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黒の魔王  作者: 菱影代理
第9章:初火の月6日
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第121話 黄金太陽

 かつて、私の魔法の先生は言った。


「フィオナ、魔法の力はね、大切な人を守る為に使うのよ」


 あの時は確か、こう応えた気がする。


「私の力では、まだ先生を守ることはできないと思います」


 つまり、大切な人は先生の他に誰一人としていないということだった。

 その意味を、私の先生が分からないはずが無い、けれど彼女は笑ってこう続けた。


「貴女もここを出て、外の世界へ行けば、きっと守りたいと思える大切な人ができるわ」


 先生が言うのだから、あの言葉はきっと間違いでは無いのだろう。

 けれど、私が魔女としての修行を終えて‘外の世界’に出て、何年経っても、同じ魔法を使う者が集う、シンクレア共和国の最高学府『聖エリシオン魔法学院』に行っても、私の大切な人はできなかった。

 それは私の所為なのだろうか。

 魔法を撃っては「殺す気か」と人が怒り、口を開いても「ふざけるな」と人は怒る。

 そんな人達でも、守ろうと思えるほどの価値があるのだろうか。

 分からない、私には先生の言っていた事が分からない。

 誰もが、私を受け入れない。

 誰もが、私を遠ざける。

 誰もが、私を騙し、陥れ、時には、殺そうとする。

 だから私はずっと一人だった、誰とも話さず、誰とも触れ合うことは無い。

 けれど、これでいい、魔女なんてそんなもの。

 だから私は一人で旅をする、勝手気ままに、足の赴くまま、大好きな美味しいものがありそうな所へ。

 パンドラ大陸へ来たのも気まぐれ、ヴァージニアの傭兵を辞めた後、共和国に帰らず、まだ見ぬパンドラの地を行こうと決めたのも、ただの気まぐれ。

 精々が見たことの無い美味しいものがあるかもしれない、という程度の個人的な理由。

 でも、私は出会ってしまった。


「何だ、起きてたのか?」


 ちょっと長いお昼寝から目覚めると、そこにいたのは妖精を連れた黒い魔法使いの青年。


「分かったよ、食い物はやるから俺の話を聞いてくれ」


 本当に見たことの無い美味しいものを、私へくれたその人。


「ああ、まだ名乗ってなかったな、俺はクロノ」

「リリィなのー」


 そうして、私は出会ったのだ、クロノさんとリリィさんの二人に。


「私達と正式にパーティを組んで欲しいの」


 その時、私にパーティを組む意思は無かった。


「貴女が途轍もなく魔法の制御がヘタクソなのは知ってる、それも含めて誘っているの」


 リリィさんの言葉に、断りきる理由を見つけられなかった私は、久しぶりにパーティを組む事になった。

 それでも、本当はずっと不安だった。

 いざ私の力を見れば、あるいは、私のちょっと人とはズレた言動で、きっとまた離れてゆく、今まで先生以外の全ての人がそうしたように。

 でも――


「それじゃあこれからよろしくなフィオナさん、俺も歓迎するぜ」

「分かった、信用するよ、すでにフィオナさんはパーティの一員だしな」

「ああ、フィオナさんの魔法は凄い威力だ、俺のパーティに入ってくれて本当に良かった」

「凄いぞフィオナ! これで十字軍に勝てるっ! はーっはっはっは!!」

「いいんだよ、こういう勢いが大事なんだ、じゃあエレメントマスターの親交を深めるために、乾杯っ!」


 気がつけば、私の不安は消えていた。

「――先生、私にも、ようやく大切な人ができました」

 『エレメントマスター』を結成してから、ずっと居心地が良かった。

 クロノさんとリリィさんだけじゃない、いつの間にか、他の冒険者の方々とも、それなりに打ち解けることができていた。

 当然のように、クロノさんが率いる冒険者同盟、その仲間の一人なんだと感じられました。

「だから、私は魔法で大切な人を守ります」

 眼下に広がるのは、私と同じ人間が、群れをなして攻め寄せんとする光景。

 シンクレア共和国という、同じ出身を持つ者達。

 あの中には私と学院で同期だった者もいるかもしれない。

「でも‘アレ’は、私が守りたい人ではありません」

 同じ人間、同じ故郷、だからどうしたと言うのだろう。

 異教徒、魔族、それがどうしたと言うのだろう。

「私が守りたい人は‘ここ’にいるんです」

 呟くと同時に、頭の中に、私の大切な人の声が響きます。

「フィオナ」

「はい、なんですかクロノさん?」

 本当は聞かなくても、私は分かっていますよ。

「一番強いのを頼む」

 嬉しい。

 私を必要としてくれる。

 私を信じてくれる。

 その思いが伝わるだけで、私は戦える、命をかけて。

「了解しました、みなさん、ヤケドしないよう気をつけて下さいね」

 私が先生から皆伝の証に賜った長杖『アインズ・ブルーム』に、触れた先から魔力を流す。

 魔力の種類は当然、私が最も得意とする炎の原色魔力。

 杖を振り上げ、詠唱を始める。

 現代魔法モデルの系統外にある、私が編み出した、私だけの術式、そう、これが私の持つ唯一にして最強の原初魔法オリジナル

「يمكنني إنشاء حرق(私を燃やして創り出す)」

 効果は単純にして明快。

「يتصاعد من الزنجفر الشرق(東より昇る朱色)」

 私が出せるありったけの炎を一つに篭める。

「فوة الغربية الموت(西へ没する茜色)」

 掲げた杖の先端に、圧縮された火の玉が生まれる。

「فوة الغربية الموت(天地を遍く照らす恵みの金色)」

 小さな球は、瞬く間にその大きさを、内に秘める熱量を増していく。

「الشعلة الخالدة إلى الأصلي(それは原初にして永遠の焔)」

 どれだけ炎を凝縮させても、体積の増加は止まらない。

「ان ملتهب، الشعلة الزرقاء، وعلى ضوء الأبيض، مع كل حريق كبير الذهبي(その赤熱を、蒼炎を、白光を、全てを黄金の火に篭めて)」

 ついには、直系5メートルに及ぶ巨大な火球が、私の頭上に完成する。

「هنا، مع خلق الشمس في اسمي(ここに、私の名を持つ太陽を創り出す)」

 これが、私が生み出す地上に輝く第二の太陽、その名は、

「――『黄金太陽オール・ソレイユ』」

 焼き尽くせ、私の大切な人を守るために。


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