第134話 エレメントマスターVSハンドレッドナンバーズ(2)
俺とリリィの正面には4人、左右に2人ずつ、後ろには黒い有刺鉄線と、壁を背に8人に囲まれたような形となる。
問題はコイツらの包囲をどうやって突破するか。
「と言っても、強行突破以外に思いつかないんだが――」
ズドドドン!
「うおっ、なんだ!?」
突如として、右方から爆炎が巻き上がり、2人の実験体を呑みこんだ。
立ち込める煙の内から、見慣れた黒い影が飛び出した。
「私もパーティーメンバーなのですから、混ぜてもらわないと困ります」
「フィオナ! いいとこに来たぜ!」
赤い短杖を手に、いつもと変わらぬ表情で悠然とこちらへ合流するフィオナ。
「なにやら、クロノさんと因縁のありそうな相手ですけれど、倒すことに代わりはないのでしょう?」
「ああ、コイツら全員始末してから聞かせてやるよ」
「分かりました」
フィオナの不意打ちで右の二人が一気に片付いた。
残る実験体は6人、これなら何とかいけそうだ。
「リリィ、フィオナ、周りのヤツらを頼む、俺が頭を潰す」
「うん、任せてよクロノ!」
「了解です」
力技で敵中突破するのは俺が最も適任だ。
幼女状態のリリィと、魔力全開ではないフィオナの二人組みは、実験体6人を倒せずとも防ぐには十分な力はあるだろう。
俺がさっさとあのいけ好かないヤンキー野郎を片付ければ、根本的に指揮系統は崩壊する。
その後は着実に実験体達を始末すればいいし、逃げるのならば無理に追わずともいいだろう、俺たちはこの場を脱することが出来さえすれば良いのだから。
もしかしたらもっと良い作戦があるのかもしれないが、他の策を考える時間を相手は与えてくれそうに無い。
「行くぞ!」
双方、動くのは同時。
「「黒弾」」
前方と左方から放たれる弾丸と共に、再び2人の女と、左からは男が1人、剣を構えて攻撃を仕掛けてくる。
「黒盾」
シールドで正面からの銃撃を防ぎつつ、身を低くして一気に駆け出す。
前に陣取る4人はとりあえず俺の相手、左の2人はリリィとフィオナに完全に任せる。
「はぁあああ!」
弾丸をシールドで受け止めつつ、そのまま真っ直ぐ駆け抜ける。
こんな銃撃程度で俺の足を止めることは出来ない。
例えシールドが無くとも、『魔弾』よりも硬度の低いヤツらの『黒弾』では体に直撃しても『悪魔の抱擁』を貫くことは出来ない。
ただ、防弾ベストを着て銃弾を受けるのと同じように、それなりに衝撃は伝わってくるので、あまり好んでやろうとは思わないけどな。
目の前には、先と同じように手にする剣と操る3本×2、全部合わせて8つの刃を俺に向ける実験体の少女が2人。
改めてその顔をみると、クラスメイトを思い出し動揺しそうになるが、その郷愁も同情も悲哀も全て振り切り、戦いに集中する。
「魔剣――」
10本の内、6本の黒化剣を用いて、まずは相手の『自動剣術』を防ぐ。
残りの4本は、彼女達の先に控える援護役の二人に向けて投擲。
魔剣の操作をする傍らで、シールドを展開させたまま、足により一層の力と魔力を篭めて猛ダッシュ。
銃撃によって前面にヒビ割れの走るシールドだが、硬さは申し分ない、このまま体当たりを決めてやる。
重騎士の大盾ほどの圧力はないが、二人の足を止めるには十分だ。
「「一閃」」
「――だぁああああ!」
黒化剣の二連撃によりシールドは音を立てて砕け散る、だが、
「――っ!」
「っ……」
見事に細身の少女二人をシールドタックルで跳ね除けるのに成功。
片方は一歩後ずさるだけに留まるが、もう片方はたたらを踏んで明確な隙を見せた。
「黒凪」
容赦なく、体勢を崩した少女に向けて武技を振るう。
横薙ぎに振るった黒い斬撃は、剣を持つ左腕を二の腕から斬り飛ばす。
胴を両断するつもりで放ったのだが、こっちの攻撃を瞬間的に反応し回避したようだ。
「黒煙」
俺は追撃を仕掛けるよりも、目くらましを選択。
そもそもの目的は敵のヘッド、今この場で二人にトドメを刺すよりも、スルーして先に進むほうが重要だ。
それに、片方は左腕が切れたからと言っても、恐らく痛覚はほとんど感じてないだろうから、戦闘継続力はほとんど落ちていない。
「じゃあな、先に行かせてもらうぜ」
黒い煙幕につつまれる2人に背を向けて、再び駆け出す。
背後から散弾と思われる弾丸が飛来してくるが、構わず走り続ける、ここから先はリリィとフィオナが2人を止めてくれるだろう。
次の相手は実験体の男2人組み。
「「منع انتشار الظلام الجدران السوداء الداكنة الدفاع」」
真っ直ぐ向かってくる俺の動きを見て、意思の無い頭でもこちらの狙いが分かったのだろう。
すでに『黒弾』による援護射撃を中断し、詠唱に入っている。
彼らの傍らには折れた4本の黒化剣、先に投擲したヤツを破壊したのだろう。
ったく、重騎士部隊との戦いで黒化剣を消費した所為で、今出してる10本で打ち止めだ、貴重な残りの内4本も壊しやがって。
まぁ、お陰でさっきの少女2人を相手にした時に、コイツらから撃たれることはなかったんだが。
「――戻れ」
相手の『自動剣術』封じに使っていた6本を手元に呼び戻す。
操作ははっきり目に見える範囲なら問題なく操れる、ついでに言うなら目視しなくても操作はできるので、こうして背中越しに呼び戻すことも可能だ。
「「――『暗黒防壁』」」
黒化剣が戻ると、目の前に展開されるのは、最初にも見た漆黒の防壁。
俺とリリィの同時攻撃を相殺し防ぎきった防御魔法だ、俺一人ではこれを破るには火力不足だろう。
「けど、ここまでくれば関係無い」
『暗黒防壁』の高さは目測4メートル前後、普通なら破壊して進むか、迂回するしか先に行く方法は無い。
だが、俺の身体能力を舐めてもらっては困る!
「はあっ!」
土の地面が軽く陥没するほど強い踏み込みと共に、垂直の黒壁に向かって跳躍。
一気に3メートルほど飛び上がった俺は、そのまま壁面を蹴って、さらに上昇。
ジャンプの頂点に達すると、そこは丁度壁の上。
軽く手をかけて、そのまま向こう側へと身を乗り出して防壁を越える。
「――貫け」
背中には6本の黒化剣、地面に立つ2人に向かって投擲。
そして、街道の真ん中に棒立ちのままでいる元マスクヤロウの男に向かって左手のタクトを向ける。
「おぉー、やるねぇ49番」
「その名前で俺を呼ぶんじゃねぇ――」
空中で俺と男の視線が交差する。
相変わらず殺意は感じられないが、不快な気配を放つ男に向かって、
「俺の名は――」
瞬間的に出現する黒い弾丸。
向かう先は当然、十字を掲げる狂気の研究者、その片割れである男。
「クロノだ!」
全身全霊で、黒き殺意の奔流を解き放つ――