第1063話 両翼の守護神
「うわっ、なんか中央凄いことになってんじゃん」
「まさかデカいヤツ全員に戦人機の武装させるとはねー」
「これが帝国の底力なのでしょうか」
「底を突いて、ようやくこちらと同じ土俵に上がれるのだ。向こうでは華々しく戦わせてやればいい――――その間に、私達が勝負を決める」
エーテルを拡散する黒煙に包み込まれた戦場を遠巻きに眺めながら、一つの戦人機部隊がブーストを噴かせて疾走していた。
コードネームはイールス。オルテンシア軍では伝統的に、戦人機部隊には女性名のコードネームがつけられる。
このイールス隊は、帝国軍による新型機強奪に立ち合い、追撃をかけた部隊である。女帝の命により、早々に追撃は打ち切られたが……むざむざと獲物を取り逃がした彼女達は、帝国軍へ逆襲すべく一際に闘志を燃やしていた。
「目標は敵の要塞。本陣を突かれれば、新型機も出張って来るだろう」
空中偵察では、奪われた新型機を確認することは出来なかった。恐らく、要塞か天空戦艦に運び込まれ整備をされていると推測される。
すでに開戦しているにも関わらず、いまだ二機の新型が姿を見せないのは、どこかに隠し持っているからだ。
その新型機を出さずに、帝国軍は中央の戦線を食い止めることに成功している。要塞からは継続的に黒煙が撃ち込まれ、視界が晴れることも無い。
この状況では、更なる増援を投入して中央部の打開を図るよりも、両翼より部隊を迂回させて接近し、要塞の両側から攻めるべき、という策が決定された。
下手に中央へ戦力を集中させれば、黒煙に紛れてさらなる罠が張られており、一網打尽にされる危険性も考えられる。巨獣戦団とラグナの黒竜が倒れた瞬間に、大爆発を起こして道連れにされては堪らない。
ならば両翼から敵の本陣に仕掛ける方が確実。接近すれば黒煙を撃ち出し嫌がらせはするだろうが、戦人機部隊と真っ向勝負できる巨大な戦力が、他に幾つもいるとは思えない。
帝国軍は総力を振り絞ったからこそ、今まさに中央で戦人機の軍団と渡り合えている。両翼から迫る戦人機部隊を抑えられる戦力は無く、あったとしても新型機を繰り出し片方を食い止めるのが精々だろう。
そして戦人機が一機でも辿り着いたなら、要塞とはいえスプリガンのエーテルライフルを乱射すれば、瞬く間に炎上させられる。
要塞を落とせば黒煙の援護も止まる。そして黒煙が晴れれば、再びライフルを連射できる戦人機部隊が圧倒的優位を取り戻すだろう。
「そろそろだな」
「はっ、やっぱり撃って来やがったな!」
要塞へ接近すれば、防壁の上から黒煙を撒き散らす砲弾が次々と放たれた。
それらは空中で炸裂、行く手に濛々と色濃い闇を作り出すが、ヴァルキリー達は速度を緩めることなく突っ込んでいく。
「目標地点はまだもう少し先だ。視界不良だが、迷子になる間抜けはいないな?」
「センサーは効いてるから問題ないっすよー」
「サーモグラフにも、大型の熱源は感知できません」
「やはり自慢の巨大軍団は、アレで打ち切りのようだな」
撒き散らされる黒煙の中を突き進み続けても、自分達の行く手を阻む相手が出て来ることは無い。精々が、実弾兵器の砲弾が牽制のように飛んでくる程度。
如何に戦人機が大きいとはいえ、高速で動き続けているスプリガンに当てることは難しい。向こうも黒煙によって視界は遮られている以上、おおよその勘で撃っているに過ぎない。
時折、流れ弾が装甲をかすって行くが、全く意に介さず、いよいよヴァルキリー達は要塞へと距離を詰めるべく、ブーストの向きを変えた。
「黒煙を抜けたら、ライフル一斉射。そのまま全速力で突撃する。覚悟はいいな!」
「了解!」
盾とライフルを構えた突撃体勢を整え、一気に加速し煙幕の中を突っ切る。
数秒の後に、黒煙を出て目前に要塞の防壁が見えたその瞬間――――コックピットに赤色灯と共に鋭い警告音が響いた。
「ロックオン!?」
「回避ぃーっ!!」
飛んできたのは、二筋の光線。
真っ赤に輝くエーテル光のビームは、挟みこむように飛び出てきた一機を狙い撃つ。回避行動に移っていたが、避けきれない。
そう察して盾を構えて防御体勢をとるが……片方は何とか盾で受けられたが、もう一方から撃ち込まれたビームが機体に直撃する。
超密度のエーテルの奔流が瞬く間に装甲を焼き切り、爆ぜる。
「イールス4、中破っ!」
「くっ、足を――――」
「後退しろ、イールス4! まだ狙われているぞ」
隊長の警告も虚しく、次の瞬間にはビームの二射目が飛んでくる。
それは片足を射貫かれ、体勢を崩し転倒したせいで動きの止まった部隊の4番機を狙っていた。
足を一本奪ったとて、戦人機は機械である。背負ったブースターがあれば機動は可能であり――――だからこそ、油断なく確実にトドメを刺すための追撃であった。
赤き光線は無慈悲に片足のスプリガンを貫き、爆発を起こして完全に破壊された。
「クソォ!」
「アイツら……やりやがったなぁ!!」
仲間を殺され、強烈な憎悪の籠った視線を向けた先に、逃げも隠れもせぬとばかりに、堂々と城壁上に二機の敵が立つ。
漆黒の装甲を纏い、高出力の大型ライフルを構えた新型機。
数時間前に奪われたばかりの黒き戦人機が、その戦闘力を十全に発揮し、イールス隊を迎え撃つ。
「要塞攻略はヨハンナ隊に任せる……我らイールス隊は、敵機『リンドヴルム』を撃滅する!」
「了解!!」
◇◇◇
「ちっ、どうやらイールス隊がアタリを引いたらしい」
「噂の新型機とやってみたかったんですけどねぇ」
「アタシはイヤよ、戦人機同士でガチンコなんてー」
「でもここで活躍しないと、後はもう消化試合になっちまいますよ」
「いいじゃん、楽できるんならそれで」
そんなことを話しながら、イールス隊とは反対側から要塞へと迫るヨハンナ隊は進んでいた。目標の側面には辿り着いたが、さらに後方へと回り込むために、撒き散らされる黒煙を避けるように、大回りに走る。
そうしている内に、先に要塞へ仕掛けたイールス隊の前に、例の奪われた新型機が立ち塞がったと通信で聞いたのだった。
「敵の戦人機撃破、って勲章は欲しいが、無いものねだりをしても仕方がない。アタシらは予定通り、敵陣を蹂躙する」
「大砲と四脚戦車が少々。天空戦艦はもう空の上だし、余裕じゃん」
「分からんぞ、魔王陛下が直々に出迎えてくれるやもしれん――――むっ」
違和感、というべきか、妙な気配を察したのは、部隊の隊長を務めるに至った才能と経験によるものか。
いよいよ要塞へ仕掛けるため、黒煙を突っ切って接近し、その煙幕を抜けようかという瞬間である。
隊長機であるヨハンナ1は、直感のままに僅かに機体を傾げながら、斜め前方に進路を微修正した。
突然の機動変更に、いつも隊列乱すなってうるさいくせに、なんてケチを部下の一人がつけようとした寸前。
「――――『朱薙』」
フォン、という静かな、けれど鋭い風切音と共に、隊長機のすぐ脇を真紅の斬撃が通り過ぎて行く。僅かにキィンと音を立てて、斬撃の端が装甲をかすり、角の部分を綺麗に斬り飛ばしたのを耳で聞いて理解する。
「斬られただとぉ!?」
「隊長、前方に……敵機反応です」
敵機反応、すなわち戦人機の出現を感知したことを、アラートでコックピット内に示される。このアラートを見るのは、同じ戦人機同士で戦う模擬戦の時だけ。
実戦では想定されず、今回は奪われた新型機『リンドヴルム』も、すでに二機とも別な場所での出現が報告されている。
だが敵機反応に偽りはなく、疑いを深めるよりも先に、その敵機は姿を現していた。
「赤い、戦人機……」
「どういうことよっ、帝国軍に戦人機は無いんじゃなかったのぉ!?」
「警戒しろ、見たことねぇ機体だ」
要塞の防壁の上に、堂々と仁王立ちする、赤い戦人機が一機。
フレームはスプリガンと似たサイズだが、スラリとした細身のシルエットはどこか女性的な美しさを感じさせる。
装甲はやや薄いように見えるが、その造形は繊細な装飾と相まって、王侯貴族が纏う美しい鎧のようだ。何の意味があるのか、黒いマントを羽織っているのも、実戦よりも華美な外観を優先したように思えた。
しかし、ソレが単なる見栄えだけの彫像などではないことを、隊長はすでにその身で思い知っている。
その赤い機体が手にしている武器は、一振りの刀だけ。
機体と同様に、その刀も芸術品であるかのように美麗な拵えに、細長い反りのある刀身が美しさを感じさせる。
だが漆黒の刃に浮かぶ血のように赤い刃紋から発する妖しい魔力の気配を、機体のセンサーではなく、鍛え上げられた騎士としての第六感で、どうしようもなく感じ取ってしまう。
「あの刀で、斬撃を飛ばしたのか……」
「はっ、嘘でしょ、戦人機で武技使ったってコト!?」
「いやそれアタシらも知らない古代兵器の剣なんじゃないのぉ」
「――――いいや、古代兵器ではなく、ただの呪いの刀だ」
通信が傍受されている上に、割り込まれている。
全く聞き慣れぬ男の声がヨハンナ隊全機に響いたことで、ヴァルキリー達は理解する。同時に、この声の主が、赤い機体を駆るパイロットであると。
「テメェ、何者だ」
「私はゼルドラス・ヴァン・ベルモント」
「ベルモント……ネヴァーランドの王族か!」
「女王陛下の慈悲で見逃してやった辺境の小国風情が、のこのこ戦場に出しゃばってくるとはなぁ!」
「ふっ、辺境の小国でも、帝国と盟を結べば、魔王と轡を並べる栄誉を賜るのだ」
台詞と共に、ルドラの赤い機体は防壁から飛び降りる。
黒マントを翻しながら、フワリと踊り子のような軽やかな着地に、ヴァルキリー達は息を呑む。壁の上から飛んで降りる、その短い一連の動作だけで、本物の生身のように機体が制御されていることが分かる。
驚くべきことに、一度もブースターを吹かすことも無く、綺麗な着地をこなしたのだ。
戦人機を操ることに心血を注ぐヴァルキリーだからこそ、それが如何に困難なことか理解できる。自分の生身が如く機体を滑らかに、繊細に動かすことが、戦人機操縦の理想なのだ。
なるほど、理想を体現する操縦技量に達したならば、戦人機で武技を放つ、などという神業も可能なのかもしれない。
ならばルドラのパイロットとしての技量は、自分達の遥か上を行く――――否、ヴァルキリーとしてのプライドが、それを容易には認めなかった。
「気を付けろ、あの赤い機体はスプリガンより高性能だ」
「まぁ、見るからに専用機だしねぇ……」
「あーもう、とんだハズレ引いたじゃん。ネヴァーランドが戦人機持ち出してくるなんて思わないっての」
「アイツは危険すぎる。何としてもここで仕留めるぞ」
正々堂々、一対一で勝負、などということを言うつもりはない。ヨハンナ隊総がかりで相手をするべき強敵であることは明白。
プライドはあれど、それは勝負に勝った上での話だ。
ヨハンナ隊が散開しつつ、ルドラ機を包囲するような陣形へと以降する。数の優位を活かした、基本にして王道のフォーメーション。
「いい判断だ。この『カーミラ』を量産機で相手取るには、数を活かさねばな。そしてなにより――――」
赤い機体、ベルモント王族専用機『カーミラ』が優雅に一歩を踏み出すと共に、構えた刀が俄かに真紅の不気味なオーラを発する。
「――――我が愛刀、『黒一文字「鬼姫」』は、血に飢えているのでな」
◇◇◇
すでに離陸を果たして空の上にある、天空戦艦エルドラドの甲板上。そのど真ん中に立っている俺は、『暴君の鎧』の兜に投影される戦況情報を眺めて、一息つく。
なんとか想定通りに、地上の戦いは推移している。
オルテンシア軍で最も恐ろしいのは、奇襲よりも正攻法。圧倒的な戦力を並べて、ただ真正面から押し潰してくるのは、シンプルが故に付け入る隙が無い。
往々にして策というのは、敵戦力の分断を図るものである。だが相手が一部の隙も無く正攻法で押し通すと覚悟していれば、どんなブラフや誘導にもかからない。
きっと、ここで俺が空城の計を仕掛けたとしても、エカテリーナは迷うことなく戦人機部隊で攻め込んだことだろう。
エカテリーナは自軍の戦力的優位を理解して、必ず正攻法で来る。
だからこそ、何としてでも圧倒的な正面戦力を押し留めるだけの力が、俺達には必要だった。
しかし、だからといってここに全戦力を注げば勝てるというワケでもない。正面を食い止めるのは、勝つための状況を整えるための、最低条件に過ぎないのだ。
「よくぞ、俺の無茶に応えてくれた」
巨大ゴーレムと化したガルダン、巨獣戦団、ラグナ陸戦隊、彼らの獅子奮迅の働きには感謝の言葉も無い。
「別にいいよ、ガルダンは好きでやってるだけなんだから」
エルドラドのブリッジにいるシモンが、通信でお喋りしてくれる。
「シモンも、よくあそこまで仕上げたな。アレもう立派な戦人機だろ」
「まぁ、ガルダンの改造はコツコツやってたからね。それに、どっちかというと重機だし」
第十一使徒ミサとの戦いで、ガルダンに自ら乗り込んだように、アイアンゴーレムである彼の体は、シモンの手によって改造されている。本人は強くなれれば手段は選ばない主義のため満足しているし、シモンは古代の遺物であるパーツや武装をガルダンで試したり、一部の古代語を解読できたりと、お互いに良い関係を築けているようだ。
そして、その集大成が今、眼下で暴れ散らかしている30メートル級の超巨大ゴーレムとなったガルダン、通称、フルアーマーガルダン、である。
このFAガルダンは残念ながらレーベリア会戦には間に合わなかったが、万一の防衛力としてファーレンのコナハトに置いておいた。結局、ファーレンの首都ネヴァンを占領していた十字軍が動かなかったので、彼の出番も無かったワケだが……無傷のお陰で、そのまま仕上げることができた。
ガラハド戦争で投入された重機タウルスをベースに開発がスタートし、ガルダンはついにあれほどの巨躯を手に入れた。
戦人機と比べれば、重機が基礎となるガルダンは機動力では大きく劣る。しかし、そのパワーと装甲は、重装型の戦人機にも勝る。
巨大なメイスを振り回し、天空戦艦用の主砲を背負ったガルダンは、最前線を支えるエースとして活躍していた。
そして、小回りの利かない典型的なデカブツパワーファイターであるガルダンをフォローするのが、戦人機より体格は大きく劣るが、生身のまま巨大化することで、俊敏さを維持できる巨獣戦団だ。
彼らも当初こそ己の加護の奥義たる『原始鼓動』のみを頼って戦おうとしたが……度重なる特訓で、戦人機軍団にボコボコにされてしまえば、別の手段が必要であることを納得してくれた。
巨獣戦団は戦場において最も大きな戦士として猛威を振るうが、オルテンシア軍の前では子供同然のサイズ感となってしまう。
その屈辱を飲み込んで、彼らはシモンが設計した、巨大化戦闘用の古代兵器に身を包み、力よりも機敏さと連携でもって、鋼鉄の巨人に挑む術を身につけたのだ。
正面戦闘では、量産機たるスプリガンにも余裕で当たり負けをする彼らだが、ガルダンが吹き飛ばし、姿勢を崩したところを狙えば十分に有効打を与えられる。
自分が狙われれば、回避に徹して、仲間が死角を襲うのを待つ。
軟弱な戦い方だと、思っていただろう。しかし、その不満を誰一人口にせず、対戦人機への戦術を徹底してくれた。
彼らの一歩引いた献身があるからこそ、ガルダンに続き、スプリガンに勝る巨躯を誇る黒竜陸戦隊も真正面から戦えるのだ。
その厚い龍鱗の装甲と巨体でもって相手を圧倒する黒地竜も、戦人機相手では分が悪い。十字軍の量産型ゴーレム『グリゴール』には殴り勝てても、機動力と武器の差で、戦人機には勝てない。
だから彼らにも出来る限りの武装を施し、巨獣戦団のサポートもつけた。
これが正攻法で押してくる敵主力を抑え込むための布陣である。
「けど、やっぱり強奪作戦が成功していて良かった。両翼を攻めるにしても、まだあれだけの数があるんだからな」
しかし当然のことながら、敵も全ての戦人機を中央戦線に投入するワケではない。
中央が膠着状態と見るや、要塞を狙って両翼から別動隊を繰り出してきた。打倒な判断であり、これもまた正攻法も同然の戦術である。
正面を食い止めるために、戦人機と真っ向からやり合える戦力はほぼ投入しきっている。彼らに要塞の全周も守れ、と命じるのはあまりにも酷であり、実行したとしても戦線に穴が空くだけ。
そこを補うために、ルドラと強奪機体を投入した。
「はぁー、時間があれば『リンドヴルム』もチューンできたのに」
「自前の装備が強力だし、問題ないだろう」
サリエルとプリムは、強奪作戦が決定してから、操縦訓練も行っている。
ウチに戦人機はない。無いのだが、訓練用シミュレーターはあるのだ。
特にスプリガンは傑作量産機として、広く普及しており、大体どのシミュレーターにもスプリガンの操縦プログラムは入っていた。
ただ結果的に、サリエル達は乗ったのは別な機体になったようだが……それでも、見た限りスプリガンに乗るよりも、上手く動かせているようだ。
奇跡的に、スプリガンよりも高い魔力適性となったのだろう。
リンドヴルムを駆るサリエル機とプリム機はたったの二機だが、倍の数を誇る戦人機部隊を前に、全く寄せ付けない戦いぶり。順当に行けば、そのまま敵部隊を倒せるだろう。
「でもルドラの『カーミラ』がぶっちぎちの性能だよね。流石は専用機」
赤い戦人機カーミラ。
この機体はネヴァーランドの王城の地下に安置されていた、国の守り神だという。
ネヴァーランドを興した初代ベルモント王が乗っていたらしい。
初代もルドラと同じ『鮮血大公ロア』の加護を授かっており、その強い加護を持っていなければ、カーミラは起動できない代物なのだとか。
嫉妬の女王リリィを倒すクエストを終えて、ひっそりと俺達の下を去ったルドラは、最早、流浪の剣の旅は止め、真っ直ぐ故郷へと帰った。再び吸血鬼としての力を取り戻したことで、今度こそ国に尽くし、王族の責務を果たそうと決意したと語っていた。
王位はとっくに妹が継いでいたので、十字軍の脅威を知るルドラは、万一に備えて国防に力を注いだ。
そう、いざという時の決戦兵力、秘密兵器として、ネヴァーランドの守護神カーミラを、十全に扱えるよう修行をした。
その成果は、彼の愛刀が『吸血戦姫「黒彩色」』から更なる進化を経て、『黒一文字「鬼姫」』となるほどだ。純粋な剣士から、吸血鬼として、戦人機乗りとして、大きく戦い方を変えたことで、呪いの武器がそれに合うよう応えたといったところか。戦人機に乗っても自分を手放さないよう、巨大化能力を獲得するなんて……ルドラ、お前愛されてるよ。
共に成長をしてくれる相棒感は、普通の武器にはない、呪いの武器だけの良いとこだよな。
そうして、名実ともに国防を担う将軍に相応しい実力を身に着けたルドラだったが……ネヴァーランドへ襲い掛かった災いは十字軍ではなく、オルテンシアであった。
カーミラは強力な専用機だが、それでも単騎で戦人機軍団を相手にするのは無謀が過ぎる。
しかし、俺達と協力すれば、カーミラは対戦人機においてはトップエース足りえる、最高戦力となる。
そして今まさに、専用機持ちのエースの力を存分に発揮し、単騎で敵部隊を余裕で相手取っていた。
こうして見ていても、明らかにカーミラの動きは違う。あの生身のように滑らかな動きは、ユリウスに乗ったミアを思い出させる。
古代のエースは皆、あのレベルにあったようだ。
流石のオルテンシア軍も、これ以上は別動隊を繰り出す余裕はないようだ。
ルドラとサリエル・プリム、でどうにか要塞は守り切れている。
しかし、時間が経てば地力の差によって、こちらが押し返されるだろう。今はあくまで拮抗状態。
ここから優勢を取るためには――――何としても、俺達が制空権を握る。
「休養はもう十分か、ベル?」
「ふふん、任されよ。今こそ魔王騎として、その力を知らしめる時。戦人機など、何するものぞ!」
と、大いに気合を入れて吠えるのは、長い休みを経てやっと力と気力を取り戻した、黒竜ベルクローゼンである。
オルテンシアの航空部隊も、地上戦の膠着状態を見て、ついに様子見を止めてエルドラドへ一斉に攻め込んでくる動きを見せている。
俺の役目は、まず奴らを叩き落とすことだ。
「クロノ、魔王騎ベルクローゼン――――出る」




