第549話 契り・修正版
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この話の完全版は、ノクターンの『黒の魔王・裏』にて掲載されておりますので、そちらをご利用ください。
「ん……」
柔らかな朝の光が、瞼を優しく刺激する。今朝の目覚めは、どこまでも爽やかだった。窓の外でチュンチュンいってるスズメみたいな小鳥達のさえずりは、新しい朝を祝福しているかのようにさえ思えてくる。
「ああ、俺、フィオナと……」
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「……はふぅ」
熱いシャワーを頭から被ると、ようやく人心地がついた。
「夢、みたいですね……」
上手くいった。こんなに、上手くいくとは思わなかった。
ネル・ユリウス・エルロード。アヴァロンの第一王女、正真正銘のお姫様。クロノさんは本当に、良い友人を得ましたね。
「恋のキューピッド、というやつですか。伊達に羽が生えるわけではないですね」
実際は道化というより他はないですが。
あの女については、リリィさんから凡そのことは聞いていた。曰く、発情した雌鶏なのだとか。
「気持ちは分からないでもないですけど」
これまで対処はリリィさんに一任していた。性に関して厳しい彼女は、隠し切れない情欲の気配を振りまきながらクロノさんに接するネルを殊更に嫌っていた。指一本触れさせてなるものか、という気概を感じましたね。私の出る幕などありません。
けれど、リリィさんがいない今となっては、ネルの対処も私がしなければいけない。結果的に、ガラハド戦争がスパーダの完全勝利に終わり、クロノさんも無事に帰還を果たした以上、遠からず、アヴァロンからのこのこやって来ることは予想できていた。
ネルの襲来は、寮の周辺に市販品の使い魔で適当に監視していれば察知できる。彼女は神学校の生徒であり、寮の場所も知っている。クロノさんの元を訪れるなら、堂々と正門を通ってくればよい。発見するのは容易だった。
そうして、私はクロノさんに先んじてネルと接触し、罠を仕掛けることにした。
「素直にフラれていれば楽でしたのに……本当に、愚かな女ですね」
当初の目的は、クロノさんにネルの告白を断らせること。
経緯はどうあれ、彼は私を恋人にした。私の告白を受け入れた。つまり、正式な約束事として認めた以上、真面目なクロノさんは絶対に裏切らない。もし、心の底で私よりも遥かにネルの方に女性的魅力を感じていたのだとしても、それは揺らがない。
信じている? いいえ、私は知っているだけ。彼がそういう男であると。
実のところ、私が何もしなくても、遠からずネルはフラれていたに違いありません。余計なことをして、無用なリスクを背負い込むのは愚かな行為……そういう考えもありましたが、私にはとても我慢できなかったのです。
ネルはいつか必ずフラれる。では、その『いつか』というのはいつになるのか。明日か、明後日か、一年後か。
彼女は奥手だ。自分のスプーンをこっそり彼に使わせては喜んでいるむっつりドスケベであることは明らかですが、そのくせ、直接的なアプローチを苦手とする。その証拠に、彼女はクロノさんとデートさえ満足にしたことがない。誘ったことがないのだ。
そんなネルが、クロノさんに告白しようと一大決心するのに、一体どれだけの時間を要するでしょうか。
目障り。あまりに目障りというものでしょう。
勝ち目など万に一つもないにも関わらず、あの女は発情フェロモンをプンプンさせながら「クロノくーん、クロノくーん」といつまでも付き纏い続けるのです。
リリィさんでなくても、我慢はできないでしょう。クロノさんとの素敵な恋人生活を送るために、彼女には一刻も早く玉砕してもらわなければならない。
だから、焚きつけた。あの女が最も望む、甘く淫らな餌をぶら下げて。
「それにしたって、あそこまでの醜態を晒すとは、もう手の施しようがない色情狂ですね」
どれだけクロノさんとしたかったというのでしょうか。ほんの僅かな嘘を交えつつも、割と衝撃的なガラハド戦争後の真実を語ってあげたというのに……彼女はどうやら、今日クロノさんに抱いてもらえるという不純な気持ちだけで頭がいっぱいになっていたようでした。テレパシーなんかなくても、見れば分かります。目がハートになるって、ああいうのをいうんですね。
けれど、それくらいじゃないとあんな無様でイカれた迫り方はできないでしょう。
何事にも手順というものがあるのです。男女関係もまた然り。しかるべきステップを踏まなければ、行為には至れない――特に、クロノさんのような人は。
「ネル姫様に心からの感謝を……貴女の愚かしさのお陰で、私はようやく、彼と結ばれることができました」
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