第572話 アヴァロン交差点
新陽の月20日。ここ数日は毎日、ネルとセリスのコンビがやって来ては、俺を外へ遊びに連れ出してくれている。お蔭で退屈せずにすむ、それどころか、純粋に観光旅行のように呑気に首都アヴァロンの街を楽しめて、何とも心が弾むというか安らぐというか。これでいいのか、と思うほど楽しい時を過ごしている。
気にかかるのはもっぱら恋人であるフィオナの心情であるが、不思議と彼女は何も言ってこない。毎日のようにサリエルを連れて、例のアリア修道会の調査へと赴いている。
無論、そんな状況に何も思わないほど、俺だって間抜けではない。俺だけ遊びほうけているわけにはいかないと、何度もフィオナに言ったのだが……
「クロノさんは、傷を癒すことだけ考えてください。それに、スパーダに戻れば、また忙しい冒険者生活ですから。今は休暇だと思い、『お友達』と楽しく遊んでおいた方が有意義というものです。修道会の調査も、片手間のようなものですし、大した仕事ではありませんから」
確かにその通りだが、それだけで引き下がるわけにもいかない気がしたので、もうちょっと頑張って喰らいついてみた。
「それに、近々、カオシックリム討伐の件で、王宮に招かれるでしょう。そういった場では、強いコネがあるに越したことはありません。正直、アヴァロンの王宮にはいい予感が全くしないので……今の内に、仲良くしておくべきかと。ついでに、二人の紹介で他の偉い人なんかにも、顔見せを済ませておければいいですね」
残念ながら、その偉い人候補の筆頭であったベルクローゼン師匠は修行の旅に出たということで、会うことはできなかったから、いきなりコネ作りには躓いてしまったことになる。
ともかく、こうも言い聞かされては、俺としてもやはり頷かざるを得ない。今もまだ、俺の右手右足は満足に動かせない。何をするにしても、やはり治らないことには始まらないというのも、事実だ。
そんなワケで、俺は今日も心苦しくも、ネルとセリスの二人に連れられてアヴァロンの街を遊び歩いていた。
「――あ、そういえば、クロノくんはどこか行ってみたいところは、ありますか?」
神殿を出て、まずは昼食とセリスがオススメしてくれた店へと向かう途中、セーラー服のネルが聞いてくる。
基本的に俺は二人に誘われるがままに、アヴァロンの有名観光スポットから地元民しか知らない穴場などを渡り歩いてきた。旅行雑誌みたいなモノを見かけた覚えのない俺は、アヴァロンについて知ることは少ない。だから海外旅行のように、あそこに行きたい、ここを見たい、などの要望など出るはずもなかった。
しかし、こう何日も街に繰り出し、二人から色々とアヴァロンの情報を聞かせてもらうと、それなりに分かるようにはなってくる。
「私と姫様がいれば、大抵の場所は行けるから、遠慮せずに言ってくれ」
すっかり慣れた様子で俺の車いすを押すセリスは、ドキっとするような優しいまなざしと微笑みで、そんなことを言う。ナチュラルにこんな顔ができるんだから、女の子からすれば堪ったもんじゃないだろう。ネルに聞かされるセリスの女子人気の話など、誇張ではなくありのままの事実に違いない。
「そうだな……帝国学園には、興味あるかな」
「学園ですか? そういえば、案内はしませんでしたね」
「しかし、クロノはもうスパーダの神学校を卒業してきているのだろう?」
「別に、通いたいワケじゃないさ。帝国学園って、あの魔王ミア・エルロードが通ったって、有名なんだろ。一目、見ておこうと思って」
なるほど、と二人は何の疑問もなく納得してくれる。パンドラの男は大抵、魔王にゆかりのあるものには興味を示すというし、見学するには定番の理由なのだろう。まぁ、俺としても嘘ではない。
「ついでに、セリスの着てる学ランにも興味が――あ、変な意味じゃないぞ。俺が故郷で通っていた学校の制服が、よく似た服だったからってことだ」
「そうなのですか。神社といいガクランといい、ニホンというクロノくんの故郷は、意外なところでアヴァロンとの共通点が多いのですね」
まぁ、恐らくは日本が元ネタだろうから。
素直にそう言えないのは、何だかんだでネルとセリスには俺が異邦人であることをまだ教えていないからだ。言うタイミングもなかったというか、あんまり吹聴するのもアレな話だし。
とりあえず、二人は俺のことを物凄く遠い国から色々と事情があってやって来たと思っている。
「それなら、記念にガクランの一着でもプレゼントしようか?」
「えっ、生徒でもないのに、それは恥ずかしくない?」
「アヴァロンでガクランは礼服の一種としても通っている。少しばかりの装飾を加えれば、年配の貴族が着ていても、恥ずかしくはない立派な服装さ」
「古代ではガクランは軍服でしたし。昨日見た、中央公園の魔王像もガクランのような服装だったでしょう?」
確かに。学ラン軍服にデカいマント装備は、俺が見たミアちゃんと同じ格好である。
しかし、ネルの言う魔王像は、威厳に満ちあふれた長髪とヒゲを生やした、ガチムチマッチョな老人の姿だ。どう考えても、あのデザインは後世の創作によるものだろう。
「そうか、それなら一着くらい持ってても――」
なんて、呑気な会話を交わしていたその瞬間だ。
感じる。これは、鋭い殺気。
「何者ですか」
俺より先に、その場を振り返り誰何の声を上げたのは、ネルであった。
まさか、アリア修道会の手の者が、早くも俺をガラハド戦争での怨敵と定めて襲撃を仕掛けて来たのか――という予想は、すぐに否定される。
多くの人が行き交うアヴァロンの大通り。そこに立っていたのは、
「……お兄様」
「久しぶりだな、ネル」
ネロ・ユリウス・エルロード。一度見たら忘れない、黒髪赤眼というエルロードの血筋を体現する、本物の王子様である。
彼の姿を見かけたのは、ガラハド戦争以来だ。俺としても、久しぶりだといった心境。
「ったく、アヴァロンに帰ってきたってのに、全然、顔を出さないじゃねーか。親父とはちょくちょく会ってるくせに、戦争帰りの兄貴に挨拶もなしとは、薄情な妹だな」
「すみません、騎士選抜に出場することになり、何かと忙しかったもので。それにお兄様こそ、ロクに王城で過ごすこともなく、共も連れずに毎日どこかへお出かけなさっているそうではありませんか。それで会いに来いとは、意地悪な兄ですね」
ふっ、と笑うネロと、うふふ、と微笑むネル。
な、何だ、この緊張感は。ここは、久しぶりに兄妹が再会した、感動的な場面ではないのか?
「そうだな、悪かった、ネル。元気にやってるってことは、騎士選抜の話で分かってたし、お前も勝手に出歩く俺のことを聞いてるなら、まぁ、お互いに心配はしてなかったってワケだ」
「ええ、実にお兄様らしいと思い、露ほども心配していませんでした」
どこか寒々しい雰囲気が漂う。き、気まずい……
「ネロ様、お久しぶりです。スパーダ留学をお見送りした時以来、でしょうか」
言葉が途切れた苦しい沈黙をすぐに破ってくれたのは、セリスだ。敬語ではあるが、あまり堅苦しい形式的なことを言わないのは、ネルと同様に、ネロとも幼いころからの付き合いがあるからだろう。
「そういや、もうそんなになるか。セリス、お前はあんまり変わらねーな」
「背は大分、伸びたはずですが」
「腕前も上がったようだな。騎士選抜での活躍は、聞いている」
「それなら、当然、クロノくんの活躍も知っているでしょう、お兄様?」
ちっ、と舌打ちするような、あからさまな反応はない。だが、静かに佇むネロからは、押し殺した怒気のようなものが感じられる。流石に、もう殺気は出ていないが。
「ああ、話は聞いている。随分と派手に暴れたそうだな」
「お兄様の奔放な性格は理解していますが、あまり、私に恥をかかせるような物言いは控えて欲しいですね」
「……なんだと?」
「クロノくんは、お父様をはじめ、会場にいた者を凶悪なモンスターから救った英雄。王族として、真摯に礼を述べるのが筋というものではありませんか」
「やれやれ、随分と爺臭いことを言うようになったじゃねぇか、ネル」
「お兄様こそ、いつまでも子供っぽいのは如何なものかと。そんなに、クロノくんの活躍が妬ましいのですか」
「姫様、それ以上はおやめください。ネロ様、申し訳ありません。姫様も、この私も、クロノのお蔭で命を救われたのは事実なのです。多少、肩入れしてしまうのは――」
「別に、構わねぇよ。あのカオシックリムとかいう死にぞこないを始末したのは、確かにクロノ、お前だ」
そこでようやく、ネロは俺へと視線を向ける。真剣の刃を突きつけるように、鋭い気配の真紅の視線だ。
「アヴァロンまで来て、何を企んでいやがる」
「お兄様!」
「いや、いいんだ、ネル。何か勘違いしているようだが、俺はただクエストを受けただけだ。ランク5冒険者なら、大物を狙って動くのは当然だろう」
「その結果、ネルだけじゃなく、まさかセリスにまで取り入るとはな」
「二人は偶然、あの場に居合わせただけだ。今は治療の為にアヴァロンの神殿で厄介になっているが、二人には良くして貰っている」
「計画通り、いや、計画以上、なのか? 騎士選抜の舞台で華々しい活躍を遂げて、親父の覚えもめでたいらしい」
やはり、ネロ王子は困ったことに、何か壮大な勘違いをしているように思えてならない。俺のことを、密かに国家転覆を企む大悪人とでも考えているのか。
まぁ、ネロとの関係はとても良いものとは言えないが、それにしても、そんなありもしない陰謀論をふっかけるのは、あんまりだろう。
「俺はただの冒険者で、何かを企んでなどいない。傷が治れば、大人しくスパーダに帰るし、今回の手柄をふっかけて、アヴァロンに取り入ろうとも考えちゃいない」
「当然だ。アヴァロンを舐めるなよ」
取りつく島もない。
「ネル、セリス、悪いことは言わないから、コイツとはあまり近づきすぎるな。窮地を救われた恩を返すというなら、金でも何でも、どうとでもなる」
「お兄様こそ、妙な偏見は捨てて、クロノくんのことを認めてあげたらどうなのですか?」
「お言葉ですが、私も、こうしてクロノと言葉を交わした限りでは、とても警戒すべき危険人物だとは思いません。彼は戦い方こそ激しいですが、とても理知的で、思いやりのある、優しい人です」
うわっ、セリスの恥ずかしいくらいの高評価に、感動してしまう。やはり、信頼されているというのは、素晴らしい。
「……まぁ、いいさ。すぐにスパーダへ帰るなら、それでな」
残念だが、俺がスパーダに帰れば、こうしてネルとセリスの二人と会うことはなくなるだろう。ネロからすれば、黙っていてもどうせ離れ離れになるのだから、余計なことをする必要性もない。
「邪魔したな。せいぜい、アヴァロン観光をのんびり楽しめばいい」
そうして、ネロは背中を向けてクールに去ろうとした、次の瞬間だった。
「ちょっと、エクス! いつまで待たせるのよーっ!」
「おい馬鹿っ! こっちに来るな――」
今度は、俺の方が殺気を迸らせることとなる。
ネロをエクスという偽名で呼びながら、こちらにむかって駆け寄ってくるのは、一人の少女。白い修道服に身を包み、特徴的な長い黒髪を揺らしているのは――
「リン!」
「リィンフェルトっ!!」
影から鉈を抜いて斬りかかろうとしたが、すんでのところで抑える。
ここは天下の往来、アヴァロンの大通りだ。いくら脱走犯リィンフェルトを見つけたからといって、問答無用で切り捨て御免とするわけにはいかない。下手すれば俺が殺人罪で現行犯逮捕。
「ひっ!? な、なんで、アンタが……」
ネロの元までやってきたリィンフェルトは、怨敵であろう俺の姿を目にして、あからさまに怯えた表情となる。その反応からして、やはり、顔の良く似た別人ってことはない。
だが、それよりも気にするべきところは――
「ちっ、馬鹿野郎、よりによって、コイツに見つかるような真似しやがって」
「だ、だって……私……」
リンは恐ろしいモンスターを前にした無力な少女のように怯えた様子で、ネロへと震えた体を寄せている。そして、ネロ自身もそんな彼女を憎からず思っているのか、そっと抱き寄せていた。
「ネロっ! お前がリィンフェルトを逃がしたのか!」
「……人違いだ」
「ふざけるなっ! 自分が何をしたのか、分かっているのか!?」
足が動けば、そのまま飛び出して詰め寄っていただろう。殺意も怒気もないまぜになって、俺は感情のままに糾弾の言葉を叫ぶ。
「無駄だ、クロノ。言っただろう、コイツはお前が生け捕りにしたリィンフェルトとかいう十字軍の捕虜じゃない。奴らとは何の関係もない、ただの孤児の少女、リンだ」
「関係ない、だとぉ……この女のせいで、何人死んだと思ってやがる!!」
戦争なのだから、人は死ぬ。俺もネロも、大勢殺した。殺人の罪を問おうとは思わない。
しかし、リィンフェルトは敵将だ。捕らえられたなら、然るべき処分を受けねば、コイツのせいで死んだスパーダ兵は報われない。断じて、見た目通りの少女に戻ったかのように、平穏な生活に逃れることなど許せない。
「おいネロ、どうしたよ」
「なに、この人……凄い殺気だけど」
ツレがいたのか。リィンフェルトを追いかけてくるように、褐色肌の青年と金髪のお坊ちゃんみたいな少年が現れる。
青年の方は十字教のとよく似た白い司祭服に身を包んでいる。その肌の色と銀髪碧眼は、ウルスラと同じイヴラーム人の特徴だ。少年の方は金髪赤眼で、レキのバルバトス人のよう。両者とも同じ人種なのか、たまたま同じ色合いもって生まれただけなのかは分からない。
しかし、この二人がリィンフェルトの仲間であるのは、一見して明らかだ。暴漢からか弱い乙女を守るヒーローのように、リィンフェルトを背中に庇って立つ。
「だ、ダメ! やめて、二人とも、あの男に刃向ったら……」
イヴラーム司祭とバルバトス少年は、なるほど、ガラハドの戦場で侍らせていたイケメンボディガード達に匹敵する美形といえる。無残に散った彼らと、こうして果敢に自分を守るとする二人の姿が重なったのだろう。
「安心しろ、リン。お前は俺らが守る、今度こそ、絶対な」
「そうだよ、リン姉さんのためなら、僕も『力』を使う覚悟はある」
いいだろう。本気でヤル気なら、また何人でもお前の男をぶち殺して、その首根っこを掴んでスパーダ軍につき出してやる。
「よせ、こんなところで戦る気かよ。それに、よく相手を見ろ」
「うおっ、マジかよ、ネル姫様に、アークライトの……」
俺の傍に控えるネルとセリスにようやく気付いたのか、イヴラーム司祭が驚いている。
「クロノ、お前がリンのことをスパーダ軍に通報するってんなら、好きにすればいい」
「大人しく引き渡すつもりは、ないんだな」
「コイツはただのリンだ。十字軍のリィンフェルトなんて女は知らん。もし、本物だったとしても……お前が口出しできる資格はない。そうだろう、サリエルの美貌にたぶらかされて、奴隷にした変態野郎が」
「クロノくんを侮辱するなら、お兄様でも許しませんよ!」
「奴隷にしたのは事実だろう。いい加減、目を覚ませ、ネル。その男は危険だ」
そっとネルの手を掴んで、動きを止める。今にも怒りで飛び掛からんばかりの気配を察したからだ。
ただでさえ、こんな人通りの多い場所で喧嘩なんてまずいのに、エルロード兄妹の壮絶なバトルが始まれば、収拾がつかなくなる。
「ネロ、お前のほうこそ、その女を然るべきところにつき出せ。十字軍の恐ろしさが、まだ分からないのか」
「リンはもう、俺の仲間だ。ちょっかいかけようってんなら、この俺を、いや、アヴァロンを敵に回すと、覚悟しておけ」
「……まさか、お前、十字教の信者になったわけじゃないだろうな。リィンフェルトとその男の服は、アリア修道会のものじゃないのか」
「俺は神ってヤツが大嫌いなんだ。どんな神も信じてやるつもりはねーよ。それに、コイツらの格好は古臭ぇだけのマイナー神殿の司祭服だ」
「マイナー神殿とか言うな。俺が司祭になったからには、これから流行らせるんだよ!」
「似たような格好のアリア修道会に、もうすでに信者数で負けてるじゃねーかよ」
「うるせぇ! あんな胡散臭ぇ成金カルトなんざ、どうせすぐ潰れるっての!」
勝手にネロとイヴラーム司祭が仲良く言い合いを始めたが、どうやら、ただの茶番ではなくマジでやっているらしい。ということは、あながち誤魔化すための嘘でもないってことか。
「あの司祭服は、確かにお兄様の言う通りのものです。昔から街の一角で小さな孤児院を経営しているだけで、お兄様は幼い頃、よくそこの子供達と遊んでいたようです」
確認のためにネルに聞いてみれば、そんな答えが返ってきた。
「ネルもアイツらと知り合いなのか?」
「いえ、お兄様が一人で抜け出して会いに行っていたので、私は顔も名前も存じません」
そういえば、ネロってそういうヤンチャ坊主だったって話だな。ウィルからもチラっとネロ王子の放浪癖を聞いたことがある。
「とにかくだ、変な勘違いしてんじゃねーよ。ネルの言った通り、コイツラは俺の昔馴染みだ」
「ああ、そうらしいが……けど、アリア修道会には気を付けろ。奴らは間違いなく、十字軍の手先だ」
「俺の知ったことじゃねぇな。本当だろうが嘘だろうが、そういう奴らに対応するのはアヴァロン軍の仕事だ。俺もお前も、どうこう言える義理はねぇ」
悔しいが、その通りだ。だから、フィオナが調査するくらいの行動しかできていない。
しかし、一国の王子であるネロが警戒しているなら、ただの冒険者に過ぎない俺達よりも大きな影響を与えられると思うが……コイツが俺の忠告に大人しく従うとは思えない。いっそのこと、アリア修道会は素晴らしい宗教、今すぐ入信して、白き神を崇めましょう、アーメン、とか言ってやった方がいいのか。ニセとはいえ司祭経験のある俺は、そこそこ説法もできるんだぜ。
「ちっ、騒ぎ過ぎたか……おい、もう行くぞ、お前ら。人が集まり始めてる」
気が付けば、俺達はざわつく群衆に囲まれつつある。そりゃあ、エルロード兄妹が騒いでいれば、アヴァロン人なら注目しないはずがない。もしかしたら、すでに誰かが憲兵に通報しているかも。
俺としては、あの女はリィンフェルトという十字軍の脱走した捕虜だ、と訴えて大騒ぎした方がいいのだが、最悪、ネロは王族としての強権を行使してでも、潰しに来るかもしれない。ここで騒動に発展させるには、リスクが高いな。
どうやって取り入ったのかは知らないが、ネロは随分とリィンフェルトを気に入っているようだ。そもそも、ネロが脱走の手引きをしたのだから、捕まった時点で目を付けていた、ということになる。
まさか魅了にかかった、とは思いたくないが……
「ネル、セリス、俺達も行こう。これ以上、騒ぎにはしたくない」
「いいのですか、クロノくん?」
「この場で捕まえてやりたいが……そうするワケにもいかないからな、仕方ない」
とりあえず、スパーダとアヴァロン、それぞれに報告しなければいけないだろう。あとは、スパーダ軍か冒険者ギルドがリィンフェルトを脱走犯として懸賞金付きの指名手配でもしてくれれば、俺はそのまま正式な依頼という形で、ヤツを捕まえに行けばいい。
今すぐ必要なのは、アヴァロンに潜り込んだリィンフェルトの身柄を拘束する大義名分だ。
「今日はもう、遊んでいる暇がなくなってしまった。セリス、悪いが、俺を冒険者ギルドまで連れて行ってくれないか」
2016年9月2日
昨晩、予約投稿をした際に、急になろうのページが繋がらなくなってしまったので、投稿が遅れてしまいました。もしかして、ダイジェスト化削除の件でメンテでもしているのか・・・などと思いましたが、ともかく、遅れてしまい、申し訳ありませんでした。