第1039話 血の杯を交わす
清水の月11日。
とうとうルーンバカンスも終わりを告げ、朝の内に俺達はパンデモニウムへ帰還することとなった。
今回の不死鳥騒ぎと、ファナコとの婚約。これによって我がエルロード帝国とルーンの結びつきは大きく強化され、無事にメラ霊山のオリジナルモノリスと転移が開通することと相成った。
なので帰りは非常に楽ちん。ホントに距離感バグりそう。
「みんな、忘れ物はないかー?」
「もう転移あるんですし、何かあってもすぐ来れるからいいじゃないですか」
と、身も蓋もないことを言っているフィオナは、これ見よがしにお土産の詰まった袋を両手で抱えている。完全に浮かれた観光客の姿である。
フィオナはルーンの新鮮な海の幸を随分と気に入ったようだし、可愛い妹もいて、さらには海底遺跡という新しい秘密基地まで手に入れた。転移で好きな時に来れることを素直に喜んでいるようだ。
「行ってらっしゃいませ、クロノ様」
オリジナルモノリスのあるメラ本殿へとやって来た俺達を、ファナコが見送ってくれる。
本来ならば、遠く離れた本国へ婚約者となるファナコを連れて帰るところだが、転移のお陰で自由な行き来ができるので、国に残っていても大した問題はない。むしろ、いきなり決まった婚約なので、ファナコもハナウ王も、嫁入り準備から関係各所への根回しなんかも必要で……まぁ、色々と大変なのだ。
それに加えて、不死鳥騒ぎのこともあるし、ルーンが落ち着くまではファナコは残ることとなった。第一王女としての最後の仕事だと、珍しくヤル気になっていた、とはソージロの言である。
「マスター、転移魔法が開通します」
サリエルの報告と共に、オリジナルモノリスの設置された大広間に、白い転移の光が俄かに広がる。
ここの転移は、フィオナが総合演習に参加する時に、すでに使っている。昨日は改めて転移機能の確認もサリエルが済ませたようだ。
俺は見ていないが、待ちきれないリリィがチラっとこっちを覗きに来ていたとか何とか。しばらく離れていたから、帰ったら思い切り可愛がってやらないと。
しかし、本当に名残惜しい。特に昨日一日は純粋に羽を伸ばせた充実した休日だったと言える。
夜の権利をかけた水泳大会はアレだったが……お昼のバーベキューは盛り上がった。調子に乗ったヒツギがプリムと一緒に危ない紐みたいな水着で給仕をしようとした時は、ちょっとした騒ぎになったけど。
プリムの紐水着は本当に危険だ。ポロリってレベルじゃねぇぞ。隣でヒツギがドヤ顔で立っていなければ、俺でも危ないところだった。
その後は……うーん、よく考えるとずっとドタバタしてたような気がする。でも楽しかったからオッケーだ。
夜はネルの勝利を讃えて、しっかりと一晩かけて自分なりに頑張ってみたのだが……朝になってもネルは真っ白になっていた。刺激が強すぎたようだ。
俺もみんなも、しっかりとリフレッシュできたと思う。そういうことにしよう。
「私も、すぐそちらへと行きますので」
「その時は、俺の方から迎えに行くよ」
ファナコと軽い口づけをして、俺は恥じらう彼女に見送られて、転移を通った。
光に包まれ数秒、次に目を開いた時には、もう見慣れたパンデモニウムの転移用の広間である。
そして、光の球体が弾みながら勢いよく俺へと飛び込んでくる。
「クロノ、おかえりー!」
「ただいま、リリィ」
幼女リリィを抱きしめて、しばしの再会を喜び合ったり、途中でフィオナがちょっかいをかけたりする。
そうして一通りリリィが満足すると、改めて帰還早々に魔王のお仕事が伝えられた。
「へぇ、客が来ているのか」
「うん、会ったらちょっと驚くと思うなー」
はて、そんな懐かしの人物など俺にいるだろうか、と記憶を振り返っている内に、さっさと段取りは整えられた。
俺は魔王らしく先に席へとつき、昨日には到着していたというその客とやらを待ち構えた。
「――――ネヴァーランド大公、ゼルドラス・ヴァン・ベルモントにございます」
「ルドラじゃねーか!」
現れたのは、吸血鬼でサムライで実は王子様だったという属性が盛られた男、ルドラであった。
初めて会った時は、盗賊の雇われ用心棒として敵対していたが、ガラハド戦争ではスパーダ軍として活躍し、そしてリリィが嫉妬の女王と化した時には、『ブレイドマスター』の一員として俺に手を貸してくれた恩人でもある。
リリィとの戦いの後は、フラっと姿を消して、消息も掴めず、流離いの旅にでも出たのかと思っていたが……
「なるほど、故郷に帰っていたんだな」
「ああ、最早、剣の修行などという道楽に現を抜かしている場合ではないと思ってな」
まずはルドラの近況報告から。リリィ戦後にどうしたのかと、俺は聞いた。
最初からこの客間は人払いがされており、中にいるのは護衛としてサリエルとセリスのコンビだけ。客をルドラと知って、リリィがすぐに友人同士で気兼ねなくお喋りができるよう、取り計らってくれていたのは明らかだ。
そういうワケで、一言目で魔王としての仮面を投げ捨てた俺は、気楽にルドラと話せたのだが……如何せん、会話の内容そのものは中々に重いモノとなってしまった。
「十字軍に備えたつもりが、よもやオルテンシアに対するものとなるとは。全く以て想定外であった」
「北の大国オルテンシアが大陸統一の野望とは……よりによって、こんな時に動き出すとはな」
十字軍の脅威をよく知ったルドラは、故郷ネヴァーランドへ帰ってより、防衛力の増強に務めたようだ。
幼い頃に出奔したルドラだったが、今のネヴァーランドで王位につくのは妹であり、話を聞き快く協力してくれたという。実に美しい兄妹の絆だな。
そうして、ルドラは妹の女王を支える王兄の大公の立場となった。ネヴァーランド国内は団結して、来るべき脅威に備え始めたが、いざ目の前に迫って来たのは十字の旗を掲げる人間の軍勢ではなく、古代兵器を操るエルフの軍団だったというワケだ。
「ほどなく、オルテンシアはパンドラ北部を完全に制圧するであろう」
「元から北の盟主だったから、占領もスムーズなのか」
「その上、圧倒的な軍事力を見せつけられれば、大人しく尻尾を振るより他に、生き残る術はないと誰もが悟るものだ」
「まさか戦人機を部隊単位で運用するとはな……」
そりゃあ、大陸統一の野心も出てしまうか、と納得できる超戦力だ。
なにせ『戦人機』はミアの生きた古代における、主力兵器である。機体が万全な状態ではなかったとしても、間違いなくその力は機甲巨兵『グリゴール』を上回るだろう。果たして、黒地竜一体でも、一機と対等に戦えるかどうか。
「どれだけの数がいるか、分かっているのか」
「少なくとも、5機編成の小隊が4つは確認されている」
うわっ、20機は確定で保有しているのか。この時点で黒地竜と同数が揃っている。
それにどう考えてもオルテンシアは、まだ本気出してない。軍事力を見せつけるだけで、素直に降伏してくれるような相手ばかりなのだ。戦人機4小隊はただの見せ札であり、まだ十分な予備戦力と、切り札を隠し持っているに違いない。
「道理でアイがあっさり退くワケだ」
「流石の使徒も戦人機に囲まれては堪らんだろう」
精々、大暴れして一個小隊くらい壊滅させといてくれよ。なに速攻で尻尾巻いて逃げ出してんだ。ホントに使えねぇな。
「このまま進軍したら、先にスパーダの十字軍を攻める可能性は」
「どう考えても、アヴァロンを先に狙うであろう」
だよなぁ……なにせオルテンシアは、すでに十字軍の最強個人戦力である使徒を余裕で撃退した、という実績がある。本気で大陸統一に乗り出すならば、スパーダに留まっている十字軍よりも、エルロード帝国に対抗するのに集中する。
そして北から遥々アスベル山脈を超えて中部へ進出したならば、まずは橋頭堡としてアヴァロンは絶対に欲しい立地となる。スパーダのダキア領くらいまではすぐ占領するだろうが、出来ればアヴァロン全土は早いうちに手に入れたいはず。
こっちが日和ってアヴァロンを見捨てれば良し。帝国侵略を断固阻止すると徹底抗戦の構えを、こちらが取って来ると想定して動いてくる。帝国との戦いにおいて最初の山場となるので、オルテンシアも気合を入れて攻めてくるだろう。
「なんとかアスベル山脈のラインで食い止められないかなぁ」
「一昔前ならいざ知らず。今は十字軍が北部侵略のために開通させた、随分と立派な道ができているからな。オルテンシアもさぞや中部進出で楽ができるだろう」
「マジで余計なことしかねぇなアイツら!!」
そのまま逆侵攻されて滅びろ、と思うが、矛先がまずこっちに飛んでくることは先に話し合った通りである。
ああ、本当に参るな。やっとネロ諸共に大遠征軍が片付いたというのに、また別の勢力に横やりを入れられるとは。
「帝国としても、戦人機部隊を擁するオルテンシアを相手にするのは、楽ではないと見える」
「ああ、こっちも切り札切らなきゃならんような相手だ」
「そこで、我らがネヴァーランドが力となろう――――オルテンシアと十字軍への脅威に対抗すべく、私は貴国と同盟を結びたく、参った次第である」
なるほどな、やはりそれが本題か。
というか、ここまで話しておいて、気づかない方が無理だろう。
「ありがとう。俺を頼ってくれて、嬉しいよ」
俺との友誼を頼り、今や大公閣下の身であるルドラが直々に使者として来た事。それは素直に嬉しく思っている。
無論、友として諸手を上げて受け入れたいところだが……
「けど、すまないが俺の一存で即決するワケには――――」
「――――構わないわよ。結びましょう、ネヴァーランドとの同盟を」
そこで、話は聞いていた、と言わんばかりにリリィが入場してくる。
出た、魔王の俺を差し置いて一存で即決できる奴!
「どうやら、すでに話はついているようだな」
「妖精の女王を相手に、隠し事などできぬさ。嘘偽りなく、本心を語っただけよ」
「北部に通じる国の助力を得られるのは、ありがたいわ。詳しいことは、転移を開通させて現地で調べましょう」
オルテンシアのことも、ネヴァーランドのことも、か。
今までネヴァーランドとは何の繋がりもなく、立地も北西部の森の奥。その国について調べようと思っても時間がかかる。
遠く離れた国について探りを入れて同盟締結を先送りするよりも、さっさと結んで転移で飛べるようにしてからの方が、何をするにも手っ取り早い。これで平時ならお互いの文化交流からゆっくり初めてもいいのだが、オルテンシアの魔の手はすでにネヴァーランドへとかかっている。時間はあまり無い。
というワケで、話はとんとん拍子でまとまった、というか昨日の内にリリィが整えてくれていたってことなんだが……
「一つ、折り入って頼みたいことがある――――また、血を分けてくれないだろうか」
やはり吸血鬼にとって、血は特別なモノである。
『ブレイドマスター』の時も、ルドラには俺の血を報酬にしたし。
今や俺は肩書だけは立派に魔王となったので、魔王の血、となればブランドイメージも爆上がりってなものだろう。飲んで良し、売って良し、とネヴァーランドではウケそうだな。いいお土産にしてくれ。
「我らは同胞と盟を結ぶ時には、血の杯を交わす。魔王陛下、御自らその血を杯に注いでくれたとあれば、これ以上ない友好の儀となろう」
「なるほどな、そういうことなら奮発しよう」
俺は左腕をカンナで薄く切り裂く。
自傷するなら、信頼と実績の相棒を使うに決まってる。切れ味も最高だし。『天獄悪食』、勿論お前はダメだ。血以外もガブガブするからな。
そうして、浅く裂いた傷から鮮血が滴り、ヒツギが影の中で選んどいてくれた器で受け……おい、この皿、俺が野営の時に使ってるヤツじゃねーか!
「ちょっと、凄い血がっ!? お皿なんて気にしてる場合じゃないでしょ!!」
「こんなの全然大丈夫だって。『海の魔王』あるし」
いきなり血糊ブッシャーなった俺に血相変えて、『妖精の霊薬』を構えるリリィ。
一昔前なら、この量の出血はすぐ回復せねば、と判断するほどだが、今となってはカスリ傷にもならない。
『海の魔王』のいいところは、ただ傷口を塞ぐだけでなく、すぐに自分の血液も補えることだ。
治癒魔法が発達して、重症も一発で治せることもあるが、意外と血液の補充というのは難しかったりする。だから外傷こそポーションや回復ですぐに塞いでも、失血量が多すぎて死亡、なんて事例は回復手段も揃ってくる中級冒険者くらいから増えてくるものだ。
俺は治癒魔法は専門外だが、それでも一般的に普及している治癒魔法では、血液の代替となる液体で補う効果、あらかじめ準備しておいた血液を輸血する効果、というのは知っている。これも中級冒険者くらいになると、覚えるような内容だ。
血液のように、魔法だけで補いきれないモノもあるからこそ、治癒魔法は即効性のある『回復』系と、自然治癒を高める『治癒』系とで、両立しているワケだ。
「だからと言って、クロノが傷付く姿は見たくないわ」
「あれほどの殺し合いを演じておきながら、か」
「今度こそ灰も残さず爆散させてあげましょうか」
「おっと、すまない、失言だったな」
まぁ、ルドラはリリィ戦後に俺達がどういう関係に戻ったか、その目で見て確かめたワケではないからな。
もしかすれば、魔王を名乗っちゃいるが、実はリリィに洗脳されて担がれているだけ、なんて心配も少しは抱いていたかも。
「とりあえず、こんなもんでいいか?」
「これほどの大盤振る舞い、感謝の言葉もない」
ちょっとリリィには睨まれたが、これでルドラのネヴァーランドとは同盟が成立する事と相成った。
◇◇◇
「……んっ」
ガタッ、と頬杖が崩れて目が覚める。
夕暮れの教室。まるで放課後まで寝過ごしてしまったかのような錯覚を覚えるが――――どうやら、俺は『黒の魔王』の領域内にいるようだった。
「勝手に発動させんのやめてくれんか」
「ごめんね、こっちの方が夢に介入するより早いから」
悪びれもせずにそう言ってのけるのは、偉大なる我が神様、古の魔王ミア・エルロードその人である。
今回はこの教室に合わせているのか、俺と同じく高校の学ランを着ている。俺の席の前の机に座り込んで、俺を見下ろしてくる顔は少女のようにあどけない。
可愛い顔して無茶ぶりしてくるからな。正直、現れる度に身構えてしまう。
「それで、今回はどういう用件だ」
「まずは、心から謝罪をさせてもらうよ――――ウチの嫁が、ご迷惑をおかけして、申し訳ありません!」
と、机から降りたミアは、折り目正しく90度直角のお辞儀の謝罪をくれた。
一体何のことだ、と思うが、すぐに心当たりが浮かんだ。
「『北天星イオスヒルト』のことか」
「ううぅー、まさかイオスの加護がこんなことになってるなんて、僕も知らなかったんだよぉ……」
「その言い草はもしかして……オルテンシアが戦人機部隊抱えて大陸統一に乗り出したのは、イオスヒルトの加護が神のルール違反するくらい強いってことなのか」
魔王ミア含む『黒き神々』は、人類全てを救済して幸福にしてくれる、全知全能の存在ではない。元々はただの人やモンスターであり、英雄や災害となるほど大きな力を発揮したことで、死後に神の座についた、という者達をまとめて『黒き神々』と称されているので、彼らに統一した意志や使命がないのは明らかだ。
ただし神の理というべき、神様世界のルールはある。そのルールというのが、現世への過度な干渉だと思われる。あまりにも強すぎる神の力を授けると、現世の理が乱れる、というような理屈だろう。
だからこそ、最強の能力者である使徒12人をポンと出してくる白き神は神様世界でトップクラスの違反者であり、ミア達は神になっても十字教と敵対し続けている。
だがしかし、今回の神様ルール違反者は、白き神ではなく、魔王の七人目の花嫁、イオスヒルトであったようだ。
「イオスのことだから、全然そんなつもりは無かったんだろうけど……結果的に古代の魔法技術が、余計に暴かれてしまったというか」
「ウッカリ口を滑らせた、みたいな?」
「本人は滑らせた自覚もないと思うんだよね」
なんだそれ、ド天然なのか。神様クラスの天然キャラなら、フィオナ越えもありうるか。
しかし、そもそも『北天星イオスヒルト』は謎に包まれた女神である。ミアの魔王伝説に登場こそするものの、目立った活躍がないからだ。性格や能力なんかも、随分と曖昧で正しい情報が分からない。
間違いないとされている部分は、ミアが魔王として活躍していたある時期に、北部で出会った。それから一定期間、そこで共に過ごした。そして大陸統一を果たした後に、イオスヒルトを最後の花嫁として迎えた。
以上である。具体的なエピソードは何一つ見えてこないと来たもんだ。
「イオスヒルトは、どういう女神なんだ。ルール違反しない程度にでも、教えてくれないか」
「そうだね、現代でも伝わっている話を補足すると――――」
出会いのキッカケとなった当時、ミアは単騎で出撃していた。
すでにフリーシアを筆頭に、そこそこ仲間も揃っていたにも関わらず。
「どうしても僕が動くしかない状況でね。北の暴れ竜を討伐することになったんだけど」
騙して悪いが、というヤツだった。
実際に暴れ竜はいたという。すぐ倒さなければ危険なドラゴンであり、無事に討伐を果たしたが、その直後に、消耗したミアに敵が襲い掛かったという流れ。
暴れ竜の出現からして、全てミアを嵌めるための罠だっということだ。
「ドラゴン討伐の直後に戦人機大隊と連戦したら、流石に負けるよね」
「そこでイオスヒルトに助けられたのか」
「墜落した後にね」
当時、そこは呪われた森、と呼ばれるような場所だったらしい。
その森に降りれば戦人機に乗っていても喰われるような危険地帯であったようで、その森の上空で戦っていたワケだ。
要するに敵は、ミアが森に落ちたのを見て、「ふん、この高さでは助かるまい」という生存フラグを立ててしまったのだろう。
実際、呪いの森のど真ん中に大破した戦人機で不時着したところで、生きて出られるはずがないのだから。
「その呪いの森にイオスヒルトが住んでいたのか」
「封印されていたんだよ。森の呪いは、イオスを封じるためだけのモノだった」
「イオスヒルトって、カーラマーラみたいに神代の邪神だったりする……?」
「いや、そういうのとはまた違うんだけど……ともかく、そこで僕は彼女に救われたのは、紛れも無い事実だよ」
「で、惚れられたと」
「それも事実だね」
若い男女が隔絶された森の中で二人きり。何も起きないはずはなく、といったところか。
「それじゃあ、最後に迎えに行ったというのは、封印を解くためか」
「うん、あの時の僕じゃあ、とても無理だったからね。大陸統一して、最強の魔王になった頃じゃないと、イオスはとても迎えられなかったね」
「ラスボス戦後の隠しボスかよ」
「だからイオスヒルトには、その気が無くても、強大な力を加護としてもたらしてしまうんだ」
「それがオルテンシアの女王、エカテリーナということか」
イオスヒルトには白き神のような、野望やら陰謀は全く持ち合わせていない。
だがしかし、エカテリーナはイオスヒルトの加護によって、強い力と古代の魔法知識を得た。
その結果が自ら戦人機部隊を率いて、大陸統一に乗り出す野心に繋がったと。
「リリィとフィオナもかなり古代魔法操ってるけど、それでも違反状態じゃないんだよな?」
「彼女達は自分で解読してるから。現世の人が自ら解き明かしたことまで、神は制限しないよ」
なるほど、それじゃあ天才によって古代魔法が次々と解明されてゆくのは問題ないと。だが古代を生きた神によって答えを教わるのはNGというワケだ。
ならばエカテリーナは、イオスヒルトから教わったというより、見せられた情報の中から自分で答えを探し出した、という感じだろう。
白き神から万能な力をポンと与えて贔屓されている使徒とは違い、エカテリーナは得た加護を最大限利用し尽くす頭脳と才能がある、と見た方が良さそうだ。オルテンシアで長きに渡って女王として君臨しているのは、伊達ではないだろう。
「そういうワケだから、僕も少しだけ君に教えてあげられる」
「先にルール違反したのは向こうだからか」
「そういうこと。さぁ、外に出ようか」
ミアがさっと小さな手をかざせば、カーテンが開かれ、窓の向こうに広がる黒い大地と赤い空の景色が映る。
ただ天と地だけが続くはずの空間に、巨大な人影が立っていた。
鮮やかな青と白のカラーリングをした鎧兜は、勿論、巨人の騎士などではない。古代の主力兵器、戦人機。あれは確か、シャングリラに搭載されていたという量産機『スプリガン』。
「まずは、戦人機戦のいろは、を教えてあげよう」
ミアは得意げな顔で、勢いよく窓を開いて外へと飛び出して行った。