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黒の魔王  作者: 菱影代理
第48章:パンドラ四帝大戦
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第1048話 四使徒集結

「にゃーっはっはっは! 盛り上がってきたじゃん!」


 四帝会談を終えて、第八使徒アイは玉座の上で上機嫌に笑い声を上げていた。

 己の戦いを如何に面白おかしく彩るか、に執心しているアイにとって、強敵の登場は歓迎すべきことである。女帝エカテリーナと西方大帝ザメクは、魔王クロノと並び立つに相応しい大国の君主であり、ちょうど彼らの間に割り込めるだけの立場のある肉体を得ていたことは、正に白き神の祝福だと思えた。


「アイ卿、急ぎ報告したいことが」

「えっ、なになに? いい話ぃー?」

「シンクレアより、新たな使徒が参っております」

「……は?」


 そこでアルスからもたらされた報告に、アイの笑みは凍り付いた。

 笑えない冗談だと、いつものように笑い飛ばすことは出来ない。モノリス通信の向こうでサリエルが察していたように、アイも今の言葉を聞いて、アルスが本気で吐きそうな顔色をしている理由を理解してしまった。


「いや何で来てんの?」

「何故、と申されましても……使徒を動かせるのは、神命を置いて他にはないでしょう」


 全く以てその通り。

 アイだって己の欲望に従って好き勝手に遊び回っているだけだが、そうすることが神命、すなわち白き神の望みである、と解釈しているからこそ。本当に白き神の意に反した行いがあれば、天罰の一つでも下っているはず。


 ならば新たな使徒がパンドラにやって来たというのも、ただ白き神がそう望んだから、というより他は無い。

 分かってはいる、そんなことは分かっているのだ。

 だがしかし、アイはとても良い予感がしなかった。折角、かつてないほどの盛り上がりを見せる自分の戦いに、怒涛の如き勢いで水を差されるのではないかというほどの、悪い予感が。


「てか、誰が来たの?」

「それは――――」


 バァン!! とアルスの返答をかき消す轟音を立てて、玉座の間が開かれた。

 それに無礼を問う声は上がらない。何故なら、そこにいるのは無礼を問われぬ者に他ならないのだから。


「やぁ、アイ君! 私が来たよ!!」

「うげぇ……エドワルドぉ……」


 ぶち破られた扉から、光り輝くような笑顔を浮かべて堂々と現れたのは、巨漢の第六使徒エドワルド。

 以前に会った時よりも、さらに一回りパンプアップされた屈強な肉体を、純白の法衣が包んでいる。次の瞬間には、何かの拍子で法衣が弾け飛ばないかと、アイは警戒してチラチラとしか視線を向けない。

 いきなり可愛い女の子が裸になるラッキースケベは大歓迎イベントだが、筋骨隆々の筋肉達磨の全裸など見たくもない。


「チィーッス、あまりにも先輩方が雑魚なんで、応援に派遣させられた第十使徒マグスでーっす」

「あああぁ、このクソガキぃ……」


 今すぐその舐め腐った陰気な面にアイテールぶち込みてぇ、とマグスの一言目からアイの怒りは湧き上がる。


「最悪だ、よりによってコイツら寄越すなんて……恨むよ勇者様ぁ」


 これでやって来たのが、以前のように第三使徒ミカエルが様子見の顔出し、であれば良かった。素直に歓待して、最近どう? と当たり障りのない近況報告と世間話をして、精神的に癒されてお終いだ。

 だがしかし、この第六使徒エドワルドと第十使徒マグスは、使徒の中でも問題児。好き勝手に放浪の身を楽しむ自分も真面目な方ではないという自覚はあるが、それでも人としての常識と良識は弁えている。

 何故なら、アイは獣を狩る狩人だから。ただ己の欲望を尽くすだけでは、狩られるべき獣と代わりはない。自分は人で、獣ではない。


 しかしコイツらは違う。

 シンクレア本国で活動させれば被害の方が大きいと断じられたからこそ、東の最前線に送られた。そこでも随分と暴れたようだが、絶大な使徒の力の被害を受けるのが、シンクレア人ではなく敵国人か異教徒であれば文句はない。


 こういう奴がいたからこそ、ミサのワガママぶりなど可愛いものだと思えた。マリアベルなど近年まれにみる優等生だ。アイにとってあの二人は、純粋に可愛い後輩である。

 無論、数々の功績を挙げ、アベル筆頭に誰からも支持を得ていた、第七使徒サリエルとは、比べ物にならない。


 端的に言って、アイはこの二人のことが大嫌いであった。

 二度と顔も見たくない。

 肩を並べて戦うなど、絶対に御免。お前らは勝手に戦って勝手に死んでくれ。次の第六と第十の席に座る人に期待する。


「失礼します。第九使徒ジャンヌダリア、参りました」

「うわっ、ジャンヌちゃんも来たのっ!?」


 ひとしきり騒いでから、ひょっこりと顔を出してきた老婆にアイは驚く。

 まさか第九使徒まで駆り出されるとは。


 第九使徒ジャンヌダリアは、先のゴミクズ二人と違って、どこまでも真っ当に十字教に尽くしてきた偉大な使徒である。それも、うら若き少女の頃に使徒となってから、こうして老婆となるまでの長い間、変わらぬ献身でシンクレアの人々を救い続けてきたのだ。

 龍帝を征しドラグノフを滅ぼしてからは、伝説の中でのみ生きるようになったアベル達勇者パーティメンバーに比べて、現代のシンクレア人にとっては国内で活動し続けるジャンヌダリアの方が、使徒の顔としてのイメージは強いだろう。


 そんな彼女のことを、アイもまた評価している。いや、素直に尊敬しているし、誇らしくも思っている。

 何故ならジャンヌダリアが使徒となった頃は、自分もまだ駆け出しの使徒であった。いわゆる、同期のようなもの。

 自分は望むがままに戦いを繰り返しては、幾度か肉体も変えてきたが……彼女は何も変わらない。変わったのは、ただ時の流れによるものだけ。


「よし、ジャンヌちゃんだけ残って、お前らは帰れ。今すぐ。二度と私のスパーダに足を踏み入れるな」

「なんだい、久しぶりの再会だと言うのに、随分な言い草じゃあないかね、アイ君」

「こっちも来たくて来たんじゃねーし」


 あからさまに牙を剥いて威嚇する犬のような態度のアイに対し、エドワルドはどこまでも鷹揚に、マグスは面倒くさそうに相対する。

 使徒同士で顔を合わせて険悪な雰囲気など、常人には耐え難い。アルスは静かに玉座の間の隅へと避難すると、そんな彼を守るように第九使徒ジャンヌダリアが傍に立った。

 やはり長年、十字教に尽くし続けた本物の聖人は違う、とアルスはつくづく実感する。


「今さぁ、すっごいイイトコだから、お前らみたいのに邪魔されたくないのー」

「心外だなぁ、私達は君を助けにきただけだというのに。邪魔をするなんて、とんでもない」

「パンドラには、もうテメーしか使徒が残っちゃいねーだろ。何人も倒されておいてさぁ、第八如きが一人でどうにかできるなんて、思えるワケないっての」


 当然のことながら、アイが嫌な顔をした程度で引き下がる二人ではない。

 マグスの言う通り、立て続けに使徒が討たれているのは事実だし、何よりもすでに神命は下ってしまっているのだ。


 アイも駄々をこねるだけでは、どうにもならないと察してしまう。

 何とかして、この想定外の邪魔者を処理、あるいは隔離しておかなければ。


「じゃあ今からそれぞれ、オルテンシアとロンバルトに単騎突撃してきてよ」

「はっはっは、豪快な作戦だねぇ。嫌いじゃないよ」

「馬鹿か、加護弱まる僻地まで突っ込むワケねーだろ」


 本気でそこまで突撃していくほどの馬鹿だったら、東部戦線で死んでいる。

 良くも悪くも、この二人は東の果てで死闘を続けてきたのだ。白き神の加護が十全に発揮されるかどうか、その辺を嗅ぎ分ける感覚は鋭い。

 逆にその感覚が鈍かったからこそ、かつてミサとマリアベルは危険覚悟でアトラス大砂漠までサリエルを追って行ったのだ。


「アイ君、我々もおおよその戦況は聞いているよ」

「折角領地を広げたってのに、魔王軍に圧倒されてここまで押し込まれてんだろ。マジで使えねーな、使徒の面汚しってヤツ? 最弱争いしてんじゃねーぞ」

「ふーんだ、結局東の連合王国落とせなかった奴らに言われたくありませーん」

「あぁ?」

「まぁまぁ、我々も神命に従い参上したまでのこと。ここは使徒らしく、素直に白き神のご意志に従うべきだろう」

「その心は?」

「正攻法でパンドラを征服する。何も難しく考えることではない、四人もの使徒が揃っているんだ。我々ならば、必ずや白き神の課されたこの試練を乗り越えられる!」

「おいエド勝手に触んな。肩を抱くなキメぇんだよ」

「お触り禁止でーす」


 仲良し冒険者パーティのように肩を組もうと迫って来るエドワルドから露骨に距離をとるアイとマグス。

 二人の反応に、「そんなに恥ずかしがらなくても」と大袈裟に肩をすくめるジェスチャーを決めるエドワルドを、二人はゴミを見る目で蔑んだ。


「まぁ、来ちゃったもんは仕方ない。どうせアンタらのことだから、誰の命令にも従うつもりはないでしょ」

「そりゃテメーも同じだろうが」

「使徒に命を下せるのは、いつだって白き神のみだからねぇ」

「なら勝手にしろ。ただし、私はアンタらに手を貸さないし、逆も然り。協力して欲しいことは、全部アルス君を通してよ」

「えっ」

「アルス……ああ、今の総司令官殿か。まぁ、それが妥当なところだろうね」

「やってることは東ん時と変わらねぇな」

「じゃあ解散。二度とその顔見せないでねー」


 話は終わったとばかりにヒラヒラ手を振って解散を促せば、挨拶は済んだとばかりにエドワルドは頷き、マグスもさっさと出て行った。

 そして玉座の間に残ったのは、面倒事を全て振られたアルス枢機卿と、心労までは癒すことができない第九使徒である。


「それで、ジャンヌちゃんはどうする? 無理しないでスパーダでゆっくりしていなよ」

「ありがとうございます。私は、お兄様より賜った使命がございますので」

「へぇ、勇者様直々にねぇ……それって聞いてもいいやつ?」

「スパーダの守りに徹し、魔王が迫れば逃げよ、との仰せでございました」

「アルス君、これオフレコでね」

「承知しております」


 ただの十字軍兵士からすれば、使徒の増援は喜ぶべき希望だ。

 その待望の使徒が、最初からそんな弱腰の姿勢であると広まるのは非常によろしくない。これで悪評がついて回るのがエドワルドやマグスならばどうでも良いことだが、アイにとって同期のジャンヌダリアに、そのような批判が集まるような事態は避けたいと思うだけの人情はあった。

 そしてアルスとしても、この中で唯一真っ当に協力を得られる常識的にして偉大な使徒であるジャンヌダリアには、最大限の敬意と配慮は怠らない。


「うん、分かったよ。それじゃあジャンヌちゃんは、クロノくんが本腰入れてやって来るまでの間、スパーダの防備をよろしくね」

「はい、承ってございます。アイちゃん」

「へへっ、いいってコトよ!」




 ◇◇◇


 旧アヴァロン、ヴィッセンドルフ辺境伯領の東端。そこは今、ハーピィの国家ウィンダムが長年の悲願叶ってついに獲得した、待望の平地であった。


 峻険な大山脈たるアスベルに陣取り、領土全てが天然の要塞に守られているも同然のウィンダムは、南北の地域がどれほど動乱の時を過ごそうとも、決して陥落することはなく、暗黒時代が開けた初期の頃から存続し続けた、古い国家である。

 千年もの長きに渡ってアスベルを支配してきたウィンダムのハーピィだが、逆に山を降りて領土拡大をすることは無かった……否、出来なかった、というのが正確である。


 ハーピィは色鮮やかな羽を持つ小鳥のような者から、逞しい肉体をもって力強く空を駆ける猛禽のような者まで、様々な種が存在している。ウィンダムは数あるハーピィの中でも屈強な猛禽種が中心となった国であり、その空中戦力は下手な天馬騎士を遥かに凌ぐ。

 アスベルという天然の要塞と、猛禽のハーピィ戦士という空中戦力の二つによって、千年の独立を保ち続けたが、平地で大軍を相手に侵攻できるほどの力は、ついに持ちえることは無かったのだ。


 しかしながら、ウィンダムはネロの反乱に始まる動乱によって、結果的に念願の地を手に入れた。

 ネロの支配下にあったアヴァロンへ密かに潜入した魔王クロノは、瞬く間にアヴァロンを奪還し、帝国の傘下へと組み込んだ。そのあまりに素早く、鮮やかな手際に、このままの勢いでウィンダムも狙うのでは、という脅威論も実しやかに囁かれたものだが……魔王が求めたのは侵略とは正反対の、領土の割譲であった。


 スパーダを占領した十字軍に対する防壁に、という思惑などウィンダム王とて承知の上。それでも二つ返事で受け入れるだけのメリットがあった。

 早計過ぎる、これは魔王の罠だ、という慎重論も王宮では叫ばれたが――――


「あぁー、あったよな、そういう話も」

「山城に籠り切りの年寄り連中は臆病で困る」

「ハーピィが空の広さを忘れちまったらお終いだよなぁ」


 抜けるような青空が広がり、麗らかな春の日差しに照らされて、スパーダ側国境を守る砦で警備に立つハーピィの騎士達が、呑気なお喋りに興じていた。


 割譲された旧アヴァロン領は、ウィンダムではまとめて南アスベルと呼んでいる。闘争ではなく政治でもって獲得した土地だが、それでも悲願の地であることに変わりはない。ウィンダムにはない広々とした平地は、騎士として守りに不安を覚える半面、ハーピィとしては解放感も覚える。

 元より空は広いものだが、大地も広ければ、こうも気分が違うものかと、初めて南アスベルへ赴任した時は思ったものである。


 有事となれば頼りない平地の砦を頼って戦うことになるが、南アスベルに降りてきてより、ウィンダムは一度も戦闘を行っていない。

 魔王が懸念した十字軍の侵攻も、全く気配はなかった。快進撃を続ける魔王軍を前に、ネロの大遠征軍もあえなく敗れ去り、十字軍も他所へ攻め込むほどの余裕は無くなった……と、見られている。

 魔王は万一に備えてウィンダムをこの地に引き込んだが、結果としては魔王軍の強さによって、おいそれと南アスベルを突破してアヴァロンへ攻め込むことを難しくさせた。


「そんだけ強けりゃ、そのまんま自分のモノにしときゃあ良かったのに」

「あん時はウチを引き入れた方が確実だったんだろ。魔王も意外と慎重派なんじゃあねぇのか?」

「それはねぇな、最前線で暴れ回っては一騎討ちもやるような奴だぞ。ヴェーダの唯天とタイマン張って勝ったってのも、マジらしい」

「いいよなぁ、ウチもなんかそういう武勇伝の一つもできねーもんかね」

「止めとけ止めとけ、どうせ俺らはアスベルの守りあってこそだぞ。調子こいて平原攻めたご先祖様方がどうなったか、嫌でも聞かされただろう」

「実質タダでこんな平地が手に入ったんだから、素直に時の運を喜んでりゃいいんだよ」

「まぁ、そうかもなぁ」

「今はこっちより、山の方がきな臭いことになってんだろ」

「ああ、北のオルテンシアが動いて、もう麓の辺りまで平定したってな」

「流石、大国が本気になればこんなもんってか」

「だが俺達のアスベルは誰にも超えられねぇ」

「向こうも大山脈に阻まれて、諦めてくれりゃあいいけどな……」


 そんな風に、本日も青天異常ナシの平穏の中で、のんびり世情を語っていた時である。

 最初の兆候は、全速力でこちらへ戻って来る斥候の影を空に見たことだ。


「伝令! 十字軍と思わしき部隊が接近中! 規模はおよそ千!」


 南アスベルに陣取ってより、初めての敵影であった。

 しかし砦を預かる将軍に、焦りは無い。

 何故ならば、覚え聞く十字軍の兵力は十万を超えるほどの大軍。空中偵察によれば、千人ほどの部隊が単独で進むだけであり、遥か後方に万単位の本隊が控えている様子は全く無い、という情報を受けている。


 敵の規模からして、どう考えても本腰を入れた侵攻ではない。

 こちらを小勢と侮って、あるいは、単に出方を伺うための強攻偵察といったところだろうと、誰もが判断した。

 城攻めをするには三倍の兵力が、という兵法の常道に照らし合わせるまでもなく、敵が千人だけでは、まだこちらの方が数も多いのだ。焦って動く必要など、どこにもありはしなかった。


 そうして国境砦では、ちょっかいをかけに来たであろう十字軍を迎え撃つべく、粛々と空の戦士たちが配置についた。

 こちらがしっかりとした防衛体制をとっているのを見れば、小勢如きでは突く隙もないと見て、遠巻きに偵察だけして帰るだろう――――そんな予想とは裏腹に、十字の旗を掲げた軍勢は、堂々と砦の前に陣を敷き始めた。


 たった千人規模の部隊が、悲願の地を守り切らんと気合を入れて築き上げた砦を前に、さも自分達が大軍で完全包囲でも仕掛けているかのように、陣取ったのだ。


「なんだアイツらは……誘っているのか?」


 だとしても、周辺に大軍が潜めるほどの地形はない。伏兵などいたとしても、たかが知れる。

 こちらが打って出たところで、向こうも単なる野営地ではさしたる地の利も無い。ましてこちらは全員がハーピィであり、空を飛べる。

 頭上から火属性魔法を封じた樽でも落としてやれば、それだけで壊滅するだろう。


「さっさと行って、蹴散らしてきましょうか?」

「いいや、あんな小勢に付き合ってやる必要はないだろう」


 十字軍がハーピィとの戦いに慣れているとは思えない。ならば、少しでもこちらの手札を晒さず、ここは傍観に徹するのが最善――――と、将軍が判断を下した時である。


「将軍、二人だけがこちらに向かってきます」

「なんだ、アイツらは使者か――――」


 十字軍の陣より出てきた、二つの人影を視認したその瞬間、彼らが立っていた砦の上階が消し飛んだ。

 ドォン! と轟音が響いたのは、すでに破壊が過ぎ去った後。

 すなわち、音を置き去りにするほどの高速の攻撃が叩き込まれた……そう冷静に分析できる余裕が無いほど、砦は混乱に陥った。


 その破壊は始まりに過ぎない。

 今度はハーピィ達の目にも、しっかりと絶望が見えるように、幾つもの巨大な火球がゆっくりと砦に向かって降り注いできた。

 それは一体、何人の魔術師を集めれば行使できるのか、というほどの攻撃。だが、周囲には魔術師部隊の姿などどこにもありはしない。大規模な儀式を発動させたような兆候すら無かった。


 砦に迫る何十もの巨大火球は、文字通りに降って湧いた、ようにしか見えなかった。


「――――うぅーん、やっぱりマグス君の魔法は、派手でいいねぇ」

「はぁー、全周囲結界も無いとか、アイツら舐めてんの? 東の奴らより劣るとか、マジでただの蛮族じゃん」


 燃え盛る砦へ向かって、悠々と足を進める二つの人影は、第六使徒エドワルドと第十使徒マグスであった。

 司令部と思しき上階を撃ち抜き、火球を降り注がせたのは、『大魔導士グランドマスター』を自認するマグスである。


「まぁ、ここはまだアヴァロンでは無いからね。ほら、辺境を歩くとよくあるじゃないか、ゴブリンの巣穴とか。それと同じようなものだろう」

「どこにでも湧くからなぁ、魔族モンスターって奴らは――――よぉ!」


 マグスが高々と掲げた手には、バリバリと紫電が迸り、次の瞬間には万雷を束ねたような、煌々と輝く雷の巨槍と化した。

 それを軽く放るように腕を振れば、正しく雷光と化して炎上する砦へと飛翔し――――ズドォオオオオン!! とけたたましい雷鳴を轟かせ、固く閉ざされた正門をぶち抜いた。


「肩慣らしにもなんねぇ」

「参ったなぁ、これでは私の出番も無さそうだ……早くこの新天地でも、新しい家族を見つけたかったのだが」

「テメーの家族ごっこになんか付き合うか。この辺の邪魔くせぇクソバード蹴散らして、アヴァロンの道を開くんだよ」

「そうだね、ここにはハーピィしかいないようだし。手早く駆除を済ませるとしよう」


 かくして、南アスベルの地は新たな使徒二人による蹂躙が始まった。

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― 新着の感想 ―
 モブキャラのクロノの噂話が聞けるのは良いですね。  他国民がクロノをどう思っているかがわかりますから。  後、エドワルドはファミパンおじさんなのか?
東の国々はどうやってシンクレアに対抗してるんだろうか
全周囲結界欲しいなぁ
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