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黒の魔王  作者: 菱影代理
第31章:嫉妬の女王
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第599話 暴露

 セリスをメンバーに加え、晴れて『ブレイドマスター』を結成したその日の夜。俺はメンバー全員を部屋に集めた。

「おいおい、マジかよ……」

「これ、もう神話の領域に片足突っ込んでるよね」

 命知らずのカイも、常に優雅な微笑みのファルキウスも、唖然として感想を漏らす。

「妖精の力、よもや、これほどまでとは」

「ああ、ネル姫様がどうしてここまで彼女を恐れるのか、今ようやく分かったよ」

 ルドラも感嘆の息を呑み、セリスは頭を抱えていた。

「――以上が、リリィとの戦闘記録の全てだ」

 ヴィヴィアンを通して、メンバー全員にフィオナ達とリリィとの戦いを、ついに公開した。

 いずれ劣らぬ猛者ばかり、だが、彼らをして驚愕させるに足る、凄まじいまでの死闘である。俺も、初めて見た時は「これ無理ゲーだろ」と思ったものだ。

 いや、本当に、シャレにならないレベルの戦闘だった。

 ヴィヴィアンはずっとフィオナの三角帽子の空間魔法ディメンションに保管されていたようだが、どういう工夫をしたのか、ほぼフィオナの視界を共有するように外の視覚情報をずっと記録していた。

 だから、サリエルが先頭に立ち、易々とアヴァロンの街を進んで行く様子、三人が臨時パーティとは思えない高度な連携でもって、立ち塞がる古のアヴァロン騎士を難なく退けるところ、全て記録に残っている。このパンドラ最難関と称される神滅領域アヴァロンを、さして苦労もせずに淡々と攻略してゆく彼女達の姿は、正に冒険者の極みのようである。

 だがしかし、そんな最高の冒険者である三人を相手に、たった一人でリリィは迎え撃った。

 ネルが言っていた『天空戦艦』と呼ばれる古代兵器から放たれた砲撃から始まり、サリエルが起動させた『歴史の始まりゼロ・クロニクル』の転移機能でフィオナをリリィの元まで送り込み、接近。

 強力な砲撃を封じられたリリィ。乗り込んできたフィオナは容易に倒せる相手ではない。拮抗する戦いの中、サリエルとネルが駆けつければ、勝負は決する。

 そのはずだったが、リリィは天空戦艦が備える防御機能であろう広域結界でフィオナを閉じ込め、その間に二人の撃破に向かった。

 サリエルとネルのコンビもまた、そう簡単に負けるはずがないのだが……フィオナ視点であるヴィヴィアンの記録に二人の戦いはないが、結果的に、リリィは再びフィオナの前へと現れた。

 そして、ファルキウスが言う『神話の領域』という形容が誇張ではなく、ありのままの事実である、妖精女王イリスと黒魔女エンディミオンの加護全開で戦う、二人の一騎打ちが始まった。その激戦の様子は、俺とリリィが『妖精合体エクセリオン』で第七使徒サリエルと戦った時と同じ、あるいは、それ以上だ。

 だが、強大な加護の力は互いに拮抗し、勝敗は決しないまま、第一ラウンドは終了。リリィとフィオナ、どちらも残りわずかの力を振り絞り、ついに悲劇の第二ラウンドが始まる。

 最初に勝負を仕掛けたのは、フィオナ。距離を詰めることに成功した彼女は、そこで奥の手である『妖精殺しリリィスレイヤー』を解放。本物の妖精であるヴィヴィアンを組み込むという悪夢の仕掛け武器は、その効力を発揮し、リリィの固有魔法エクストラを破壊し、彼女の腹に水晶の穂先を突き立てた。

 畳み掛けるフィオナ。殴る、蹴る、の肉弾戦を挑む様は、俺としては目を覆わんばかりの光景。

 だが、最後の最後に笑ったのは、リリィ。潜ませていた『生ける屍リビングデッド』が、満身創痍のフィオナを襲い――リリィが彼女の腹に銃を向けたところで、記録は終わった。

 砕けた『妖精殺しリリィスレイヤー』から脱したヴィヴィアンは、事前に刻まれていたフィオナの命令通り、リリィの戦闘情報を俺に届けるという任務を忠実に遂行し、そして、こうして俺の手へと渡ったのだ。

「ねぇ、クロノくん、先に一つ、言わせてもらっていいかな」

 神妙な顔で、ファルキウスが俺を睨む。

「……なんだ」

「どうしてこんなになるまで、放っておいたのさ!?」

 うんうん、とカイもルドラもセリスも頷く。

「えっ、いや……ごめん」

「リリィさん、もう完全に天災級のランク5モンスターじゃないか。彼女が暴れたら、普通に緊急クエスト出るよ! そんなのとサシでここまでやりあえるフィオナさんも、どうかしてる。この二人を本気で争わせるとか、クロノくん、下手したら国が傾くレベルだよ」

「おう、スパーダで戦ってたら、ヤバかったな」

「ウチのアヴァロンで戦うのも、本気で勘弁してほしいかな」

「戦場がダンジョン内で、幸いだったな」

 いや、全く、その通りである。

「ねぇ、こうなる前に、この超ヤバい二人を止められたのって、クロノくんだけだよね」

「そうだ、クロノのせいだ」

「はぁ、もう少し、クロノが乙女心というのを理解していれば……」

「たった二人の女の手綱も握れぬとは、スパーダの英雄の名折れというものだろう」

 まさかのフルボッコ。いや、でも、本当に、その通りだから、ぐぅの音も出ない。

「まぁ、とりあえず、これで事情は分かったよ」

「よーするに、痴話喧嘩ってヤツだろ、これ」

「災害レベルの痴話喧嘩だぞ」

「ちょっとした戦争だな、これは」

 そう、傍から見れば、それだけのこと。でも、リリィもフィオナも、あまりに強すぎた。

「……ああ、本当に情けないことだが、これが俺の事情だ。他人から見ればくだらない色恋沙汰だろうけど、俺は命を賭けて、リリィを止めなければいけない」

 そして、フィオナとサリエルとネル、三人も無事に救い出す。

 誰も死なせない。リリィとフィオナの意思を、力で捻じ曲げてでも、俺は二人を手に入れる。もう二度と、こんな残酷にして災厄な、愛の戦いなんて起こさせないためにも。

「でも、大方予想通りだし、今更、降りるなんて言わないよ」

「おう、理由なんてどうでもいい。こんだけ強い奴が相手なら、挑まないワケにはいかねぇな!」

「私は、ネル姫様を救い出すことが使命だから。命を賭けるのは、当然だ」

「命の恩人を、痴情のもつれで死なせるには忍びない」

「皆、本当にありがとう」

 感謝の言葉もないとは、正にこのことか。それぞれが、それぞれの理由があるとはいえ……俺の無茶に、付き合ってくれるというのだ。こんなに、ありがたいことはない。

「それで、問題は本当にあの妖精のお姫様をどうにかできるのか、ってとこじゃない?」

 最大の難関はやはり、リリィである。今や、絶大な力を誇る彼女を、殺さずに無力化しなければいけない。第七使徒サリエルを生け捕りにしろ、と言ってるのと同じくらい無茶だ。

「フィオナのお陰で、リリィの能力と手の内は、かなり明らかになっている。つけこむ隙は、必ずあるはずだ」

 知っていれば、対策は立てられる。そうして、俺達は使徒であるサリエルだって倒したのだ。

 今のリリィは、すでに俺の知っているリリィではない。アヴァロンに残る古代遺跡を利用し、『メテオストライカー』と『スターデストロイヤー』という古代の二丁拳銃を武器とし、これまでとは桁外れの加護を宿している。何も知らずに戦ったなら、俺は手も足も出なかったかもしれない。初見でありながら、リリィを追い詰めたフィオナの実力は凄まじい。

 その上、フィオナは情報の有用性というのを、よく理解している。だからこそ、ヴィヴィアンという保険をかけてくれたのだ。どこまでも抜け目がない。全く、こういう時くらい、彼氏に丸投げしてくれてもいいのに――と、思いたいところだが、ヴィヴィアンの情報がなければ本当に危なかった。

「元々、リリィは強かったからな」

「そりゃあ、ランク5冒険者だし」

「僕も、ガラハド戦争で遠目には見てたよ」

「うむ、見事な光魔法の腕前である」

「でも、リリィには時間制限という弱点があった」

 妖精女王の加護が満ちる『光の泉』という聖域にいない彼女は、常に真の力、すなわち、少女の姿で戦えるワケではない。

「リリィは『紅水晶球クイーンベリル』という大魔法具アーティファクトを使うことで、約三十分だけ、元の姿に戻って全力で戦えた」

「おおー、だからいつもは小っこい姿だったのか」

「小さくても、相当な強さだったように見えたけど」

 そう、リリィは別に幼女状態でも、普通に強かった。ゴブリンの群れを余裕で殲滅できるし、その気になればサラマンダーだって倒せるだろう。

「でも、記録では明らかに三十分以上、戦っていたようだけど」

「一度も、幼い姿は見せてもおらん」

 そう、今のリリィで一番恐ろしいのが、コレである。

「ああ、リリィの体には、エンヴィーレイというランク5モンスターが宿っている。一応、悪霊系に分類されるらしいが……コイツは超高密度の魔力生命だ。リリィはエンヴィーレイの魔力供給を受けることで、ずっと真の姿を維持できている」

 えっ、なにそれ、チートじゃん。フィオナがヴィヴィアンに吹き込んでいた、リリィの力の予想を聞いて、俺は真っ先にそう思った。

「悪霊ってことは、とり憑かれてるってことか?」

「もし、それだけのことなら、ネル姫様が祓っていそうなものなのだが」

「いや、リリィは正気だ」

「あの子を正気って呼んでいいのかい?」

「全て、自分の意思でやってるってことだ」

「ふむ、愛に狂うのは、己自身の心に他ならぬからな」

 セリスの言う通り、ただリリィがエンヴィーレイという邪悪な悪霊にとり憑かれて、操られているだけ、という状況であればずっと楽だった。とり憑いた悪霊を払う方法なんてのは、幾らでもあるから、馬鹿正直に戦う必要もない。それにリリィの強靭な精神力をもってすれば、完全に除霊が成功しなくても、ほんの僅かでも支配が緩めば、必ずや悪霊如き追い出せる。

「リリィは自分の意思で、エンヴィーレイと結びつき、その力を行使している。使い魔サーヴァントみたいなものだな」

「なるほど、それじゃあ、祓うのも難しいだろうね」

 見た限り、リリィは完全にエンヴィーレイの力を引き出し、我がものとしている。その象徴が、あの赤黒い蝶の羽。

 純粋な妖精としての力だけでなく、悪霊の魔力を取り込んでいるからこそ、あの色と形に変質してしまったのだ。

 それはきっと、ただの変化というだけでなく……リリィがどんな手を使ってでも、俺を手に入れるという、決意と欲望の証でもある。

「ははぁ、とんでもねー魔力量の、光魔術士ライト・マージと戦うって感じか」

「いや、アレは最早、古代魔術士エンシェント・ウィザードとでも呼ぶべきだろう」

 リリィの恐るべき力、その二である。

「現時点で明らかになっている、リリィの古代魔法エンシェントは、天空戦艦の副砲操作、鏡のような転移、フィオナを閉じ込めた広域結界、あとは、『生ける屍リビングデッド』にも、色々と仕掛けていそうだな」

「あの銃は? あまり詳しくはないが、銃とは複雑な機械式の魔法の杖、みたいなものだろう」

「リリィの使っていた二丁拳銃は、間違いなくアヴァロンで手に入れたモノだ。今まで、銃なんて使っているのも、持っているのも、見たことなかったからな」

「古代の武器……大魔法具アーティファクト級の一品とみるべきであろう」

 あのリリィがわざわざ使っているのだから、それくらい強力な代物に違いない。銃口から『星墜メテオストライク』だって撃ち出せるし。

「白い『メテオストライカー』は、自分の光魔法と、副砲などの古代遺跡の機能にアクセスして操作する能力もあるようだ。黒い『スターデストロイヤー』は……俺の、黒魔法を使うのに特化しているとみて、間違いない」

 リリィが逆転できた要因の一つだ。『妖精殺しリリィスレイヤー』はあらゆる妖精の固有魔法エクストラを封じたが、全く別系統である黒魔法を阻害する効果はなかった。故に、リリィは咄嗟に魔弾バレットアーツで反撃できたのだ。

「あれ、でも妖精族ってよ、闇魔法は使えないんじゃなかったっけ?」

「どう見ても、クロノくんと同じ黒色魔力も使った、魔法を行使していたけど……あの子には、まだ、何か秘密があるんでしょ?」

 流石に、よく見ている。

 そしてこれが、リリィの恐るべき力、その三となる。

「リリィは、俺の眼球を利用した大魔法具アーティファクト『黒ノ目玉イヴィルアイ』を、自分の左目に埋め込んでいる」

「なるほど、だから左目が黒く……ということは、まさか」

「自らの目を、抉り取ったか。凄まじい情念だな」

 力が欲しかったのか、俺が欲しかったのか。どちらにせよ、マトモな精神で、できることじゃあない。

「信じがたいことだが、それによって、リリィは俺の力を引き出せるようになった。俺の左目の視界を見ることができるし、黒色魔力を引き出すこともできるらしい」

「だから、眼帯してるってこと……でも、魔力を持っていかれるって、大丈夫なのかい?」

「ああ、実際にリリィが利用できる量は、限られる。通じているのが、左目一個分だからなのか、詳しいことは分からないが、俺自身の黒色魔力は少ししかリリィには流れない」

「ふむ、だが、それなり以上の黒色魔力を使っていたようだが……」

「一番重要なのは、クロノ自身から魔力を奪うことじゃなくて、自分自身が黒色魔力を扱えるという、適性を手に入れたということか」

 そう、適性さえあれば、あとは黒色魔力を集めさえすればいい。すでにして、リリィは自分の魂から黒色魔力を生み出すことができるようになっているのかもしれないし、あるいは、拠点の中で黒色魔力を集める儀式祭壇なんかがあるのかもしれない。

 どちらにせよ、リリィは光魔法と黒魔法、相反する属性の力を完全に自分のものとしているのだ。光と闇が合わさり、最強にみえる。

「ねぇ、ちょっと聞くのが怖いんだけどさ……リリィさんって、もしかして黒魔法だけじゃなくて、クロノくんの加護も、使えるんじゃないの?」

「そうだ、あの赤いオーラとか灰色のオーラとか、俺、見たことあるぜ」

「ただの黒魔法とは異なる、特別な力としか思えぬな」

「冒険者にとっては秘密だから、聞かずにいたけれど、今回は聞かせ貰おう……クロノ、君は一体、何の加護を得ているんだ?」

 ああ、やっぱり、そこに気づいてしまったか。

 別に、隠しているつもりはなかった。ただ、他の人には物凄く言いにくいというだけで。

 だが、この期に及んで、それも、命を賭けて俺を助けてくれると言う、この『ブレイドマスター』のメンバーにだけは、明かさなくてはいけない。それが、リリィ攻略のために必要な情報であり、そして、俺の誠意でもある。

「ああ、実は、俺の加護は――」

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