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黒の魔王  作者: 菱影代理
第20章:色欲の世界
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第378話 ザ・グリード

 先を越されてはたまらん、とばかりに『ラストローズ討伐』のクエストを受注した俺は、その足でストラトス鍛冶工房へと向かった。

 エリナとのデートを断ったように、ゆっくり遊んでいる暇はない。クエストに向けて早く準備を整え、出発しなければ。

 もっとも、そんな使命感がなくとも、俺はここを訪れていたことに変わりはないのだが。『首断』やヒツギはメンテナンスを終えてすぐに帰ってきている。じゃないと、リッチ討伐に挑めないし。

 メンテの成果は上々、いつも以上に手に馴染む感じがしたし、みんなもどこか小奇麗になったように思える。特にヒツギなんかは、自慢の黒髪がより艶やかに、モテカワストレートなご主人様に愛されヘアになりました! と、意味不明ながらも満足気なことを叫んでいた。俺の脳内で。やはりうるさい。

 しかしながら『餓狼剣「悪食」』だけ、何故かそのままだった。グリードゴアの砂鉄大剣を受け止めたせいで刃の腹に大きな亀裂が走っているのだから、コイツには一番修理が必要だったはず。

 まさか、やっぱり手に負えなかった、と言われるのかと思ったが、レギンさんは「コレはこのままの方が良いです」と斜め上の回答をくれた。しかも、割と自信満々に。

 まぁ、剣としての性能は問題なく戻っているとは保障してくれたので、そのまま受け取りはしたが……土壇場で使うには、いささか不安が残る。

 さて、このように手持ちのヤツらはとっくに帰って来てあるのだが、ストラトス鍛冶工房に依頼したのはメンテナンスだけではないのだ。

 そう、レギンさんには新しい武器の製作も頼んであるのだ。

 さて、一体どんなものができているのか、と期待に胸を高鳴らせて、俺は工房の扉を叩いた。

「こんにちはクロノさん。リッチ討伐の成功、おめでとうございます。こちらも、しっかりと武器を完成させておきましたよ」

 とてもドワーフの職人とは思えない愛想のよい笑みを浮かべて、レギンさんは俺を出迎えてくれた。だが、馴れ馴れしいセールスマンではないので、余計な世間話はすっ飛ばし、単刀直入に本題へと入る。

「ただ今、お持ちしますので、少々お待ちを」

 俺は奥さんが淹れてくれたお茶を片手に、ワクワクしながらも大人しく待つ。

 今回はつぎ込んだ素材もお金も凄いからな、『ラースプンの右腕』の時とは比べ物にならない期待感である。

 ほどなくして、レギンさんが奥の工房から、ガラガラと台車を押して再登場した。

「お待たせしました。まずは、クロノさんの杖の代わりとなる『銃』をご用意しました」

 それは銃というよりも、砲だった。いや、もっと的確に表現するなら、これはガトリングガンだ。

 その六本の銃身を円形に束ねた特徴的な形は、そうと呼ばざるを得ない。

 ガトリングガンの仕組みや形状は、確かかなーりうろ覚えな説明をいつだったかシモンに話したくらいのものだったと記憶しているが……まさか、こんな形で実現させるとは。恐るべきシモンの設計力とレギンさんの製造力である。

「まぁ、クロノさんもすでに感じておられるようですが、そうですね、これは銃というより大砲。弓を作ってくれと頼まれたのに、バリスタを作ったようなものです。しかし、クロノさんなら使いこなせるかと」

 六砲身の銃口からエンジンみたいな四角い本体まで含めると、優に一メートルは超えている。艶やかな漆黒の金属の輝きから、全てがグリードゴアの砂鉄から作られたのだと推測できる。

 そんな鋼鉄の塊を、個人で使えというのは無理な話。本来、このサイズは戦闘機やヘリに搭載して使うべきものだ。

「重量はどれくらいですか?」

「百キロといったところですね。これでも多少は軽量化したのですが」

「いや、十分だ」

 銃把グリップを握ると、ひんやりと冷たい金属の温度が伝わる。同時に、無骨な固い感触と、腕にズシリとくる重量感。だが、これくらいなら片手でいける。

 軽々と百キロの重砲を右手で持ち上げた。

「流石ですね。力自慢なドワーフの私でも、片手では持ち上げられないですよ」

「これでもランク5冒険者なんで」

「なるほど、狂戦士のパワーですね」

「それは言わないでください」

 苦笑しながら、左手で銃口の付け根部分にあるフォアグリップを握り、抱え込むように構えた。うん、両手でしっかりと構えれば、かなり安定するな。ハリウッド映画に登場する超人的だったりサイボーグ的だったりするマッチョなヒーローみたいに、クソ重たいガトリングガンを軽々と振り回せる。

 そういえば、依頼した時に体を採寸されたから、俺の腕の長さや体格にも合わせて作っているのかもしれない。凄いこだわりだ。

 ちなみに、その時に身長を計ったら、百九十センチになってた。うーん、やっぱり背は伸びてたんだな。俺もまだ十七歳、成長期である。

「これ、弾はどうするんですか?」

「理論上、最高で毎分二千発の発射速度を実現できるはずですが、そこまで大量の弾丸を用意できないので、クロノさんの『魔弾バレットアーツ』を利用することになります」

 なるほど、要するにコレで『掃射ガトリングバースト』しろってことか。まさか、本当にガトリングガンでバーストできるとは思わなかったが。

「勿論、内部には弾丸の精製を補助する術式が幾つも組み込んであります。トリガーを引くと、刻印された魔法陣が繋がって発動となります。以前に使用されていたという『ブラックバリスタ・レプリカ』の機能を参考にしているので、クロノさんの黒魔法でもきちんと作動するはずですよ」

 随分と懐かしい名前が出たものだ。思えば、アレ以来、俺は杖らしい杖を使った事がない。

 ひょっとして、スパーダで早々に、もう何でも良いから魔法の杖を購入してさえいれば、俺は黒魔法使いとして有名になれていたんじゃ……

 いや、よそう。後悔したところで、全てが遅い。

 ともかく、晴れて俺の黒魔法に相応しい武器がついに入手できたことを喜ぼう。

「流石に、今すぐ試し撃ちはできないな」

「ええ、これを撃ったらウチの店が消滅しますので」

 よし、神学校の演習場にいくまで、トリガーを引くのは我慢しよう。

「連射と威力が向上した以外に、何か新しい効果はありますか?」

「外観こそ違いますが、基本的な構造は例の試作型銃と同じだと思ってください」

 ところで、その試作型銃であるのだが、実は相当にガタがきていてコイツも修理に出している最中であったりする。

 まぁ、イスキア古城に到着するまで、包囲するモンスター軍団に対してほとんど撃ちっぱなしだったからな。むしろ、よく銃身が持ちこたえたというべきだ。下手したら、スロウスギルへのトドメの一発が暴発して、俺が倒れていたかもしれないのだから。

 そんな頑張ってくれたコイツも勿論、リニューアルされて戻ってくる予定だ。ともかく、今はガトリングガンの話である。

「ただ、魔法の杖でいうところの魔石の代わりに、コレにはスロウスギルの頭蓋骨を組み込んであるので、強力な雷属性の行使が可能です」

「頭蓋骨?」

「はい、ここに入ってます」

 示されたのは、グリップと銃身の繋がる本体と呼ぶべき部分。最初は俺がシモンに下手くそなイラスト付きで説明したガトリンガンの形状に似せるために、ごっついエンジンみたいな四角い形をしているのかと思ったが……なるほど、アイツの頭が入ってるのか。

 聞けば、口の中がちょうど薬室となっており、ここに俺が作り出した疑似完全被鋼弾フルメタルジャケットが召喚、装填されるのだという。

「弾丸の加速には、雷属性の魔法術式も組み込んでいます。というより、スロウスギルは自身が強力な雷属性を持っているので、自然と加わるといった方が正しいですかね」

 あれ、それってつまり、ナチュラルにレールガンになってるってこと?

「雷属性でどうやって弾丸の発射を加速しているか、分かります?」

「私は魔術師ではないので、そういった原理はさっぱり分かりませんね。ただ、すでに確立している術式なのは間違いないので、効果はちゃんとありますよ」

 まぁ、俺だって詳しいレールガンの原理を知らないのだ。現実の通りに、電磁誘導を用いた仕組みだろうと、なんとなーく雷属性を加えると速くなる、みたいな謎の魔法原理でも、弾丸の発射速度が上がるという効果さえ発揮されれば問題ない。

「まぁ、これが組み込んである一番の理由は、そんな些細な効果のためではないんですけどね。クロノさん、ちょっと銃を下してもらえますか」

 とりあえず、言われるがままにガトリングガンを床に置いた。

 レギンさん身をかがめて、何やらいじり始めた、と思ったら、銃身がガコっと重い音をたてて分離した。

 いや、壊れたわけじゃない、確かに銃身を握って軽くひねるような動作していたし。ワンタッチで外れるのか、それとも魔法なのか。気にはなるが、質問は差し挟まずに、黙って待つ。

 あらかじめ台車に用意されていたのだろう、別の銃身を手に取り、レギンさんは見る間にガトリングガンを新たな姿へ組み上げていく。

 完成したそれは、対物ライフル――いや違う、単銃身に変わっても、これはやはり大砲である。

「こちらの砲身に換装すると、プラズマブレスを撃てます」

「アレを撃てるのかっ!?」

「流石に本家には劣りますが、それでも上級攻撃魔法の『雷電大槍ライン・フォルティスサギタ』なんかメじゃない威力は出ますよ」

 うおーマジかよすげー! と内心で興奮しつつも、大人しく説明の続きを聞く。

「ただし、強力な攻撃ですので、クロノさん自身がある程度チャージ、ええと、黒色魔力で雷の疑似属性が使えるはず、とのことですが、大丈夫ですよね?」

「ああ、問題ない」

 熟練の雷魔術師サンダーマージが如く多彩な雷魔法を模倣できるワケではないが、魔力を注ぐくらいならいくらでも大丈夫だ。体力には自信あるが、魔力にもそれなりに自信はある。

「それは良かった。雷の原色魔力をチャージさせるだけでも、スロウスギルの頭蓋骨が電力を増幅して、そこそこの威力で発射できますが――」

 そこで、レギンさんが新たなアイテムを台車から取り出す。何でも出てくる、魔法の台車だな。

「この弾丸を使わないと、プラズマブレス、と呼べるほどの威力は出ないでしょう」

 手渡されたソレは、弾丸というにはやや歪な形をしていた。鋭く尖った爪のような先端から、二つの節があり、とても空気抵抗を減らすための滑らかな流線形とはいえない。

 全体は、やはり例の砂鉄でコーティングされているようだが、先端から二重螺旋を描くように隙間が空いており、そこからは不気味な紫の光が漏れている。

「この弾丸は、スロウスギルの指の骨で作られています」

 なるほど、納得した。確かアイツは細長い指が四本、両手合わせれば八本だったはず。だとすれば――

「二本は予定通り・・・・に使うので、プラズマブレス用の弾丸は六発となります。ただ、まだこの一発目しか用意できていないので、もし、例のモノに加えてもう一発作って欲しいというなら――」

「いや、三発目は必要ないです。撃たせてもらえないでしょうから」

 ともかく、プラズマブレスをぶっ放すには弾数制限があるってことだ。たったの六発しかないなら、試し撃ちするにはちょっと気が引ける少なさ……とりあえず、魔力チャージだけで撃てる分で試しておこう。

「申し訳ありませんが、プラズマブレスを発射した際は、恐らく一発で砲身が限界になるかと思います。二発続けて撃てば、間違いなく砲身は高熱に耐えきれず融解するでしょう。最悪、暴発ということもありますので」

 安全に使うなら、しっかり冷却しろということである。

 やはり銃身の過熱は、銃である限り避けられない問題だな。アルザス戦の時も、これがあったから十字砲火を中断しなければいけなかった。

 シモンも今頃、機関銃の冷却問題をどうにかするべく実験しているはずだ。

「ところでクロノさん、まだこれの名前が決まっていないのですが、折角ですので、名付けもらえませんか?」

 どうにも銘名のセンスがなくて、と苦笑いを浮かべるレギンさん。ふむ、そういうことなら、この元文芸部員にお任せあれ。

 うーん、何がいいかな。あんまり難解な漢字の羅列は呼びづらいし、別に呪いの武器ってわけでもないし、ここはシンプルに――

「じゃあ『ザ・グリード』で」

 クロノの中二ネ-ミングセンス炸裂! 勿論、前回登場のフォーメーション『逆十字アンチクロス』も、クロノ命名です。カッコいい!

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