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黒の魔王  作者: 菱影代理
第29章:混沌の化身
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第571話 ベルクローゼンの運命

「――はぁ、別にいいですけど」

 俺がネルと出かけることについて内心ビビりながらフィオナに聞いたところ、何とも素っ気ないOKの返事が出た。

 いやだって、恋人がいるのに異性の友人と出かける、というのは浮気を疑われても仕方のない行為である。無論、俺としてもネルと二人きりで、などとは考えてはいない。セリスの同行は確定していても、フィオナだって一緒に行こうと誘うつもりだった。

「いえ、クロノさん一人で行ってきていいですよ」

 しかし、思わぬ言葉がフィオナから飛び出た。

「えっ、いいのか?」

「私はそれほど狭量な女ではないつもりです。それに、クロノさんのことは、信じていますから」

「……そ、そうか」

 凄まじいプレッシャーのかかるお言葉である。勿論、俺だってネルになびくような気持ちなど全くない。ないのだが、こう、やはり後ろめたさは拭いきれない。

「それじゃあ、サリエルは俺の方についてこさせればいいか?」

「いえ、明日は私に同行してもらいます」

 フィオナお嬢様がサリエルをご指名とは珍しい。

「何かあるのか?」

「はい。アヴァロンに来たこの機会に、アリア修道会を探ってみようと思います」

 俺が退屈を持て余して遊びほうけているのが馬鹿みたいになるほど、真面目な回答であった。



 そして翌日、新陽の月15日。

 結局、俺は当初の予定通り、ネルとセリスに連れられ出かけることになった。まぁ、一人で歩けない俺が、修道会調査に協力できることなどなにもない。それどころか、足を引っ張ることは目に見えている。

 フィオナからは、せいぜい、アヴァロンのお姫様と有力貴族の跡取り息子と仲を深めてコネを作って来ればよい、などと言われてる。俺としては、二人のことは真っ当な友人として見ているのだが……まぁ、否定はするまい。二人がド偉い立場にあるのは事実だしな。

 もっとも、打算的な思惑を抱えながら仲良くできるほど、俺は器用じゃない。

「おぉ、これがアヴァロン王城か……何か、スパーダよりも豪華だな」

 アヴァロンの街を囲む大城壁と同じ色合いの、白亜の城である。そびえ立つ二本の尖塔が特徴的で、屋根は鮮やかな青色。デザインはこの異世界にあっても、どこか幻想的なもので、実在する城というより、絵本の中かテーマパークにでもあったほうがしっくりくるような気がする。

「うふふ、スパーダ王城の方は実際に戦争で使われた要塞ですから、無骨な造りがそのまま残っているんですよ」

「アヴァロン王城はエルロード王家の権威を示すために建設されたから、他よりも綺麗に見えるのは当然なのだ」

 アヴァロンの中心までやってきて、堂々とそびえ立つ王城に俺が間抜けな感想を漏らすと、ネルとセリスの地元民がガイドよろしく説明をくれる。

 昼前には二人が神殿まで迎えに来て、出発してから俺は、終始、このように観光客気分であった。

 昨日の言葉通り、俺がどっかり座る車いすはセリスが力強く押してくれている。アヴァロンはスパーダと同様、いや、それ以上に街中も綺麗に整備されているから、道路の舗装も完璧。車いすで進んでも、さして不便は感じなかった。

「それでは、入りましょうか」

「えっ、中に入れるのか?」

「巫女様は王城の中にいらっしゃるからな」

 今日の目的はベルクローゼンという巫女さんに会うことなのだが、なるほど、ネルの師匠になれるような人なのだから、王城に住むような高貴な人物であってもおかしくはない。俺は勝手に、街のどっかに道場でも構えているのかと想像していたが。

「俺は本当に入っていいのか?」

 少なくとも、スパーダ王城は厳しい入場制限がされている。決して、観光目的でフラっと入り込んで良い場所ではない。俺だって公式にお呼ばれしたイスキアの勲章授与とサリエルの戦功交渉の二回しか、王城に入ったことはないし。

「もう、クロノくんは私がアヴァロンの第一王女であることを、忘れてしまったのですか?」

 いや、それは片時も忘れた事ないけど。

「すでに許可は取り付けてあるから、安心しろ」

 もっとも、姫様の客人にケチをつけるほど馬鹿な衛兵はいない、とセリスが付け加える。

「そうか、でも、何か緊張するな」

「ふふ、クロノくんは近い内に王城に招待されると思うので、今の内に慣れておくといいですよ」

「招待? なんで?」

「カオシックリムの討伐を果たしたのはクロノではないか。あの場には国王陛下をはじめ、アヴァロンの有力貴族が何人も列席していた。その窮地を救ったのだから、ただ冒険者ギルドからクエスト報酬を渡してお終いとはいかないだろう」

 セリスの父親もあの場にはいたのだ、とネルはこそっと耳打ちして教えてくれる。息がくすぐったくて、ちょっと恥ずかしいんですけど。近すぎませんか、お姫様。

「そういう話が進んでいたのか……」

 参ったな、とは思うが、『エレメントマスター』の名声が高まることはプラスに働くだろう。名声が高まるということは、それだけ発言力も上がるということだ。ランク5冒険者、それでいてアヴァロン国王の覚えもめでたい奴らが、「十字軍との戦いに協力してくれ!」と声高に叫べば、ある程度の宣伝効果も望めるだろう。

 もっとも、このアヴァロンで行動を起こすような時はきて欲しくないが。スパーダのように面と向かって十字軍とにらみ合っているわけではないが、それでもアリア修道会という存在がある。この国も、油断はできない。

「今日、明日、呼ばれるという話でもないさ。少なくとも、クロノの怪我が治るまで待つくらいの分別はある……ですから、あまり国王陛下を焚きつけるのはお止め下さいね、姫様」

「そ、そんなことしてないです!」

 ネルの反応が怪しい。彼女のことだから、過剰に俺のことを美化して伝えていそうな気がする。王様が俺のことを白馬の王子様みたいな完全無欠の超絶イケメンとか勘違いしたらどうしてくれる。ガッカリってレベルじゃねーぞ。

 いや、あの闘技場にいたのなら、俺の顔はバレているから、そういう心配はいらないか。

「と、とにかく、ベル様もお待ちです、早く行きましょう」

 やや強引に促されて、俺はアヴァロン王城へと入場を果たすのだった。

 芸術品のような真っ白い正門から、真っ直ぐに本城へは向かわず、回り込むように庭園を歩く。外側から人目に付きやすい場所の庭は、フランスの宮殿みたいに計算され尽くしたデザインの豪奢なタイプであったが、城の裏手辺りからは、緑豊かな自然公園、みたいな雰囲気に変わっていた。それでも、どこを切り取っても絵になるような木々や川、池といった自然物の配置は、人為的なセンスによるものなのだろう。

 そうして進んで行った先にあったのは、長い石階段であった。

「この先が、ベル様のいる『火の社』です」

 当たり前のようにさらっと紹介しているが……おいおい、マジかよ。これ、完璧に神社じゃねーか。

「まさか、こんなところで鳥居を見ることになるとは」

「えっ、クロノくんは鳥居を知っているのですか!?」

 思わず出た独り言に、ネルが酷く驚いていた。

「あ、ああ……俺の故郷にも、同じものがあったんだ」

「そうだったのですか。鳥居はパンドラ大陸でもここにしかない、非常に珍しいタイプの古代遺跡なんですよ。もしかしたら、クロノくんの故郷が鳥居を祭る聖地なのかもしれないですね」

 そりゃあ、神道は日本古来の宗教だからな。まさか、この異世界にまで出張しているとは思わなかったが。

 しかし、これでネルの巫女服の出所が分かった。神道は全く普及しなかったようだが、こうしてひっそりとアヴァロン王家の中で受け継がれてきたのは奇跡的である。

 俺は思いがけず出会った日本の象徴に、不思議な感慨を覚えながら、長い石段を登り始めた。

「セリス、大丈夫か?」

「もっと重いものを背負って、アスベルの山を登る鍛錬をしたこともある。これくらい、大したことはないさ」

 俺の車いすを軽々と持ち上げて、軽快に石段を登る姿に、思わず聞かずにはいられなかった。セリスのように線の細いヤツでも、この重量を軽く持ち運びできるのだから、やはり魔力ってのは凄いもんだ。

 そんなことを思っていると、すぐに石段を上り詰める。

 下にもあったのと同じ鳥居が立っている。そして、その先にあるのは、やはり、神社としか言いようのない――

「はっはっは、ようやく来たようじゃな、ネル、セリス、待ちわびておったぞ!」

 と、俺の視界を遮るように、堂々と目の前に立っているのは、何とも可愛らしい巫女さんだった。

 小さい子だ。見た目は幼女リリィ以上、レキとウルスラ未満といった感じ。どこからどう見ても子供だが、両手を腰にあてて、ふんぞりかえるように高笑いをあげる姿はやけに偉そうだ。背伸びしたいお年頃なのだろうか。

「あら、ここまでお出迎えしてくれるなんて、相変わらずですね」

「当然じゃろう、妾もこの時を楽しみにしておった。さて、そこにいるいのが、噂に覚え聞くクロノ――」

 自信満々に不敵な笑みを浮かべる小さい巫女さんが、大きく一歩前に出て、俺の顔を凝視してくる。

 リリィに負けず劣らずの美少女フェイスな巫女さんだが……それよりも、気になるのは髪と目の色。そう、この子は、黒髪に赤い瞳を持っているのだ。

「もしかして、この子はネルの妹か?」

「えっ」

「あんまり似てないけど、可愛いじゃないか。初めまして、俺はクロノ。ただの冒険者の

クロノだ」

 あ、妹ってことは、第二王女で本物のお姫様ってことか。こんな適当な挨拶でいいのか、と言ってから後悔する。

「あ……う、あ……」

 ほら見ろ、妹ちゃんは俺が気易く差し出した手を前にして、顔を真っ赤にしてガチガチに緊張している様子だ。

 幸い「無礼者!」などと激高することはなく、おっかなびっくり、小さな手を伸ばしてくれた。リリィを思い出させるプニプニした幼子の手が、そっと、俺の指先を握った。なんていじらしい握手だろう。

「よろしく。よかったら、俺に名前を教えてくれないか?」

「……べ、べっ……ベルぅ……」

「ベルちゃんっていうのか、可愛い名前だ。お姉さんとも似ている」

 ネルとベル、うん、凄い姉妹っぽい。それにしても、こんなに可愛い妹さんがいるのなら、先に教えておいてくれよ。

 俺は別に、小さい子との触れ合いに慣れているわけでは断じてない。子供を喜ばせる術やトーク力を持ち合わせていない。うーん、ここはとりあえず、歳でも聞いておくか。

「歳は幾つ?」

「う、うぅ……」

 見知らぬ男を前に、緊張のボルテージがどんどん上がっているのか、ベルちゃんはギュッと目をつぶったまま、震える手で歳を教えてくれる。

 右手がピースするように二本の指をたて、左手はパーで五本指。二と五、合わせて七。

「七歳か」

「っ!?」

 と、そこでベルちゃんは限界に達したようで、今にも泣き出しそうな表情で華麗にその場で身を翻し、野良猫のようなダッシュで神社の本殿へと駆け込んでいった。

「……ごめん、ネル、やっぱり俺、怖がらせちゃったかな?」

「い、いえ……」

 明らかに困惑したようなネルの表情を見るに、やはり怖がらせてしまったとしか思えない。いかん、テンプレ会話で無難に切り抜けられるかと思ったが、失敗だったか。やはり、恨むべきはこの凶悪フェイス。

「ベルちゃんには、ネルの方からあやまっといてくれよ。まぁ、あの様子じゃあ、もう顔を合わせない方が良さそうだけど」

「あの、それは……いえ、そうですね。申し訳ないのですが、クロノくん、ここで少し待っててもらえませんか? 私、ちょっと言い聞かせてくるので」

「初対面の相手に失礼だったとか、あんまり怒ってやらないでくれ。まだ七歳なんだからな」

「大丈夫ですよ、心配しないでください」

 ネルは優しげな微笑みを浮かべて、しずしずとベルちゃんが逃げ込んで行った本堂へと向かった。

「俺、ネルに妹がいるなんて初めて知ったよ。セリスは知ってたのか?」

「あっ、いえ、私は……クロノ、悪いが、このことについては、何も聞かないでもらえるだろうか」

「そうか? 何だか事情がありそうだな。分かった、そうするよ」

 なるほど、アヴァロン王家の闇は深そうだ。ベルちゃんは色々と可哀想な境遇っぽいが……俺が下手に騒いで彼女の平穏を乱すことになったら大変だ。

 ここは、何も見なかった、誰とも会わなかった、ということにしておこう。

「ところで、師匠のベルクローゼンって巫女さんは、どこにいるんだ?」

「……」

 セリスは、何故か無言であった。




「ベル様」

「ひゃうっ!?」

 本堂に備えられた居住スペース、そのリビグンにあたる部屋の隅っこで、顔を真っ赤にして震えているベルクローゼンに、冷ややかな声でネルが呼ぶ。

「今のは、何ですか?」

「なっ、な、何のことじゃ……」

 見ているこっちが恥ずかしくなりそうな赤面顔で、ベルクローゼンはしらを切ろうとしているらしかった。

「私の妹、ベルちゃん七歳、って……否定するどころか、会話もままならず本物の幼子みたいに逃げ出すなんて、異常以外のなにものでもないでしょう。御年二百五十のベルクローゼン様」

 どうやら、年齢を聞かれてクロノに示した二本指と五本指は、合わせて七ではなく、それぞれ百の位の二と十の位の五を表していたらしい。勝手にクロノが七歳だと誤解しただけで、嘘はついていない。

「そ、それは、そのぅ……」

「まさか、一目惚れした、なんて言わないですよね?」

 俄かに迸るネルの殺気を前に、ベルクローゼンは見た目通りの無力な子供となってしまったかのように、震えあがった。

「ち、違う! 違うのじゃ! 決して、そのようなことはない……ただ、その……不覚にも、魅了チャームにかかってしまったというか……」

魅了チャーム?」

「そうじゃ! あれほどまでに凛々しく、精悍で、美の神が自ら創りたもうたほど整った顔立ちの男など、この二百五十年の中でも妾は初めて見た! あんなものを不意打ちで見せつけられれば、如何に妾といえど……」

 ゴニョゴニョと言い訳じみた言葉を漏らすベルクローゼンを前に、絶句。けれど、ネルは過ちを正さなければならない。

「……クロノくんの容姿で、魅了チャームは発動しませんよ」

「そ、そんなはずがあるか! 妾はあの男の顔を一目みただけで、心を奪われてしもうた! こんな気持ちは初めてじゃ。これこそが世に言う魅了チャームにかかる、という状態異常に違いない。まったく、これほどまでに恐ろしい効果であったとは……」

 男女に限らず『美形』とはただそれだけで有名となる。そして、往々にして人々を魅了してやまない美しい容姿は、一種の魔法、『魅了チャーム』が宿る、とは魔法に疎い一般人でも知っている話。

 だが、負傷は勿論、あらゆる状態異常までも治す、高度な治癒魔法を習得したネルは、それぞれの効果をより詳しく知っている。

魅了チャーム』には、厳密には二種類の効果に分けられる。一つは、自身の容姿に限らず、ただ魔法の力によって相手の精神を魅了するもの。明確な術式理論によって確立できる、立派な魔法であるといえよう。

 もう一つが、生まれながらの容姿だけで、その美しさに感動し、惹かれる、という感情を増幅させる効果が自然発生する、というタイプ。人々に有名なのは、こちらである。

 そして、どのような容姿であれば魅了チャームが宿るのか、といういわゆる一つの美の基準、というものも存在する。明確に定義できるものではないが、過去に魅了チャームを宿した美男美女の姿を模った絵画や美術品を並べてみれば、おおよそ理解できるだろう。

 逆にいえば、彼ら、彼女ら、とは似ていない容姿ならば、自然発生的な魅了チャームは発動しえない、ということでもある。

 無論、クロノの容姿がこの美の神が定めたであろう基準に沿わないということは一見して明らか。確実に魅了が宿る容姿を持つ者は、スパーダでは真の姿のリリィと剣闘士ファルキウスくらいのものである。

「はっ! そうじゃ、ネル、あんな危険な容姿を持つ男とは、今すぐ別れるのじゃ! お主はあの男の美貌に惑わされておるに違いない! ここは妾に任せて、ネルは逃げるのじゃーっ!」

「惚れましたね、ベル様。一目惚れ、です」

 絶対零度な声音で断言するネルを前に、ベルクローゼンが硬直する。

「クロノくんの顔に魅了チャームなど宿ってはいません。とてもカッコいいと私は思いますが、それでも、魅了チャームが発動する美的基準に合致していません。それでも、魅了チャームにかかったように感じたならば、それは――」

「そ、それは?」

「ただ、物凄く自分の好みタイプだったということです」

 ぬわぁああああ! とベルクローゼンが付き付けられた残酷な事実の前に、もんどりうつ。

「残念です、ベル様。どうやら私と貴女は、殺し合う運命にあったようですね」

「のわぁーっ!? ま、待て! 待つのじゃ、ネル! 妾にはお主と争う意思はない!」

「でも、クロノくんに惚れてしまったのでしょう?」

「こ、心が揺らいでしまったのは認めるが、しかし、妾には運命の相手がおる! それには決して逆らえぬ、妾の義務、生涯をかけて成し遂げるべき使命のようなものじゃ!」

「クロノくんのこと、簡単に諦められるワケがありません」

「それができるから、妾は人ではないのじゃ……よいか、ネル、妾は決して、クロノと結ばれることはないし、望みもせぬ。妾の全ては運命の相手、魔王の加護を持つ者にのみ奉げられるのじゃ!」

 真っ赤な顔で涙目になりながらも、真剣に語るベルクローゼンの言葉に、ネルは殺意を収めた。

「私にとっては喜ぶべきこと、ですが……やはり、ベル様は本当に悲しい運命に縛られているのですね」

「よいのじゃ、妾はこの運命を受け入れておる。しかし、これほどまでに心を揺らされてしまっては、あのクロノと顔を合わせるのは、あまりに辛い……すまぬが、クロノはこのまま帰してくれぬか」

「ベル様……はい、分かりました」

 惚れた相手をあえて遠ざける、彼女の悲しい決断に、ネルは涙が出そうになる。しかし、自分にとっても、ベルクローゼンにとっても、これが最善であることは言うに及ばず。

「妾の方から呼び出しておいて、本当に申し訳なく思う。クロノには、ベルクローゼンは遥かなる地へ修行に旅立った、とでも伝えておいてくれ」

「クロノくんとは、絶対に会わない、ということですね」

「ふっ、ネルもその方が安心できよう?」

「申し訳ありません。お気遣い、痛み入ります」

 ベルクローゼンの胸中を慮り、ネルは正しく師匠へ対するに相応しい、心の籠ったお辞儀で答えた。

 そして、彼女の悲痛な決意を汲んで、クロノが待つ境内へと戻ろうと――

「でも、遠目から見るくらいはよかろう?」

「うふふ、ダメです」

 未練たらたらな巫女様に、ネルは満面の笑みでダメ出しした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ベルちゃんが誕生したことです。
[良い点] ベルちゃん七歳(嘘)一目惚れの巻 可愛いな〜
[一言] ベルちゃん、優勝
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