俺が手を離せば、本当に勝手に飛んで行って敵に喰らいつくだろう。

 だが、今は勝手に動かれたら困る。相手はリリィ。その驚異的な光魔法を防ぐ盾として、しっかり握っておかなければ、俺の命はない。

「『流星剣・アンタレス』っ!」

 リリィも初めて見るだろう、極悪食の巨大刃を前に、全力で防御行動。上下から妖精結界オラクルフィールドごと噛み砕くように迫る刃を、真紅の光刃フォースエッジでもって迎え撃った。

 リリィの頭の上と足の下で同時に展開される、悪食の牙と魔法の刃による鍔迫り合い。光の魔力を凄まじい勢いでドレインしつつも、リリィの流星剣は輝き続ける。この『極悪食』に直接接触しても、まだ魔法の形を維持し続けるとは、とんでもない魔力密度である。

 だが、拮抗することは分かっていた。だから、俺の刃が届くほどまでに、空中にあるリリィと間合いを詰められれば、それでいい。

 ここまで接近できたなら、後はもう、そのまま捕まえればいいだけだ。

魔手バインドアーツ!」

 身に纏ったローブの裾、袖、俺の体で影となっている部分から、ありったけ鎖の触手を放つ。

 黒色魔力で編まれた魔手バインドアーツは、強力な光属性の発露たる妖精結界オラクルフィールドに触れるだけで、ジュウジュウと熱されたように赤熱化して、溶けるように消されていく。

 だが、その消滅速度を上回るように、十重二十重と鎖を繰りだし、リリィを結界ごと縛り上げる。

「あははっ、まさか、こんな力技で――」

 そうさ、こんな力技で、俺は空を舞う妖精を、地面へ叩き落としてみせる。

「落ちろぉっ!!」

 極悪食を左腕だけで握り、右腕からはチャージを終えた雷砲形態モード・ブラスターギルの『ザ・グリード』を影から取り出し、真上に掲げる。

 今の俺は、ちょうど極悪食の牙で空中のリリィに喰らいついてぶら下がっているような体勢。『ザ・グリード』の砲口は真っ直ぐ天を向いており、そして、長大な砲身はピタリと妖精結界オラクルフィールドの表面についている。無論、その先にあるのは、リリィの体。

「――『荷電粒子砲プラズマブラスター』発射!」

 ゼロ距離射撃ならぬ、ゼロ距離砲撃。さしもの妖精結界オラクルフィールドも、これを防ぎきることはできない。

 ここで『荷電粒子砲プラズマブラスター』をぶっ放したのは、リリィを撃つためではなく、妖精の飛行能力を振り切って地上まで落ちるための推進力が必要だったからだ。ゼロ距離砲撃で妖精結界オラクルフィールドが破れれば、飛行能力も乱れる。

『極悪食』と『魔手バインドアーツ』でリリィを捕らえ、『荷電粒子砲プラズマブラスター』の勢いで下へ落ちる。普通なら、悪食の一撃か雷撃の大砲、どちらか片方だけでも即死確定の威力だが、リリィならどっちも防ぎきるという信頼があってこそ、俺は全力でぶち込んだ。

「くっ」

 そして、やはりリリィは光の結界を怒涛の雷撃が貫くのを目の当たりにしても、焦ることなく冷静に対処した。

 結界の中でリリィは体を傾げ、射線から逃れる。と同時に、すぐ真横を通過していくプラズマの奔流に対し、右手の『メテオストライカー』を向けて撃つ――いや、これは防御魔法を放っているのだろう。

 直接当たらなくても、至近距離に立っているだけで人の体など簡単に蒸発するほどの超高熱が発している。その熱を『メテオストライカー』の銃口から発する赤い光は防ぎ、さらには『荷電粒子砲プラズマブラスター』のビームが……曲がっただとぉ!?

「おぉおおおっ!?」

 防ぐとは思っていたが、まさかブラスターをそのまま曲げて逸らすとは予想外。射線が逸れたせいで、俺が意図したのとは違う方向に『荷電粒子砲プラズマブラスター』の推進力がかかり……うおっ、こ、これは、もうどっちに向かって落ちて行っているのか分からん!

 ゼロ距離砲撃を逸らし続けて、飛行能力を制御しきれないリリィと、撃ちっぱなしで方向なんて抑えきれない俺。

 互いに互いの力を御しきれぬまま、リリィを牙と鎖で捉えた俺は凄まじい速度で、あさっての方向にぶっ飛んで行き――

「ぐううっ! 『黒風盾エール・シールド』、『黒水盾アクア・シールド』っ!!」

 すんでのところ、天地が分からぬほどの勢いと速さに振り回されながらも、俺は勘でもう地面かどこかに激突すると察知し、慌てて着地用に備えていた黒魔法を発動。

黒風盾エール・シールド』で逆風を発生させて少しでも勢いを殺す。そして『黒水盾アクア・シールド』はスライムのように柔らかいゼリー状のクッションとなって、直接的な衝撃を吸収する。

 左手で『極悪食』の手綱を握り、右手は『荷電粒子砲プラズマブラスター』を撃ちっぱなし。さらに魔手バインドアーツでリリィを離さないよう雁字搦めにしたままの上で、『黒風盾エール・シールド』と『黒水盾アクア・シールド』という、まだあまり慣れない防御魔法の同時発動……よく、俺の脳が焼き切れなかったもんだ。『雷の魔王オーバーアクセル』のお世話になったお蔭で、魔法の演算能力も多少なりとも鍛えられていたのだろうか。

 今となっては魔王ミアに感謝の言葉をくれてやるいわれはない、と思いつつ、俺は直感通りに訪れた、着地の凄まじい衝撃に襲われた。

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