第355話 剣王、現る
ネロ激怒などのアクシデントはあったが、会場全体にほどよく酔いが回り、みな楽しそうにパーティーを満喫している。
良かった、折角の祝いの場がぶち壊しにならずに済んで。
そんなことを思いながら、俺は一人、バルコニーで夜風にあたって涼んでいた。蒼月の月は日本でいえば十月にあたるが、まだ秋風が身に染みるほどの寒さはない。
大広間は城の一階にあるので、バルコニーに出たからといってスパーダの壮観な夜景が見えるわけではない。昼間だったら、綺麗に整えられた庭が見えるのだろうが、すっかり夜も更けたこの時間帯では、暗い闇に沈んでいる。
黒一色のつまらない景色から、明るい会場側へ振り向いてみると、楽しげな笑い声と軽快なメロディが響く、なんとも盛り上がった生徒達の姿が見えた。
音楽を奏でているのは、なんとウィル。ギター、正確にはギターじゃないのかもしれないが、自動翻訳によってギターという名前に聞こえる。そんな形も音もよく似た弦楽器を、ウィルは酔っ払い状態にも関わらず巧みに演奏していた。
「ふぁーっはっはっはぁ! 音楽は王侯貴族の嗜みよぉ! 我には武芸の才こそなかったが、楽器の才はほれこの通り、どうだ、中々のものであろう? シャルなどはあまりにヘタクソでな、泣きながらギターをへし折っていたものよ!」
ロックなパフォーマンスをする妹の暴露話交じりに、ウィルの意外なる特技が発覚したことに大いに驚かされた。
しかしながら「王侯貴族の嗜み」なんて言うように、音楽を習う者は多いらしい。武のイメージのスパーダだが、なんだかんだで芸術にも堪能なようだ。
そうして、上機嫌にギターをかき鳴らすウィルに、リズムに合わせて可愛い踊りを披露する幼女リリィ。
妖精といえば歌って踊るアイドルイメージの通り、リリィも本能的に華麗に舞い踊ることができるらしい。まぁ、幼女リリィだと幼稚園児のお遊戯会みたいな微笑ましさしか感じない――かと思いきや、意外にも機敏な動きや、トリプルアクセル三連発といったダイナミックな演技を見せつけてくれた。まぁ、可愛いから何をやってもオールオーケーだ。
ちなみにフィオナは、リリィと一緒に踊ってる。いつもの眠そうな表情で、不思議な踊りを。それって魔女の儀式かなんかですか、みたいな言葉にしがたい摩訶不思議な振り付け。
リリィは可愛いけど、フィオナに踊りの感想を求められたら、うーん、何て言えばいいんだ……個性的な踊りだな。よし、これでいこう。
なにはともあれ、恐怖の元凶である俺が一時的に離れたお陰で、二人の前には凄い人だかりができている。リリィは神学校ですでに人気者であるし、フィオナも、まぁこの機会に新しい友人ができるといいだろう。
灰色の学生生活を挽回するような、素敵な出会いがフィオナにあれば幸いである。まぁ、俺もスパーダではまだ二人しか友達ができてないので、あまり偉そうなことは言えないが。
「パーティーは、楽しんでもらえただろうか」
ぼんやりしていると、不意にそんな声がかけられた。
俺がいるせいで誰もバルコニーに近づかないと思っていたのだが、まぁ、台詞の内容から察するに生徒ではないことは明らかだ。
だとすれば、一体誰が――振り向けば、すぐに答えは出た。
「レオンハルト国王陛下……」
そこに立つ、赤い獅子のような印象を受ける巨漢は、紛れもなく昼に勲章を授けてくれた王様だ。あの派手な赤マント姿ではなく、スパーダ軍の黒い軍装だが、こんなに目立つ容姿の人物を見違えるはずもない。
な、なんでこんな所にいるんだ。というか、お付の人とかいなくても大丈夫なのか。グルグルと疑問が渦を巻く。
「楽にしてくれ、無礼は問わぬ」
思わず直立不動になりそうだったが、その言葉を聞いて力を抜いた。緊張することに変わりはないが。
「ありがとうございます。パーティーも、とても賑やかで、楽しいです」
「そうか」
それきり、無言の時が流れる。大広間から聞こえる楽しげなリズムと歌声が、やけに遠く感じる。俺の緊張はさらに高まる。
ウィルと違って、レオンハルト王は無口な方なんだろうか。この沈黙は、少しばかり、いや、かなり苦しい。俺の方から、何か話題をふるべきなんだろうか……
「君には、個人的に礼を言いたかった」
俺の苦悩を察したかのように、赤い王は口を開いた。
「いえ、勲章も賜りましたし、十分です」
「あれはスパーダの王としての礼だ。今はただ、一人の父親として、君に礼を言いたいのだ。ありがとう、息子を助けてくれて」
「ど、どういたしまして……」
一国の王が深々と頭を垂れるという衝撃的な姿を前に、俺はそんな平凡極まる返ししかできなかった。いや、いくら身分制に疎い現代日本人の俺だって、王様が頭を下げるのがなんかヤバいってことくらい理解できる。
感謝されて嬉しい、というよりも、この光景を誰かに見られて騒ぎにならないかという心配の方が先に来る。
だが幸いにも、レオンハルト王が頭を上げるまでの間に、誰かが喚きたてることもなかった。良かった、これ以上変な噂は立てられたくない。
「君とそのパーティには後日、私と冒険者ギルドから相応の報酬が支払われることになるが、これもあくまで公の対応に過ぎない。私の個人的な礼として、君の望みを一つ叶えようと思うのだが、何かあるだろうか?」
突然の申し出には、さらに驚かされる。しかし、望みを叶えるといっても、まぁ、あくまで実現可能な範囲でという常識的な前提ありきだろう。それにしても、一国の王に頼み事ができるなんてのは、普通じゃありえない大チャンスだ。
反射的に「気持ちだけで十分です」なんて言葉が出そうになる、いや、実際にそこまでしてもらわなくても十分ではあるが……俺は、ただ冒険者生活を続けているわけじゃないのだ。
俺はレオンハルト王に何を願うべきだろうか。
騎士にでもしてもらうか? 強力な呪いの武器が欲しい? それとも大魔法具? 頼めば土地と屋敷だってもらえるかもしれない。単純に報奨金の増額を望んでも、冒険者であるならば正当な要求だろう。
いいや、どれも違う。俺にはもっと、必要なものがあるはずだ。
よし、決まりだ。俺の望みは――
大広間と比べれば、随分と落ち着いた内装の部屋であるが、ここは王城内にあるスパーダ王族のためのプライベートルームの一つだ。
ここに今、スパーダ王家の親子がいる。
「それで、クロノは何を望んだのですか?」
一人は、スパーダの第二王子ウィルハルト。すでに宴は終了し、それなりのアルコールを摂取したはずだが、その口調には酔いを感じさせないハッキリとしたものだ。
帰還して早々に新調した片眼鏡の奥にある黄金の瞳は、どこまでも理知的な輝きを発している。
「十字軍の情報が欲しい、そう申した」
応えるのはウィルハルトの父親、スパーダ国王レオンハルト。
黒い猛角牛革のソファにどっかりと腰を下ろす巨漢の姿は、どこまでも威圧感が漂う。対面に座るのが細身のウィルハルトであるから、その体格の良さもより一層に引き立って見える。
「うーむ、クロノめ、遠慮しよってからに。我に頼めばいくらでも提供したものを……」
「ウィル、お前はまだ学生だ。国家機密に首を突っ込むのはほどほどにしておけ」
「おっと、失言でしたな」
情報部出身のアサシンを護衛メイドに就かせたのは失敗だったか、とレオンハルトは少しばかり後悔した。
しかしながら、表立って本人には言えないが、もうウィルハルトに情報分析を丸投げしてしまいたい案件が幾つかあったりする。自分も妻も、次期王となるアイゼンハルトも、こういう頭脳労働は苦手なのだから。正しく、いつも頭を抱えることとなる。
正直に告白すれば、早くウィルハルトが卒業して秘書にでもなってくれないかと本気で思っているほどだ。
「しかし、以前にお手紙を送りましたが、父上は十字軍の脅威をどのようにお考えで?」
「心配するな、侮ってはおらん。なにより、あのガーヴィナルを打倒し得るだけの力をもった白い者の姿を、ガラハドを尋ねた折に目にした」
「ふむ、その者は『使徒』と呼ばれる、十字軍が擁する最強の戦士であるやもしれませぬ」
「使徒?」
聞き返すと同時に、どうやら息子の方が十字軍の内情について詳しそうだと、若干悔しい思いを抱く。機密に首を突っ込むなと諌めたばかりなのに、これである。
「白き神、とだけ名乗る、アークの神より恐るべき加護の力を得た、選ばれし十二人の戦士であるという。その力は、ラースプンを退け、グリードゴアを屠ったクロノでさえも、遥かに凌駕する力を持つらしい」
「……ほう」
「父上、ここで戦意をみなぎらせるのは止めてくだされ」
「すまぬ」
強敵の話を聞いて、一人の剣士としてたぎらぬはずがない――とは、言えない。言ったところで「時と場合を考えて」と息子に諌められる残念な結果になるだけである。
「よもや、クロノに決闘を申し込んだりはしておらぬでしょうな?」
「ウィルよ、この父を疑うか」
「戦功をあげた者に勲章を授ける度に粉をかけていること、母上や兄上は知らずとも、このウィルは知っております。どうせクロノにも、機会があれば力試しでも、などとそれとなく言ったのではありませんか?」
全く、ここまでスパーダ王にして実の父親を疑うとは、なんと嘆かわしい……だがしかし、その指摘が真実である以上、レオンハルトは何も言い返せなかった。
後日、クロノには「王の言葉は気にするな」とフォローしておく、以後こういうことは控えられよ、とウィルはやや呆れた口調で釘を刺してから、話を元に戻した。
「――ですが、十字軍への対応を直接父上から聞けて安心です。ガラハド要塞に『ランペイジ』のゲゼンブール将軍を派遣し、空中兵力も集めているのは、どうやらポーズだけではないようですな」
「……何故、そこまで知っておる」
「少しばかり、小耳に挟んだだけのことです」
ニヤリと笑みを浮かべる息子の姿に、レオンハルトは本当に参ったとばかりに、波打つ赤い髪をかきあげる。
「そうでなくとも、イスキア古城に天馬も飛竜も有翼獣も飛んでこなかったことを思えば、ガラハドに集結させたというのは察しがつきますよ」
「あれは不運だった。どれか一つでも動かせれば、迅速な救助ができた」
ガラハドに駐留する飛行能力のある騎士団に、イスキア古城救援の任務を伝えるのと、スパーダで即座に出陣するのは、どちらが早く助けに行けるか。
情報伝達、距離、準備、諸々の事情を考慮すれば、スパーダからレオンハルトが直接騎士団を率いて向かう方が早いというのは、間違いない解答ではある。
だがしかし、結局はクロノの活躍がなければ城は落ちていた。救助が手遅れであった事実は揺らがない。
「過ぎたことです。父上の判断は間違ってはおりません。我ら神学生とて、ただの子供ではありませぬ。みなよく戦い、その結果、モンスターの大攻勢を耐えきったのです」
「うむ、本当によくやってくれた」
スパーダの未来は明るい、とレオンハルトは柄にもなく思うほど。自分が学生だった頃では、このような籠城戦を乗り切ることはとてもできなかっただろう。
当時は自分も馬鹿だったが、それ以上に、幹部候補生は腐っていた。無能なボンクラ貴族の典型みたいな輩ばかりであったのだから。
スパーダという国は変わったし、神学校も、ソフィア・シリウス・パーシファル理事長が変えてくれた。これほど頼りになる若者達を育ててくれたのだから、やはり彼女に任せて正解だったと、改めて思う。
「しかしながら、全てが順調に進んだわけではありませぬ。『ウイングロード』のお蔭で城はあの日まで持ちこたえたと理解はしておりますが、やはり最後の最後で勝手な行動を……と、恥ずかしながら、心の底では思わずにはいられぬのです」
それでも表向きはしっかりと彼らの行動を理解し、公に批判しないウィルの態度は、とても学生とは思えない。この歳にして、我が息子はすでに屈辱に耐え抜く鋼の精神を宿しているのだ。
甘やかした覚えはないが、それほどまでに厳しく育てた覚えもない。子供とは、不思議なものである。
「ネロ王子の行動は、一人の父としては感謝すべきものだった。だが、王としては、とても褒められたものではない」
イスキア古城で何が起こったか、というのはすでに聞き及んでいる。
モンスターの一斉攻撃が始まった土壇場で、城から離れた『ウイングロード』。下手すれば敵前逃亡とさえとられかねない行動であるが……
「私が学生なら、ネロ王子と同じ行動をしていただろう。あまり批判はできん」
いや、むしろ自分こそが大将首を狙いに一人でこっそり城を抜け出していたに違いない。もっとも、当時の自分には他の学生を守る意思などなかったし、特に幹部候補生なんて全員死ねばいいとさえ思っていた節がある。多少なりとも状況が違うが、それでも問題行動であることに変わりはない。
「命令違反の独断専行……騎士ならそれだけで処刑モノですが、我らは未だ学生、鋼の規律で縛られてはおりませぬが故、公に罰することは不可能でしょう。なにより、ネロはアヴァロンの王子、スパーダが下手にケチをつければ最悪、外交問題ですからな」
ウィルの物言いはどこまでも現実的である。
「これで生徒から『ウイングロード』に批判が集まれば、罰せられないことも問題になったでしょうが……我が頭を下げただけで不満の矛先を逸らせたのだから、安いものですよ」
城を出立するウイングロードを前に、泣いて土下座で送り出したウィルの無様極まる話も聞いている。
生徒の士気を下げぬために道化を演じ、ウイングロードを敵役にしなかった。事実、それで士気を保ち、クロノとネルの援軍が到着するまで耐え抜いたのである。
しかし、ウィルが頭を地面にこすりつけたあの時、全てが解決した後に起こるだろう問題さえ見据えて、土下座の演技を実行したとすれば――いよいよ、自分の息子であることが疑わしい。いや、ここは手放しに賞賛すべきである。
そう、他の誰も讃えらぬというのなら、父である自らが褒めねばならない。
「ウィル、お前の行動は王子として、将として、正しいものだった。苦境を見事に乗り切って見せたその手腕、誇るがよい」
「ありがとうございます、父上。その言葉だけでこのウィルハルト、十分にございます」
まるで臣下のようにかしこまった態度だが、これはこれで、息子の照れ隠しなのである。
「ともかく、イスキアの戦いは無事に終わりました。十字軍に最大限の警戒態勢をとる方針は、決して変えてはならぬことです」
そこまで念を押すとは、やはり、とレオンハルトは、更なる確信を深める。
ウィルハルト、エメリア将軍、そしてクロノ。十字軍を知る者はみな、強い危機感を露わにする。それだけの相手が、遠くガラハドの向こうに潜んでいる。
厳しい戦になりそうだと、よく当たる直感がレオンハルトの脳裏を過ぎった。
「時に父上、そろそろ本題に入ってもよろしいか? いつまでも待たせておっては、シャルも可哀想というもの」
「なによ……バカ兄貴……」
今の今まで父と息子だけの会話であったが、実はこの部屋には三人いる。娘の第三王女シャルロットは、どこか顔色が悪いものの、気丈に兄を睨む。
「シャル、今は慎め」
「うぅ……ごめんなさい、お父様……」
シャルロットは父のすぐ隣に座している。ただでさえ小柄な彼女がレオンハルトと並べば、まるでライオンに捕らえられたウサギのようである。どこか怯えた気配を滲ませるシャルロットの姿も、実にそれらしい。
「事情は凡そ聞いている。篭城を選んだウィルの判断は正しい、まずは、それを理解せよ。その上でシャル、今は発言を許す。城を抜け出し、グリードゴアを討ちに向かった独断専行の言い訳を、聞いてやる」
シャルロットは、レオンハルトが騎士団を率いてイスキア古城に到着してからは、ずっと父の傍にいるよう厳命されていた。凱旋パレードでも、所属するパーティである『ウイングロード』と共に歩むことはなく、最後に現れたレオンハルトの赤い八脚馬に同乗していた。
スパーダの広報誌が望んだ、父が娘を救った絵面であるが、決してパフォーマンスでシャルロットを控えさせていたわけではない。
イスキア古城の戦い、その概要を聞いたレオンハルトは、怒っていたのだ。だが、その罰は未だ娘には下っていない。
今日この時まで、いつ下るかわからない父親の罰に怯えながら、シャルロットはひたすらに待たざるを得なかった。そしてようやく、その時が来た。来てしまったのだ。
「わ、私は……ってない……」
シャルロットは、円らな金色の目に薄っすらと涙を滲ませながらも、小さな口を震わせて言葉を搾り出す。
「私は、間違ってない! このバカ兄貴が、最初から私の言うことを聞いていれば、全部上手く行った! ウイングロードならグリードゴアを倒せた! 無駄な篭城戦で犠牲者を出すことだって、なかったんだからっ!!」
いよいよ涙を零しながら、自身の正当性を叫ぶシャルロットの言に、ウィルハルトは絶句したとばかりに唖然の表情。対するレオンハルトは、眉一つ動かさぬ無表情。
レオンハルトは理解している。ウィルハルトが目を見開いて驚愕しているのは、決して妹の馬鹿さ加減に呆れているのではないと。
「ち、父上、シャルはまだ未熟であるが故、どうかご容赦を――」
兄は、愚かしい妹が父の逆鱗に触れたことを察して、少しでも罰が軽くすむよう請うている。スパーダ家の兄弟だからこそ、誰よりも知っているのだ、父の恐ろしさを。
「シャル……このっ――」
「父上っ!?」
ウィルハルトが身を乗り出し止めようとするが、時すでに遅し。レオンハルトは座ったままに腕を振り上げ、拳を固めていた。
「――大馬鹿者がっ!!」
スパーダ王城を震わすほどの怒声と共に、王の拳は振るわれた。
人間の身でありながら、竜王と渡り合う力を持つ脅威の剣王レオンハルト。剣を握らずとも、その拳から繰り出される打撃は鋼のゴーレムさえも撃ち砕くだろう。
振るわれた拳の速度は、傍から見ているウィルハルトは勿論、凄まじい破壊力を向けられたシャルロット本人も、認識することはできない。
「ひっ……あ……」
剣王の拳は、シャルロットの可憐な顔の頬に触れる直前、ピタリと止まっていた。
一拍遅れて巻き起こった拳圧によって、シャルロットの真っ赤な髪をなびかせる。トレードマークの長いツインテールも、煽りを受けてバサリと大きく翻った。凄まじい風圧。
「お前が息子であれば、当てていた。女に生まれたことを感謝するのだな」
ホッと胸を撫で下ろしたのは、シャルロットではなく兄の方であろう。当の本人は、目を見開いた泣き顔で、呆然としているのみ。
「シャル、シャルロットよ、お前には力の自信と過信の違いを、一から教える必要があるようだ。だが、その前に罰は与えねばならぬ。己が仕出かした過ち、万分の一でもその身で贖え」
「お、お父様ぁ……」
堰を切ったように、声をあげて泣き出すシャルロット。痛ましい娘の泣き顔を前にしても、レオンハルトの決意が揺るがないことは、その冷たい金色の視線が何よりの証だった。
「ウィルはもう部屋へ戻れ。シャルが何と助けを呼ぼうとも、決して止めに来るな。アイクにも、そう伝えておけ」
「……はい、父上」
了承する以外に、答えなどあるはずもない。
聡明なウィルハルトならば、理解しているだろう。もしも止めに入られたなら、仕置きの手を緩めてしまいそうになるという、父の甘さを。
レオンハルトが今、最も悔やんでいることは、シャルロットの愚かしさではない。これまでどんなワガママも受け入れてしまっていた、自分の甘さに他ならない。自分だけではない、家族の誰もが、シャルロットを甘やかしすぎてしまった。
そのツケが今、娘の身にも、父の身にも回ってきてしまったのだ。
そうして、ウィルハルトは苦渋の決断を下したような悲哀の面持ちで、部屋を出て行く。
この時ばかりはシャルロットも、馬鹿にする兄の背中を縋るような目で見つめていた。
お兄ちゃん助けて、と言わなかったのは、彼女なりの最後のプライドがあるからだろう。
だが、レオンハルトはすでに決めていた。
シャルロットが自信と過信を履き違えたまま、歪に築き上げたプライドを、我が手でへし折ってやるのだと。それはもう、バッキバキに。
「シャル」
「ふっ、く、うぅ……ふぁい、お父様……」
「脱げ」
「……ふぇ?」
シャルロットの痛ましい泣き顔が、硬直した。何を言われたのか分からない、いや、分かりたくないだけだ。
「脱げ、と言ったのだ。もう子供ではあるまい、意味は分かるだろう」
びくん、と弾かれるようにシャルロットが体も硬直させるのをレオンハルトは察した。だが、逃がすつもりはない。
「お前は女だ、顔は殴らぬ。だが罰は与えねばらない、女に生まれたことを後悔するほどにな」
「そ、そんな……嘘、お父様……まさか……」
「三度は言わぬぞ。聞けぬと言うのなら、我が手でその栄えある赤マントごと引き裂いてくれる」
シャルロットは暴漢を前にした無力な少女のように、両腕で自分の体を守るようにきつく抱き、その小さな体を恐怖に震わせる。
愛娘のあまりに可哀想な姿を前にしても、覚悟を決めたレオンハルトは、正しく獲物を前にした野獣の如きギラついた目で睨みつける。
これがただの暴漢だったらどれだけ幸運だったか。徒党を組んで現れたって、シャルロットの誇る雷魔法は簡単に下衆共を薙ぎ払うだろう。
しかし、これより襲いくるのは剣王レオンハルト。本気の彼に襲われて無事ですむ女など、スパーダには一人として存在しない。
それをよくよく理解するシャルロットは、抵抗は元より、慈悲を請うことすら無意味であるとすぐに悟っただろう。
生まれたての小鹿のように、細い両足を震わせてソファから立ち上がった。
「ぬ、脱ぎます……脱ぎます、から……」
だから、この身を包む、王立スパーダ神学校の制服と、幹部候補生の証たる栄光の赤マントを、ズタズタに引き裂いて無理矢理に裸にするのは許して。悲痛にして卑屈な言葉が聞こえてくるようだ。
一拍の沈黙をおいて、シャルロットは意を決したようにプリーツスカートの裾へ手を入れた。
戦闘は勿論、日常でも飛んだり跳ねたり蹴ったりと、騒がしいお転婆なシャルロットは、どれだけスカートがめくれても良いようにと、短いスパッツを着用している。まずは、それを脱ぐ。
白い玉の肌をスルスルと滑るように、艶やかな黒い布地がシャルロットの足を抜けた。
常日頃からスパッツに守られているお陰か、これが一枚なくなっただけでシャルロットは酷く心許なさそうな様子。
もっとも、すぐにそんなささやかな羞恥心を覆すほどの恥辱を味わうことになるのだが。
「く、うぅ……」
レオンハルトは黙って待っている。娘が自ら、最後の一枚を脱ぎ去るのを。
さらなる沈黙の時を経て、シャルロットが再びスカートへ手を突っ込む。
指先に触れるのは、天獄蚕の白いショーツ。王族が身につけるに相応しい最高品質の下着。
迷いを振り切るように勢いよく下げる――はずだったのだろうが、顔を真っ赤に染めながらブルブルと震えるシャルロットは、情けなくも、細い両脚につっかえながらぎこちなく下着をずり下げていく。
一点の染みもない純白の眩しいショーツが膝の辺りまで下がった時、レオンハルトはもう待ちきれないとばかりに、その剛腕で娘の体を捕らえた。
「きゃっ!? やっ、お父様――」
甲高い悲鳴をあげるシャルロットだが、そんな程度で止めてくれるなら、レオンハルトはこんな行動を起こしてはいない。
ソファに座す己の下へパンツ脱ぎかけのシャルロットを引き寄せたレオンハルトは、ささやかな抵抗すら許さないとばかりに、小さな体を膝の上にうつ伏せに抑え付ける。
強引に膝の上に落とされた拍子に、短めのスカートが逆風を受けたようにめくれ上がり、レオンハルトの前に可愛らしい白いお尻が晒された。
「い、やっ! やだぁ!!」
すでにレオンハルトは片手でシャルロットを拘束している。それは、両腕を腰の後ろで組ませ、その交差点である手首を抑えつけることで完璧にシャルロットの腕を封じているのだ。
どれほど暴れても無駄なこと。自爆するのも省みず、全力で雷を発したとしても、この拘束は僅かほども弛むことはないだろう。
魔術士クラスの少女がもがく儚い抵抗の力を左手に感じながら、レオンハルトは下腹部にあたる膝を少しだけ浮かせ、露わになった尻を突き出すような体勢にさせる。
「いやぁ! やぁ! やだ、やだっ、やだぁ!! ごめんなさいお父様! お父様ぁ!!」
いよいよ泣き叫んで許しを請うシャルロット。彼女の未成熟ながらも滑らかな真っ白いお尻が跳ねる様は、どこまでも男の嗜虐心を煽る。
震える乙女の柔肌、穢れを知らない無垢な愛娘の尻を今、レオンハルトは己が手で蹂躙せんと動き出す。
「己の罪を深く反省せよ、シャルロット。尻叩き百回だ」
「いやぁーーーーーっ!!」
2013年5月20日
『黒の魔王』二周年記念、初の読者参加型企画を開催します!
感想に「パン!」と一回書き込むごとに、レオンハルトパパが追加でシャルの桃尻をぶっ叩いてくれるぞ! ワガママ放題のバカ娘にたっぷりOSHIOKIしよう! パンパン!(←二回追加)
※一応、注意を。一人が何度も書き込んだり、数えるのが大変すぎるくらいパンパンしないでください。一人当たり十回くらいを目安にしていただけると、集計が楽なのでありがたいです!
カウントは次回の更新、2013年5月24日までとしますので、シャルをパンパンしたい方はお早めにどうぞ。
尚、誰も参加してくれなかった悲しい場合は、予定通り尻叩きは百回で打ち止めとなります。