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黒の魔王  作者: 菱影代理
第13章:紅き憤怒の咆哮
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第201話 エレメントマスターVSラースプン(1)

 闇が支配する夜の時間、だがゴブリンの切り開いたこの空き地においては真昼の如き明るさが戻っていた。

 黒髪と大岩の牢獄に閉じ込められたモンスターの真上に、リリィ渾身の『星墜メテオストライク』が炸裂したのだ。

 これまで命中すれば確実に敵を葬ってきた必殺の一撃、だが、

「おいおい――」

 クロノは見た、頭上より迫り来る虹色の隕石を前に、モンスターが己の拳一つで迎撃するのを。

星墜メテオストライク』が発動し、虚空に白い光の魔法陣が描かれるのと同時、モンスターは左よりも一回り太いアンバランスな大きさを誇る右腕に自由を取り戻していた。

 何てことは無い、ただ力ずくで黒髪の拘束を引き千切り、動きを抑える岩の牢を吹き飛した、それだけのことである。

 その時点で、宇宙から直接隕石でも呼んでいるのではないかと思えるような勢いで、魔法陣から光の塊が撃ち出されていた。

 モンスターは真上を睨み、その巨大な右拳を握って弓を引くように大きく腕を振りかぶる。

 右手の甲に輝く『紅水晶球クイーンベリル』の如き真紅の宝玉が輝くと、そこから紅蓮の炎が生まれ右腕全てを包んでいく。

 そうして燃え盛る炎を纏った右腕は、天より迫る隕石を迎撃するミサイルのように正面からぶつかる。

 衝突、虹色の輝きと真紅の煌きが光の奔流となって辺り一帯に荒れ狂う。

 そのインパクトの瞬間を目にしたクロノは、その直後に眩い光のために視界を閉ざす。

 だが『星墜メテオストライク』に真っ向から炎の拳を叩き込むモンスターの姿はあまりに力強い。

 そして一瞬の内に光の洪水は収まり、再び『灯火トーチ』の輝きだけが周囲を照らす闇夜が戻ってくる。

「本当に『星墜メテオストライク』を防いだぞ……」

 視線の先には、直径数十メートルのクレーターの中心に、全ての拘束から解き放たれたモンスターの五体満足な姿があった。

「くそっ、コイツはマジでヤバそうだな、流石は神の試練ってところか」

 そう愚痴をこぼしつつも、今更後戻りすることなど出来ない。

 クロノはパーティメンバーであるリリィとフィオナと共に空き地へと躍り出る、その場所はちょうど、幹部候補生とメイドを庇うような立ち位置であった。

「あ、お前は……」

 クロノ達の姿に真っ先に反応したのは、長身の、といってもクロノよりは僅かに小さいが、幹部候補生の少年だった。

 酷く驚いた様子、まぁこの状況を考えれば驚かないほうが不自然だ、クロノはそう考え、必要な事だけを手短に伝えることにする。

「おい、このモンスターは俺たちが引き受ける、あんた達は早く逃げろ!」

 切羽詰った緊急事態のため、クロノは初対面の相手だが敬語を使うのを止めて強い口調で訴えかけた。

「え、あ、しかし――」

 見ず知らずの冒険者に、このとんでもなく強力なモンスターの相手を押し付けることに抵抗感があるのか、はっきりと解答しない男子生徒。

「ありがとうございます!」

 だが、彼の護衛メイドはこんな場面でも冷静に判断を下せるようだ。

 彼女はさっさと主をかついで、礼の一言を残すと今にもその場を去らんとクロノたちにエプロンドレスの背を向けた。

 そして、クロノはそんな彼女を止めるつもりはない、むしろ逃げてくれなければ困るのだから。

「アイツはランク5モンスターのラースプンだ! 倒そうなんて考えず君たちも早く逃げるんだぁああああ!!」

 メイドに抱えられて去ってゆきながら、そんな台詞を男子生徒は絶叫していた。

 その心遣いに、思わずクロノは微笑みを浮かべてしまう。

「ラースプンなんて言うのか、プンプンの進化系かな?」

 その割には凶悪すぎる進化を遂げたものだと呑気なことを考えながら、クロノはランク5モンスターに向き直る。

「ごめんなさいクロノ、仕留め切れなかったわ」

 右隣から謝罪の声をかけるのは、すでに少女の姿へ戻り淡いグリーンの『妖精結界オラクルフィールド』に身を包むリリィ。

「いや、アイツは炎を使ってた、熱に対して高い耐性を持ってるんだ、相性が悪かった」

 モンスターは自身が炎や雷などの属性を操る場合、ほぼ確実にその属性に対して高い耐性を持っている。

 このラースプンと呼ばれるモンスターも例に漏れない、むしろランク5であるならば、ほぼ無効化に近いほどの耐性を誇るはずだ。

「それなら私とも相性が悪いですね」

 左隣からは、四方百里を焦土に変える炎の暴走魔女フィオナの声。

 確かに、『星墜メテオストライク』でも四肢の一つも吹き飛ばないほど耐えて見せたのだ、相性の関係で『黄金太陽オール・ソレイユ』でも倒せなかったに違い無い。

「炎熱に耐性を持つモンスター相手だと大きく遅れをとるな、ウチのパーティの弱点発見だな」

 と言っても、それを今すぐ改善できるはずも無い。

「仕方無い、俺が切り伏せるしかないな、リリィとフィオナは援護に徹してくれ」

 了解の言葉がクロノの両耳にそれぞれ違った声音で届いた。

 その手には、すでに相棒たる『呪怨鉈「腹裂」』が握られ、背後には十本の黒化剣が翼を広げるように展開されている。

「行くぞ――」

 クロノが真っ直ぐ駆け出すと同時、ラースプンは赤毛を逆立たせ、再びガラハド山中に木霊する凶悪な咆哮をあげた。




 耳をつんざく咆哮を轟かせ、怒り状態となったラースプンには、ほとんど『星墜メテオストライク』のダメージが堪えていない様に思える。

 『星墜メテオストライク』の主なダメージソースとなる光の高熱がほとんど無効化されてしまったため、体に通ったのは爆発の衝撃のみ。

 ただの人間なら、いや、例えミノタウルスだったとしても爆発の威力だけで四散五裂するところだが、このラースプンはパワータイプのモンスターに共通する衝撃に対する耐性もかなり高いレベルで持ちえているということが、この元気な姿を見れば即座に理解できた。

(けど、斬撃ならどうだ)

 モンスターと言っても万能では無い、強いところがあれば弱いところもある。

 ラースプンの見た目は厚い毛皮に覆われた熊とゴリラを足したような、いわば魔獣と呼ぶべき姿だ。

 その毛皮と筋肉は衝撃や打撃には強い耐性を持つが、鋭い刃による斬撃は、モンスターのセオリーからいけば有効なはず。

 逆に肉の身体を持たない骨だけのスケルトンや硬い鱗や甲羅を持つモンスターは、打撃が有効で斬撃は効き難い、というようになる。

 クロノはこれまであらゆる敵を切り裂いてきた『呪怨鉈「腹裂」』ならば、このランク5のモンスターだろうと、その肉体を断つことができると信じて斬りかかる。

 だが、対するラースプンはそうして駆けるクロノを黙って待っていることなどしない。

 未だ両者の間合いが重ならない距離、だがラースプンは右腕を振りかぶると、その手のひらに再び火炎が収束し始める。

(火球を飛ばせるのか!?)

 それはまるで炎の攻撃魔法のように、大きな火球を手のひらの上で形成された。

 そして、クロノがモンスターの巨体へ肉薄する前に、炎の豪腕が振るわれ弾丸の如き速度で火球が放たれる。

「――黒盾シールド!」

 黒い繊維が折り重なるように防御魔法が形成される。

 その大きさはクロノの膝から頭の上までを覆う長方形、目前に迫る直径1メートルほどの火球を前に、その黒い盾はあまりに頼りなく見えた。

 それはきっと、ラースプンも同じ。

 着弾、爆発、黒煙と熱波が吹き荒れると、鋭い牙が並んだ口元は邪悪な笑みで歪められた。


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