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黒の魔王  作者: 菱影代理
第11章:ランク1冒険者
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第167話 試練とは

 美人で愛想のよい素敵なエルフの受付嬢からクエストを受注した俺は、ギルドを後にして広場に戻る。

 俺がギルドでクエストを受注している間、リリィとフィオナにはポーションなどアイテム類の買出しに向かわせ、役割分担をしていた。

 しかしながら『エレメントマスター』を結成したものの、正式な登録をしていなかったのをすっかり失念していたので、結局三人でギルドに行かなければいけないのだ。

 明日にでも行けばいいか、と思いながら二人の姿を探すものの見当たらない、どうやら未だ買い物が済んでいないようだ。

 ポーションといえども、やはり女性の買い物というのは長くなるものなのだろうか? 俺は『歴史の始まり(ゼロ・クロニクル)』のオベリスクが建つ広場の中心付近のベンチに腰を下ろして彼女達を待つことにする。

「試練、か……」

 そんなことを呟きながら、真紅の輝きを宿す左目に瞼の上からそっと触れる。

 思わぬところで、試練の正体らしきものを掴んだのは予想外の収穫だった。

 俺はそもそも、自分を鍛えるためにランク4以上の強力なモンスターと戦うべきだと思い立ち、ギルドのモンスターリストを開いた。

 流石は大都会のスパーダというべきか、イルズ村にあったものとは桁違いの情報量であった。

 まぁ結局、受付嬢さんが説明したように、ランク1では高ランクモンスターとの戦闘は個人的なものであっても控えるように言われたので、知ったところで意味は無かったのだが。

 だが問題はそこではない、俺が何よりも驚いたのはモンスターリストの中に試練の手がかりと思われるものを発見したのだ。

 リストに記される無数のモンスターの中で、特定のモンスター名が赤い光を放ってその存在をこれでもかと主張していたのである。

 最初はリストに魔法的な仕掛けがあるのかと勘繰ったが、どうやらモンスターの名前が書かれている文字が赤く光って見えるのは俺だけのようだった。

 それは周りの冒険者に「コレ赤く光ってますよね?」と聞いたときの、可哀想なヤツを見た、という冷ややかな視線によって証明されている。

 試しに左目をつぶってみたら、文字の発光は無くなり、逆に左目だけで見たら再び光りだしたのだ。

 間違いなく、この赤い光は俺の‘左目だけ’で見えているのだ。

 思い返せば、ミアはこう言っていた。


「この先、必要な事は僕の眼が教えてくれるから」


 あの言葉を思えば、これは本当に眼が教えてくれたということになる。

 納得すると同時に、左目を抉ってそのまま俺に移植するというとんでもない荒業まで思い出されて、なんとなく目元を摩ってしまう。

 神様だって言うなら、もっと神々しい感じで聖なる眼球移植が出来なかったのかよ。

 今更ながらそんな文句が浮かぶ。

「んもーそんなコト言うなんて酷いよ、折角治してあげたのに!」

「……は?」

 目元から手をどけると、そこにはつい先ほどまで俺の脳内に浮かび上がっていた人物と、全く同じ顔をした子供が立っていた。

「ミア、なのか?」

 あの時と装いは多少違っているが、黒髪のショートヘアと真紅の瞳を持つ中性的な美貌を持つ人物は、自称神様、古の魔王、ミア・エルロードである。

 俺に移植したはずの左目は、当然のようにそこに在り、変わらぬ赤い輝きを宿していた。

 身に纏う黒いローブと上下揃いの衣服は、街中やさっきのギルドでちらほら見かけた学生風の人々と同じ、ちなみに男子のブレザー姿である。

 おまけにミアの手には、俺も口にした爽やかな酸味と甘味が美味しい小さな果実と、まだ見た事の無い薄く黄色がかったミルクのような液体に満ちたカップがあり、その辺で買い食いしている普通のお子様にしか見えない。

 だが、このパーフェクト買い食い中学生な姿のミアは、漆黒のオベリスクを背にして堂々と名乗りを上げた。

「如何にも、我こそはエルロード帝国が皇帝、ミア・エルロードである! なんてね」

 と、悪戯っぽく小さな舌を出してはにかむ姿は中々にキュートな破壊力があった。

 だからといって、やはり「神様!」と崇め奉りたくなる神々しさは皆無だ、未だに俺の中でミアの立ち居地は‘謎の魔術士’のままである。

「聞きたいことがある」

 俺はとりあえずミアの神出鬼没ぶりには目を瞑り、知りたいことだけを問うことにした。

「なにかな、神様のルールに触れなければなんでも答えて上げる」

 そう微笑みながら、俺が座るベンチへ腰を下ろす、しかも肩が触れ合うくらい距離を詰めて。

「左目がモンスターの名を示した、ソイツらを倒すのが試練なのか?」

 恐ろしく説明不足な感じだが、これだけでミアは分かるだろう。

「うん、大体それであってるけど、何も倒すだけが方法じゃないよ」

「どういうことだ?」

 それ以上はまだいえない、と断りながらフルーツを小さな口へ放り込むミア。

 とりあえずは、赤い光で示されたモンスターの名前はどれもランク4以上だったから、修行がてらに相手すれば無駄ではない。

 恐らく、実際に戦ってみれば試練について新たな発見があるのだろう。

 爽やかな甘味の果実に「美味しい~♪」と舌鼓を打っているミアに、別な質問を投げかける。

「じゃあもう一つ、ミアは本当にあれ(ゼロ・クロニクル)に書かれている‘皇帝’なのか?」

 ここのオベリスクには、皇帝の容姿について一切記されていないため、単純な見た目だけではヒントになりえない。

「それを証明することは、今はできないかな」

「試練を超えて加護を受ければ分かるのか?」

 曖昧な笑みを浮かべ、そうかもね、と答えるミア。

 どうやら明確に答えるつもりは無いらしい。

 結局は、神殿の儀式で神の名前が証明されるまでは確定することは無い、大人しく加護を得られるまで、ミアの正体はおあずけだ。

「ごめんね、古代に生きた人なら、今の時代では失われた魔法や技術を教えることもできるけど――」

「ルール違反、なんだろ?」

 少しだけ驚いた顔を見せたミアは、鋭いね、と言って賞賛の言葉をかけてくれた。

「『黒き神々』は実際にこの世界に生きた者達だ、加護を受けた人が俺達のように神との対話が許されているなら、そうしたロストテクノロジーを聞き出そうとした人がいないわけがない」

 それでも現代において古代の魔法は再現不能な古代魔法エンシェントという特別な分類になっているのだ。

 古代魔法エンシェントは遺跡系ダンジョンで発掘された大魔法具アーティファクトなどでのみ発動可能な魔法の総称。

 その詳しい術式や本質的な理が解読できているなら、とっくに現代魔法モデルに組み込まれ、当時と同じ魔法体系が出来上がっているはずだ。

「うん、だからあんまり昔のコトは話せないんだ」

 いいさ、変にホラ話を吹き込まれるよりは。

「それと、この眼には他に‘変な機能’はついてないだろうな?」

 一応は以前と変わらぬ普通の目であるつもりなのだ、いきなりビームとか出るようになっても対処に困る。

「あはは、大丈夫だよ、変な反応して戦闘中に隙が、なんてことにはならないから」

 どうやらこの眼はちゃんと空気が読めるヤツらしい。

 というか、空気を読んでいるのはこのミア本人なのか?

「じゃあ、僕はそろそろ行くけど、まだ何か聞きたいことあるかな?」

 大して答えてない気がするけど、と苦笑しながらベンチから立ち上がるミアに、

「ああ、じゃあもう一つだけ」

「何かな?」

 あどけない表情で円らな瞳を向けるミアに、俺は初めて出会った昨日の時点から燻り続けていた疑問をぶつけることにした。

「ミアは男なのか? 女なのか?」

 すると、ミアは少しだけムっとした表情になり、

「見ての通りだよ!」

 と一喝して、プリプリ不機嫌さをアピールしながら立ち去っていった。

 人ごみに紛れてその小さな後姿が見えなくなってから、思わず呟く。

「結局、どっちなんだよ……」




 ミアとは大して実りの無いお話だったが、二人を待っている暇つぶしには十分役立ってくれた。

 ほとんど入れ違いのようにリリィとフィオナが広場に現れ、とりあえずもう昼時ということもあって、適当な飲食店で昼食を済ませることにした。

「しっかし、凄い人だな」

 この時間帯もあるが、それにしても飲食店が立ち並ぶこの一角には、広場で見かけた以上の人口密度を誇っている。

「流石は学園地区と呼ばれるだけありますね、学生が多いです」

 フィオナの言うとおり、ギルドで見かけた以上に制服と思われるブレザーのようなデザインの服を着ている人々が目立つ。

 中には明らかに中年を過ぎている風貌の人物もそれなりの割合で見かけるものの、やはりほとんど俺と変わらないような年齢の少年少女だ。

 こうしてみていると、なんだか自分も高校生だった頃を思い出す。

 というか、年齢的にはまだ俺は高校二年生のはずだ、現役で学生を名乗ってもおかしくない。

 いや、学校に通ってないからダメか、高校中退の冒険者ですね、そうですね。

「クロノ、学校行きたいの?」

 あれ、そんなに顔に出るほどどっぷり感傷に浸っていたか俺?

「そうだな、行きたくないといったら嘘になるな、けど今はそんなことしてる状況じゃないからな」

 残念ながら、と言いながら諦めの言葉を発するが、以外なところで否定の言葉が飛んできた。

「いえ、学校に通うのは良いアイデアですよ」

 それは学校生活に良い思い出が無いはずのフィオナであった。

「今更勉強したってしょうがなくないか?」

 俺の至上目的は使徒を倒せるだけの力を身につけること、より短期的で具体的な目標は強いモンスターと戦うべく冒険者ランクを上げることである。

 どちらにしても、国語算数理科社会をマスターしたところで解決する問題では無い。

「おや、クロノさんの故郷では学問をするだけが学校の役割だったのですか?

 少なくともスパーダの学校では冒険者にとって必要な技術、魔法、武技を学べるようですよ」

 学校といえば五科目+αなイメージしか無かったが、そうか、ここは異世界なのだからそういう事を教える学校が存在するのか。

 ギルドで学生が普通にクエストを受注していたことを思えば、冒険者として育成しているという事だ。

「なるほど、冒険者養成所みたいなトコロがあるのか」

「というよりも魔法や武技といった‘戦闘技術’は、こうした場所で研究、開発、伝授がされるものですよ、共和国ではそうでした」

 フィオナの説明によれば、どうやら地球における大学のような役割を担っているようだ、その国の最先端の技術がこうした場所で研究されているというワケだ。

 てっきり、森の魔術士のように辺鄙な場所でひっそりと魔法の研究が行われている勝手なイメージがあったのだが、これだけ魔法が広まっている世界だ、考えるまでも無く大都市でその研究がされてしかるべき。

「そういえばクロノさんは‘こっちの世界’に来て一年も経っていないですよね、この機会に基礎の基礎でも学んでみてはどうですか?」

「おお、ソレはいいかもしれないな」

 リリィと出会った緑風の月4日から今日の初火の月14日まで、たった三ヶ月強の期間だ、色々と密度の濃い時間ではあったが、それだけで異世界の常識を学べたとは言いがたい。

 とりあえず田舎の村のランク1冒険者として生活していく分には問題ないが、スパーダのような人の溢れる大都市で、尚且つ冒険者の上を目指すのだから、きっと知っておかなければならないことは山ほどあるだろう。

「ここの学校制度がどういうものなのか、詳しいことは後で調べることにしましょうか」

 まずは今日の目的を果たしてからじゃないとな、明日以降にでも、いや、ランク2に上がってからでもいいかな。

「もし俺が学校に通うことになったら、リリィとフィオナはどうするんだ?」

 どうする、とは言うが正直なところ二人と失われた学校生活をエンジョイしたい気持ちが濁流の如く俺の胸に押し寄せている。

 この二人となら、元の世界に居た頃よりも確実に騒がしいだろうけど、面白おかしい日常を送れるに違い無い。

「リリィもクロノと一緒に学校行きたーい!」

「おお、そうか、じゃあ一緒に学校行こうぜ!」

 果たしてリリィは小学校送りにならずに済むのだろうか、と一瞬疑問に思うが、これでいてこの愛らしい妖精は32歳のレディである、問題は無いだろう。

「私も、お二人となら寂しい学校生活を送らずに済みそうなので、また通っても良いかもしれませんね」

 やはり灰色のエリシオン魔法学院生活が尾を引いているのか、ややネガティブな発言だが、それでも気持ちは俺と同じようで嬉しい。

「それじゃ、もし行ければ三人一緒に学校行こうか」

「でも今は早くお昼ご飯食べに行きたいですね」

 そうだったな、と苦笑しながら、俺達はどこか入れる店を探して、人の溢れるスパーダの道を歩いていった。


 なんか繋ぎ回ですね。

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