第1060話 戦人機強奪作戦
ソレに最初に気づいたのは、サリエルだった。
「マスター、戦人機は奪えます」
度重なる対戦人機戦特訓の中で、サリエルが偶然……いや、気づいたのは必然だったことだろう。
基本的に戦人機に弱点はない。完成された兵器なので、致命的な欠陥など存在するはずがないのだ。
関節部が他と比べて脆いとか、ブースターの噴出口だとか、そういった装甲で覆えないが故の構造的脆弱性こそあるものの、人型ロボットの強みを100%活かした兵器として仕上がっていることに違いはない。
そんな戦人機で唯一弱点と言うべき存在は、やはり生身のパイロットだろう。
実際、コックピットブロックは最も分厚い装甲で守られている。
だがここを破壊できればどこ狙っても壊せるといった状態だ。ただパイロットの乗り込んでいる胸元を狙うだけでは、意味がない。
そこで高速機動にある程度の飛行能力まで持つに至ったサリエルが、戦人機を相手にコックピットを上手く破壊する方法を試行錯誤するのは当然だ。白崎さんの記憶を持つサリエルには、有名ロボアニメシリーズで大抵、コックピットをぶち抜かれて爆散するイメージがばっちりあるはず。
だが、やはりコックピットは固かった。どう狙っても万全の防護が施されており、ここを狙うくらいなら素直に膝関節でも狙った方が撃破率は上がる。
構造的な防御は完璧。ならば、別な方法で開くしかない。
「リリィ様、お願いします」
「まぁ、試してみる価値はありそうね」
そして最終手段として、リリィのテレパシーによるコックピットハッチの強制開放を試みた。
これは半分成功、半分失敗に終わった。
リリィは以前に自ら戦人機スプリガンを操った経験があるため、システムに精通していた。それでハッチの緊急開放コードを打ち込み、戦闘中にコックピットブロックを開くことには成功した。
しかし、これをするには胸元に直接取り付いた上で、しばしの間、コード入力の時間がかかる。俺達は戦力総動員でこれを支援し、何とか成功にこぎ着けたが、とても実戦的な撃破方法でないことは確かであった。
「ふぅん、中には誰もいないのね」
ハッチを開いたリリィの第一声がそれである。
特訓は神様の操る戦人機が相手だ。どうやら神通力のようなモノで直接機体を動かしているようで、自ら生身のパイロットとなって乗り込んでいるワケでは無かったらしい。
しかし、神が作り出した幻であっても、本物を寸分違わず再現している。
すなわち、奪えば乗り込んで操縦することも、不可能では無かったのだ。
「私はオルテンシア軍の戦人機強奪作戦を進言します」
そしてサリエルが、ロボアニメの物語冒頭で起こるような作戦を立案した。
「確かに、俺達に戦人機が無いなら、有るところから奪うのは合理的な話だが……」
「私は賛成よ。素晴らしい作戦だわ」
リリィはニッコリ笑顔で絶賛したが、俺としては不安の方が勝ってしまう。
機体を強奪するということは、敵の基地に忍び込むということだ。潜入作戦なんて、別に俺達の得意とするところでも何でもない。
アニメならばいい具合のガバガバ警備に、機体に乗り込みさえすれば即座に動き出せる状態になっていたりするのだが……どう考えても、オルテンシア軍の強さを支える主力である戦人機は、厳重に管理されているに決まっている。
近づくことさえ難しいだろう。
というか機体にロックがかかって、登録されたパイロット本人じゃなければ動かせないようになっているはずだ。少なくとも、ミアの時代からそういうシステムだったと聞いている。
「大丈夫、勝算は十分にあるわ」
「マスター、私にお任せください」
「ええぇ……何でそんな自信満々なんだ」
「見たところ、サリエルには高いパイロット適性があるわ。起動さえ出来れば、すぐに動かせる」
「認証システムはどうする?」
「私が解除キーを作るわ。オルテンシアは当時のプロテクトをそのまま使っているだけだもの」
流石はリリィ、何でもできるぜ。
「そして何より、サリエルなら力づくでの突破もできる。ある程度まで潜り込めれば、必ず機体まで辿り着けるわ」
「そこまで言われると、反対する理由は見つからないが……」
「必ず機体を奪い、可能な限りの破壊工作をした上で離脱します」
いつになく、サリエルがヤル気に満ち溢れている。
実際、この作戦が成功すれば恩恵は計り知れない。単純に敵の戦人機が減るだけでなく、こっちに一機増えるのだ。
奪った戦人機で一暴れして破壊工作まで出来れば、さらに労せず敵機を減らすこともできるかもしれない。
本物の戦人機だけは、現状でも用意できる目途が立たない。故に強奪作戦の成果は、考えられる限り最も有効な戦術とも言える。
「分かった、強奪作戦を許可する。だがサリエル一人に、この危険な作戦を背負わせるつもりはない。万全のサポート体制が整えられるようにしてくれ」
「任せて、私が直接指揮を執るわ」
「ああ、頼んだ、リリィ。だがサリエル、絶対に無理はするな。必ず無事に帰って来てくれ。これは約束……いや、命令だ」
「はい、マスター」
かくして、サリエル発案、リリィ主導の元、戦人機強奪作戦が進められた。
◇◇◇
「――――こちらサリエル、目標座標に到着」
「ええ、こっちもちゃんと見えているわよ」
紅炎の月15日の未明。夜空に浮かぶ雲に紛れて、サリエルは空の上にいた。
眼下には山の中腹に敷かれた、オルテンシア軍の本陣。
何隻もの巨大なエーテルクラフトが並び、戦人機を十全に運用するための設備が仮設ながらも整えられ、広大な陣容となっている。本陣は夜闇の中でも煌々と魔法の照明が灯り、エルフの兵士、あるいは技師が行き交っていた。
警戒は厳重。来るべき決戦の時を前に、本陣に油断は見られなかった。
「降下準備、開始します」
「ステルスの制限時間は長くないわ。手早くお願いね」
「問題ありません」
「貴女の心配はしてないわ。その相棒が心配なの……ねぇ、プリム?」
「私も、問題ありません、女王陛下」
いつも通りに平静そのものなサリエルに対し、プリムは明らかに平静を装っている固さが見られてしまう。
今回の作戦で要となる、戦人機の強奪を実行する潜入パイロットの役目は、サリエルとプリムの二人に託された。
強奪作戦が立案されてから、帝国軍では秘密裡にパイロット適性者を探し始めたのだが……これが非常に難航した。
適性者はそれなりの数こそ見つかったものの、この困難な作戦に参加できる兵士としての高い実力を持つ者は一人もいなかった。適性者に多かったのは、まだ年若い少年少女ばかり。調べたのは帝国軍人のみだが、軍に入隊できないもっと幼い年齢の者まで対象を広げれば、さらに多く見つかるだろと推測された。
この結果を受けて、リリィがクロノに相談し、それとなくミアに問いただしたところ、
「あー、もう強くなっちゃった人は乗れないかもね。例えばクロノ、君が乗るなら専用機じゃないと絶対無理だよ。まぁ、僕の時代でも今の君を乗せて100%力を発揮できる機体は作れないと思うけど」
戦人機を操るには、ある一定の魔力の性質が必要となる。
つまりパイロットとは、戦人機操縦に必要な魔力の性質を持つ、あるいは、性質を合わせた者のことを言うのだ。
古代でも現代でも、己そのものを鍛え上げれば、魔力の性質は最も自分の肉体に適したものに洗練されてゆく。それはクロノの黒色魔力であったり、リリィの光属性であったり、フィオナの多様かつ膨大な魔力といったように。
それは個人の強さを極めるのに最も適切な変化だが、戦人機を操縦するための魔力性質からは、どんどんかけ離れて行くことを意味する。
特に古代の量産型戦人機は、より多くの人間の魔力性質に合うように作られている。
古代では幼い頃から、騎士の英才教育として戦人機に合わせた魔力鍛錬を行うことで、優れたパイロットを育成した。
魔王伝説でミアが幼い頃から戦人機に乗っていた、というのは、そうした当時のパイロット育成法とも一致しており、本人も認める歴史的事実でもあった。
そして、その育成法を知るエカテリーナは、長い年月をかけてパイロット育成を実施しており、今回の軍備拡大にも十分な数の適性者を用意することが出来たのだ。
一方の帝国軍では、そんなことなどリリィですら知らない。そもそも戦人機を運用する前提では無かった以上、ソレに合わせた人材育成などできようはずもない。
結果的に、適性者は自然に適合できるほど、まだ未熟で幼い者達ばかりが中心となった。無論、そんな少年少女達を、即実戦投入などできるはずもない。
「逆にサリエルはなんで適性あるんだ」
「私に適性はありません。ですが、魔力性質を適性に合わせることが出来る」
「サリエルじゃなきゃ出来ないわね。私も無理、光属性強すぎるから、調整するにも限度あるから」
「俺は調整そのものも出来る気がしねぇ……」
「いいじゃない、そんなのフィオナも同じよ」
ともかく、サリエルのパイロット適性は本人の精密な魔力操作によって実現していることが明らかとなった。
無論、同じことが出来る者を探すのは、さらに難しい。
そうして、サリエルに続く二人目のパイロットを探しに探した結果、
「――――プリムしか、使えそうな適性者はいないわ」
「マジか」
選ばれたのはプリムであった。
人造人間の愛玩用として設計されていたためか、その魔力性質は幼年の者に近かったことが、適性の理由である。
「別にいいのよ、サリエルだけでも十分だわ」
クロノがプリムを気に入っていることなど、リリィは百も承知。
そして、その上でこう言っていることもまた、クロノは分かっていた。
「正直、この強奪作戦にプリムを参加させるのは心配だ――――しかし、プリムも暗黒騎士だ。サリエルの他に、彼女しか適任がいないならば、ここは任せるしかない」
かくして、クロノは魔王として、サリエルとプリムの両名にオルテンシアの戦人機強奪作戦を命じた。
自分でも知らなかった要因で、思わぬ大役の抜擢に喜ぶプリムであったが、そのせいで黒き森の古代遺跡攻略の同行を断られたことに涙するのは、また別のお話である。
作戦と人員が決定してより今日に至るまで、二人は訓練を重ねてきた。
特に暗黒騎士として機甲鎧を纏って戦うことがメインだったプリムは、不慣れな潜入任務の訓練を、サリエルの厳しい指導の下、文字度通りに叩き込んだ。
その成果が今、静かな夜空の雲の中で披露されようとしていた。
「プリム、準備はいいですか」
「はい、団長」
「よろしい――――降下開始」
「降下開始!」
サリエルがその身を宙に踊らせると共に、プリムもそれに続く。
二人を空中へ運んだのは、天馬のシロでも、竜騎士でもない。リリィである。さりとて、リリィの乗る『ヴィーナス』があるわけでもない。
二人を乗せて浮遊していたのは、『精霊偵察機』と呼ばれる無人機だ。
デスティニーランドで嫉妬の女王と化していた時、シャングリラにあったボール型のドローンを核として、精霊を宿して作り上げたものである。攻撃能力はほとんど無いが、小型で高い隠密性、そこそこの飛行速度と機動力で、高精度の偵察を行える魔法具だった。
似たようなモノは今でも作れるが、当時と同等以上の性能を求めるならば、やはり古代性の小型ドローンが必要。シャングリラの在庫は尽きており、帝国でも発見されなかったが……この度、クロノが黒き森の古代遺跡を攻略したことで、そこに残されていた古代の飛行艦船より、ついに見つかったのだ。
この『精霊偵察機』は、敵本陣の上空まで忍び込むのに最も適した飛行手段であるとリリィは判断し、サリエルとプリムを乗せて現地まで飛ぶ専用機を作り上げていた。
その潜入用ドローンから、サリエルはその身一つで飛び出し、プリムは下へと垂らされたワイヤーを伝って降下を開始した。
姿を消す魔道具として有名な『プレデターコート』を始めとして、視覚、聴覚、嗅覚、そして魔力を感知する第六感をも誤魔化す、様々な隠密装備を身に着け、完全に存在を消した二人は、速やかに眼下のオルテンシア本陣へと接近してゆく。
サリエルは自由落下で身を切る風の音さえ出さずに、着地点として定めたエーテルクラフトの甲板へと迫る。
そのまま鋼鉄の甲板へ激突するかといった寸前、不自然なほどの急制動がかかり、華麗に一回転をして、一切の物音も衝撃も無く、軽やかにサリエルは降り立った。
着地の秘密は、サリエルの操る電磁力によって、甲板と反発させて減速したこと。加護の力を高め、精密な魔力操作を可能とするサリエルだからこそ可能とした、見事な隠密着地であった。
「……ッ……んっ!」
一方、サリエルより遅れてワイヤーによる降下をしたプリムは、空中では高空の強い風に煽られ、低空ではそこかしこを照らし出すオルテンシアの探照灯に冷や冷やしながらも、どうにか甲板上まで降りてきた。
そして最後の着地といったところで、減速が間に合わず、物音を立てることを覚悟した瞬間、
「……」
不合格。帰ったら降下訓練やり直し、と言わんばかりの冷たい真紅の双眸が、プリムを見つめていた。
プリムの状態など見抜いていたサリエルが、自ら彼女を受け止めたのだ。
己の何倍もある巨大な胸に顔を包まれながら、抱っこ状態のプリムを無事に無音で甲板に下ろすことに成功。
二人は即座に身を伏せ、周囲を探る。
異常ナシ。歩哨もナシ。
本陣は先と変わらず、静かなままであった。
「行きます」
と言葉にせずハンドサインを発して、サリエルは動き始めた。
エーテルクラフトの構造もおおよそ頭に入っている。
勿論、現物は帝国にも存在しないが、夢の中なら話は別。特訓の中で、戦人機を満載したエーテルクラフトによる強襲揚陸作戦も体験しているのだ。
型こそ違うものの、基本的な構造は同様。サリエルは暗闇をものともせずに見通す赤い瞳で素早く周囲を見渡しながら、最適な潜入経路を探った。
真っ先に目を付けたのは、通気口。
クロノのような大柄な者は無理だが、自分のような小柄で細身ならば通り抜けられるダクトだとあたりをつけたが、
「……」
一度振り返り、プリムの胸元を見て、通気口からの潜入を断念。
サリエルの目は正確にダクトとバストのサイズ比を見抜いた。無理に胸をねじ込んでも、次は尻で引っかかることも。
身長にそう差はないが、搭載しているバストとヒップのサイズは圧倒的格差がある。愛玩用は伊達じゃない。
こういうところも潜入には不向きなのだと実感しつつも、サリエルは特に嫉妬に駆られることも無く、次善の侵入路を探す。サリエルは持たざる者を妬むという不毛なことはせず、己の持ち味を活かし切る戦略的な思考ができる故に。
「――――こちらサリエル、エーテルクラフトへの潜入成功」
「ここまでは見つからずに来れたようね。良かったわ」
エルフの歩哨を掻い潜り、首尾よく船内への侵入を果たしたサリエルは、人気のない隅の区画でテレパシー通信を飛ばした。
リリィは通信機と直接テレパシーが届く範囲ギリギリの空中にて、隠密仕様の『ヴィーナス』に乗って待機している。
サリエルはテレパシー通信機を介することで、直接的にリリィのテレパシーサポートを受けることができる。これによって、多少のロックなどは即座に解除が可能だ。
「このまま格納庫へ向かう」
「ええ、気を付けてね」
超人的な気配察知を全開にして、サリエルは視覚に頼らず歩哨や忙しなく行きかう乗組員と一度もかち合うことなく、格納庫への通路を進んだ。
プリムも黙ってついて来るだけならば、早々とヘマをすることもない。
血の一滴も流れることなく、二人はいよいよ本命が眠る、戦人機の格納庫へと辿り着いた。
「想定よりも、人が多い」
出撃を直前に控え、格納庫の中は兵士や技術者で賑わっていた。
そこかしこに古代純正品のブラスターを携えたエリート兵士が警備に立っている。
ある程度の警備は想定内であったが、カッチリと制服を着込んだ将校に、白衣の技師、それからツナギのような作業着に身を包んだメカニックが大勢いた。
何故、これほどの人数が集まっているのか。その理由は一見して明らかだった。
「あの戦人機、スプリガンと違う機体です」
「新型機……」
格納庫のど真ん中、膝立ちの状態で鎮座している機体は、オルテンシア軍の主力にして、最も保有数の多い量産型戦人機スプリガンとは、明らかに異なっている。
曲線的な装甲は漆黒に彩られ、機体もスプリガンより一回りは大きい。バックパックも大柄な機体を動かすためか、ブースターも大型化してあり、補助用のサブスラスターも各部に設置されていた。
見たことのない黒い機体。すなわち新型機であることは一目瞭然である。
それがちょうど二機。
大勢の作業員は、この新型機を出撃ギリギリまで、仕上げる最終調整のために集まっているのだろう。
厄介だ、とサリエルは想定外の事態に考え込む。
果たして、あの機体を奪取できるのか。
自分とプリムは、スプリガンを奪う想定で操縦訓練を重ねてきた。機体が違えば、動かし方の感覚が異なるのは当然のこと。特に体の動きがダイレクトに反映される戦人機は、その操作感の違いが大きいと聞かされている。
動かすことが出来ても、十分な戦闘機動が取れないようでは、その場であっさり撃破されてお終い。
少なくとも、新型機二機の破壊とサリエルとプリム、二人の命を引き換えにするのでは、割りに合わない。何より、クロノが許さない。
ここは不確定要素が強い新型機は諦め、スプリガンの奪取に切り替えるべきか。
しかし、そうなると別なエーテルクラフトへ潜入し直さねばならない。ここから脱出し、本陣の中を通り抜け、再び船内へと潜り込む。
果たしてプリムを連れて、そこまで見つからずに進めるか――――判断に迷ったその時、
「お行きなさい。あの機体は暗黒騎士にこそ相応しい」
サリエルの脳裏に、確かに声が響いた。
「こちらサリエル、これより新型機を奪取する」
「新型機? ちょっと、ソレ大丈夫なの?」
「問題ない、『リンドヴルム』はフリーシアが最初に乗った機体」
だからスプリガンよりも、よほど動かしやすい。
その確信をもって、サリエルは動き出す。
「プリム、騒ぎが起こったら、真っ直ぐ機体に乗り込んで」
「了解」
格納庫を見渡せる上階の渡り通路にプリムを残し、サリエルは軽やかにそこから飛び降りる。
まだ隠密は解除しない。
人の集まる機体まで近づけば、流石に気取られる可能性はあるが、
「おい、本当に大丈夫なんだろうな! この新型機が動かねば、私の進退にも関わって来るのだぞ!!」
「し、しかしですねぇ、この機体はスプリガンとは全く別系統のシステムで――――」
「ええい、この期に及んで泣き言は、貴様それでも栄光のオルテンシア騎士かっ!!」
「私らは騎士じゃなくて、ただの技術者ですよぉ……」
格納庫を見渡せる位置には、機体の状態を管理する管制室のような一室が設けられていた。そこにはこの新型機を任せられた技術者達と、それを預かる将校が怒鳴り声を挙げている真っ最中である。
どうやら新型機は万全の状態といったようではなく、出力が不安定な模様。
それもあって、急ピッチで調整をしている修羅場といった状況らしい――――と、サリエルが理解したところで、ついに刃を抜いた。
「何としても、この新型機で魔王軍を蹴散らし――――ッ! ァ!?」
まずはこの場で最も地位の高いだろう、将校を確実に仕留める。
エルフらしい長身痩躯、だがこれといって脅威を感じない隙だらけの立ち姿であった。
それは擬態でも何でもなく、どうやら本当に武の心得など無いようで、サリエルが突き立てたナイフを、何の抵抗も無く首と心臓に受け入れる。
「えっ……は?」
「『雷砲』」
将校が声もなく倒れると、異常に技術者達も気づいたが、時はすでに遅い。
彼らは悲鳴を上げるまでも無く、サリエルが放った雷属性の下級範囲攻撃魔法の一発で、まとめて沈黙。
管制室にいた者が全員、倒れ伏した直後、異常に気づいたのは格納庫の方々に立つ警備兵であった。
「敵だぁっ!」
「侵入者! 侵入者がいるぞ!!」
「管制室がやられた!」
叫び声が上がると同時にけたたましい警報が鳴り響き、ブラスターを構えた警備兵が管制室へとすっ飛んでくる。
その様子を気配で感じながらも、サリエルは血濡れのモニターを冷静に操作する。
すぐに格納庫へ増援が押し寄せてこないよう、ここに通じる扉をロック。
その操作を終えてから、堂々と管制室を出で、
「貴様がっ――――」
「『雷矢』」
使徒時代から使っていた下級攻撃魔法の略式詠唱による速射を、管制室に突入してきた警備兵に見舞う。
古代製ブラスターを所持しているだけあって、防具も良いものを着ているようだ。一発で昏倒することなく、雷撃に耐えていた。
しかし、ジャブにも満たない軽い一発でたたらを踏んでいるようでは、サリエルを捕らえることなど敵わない。
トドメを刺す暇も無いとばかりに、サリエルは警備兵達を飛び越えるように跳躍し、ついに格納庫へと降り立った。
「プリム」
「搭乗完了。ハッチ閉鎖、これより起動シーケンスに移ります」
命令通りにプリムはサリエルの襲撃に気づいて警報が鳴り響いたと同時に、新型機へと向かった。
突然の警報に何事か、と格納庫で作業する者達が騒然とする中を、プリムはステルス機能を維持したまま駆け抜けて行く。
そうして機体にかけられていたままのタラップを登り、ハッチが開け放たれていたコックピットへと乗り込んだ。
プリムが首尾よく一機目に乗り込んだことを確認したサリエルは、もう一機の方へと駆ける。
すでに隠密機能が全て解除され、長い銀髪に帝国製の黒いパイロットスーツに身を包んだサリエルの姿は、格納庫の中にあっては非常に目立った。
「おい、待てぇ!」
「その恰好、お前まさか――――」
サリエルの前に立ち塞がったのは、白いパイロットスーツに身を包んだ少女。
間違いなく、この新型機に乗るはずだった正規のパイロットである。
「魔王に歯向かう貴女達に、この機体は相応しくない」
それだけ言い残し、サーベルを抜いて斬りかかって来たパイロットの肩を踏み台にして軽々と飛び越し、サリエルはそのままもう一機の新型機へと乗り込んだ。
速やかにハッチを閉鎖。
一瞬の暗転の後、すぐにシステムが起動し、全周囲の光景が映し出される。
サリエルの前には、ホログラムの画面が浮かび上がり、パイロットの認証を待っていた。
「『リンドヴルム』、起動」
2026年1月2日
あらためまして、新年あけましておめでとうございます!
今年も『黒の魔王』をどうぞよろしくお願いします!




