第1034話 ネヴァーランド
少々、時は遡り、大陸歴1597年。
リリィが嫉妬の女王と化し、魔王の最後の試練として立ちはだかった……その後。紅炎の月へと変わった頃のこと。
パンドラ大陸北西部にある小国ネヴァーランド。
険しい山岳地帯と針葉樹林の深い森を抜けてようやく辿り着けるこの国は、地理的な要因も加わって閉鎖的である。
「――――まるで、四十年前に戻ったかのようだ」
時が止まっているかのように変わらぬ街の様子に、およそ半世紀ぶりに故郷へと戻って来たルドラは、思わずそんな呟きを漏らしてしまう。
クロノの結成した臨時パーティ『ブレイドマスター』の一員として、『神滅領域アヴァロン』へと潜りリリィとの戦いを終えた後、ルドラは真っ直ぐにネヴァーランドへと帰ることを選んだ。
理由は色々とある。
まだ少年だったスパーダ王レオンハルトに剣で敗れ去ってから、勢い任せに飛び出したのが四十年前のこと。それから意地で剣の道を歩み続けて来たが、リリィとの戦いで、自分は捨て去った吸血鬼としての力を再び手にしてしまった。
それでも負けた。だが悔いはない。欲望の赴くままに鮮血を貪った、全盛期の少年時代さえも超えるほどの力を尽くしても負けたのだ。
リリィはそれほどの相手であった。自分が真に力を尽くしても尚、及ばぬ存在を直に感じたことで、ルドラも一つの決心を固めることが出来たのだ。
そのためにルドラは故国ネヴァーランドへと帰ってきた。
流離いの剣士『朱刀のルドラ』ではなく、ネヴァーランドの第一王子、ゼルドラス・ヴァン・ベルモントとして。
「お帰りなさいませ、ゼルドラス殿下」
首都プラドの玄関口となる正門を通って広場へ足を踏み入れた矢先に、出迎えの者が現れた。
帰還の一報など入れてはいないが、かといって忍んでいるワケでもない。
再びかつてのような紅顔の美貌を取り戻しており、その輝くような美少年ぶりは道行く人々の目を引く。だが、この顔が国中に知れ渡っていたのも四十年以上も昔の話。今頃になって見かけたとて、誰も出奔した王子の顔など覚えてはいない……と考えたが、どうやら甘い見通しだったと思い知らされた。
「ああ、お前は確か……そうだ、私が最後に眷属とした者だったな」
「覚えていただき、光栄の極みにございます」
深々と頭を垂れる、カッチリとした黒い官吏衣装を纏った女は、やや朧げな記憶にある綺麗な顔と全く変わりはない。
人間なら四十年も過ぎれば、妙齢の美女であっても老いの前には屈する。しかし当時の若さと美しさを保っている理由は勿論、彼女がすでに人間ではないからだ。
高位の吸血鬼が自らの血を分け与えた眷属、すなわちグール。
「すまなかった。眷属としておきながら、私はお前に主として何一つ与えることなく、去ってしまった」
あの頃は自分に相応しいと思った美男美女を奴隷としてコレクションするのを楽しんでいたものだが、今となってどれほど愚かで傲慢な行いだったかと、深く省みてしまう。
ただの少年が英雄に憧れてカッコつけたり、悪ぶって非行に走るような、微笑ましい思春期の行い、などとは到底言えない。後先考えずに眷属とした者達は、皆が元々は人間だった。
限りある生を謳歌するはずが、下らない自分の気まぐれで奪い、アンデッドへと変えてしまった。失われた人間としての自由と時間は、もう二度と戻ることは無い尊いものである。
「とんでもございません。私はゼルドラス殿下の眷属となり、確かにこの若さと美しさを、今も一切の変わりなく保っております。ただの人間には身に余る幸運と栄誉にございます」
「そうだろうな。眷属とは、そうとしか思えぬようになるが故、みだりに増やすべきものではなかったのだ」
一片の悔いなどなく、感謝に溢れた彼女の解答に、ルドラはそう虚しく呟いた。
眷属とは肉体のみならず、心の在り方も変化してしまう。主への忠誠心が本能レベルに植えつけられ、人間としての生を奪われたことへの怒りや憎しみを抱くことすら出来なくなってしまうのだ。
眷属、などと言ったところで、死体を自分の思い通りに操る屍霊術と、やっていることに大差はない。
「その恰好を見るに、今は王宮務めか」
「はい。ゼルドラス殿下によって選りすぐりの眷属達は皆、王宮にてお役目を賜りましてございます。格別のお引き立てを賜り、我ら一同、殿下と王家への大恩に報いるべく、日々努めております」
文字通りの公僕。だが自我すら失い廃人のようになって長い時を過ごすよりは、健全な在り方であろう。
自分が一顧だにしなかった者達にも配慮して取り立てられているのを知って、ルドラはやはり王の器は自らに無いと思った。
「ならば、お前の役目は」
「ゼルドラス殿下、どうぞ王宮へ。ルドミラ女王陛下がお待ちしております」
思った通りの言葉と名前に、ルドラは黙って頷き、眷属の後に大人しくついて行くことにした。
行く先は、市街地の向こう側にある高台に聳え立つネヴァーランド王城、通称『不夜城』。見上げれば、暗雲立ち込める暗い曇天を衝くかのように高く聳える時計塔が、昔と変わらず威圧的に街を睥睨しているように見えるのだった。
◇◇◇
ガラガラガラ――――と、重い歯車の駆動音と鎖が巻き上がる軋みを聞きながら、ルドラは不夜城時計塔の最上階に設けられた、玉座の間へと上がって行く。
この時計塔は元よりこの地にあった古代遺跡を利用しており、建国当時の魔法技術では不可能なほどの高層建築である。瞬時に上階へと移動できる転移魔法陣の使用は王族にのみ許されており、基本的に玉座の間への出入りは、現代の魔導機械式エレベーターが利用される。
故に、思えばこのエレベーターに乗るのも初めてだったな、と感慨深く思いながら、眷属の女と二人、ゆっくりと最上階へと上がり行く時間を静かに過ごした。
「それでは、どうぞ先へお進みください」
「案内、ご苦労だった」
ルドラは労いの言葉をかけてから、近衛によって開かれた玉座の間の扉を潜り抜けた。
その先に広がる光景には、やはり昔と同じく変わることは無い。
それなりに大陸を放浪し、国によっては流行を取り入れて玉座の間の内装が数年おきに変化していくところもあると知ったが、やはりネヴァーランドは時間の流れが凍てついたように変わりがない。
元の古代遺跡をそのまま流用した純白の神殿作りはそのままに、ベルモント王族を象徴する真紅の装飾が随所を彩る。
君主の座する玉座は白銀の輝き。吸血鬼にとって弱点となりうる聖銀で作られた玉座は、我らが王は弱点を克服した無欠の存在であるという意味が込められている。
事実として、ネヴァーランド開国の祖である初代は、かつてこの地を支配した人間の国を倒す際に、ミスリルで武装した対吸血鬼の聖騎士団を殲滅した。このミスリルの玉座は、彼らの武器や鎧兜を潰して材料としたものだ。
かつてのルドラは、その国に弾圧された吸血鬼を初代が率いて革命的にネヴァーランドを興した、という逸話など、都合のいい作り話に過ぎないと思っていたが……今になって考えると、初代に滅ぼされた国は、隠れ十字教徒の勢力だったのだと確信できた。
聖なる銀の弱点を乗り越え、自由を手にした象徴たるミスリルの玉座、その背後には黒々と光沢を放つオリジナルモノリスが突き立っているのだから。
これを大事に抱え込んでる人間の国など、その価値を理解しているからに他ならない。
そんなことも、何も変わらぬ故郷にいたままでは、気づきもせずに過ごしていたのだろうと思いながら、この場において唯一の変化である、玉座の主へと視線を向けた。
かつての王は、父親であった。
しかし、如何にも吸血鬼らしい気取った紳士然とした風貌である父の姿はどこにもない。その代わりにあるのは、白い薄衣を纏った少女だけ。
父親譲りの鈍色の髪は、重い色合いに反してフワリと軽く巻き上げられ、愛らしい少女の美貌を飾り立てる。青白い素肌が透けて見えそうなほどの薄衣を一枚羽織っただけの恰好は、幼い風貌でありながらも妖しい色香を放っていた。
由緒正しい玉座の上で、どこか気だるげに腰を下ろしている彼女こそ、今代のネヴァーランドの君主。
女王、ルドミラ・ヴァン・ベルモントである。
「女王陛下、本日もご機嫌麗しゅう――――」
「今更、よくものこのこと戻ってこれたものだな」
跪いたルドラの頭に、カツンと銀の杯が当たった。
視線は上げずに床を見つめたままだが、ルドミラ女王が不機嫌を露わにした表情を浮かべていると、ありありと想像できた。
「陛下、どうかお気をお鎮めになってください」
「仮にもゼルドラス殿下は――――」
「黙れ。各々方も、勝手に国を出た愚か者に、文句の一つや二つあるであろうが」
玉座の間には、大臣級の面々を顔を揃えている。どの顔にも見覚えがあり、かつてのルドラには次代の若君は私がお支え致します、と胡麻をすっていたような連中だ。
表向きには、杯を投げつけるという短絡的な怒りを露わにした女王を諫めるようなことこそ言っているが、内心ではルドラに良い思いは抱いていないだろう。
すでに数十年に渡って、ルドミラ女王の治世が続いている。そしてそれが何の問題もなく安定しているということは、不変を貫く首都の静かな様子を見るだけで分かることだ。
かつての王位継承権第一位たるルドラが今更戻って、何になる。面倒事、厄介事が起きるリスクしか考えられないだろう。彼らが帰還したルドラを快く迎え入れる気持ちになどなれないのは、当然のことである。
「だが、ここにいる誰よりも、他ならぬ余が彼奴に言いたいことが山ほどあるのだ」
「ええ、仰る通りで……」
「陛下のご心情、察するに余りありますので」
「そうであろう。一度、口を開けばそなたらに聞かせるに堪えぬ言葉がでるやもしれぬ――――しばし、二人にしてもらおうか」
女王の言葉に、大臣達の間に躊躇する雰囲気こそ漂うが……ここまで気を昂らせている彼女に、真っ向から諫言できる者はいなかった。
これで相手がどこの誰とも知らぬ者であれば、罰を省みず「なりませぬ」と強く言っただろうが、ルドラは今でもネヴァーランドの王子である。ただ少しばかり長く国を離れて旅に出ただけであって、廃嫡するような問題など何もなかった、という扱いなのだ。
女王と第一王子なら、二人きりとなったとて何ら問題ない。身内同士で話し合いたいと言われれば、臣下に止められる謂れは無いのだ。
「御意に」
かくして、彼らは足早に玉座の間を去って行った。
後に残ったのは、この場には存在しないモノとして扱われる、近衛の中でも特に古い忠臣のみ。
そうして、余人の目がなくなると、女王は玉座からゆっくりと立ち上がり、血色の眼をギラリと輝かせ、
「お兄ぃいいい! おかえりぃいいいいいいいいいいいいいいい!!」
「ああ、ただいま、ルドミラ」
突進系武技の如き勢いで突っ込んできた女王ルドミラを、ルドラは衝撃と共に真正面から受け止め、その腕で抱きしめた。
「すまなかったな、ルドミラ。寂しい思いをさせてしまったようだ」
「そうだよぉ! お兄が急にいなくなったからぁ、私が王様になっちゃったんだからぁ!!」
「本当にすまない。私が愚かだった」
「うぅん、いいの……お兄が帰って来てくれたからぁ……」
そこには、女王と王子ではなく、長い別離を経ての再会を純粋に喜び合う、兄妹の姿があった。
そう、ルドミラはルドラの実の妹。
レオンハルトに敗れた失意によって、突発的に国を出たことで……結果的に、王位を妹のルドミラに継がせるしかなくなってしまったのだ。
まだまだ小さく幼い、吸血鬼としては幼児同然の扱いであるルドミラに。
あれから四十年の月日が経っているとはいえ、純血種にとっては成熟しきるにはまだ足りない時間である。
ルドラの感覚を人間に置き換えれば、前は幼稚園児だった妹が、久しぶりに帰った今になってはもう小学校を卒業しようか、といったところだろう。
幼い頃に比べれば、ずっと大きく成長したものの、まだまだ未熟な可愛い妹を、ルドラは慈しむように抱きしめた。
「父上と母上は」
「多分、目が覚めるのは十年後くらいかなー」
王位を譲った後は、静かに隠居し滅多なことでは口出しなどしないのがベルモント王家の慣習である。生き永らえようと思えば千年にも届かんばかりの寿命を誇るが、あまり長く表舞台に立ち続けるのを良しとしなかった、初代の方針を今も守り続けていた。
父母は元々、ルドラに王位を譲れば早々に隠居する予定であった。しかし突如として出奔したせいで、その役目は妹のルドミラに押し付けられ、幼くとも女王としてやっていけるよう、少なくとも十年ほどは父も王位を延長して教育したことだろう。
その急場しのぎの教育も何とか功を奏し、ルドミラの安定した治世となったことで、両親は予定通りに隠居。長いインターバルを持つ深い眠りについている。
両親との再会は十年後になるだろうと知らされ、ルドラは存外に早く顔が見れるな、と思いそれ以上の詳細を聞くのは後回しにした。
「ねぇ、お兄はまたすぐ旅に出ちゃうの?」
「いいや、旅はもう十分したよ。とても、良い旅だった……」
「それじゃあ、これからはずっとネヴァーランドにいてくれるんだっ!」
「ああ、私はこれから、国のために力を尽くそうと思っている」
「じゃあ今日からお兄が王様だ、やったー!」
「私に王たる資格はないさ。ルドミラは立派に女王を務めているのだから、このままの方が良い」
「ええぇー、でもぉ、お兄の方が強いし、頭良いし、絶対私よりいいじゃん」
「そんなことはない、今はルドミラの方が上手くやれるさ。だから私は、女王を頑張るお前を支えよう――――愛する家族と、この国を守るために」
今すぐ王位を譲ると駄々をこねる妹に、兄は優しく諭すようにそう言い聞かせた。
ルドミラは十分、上手く女王としての役目を果たしている。自分の力などなくとも、このまま成長を続け、彼女は名君と讃えられるようになるに違いないと思えるほど。
けれど、それは変わらぬネヴァーランドがあればこそ。万が一、静謐なる平穏を破る脅威など現れようものならば、いまだ幼き女王には耐え難き苦難となって立ちはだかるだろう。
だからルドラは、それを何とかするために戻って来たのだ。
◇◇◇
「ルドミラ、すぐにでもパンドラ大陸は荒れるだろう。我々は、それに備えなければならない」
ネヴァーランドへ戻って来た時、兄ゼルドラスはそう言った。
あの時は、それがどういう意味かよく分かっていなかったが……時は流れて大陸歴1599年。氷晶の月を迎えた頃となれば、ルドミラは兄の言葉の意味をこれ以上ないほど実感することとなっていた。
「うぅー、ううぅ……お兄ぃ、どうしよぉ……」
つい先ほどまで、冷血な吸血鬼の女王を演じていたルドミラだったが、今は私室にして兄貴に速攻で泣きついていた。
「ついにオルテンシアの使者が来たか」
ハイエルフの女王が治めるパンドラ北の大国、オルテンシア。
その国は長らく、ネヴァーランドと同様に静かな平和を保ち続けてきた。暗黒時代も初期の頃には定められた国境線をきっちりと守り、その境を侵すことも、侵されることも許さなかった。
そんなオルテンシアが君臨するお陰で、大陸北方の情勢は安定していたと言えよう。中小国家の入れ替わりこそ多少あるが、複数の国々を巻き込んだ大戦にまで発展することはない。そうなる前に、オルテンシアが仲介、あるいは威嚇することで、火種は燃え上がる前に消されてきたのだ。
しかし、その平穏を破ったのは、十字軍である。
第八使徒アイ、かつてのスパーダ第一王子アイゼンハルトの体を乗っ取り、大軍を率いて大陸北方へ乗り込んできたのだ。
理不尽な使徒の力と、圧倒的な数と先進的な装備を固めた十字軍は破竹の勢いで北の大地を駆け抜けていった。そしてついに、長らく不可侵とされていたオルテンシア国境を十字軍が侵し――――見事に逆襲を喰らって蹴散らされた。
まず第八使徒アイが逃げ出し、真っ直ぐにスパーダへと帰ったという。
普通の将軍なら、軍を捨てて逃げ帰ったところで、その責を問われて首を刎ねられるだけだが、使徒は人に遣える者ではなく、神に仕える聖なる存在。彼らを裁ける人間は、十字軍には誰もいない。総司令官アルスとて、話し合いで何とか言うことを聞かせるだけで精一杯なのだ。
ともかく、最も頼れる最強の個人戦力が早々に離脱したことで、北方遠征の十字軍の士気は大きく挫けた。そこへ使徒さえ退ける力を誇る、強大なオルテンシア軍が襲い掛かり……散々に蹂躙された結果、アイの後を追うようにスパーダへ撤退していった、という情報が入ったのは、氷晶の月も半ばの頃。
結局、ルドラが危惧していた十字軍は、オルテンシアによって難なく壊滅させられただけに終わった。そして大陸中央から南へかけて大荒れとなる元凶となった大遠征軍も、パルティアのレーベリア平原にて全滅。
自分達、吸血鬼を敵視する最も危険な勢力は大きく減じたことで情勢は安定を迎える……かに思われた矢先のことである。
「これよりオルテンシアは、エカテリーナ女王陛下の名の下に、大陸全土を治めんとす」
そんな宣告が、北方の各国へと通達された。
十字軍を国境線から押し返し、そのまま追撃を始めたように見えたオルテンシアは、何とそのまま大陸征服の遠征軍と化したのだった。
ただでさえ十字軍に荒らされた北方の国々は、これまで沈黙を保ってきたオルテンシアの突然の宣告に、困惑しながらも従わざるを得なかった。続々と傘下に治まり、本気になったオルテンシアに反抗するだけ無駄だと分かり切っているが故に、北を平定するのは正しく一瞬のことである。
そうして十字軍の侵攻ルートの逆を辿るように、オルテンシアは南下を開始。使徒を擁する十字軍さえ容易く退けて見せた圧倒的な軍事力をもって、次々と進路上の国を平らげていく。
その最先鋒はついに大陸中央部を隔てるアスベル山脈にまで届こうとしていた。
そしてこの時期になると、ついに大陸北西の奥に位置するネヴァーランドにまで、オルテンシアの使者がやって来たのであった。
「ねぇお兄ぃ、オルテンシアには勝てないよぉ……」
「ふむ、条件は」
「フツーに属国扱いぃ」
割りに合わない条件だ。そもそも、一国の君主が国を明け渡すに相応しい条件など、戦争で完膚なきまで大敗し全面降伏するより他にはない。
それでも最も初期に下ったオルテンシア周辺国は良いだろう。元より良好な関係を築いていたし、そう無碍には扱われまい。
だがネヴァーランドとオルテンシアには、ほとんど関係性は無い。多少の交易がある程度であり、同盟や条約を結んだことは一度も無い。数ある遠い国の一つに過ぎなかった。
そのオルテンシアが今、牙を剥いたのだ。多少、地理的に離れた立地にある程度では、無関係ではいられない。
「どうやらオルテンシアは、本気でパンドラ大陸統一を目指しているようだ」
魔王に憧れ、これまで名乗りを上げた数々の無謀な挑戦者達とは、わけが違う。それだけの戦力を揃えている。
なにせオルテンシアは、魔王ミアの時代の主力兵器たる『戦人機』を部隊単位で運用しているのだ。そこらの騎士団、通常兵力では全く相手にならない。古代の超兵器である。
戦人機部隊の力をもってすれば、確かに大陸統一とて夢では無いが……だからと言って、一度も刃を交えもせずに、誇り高き吸血鬼の国は下りはしない。
「ルドミラ、私に一つだけ、オルテンシアに対抗する策がある」
「おおっ、さっすがお兄ぃ!! なになに!?」
「エルロード帝国と同盟を結ぶ」
魔王クロノとは知り合いなのだ。
そう言い残して、ルドラは帝国へと向かった。
2025年7月11日
第47章はこれで完結です。
最近、ランキング入りの通知機能が追加されたことに気づきました。
しばらくの間、ランキングを気にすることは無かったのですが・・・いざ通知で、ジャンル別の日刊や週間に入ったことを知ると、こんなに長くやっている作品を今になっても読んでくれる人が多いのか、と改めて実感させられました。
やはり作品を書き続けるには、読者の存在が一番モチベーションになります。
私の作品を読んでくれる方、さらに感想を書き込んでくれる方、本当にありがとうございます!
それでは、次章もお楽しみに。