第1027話 メラの試練(2)
「あ、ああぁ……」
無理だ、抑えきれない。
御子フィアラはそう確信してしまった。
メラ霊山の山頂に築かれた、メラ本殿。地下にオリジナルモノリスがある古代遺跡を内包した神殿だ。
そしてここには、巨大な火口へと迫り出す舞台のように、最も古く、そして最も神聖な祭壇が築かれている。
万端の用意を整えた上に、太陽神殿の大神官総出で挑む鎮護の儀式も虚しく、今や荒ぶる不死鳥の魔力が山に入る者達を焼き尽くさんばかりの勢いで迸っていた。
「み、御子様……これ以上は、もう……」
「分かっています」
随分前から、火口の底にはボコボコと溶岩が湧き出ており、その煮えたぎる水位は徐々に上がって行き、今にも溢れ出そうなほどにまで迫っていた。
そしてつい今しがた、大地を揺るがす地響きと共に、山頂を真っ赤な不死鳥の魔力が煌々と溢れ出してしまった。
すでにこの火口の奥底で、不死鳥が目覚めてしまったのだ。
爆ぜる黒い油をたっぷり抱えた海魔を贄として、メラ霊山に繋がる龍穴が刺激され、永き微睡に沈む不死鳥を叩き起こした。無論、その寝覚めが良いはずもない。
根源的な恐怖を覚える巨大にして偉大な存在が、自分の足元で胎動しているのをどうしようもなく感じ取ってしまう。
フィアラや大神官だけではない、本殿の防備についた精鋭騎士達でさえ、あまりにおぞましい灼熱の気配に、生きた心地がしなかった。
「最早、これまで。私達の力では、もうこれ以上、抑えきることはできません……だから皆、今すぐ逃げてください」
「ならば御子様からお逃げください」
「死ぬのは歳の順と決まっております」
「ええ、贄となって焼き尽くされるのは、我ら老いぼれだけで十分でございます」
噴火と不死鳥の復活が止められないことは明らか。
出来ることはもう、ほんの僅かでも被害を抑えられるよう、この場で生贄と化して自身の力を全て捧げる最終手段のみ。
そしてそれを実行することに、大神官達は誰一人として躊躇はない。
彼らも悔いているのだ。十年前、御子ミナエリスと伴侶たるティオールの犠牲によってのみ、噴火を食い止めたことを。
本当は、犠牲になるべきは自分達であったと。止める間もなく、火口へその身を投げた二人の姿は、悪夢として今も瞼に焼き付いて離れない。
あの時、自分達が先に犠牲になっていれば。そうすれば、この小さな御子から両親が奪われることなく済んだ。
幼いフィアラは、本当の孫のように世話し、育ててきた。けれど、本当はその役目を担うのは両親のはずだったと、愛らしい笑顔を見る度に心が痛む。
だから、今度こそ間違わない。
何があっても、この子だけはと。
「騎士団長殿、縛ってでも御子様をお連れください」
「なりません! 私が、御子の私が逃げ出せば、太陽神殿の権威は失墜する! 信仰が失われてしまうのですよ!」
「ええ、事ここに至ってしまえば、我らへの非難は避けられませぬ」
「それでも、我らは御子様に生きていて欲しいのです」
「御子の責を負わせたとて、やっと成人したような子を犠牲にして、何が大神官でしょうか」
「どうか、ご安心召されよ。必ずやルーンの滅亡だけは食い止めて見せまする」
大神官達の心遣いが、今ばかりは呪いのようにフィアラを苛んだ。
何としてでもここで自ら犠牲にならなければ、他の誰でもない、自分で自分を許せない。
両親を失ったことは、どうしようもない悲劇として心に深く刻み込まれている。あまりにも辛く、苦しく、寂しさで胸が張り裂けそうだった。
だから御子の職責を、自分にとっての救いにした。
御子の使命は何より重い。だから両親が命懸けでルーンを救ったことは悲劇ではなく、誇るべき英雄的行動だと。そう肯定できなければ、耐えられなかった。
苦しみから逃れるように、厳しい御子の修行に打ち込んだ。自分も偉大な両親のようにと、表向きにはそう公言しつつも、心の片隅でこんなことはただの逃避行動に過ぎないという自覚もあった。
けれど、自分ではどうしようもない。そうやって生きてきたし、それしかやり方を知らない。
「私が贄となれば、ルーンの半分は守り切れるのです!」
この身に感じる不死鳥の力と、自身の全てを費やすことで抑えられる被害規模は、おおよそ予測がたっている。
御子である自分と大神官全員がその身を捧げれば、島の半分は守れるだろう。だが御子である自分が抜ければ、確実に被害範囲は増える。
自分一人の命を惜しんだせいで、何百、何千、下手すれば万に届く人々が死ぬ。自分が救えたはずの、大勢の人々を死なせてしまう。
両親を失っても、あれほど苦しかったのだ。
とても自分には背負え切れない。これ以上、数多の人々の命まで背負い込むことなど。
ここで生き残ってしまったら、自分の心はきっと耐えきれない。
何故なら自分は、真に信仰厚き御子などではなく、ただ自分の心を楽にしたいがために、使命という大義名分に縋って来ただけの、弱い人間に過ぎないのだから。
「それでも……それでも、なのです御子様」
「分かっておりまする、所詮は我らの身勝手に過ぎぬことなど」
「どうか、御子様だけでも、生きて下され」
さりとて、彼らの気持ちを無視して、今すぐ火口に身を投げる度胸もフィアラには無かった。
彼らが共に逝ってくれるから、死への恐怖も耐えられよう。
けれど祖父や祖母も同然に慕った全員の気持ちを裏切ってまで、自分の命を放り出すことも出来ない。
生きるべきか。死ぬべきか。
もう、そんなことすら分からない。
「わ、私は……どうすれば……」
視界が歪む。息は乱れ、動機は止まらず、体が震える。
選ばなければならない究極の選択を前に、頭が真っ白になって、思考が止まる。
そうして、呆然と暗い夜空を見上げた時、ソレは天より舞い降りた。
ヒュゴォオオオオオオオオオ――――
神聖な祭壇舞台に、俄かに強風が吹き荒れる。
何が、と思うよりも前に、すでに舞台へと降り立っていた。
「魔女フィオナ……どうして……」
「助けに来ましたよ」
心身ともに限界寸前のフィアラの前に、引越しの手伝いにでも来たかのような気軽さでフィオナは言ってのける。
この極限状況下で突如として現れた忌むべき姉に対する感情が形を成すよりも先に、警戒感を抱いた大神官達が動いた。
「御子様、お下がりください!」
「忌まわしき魔女の娘が、どういうつもりだ」
「ここは神聖なる太陽神の祭壇なるぞ、今すぐ去れぃ!」
「どいてください、私はお姉ちゃんですよ」
折角、妹の危機に姉が駆け付けたというイイ場面なのに、こんな邪魔をされるなど心外だ、とばかりにフィオナは眉をひそめる。
フィアラの前には大神官達が揃って体を張るように立ちはだかり、さらにフィオナの背後では護衛の騎士達も今すぐ斬りかかるべきかどうか、見極めているといった状況。
だが大罪人である魔女ナミアリアの実の娘であり、処刑が決まっていた呪い子が、このルーン存亡の危機にある局面で堂々と乗り込んできたのだ。やはり邪悪な陰謀を企んでいた、と見做されても当然である。
そしてフィオナには、最大限の警戒心で殺気だつ面々を説き伏せられるような話術などあるはずもなく……すでに頭の固そうなジジババ共は物理的に退かした方が早そう、と考えている始末。
「総員、控えよ。エルロード帝国の魔女フィオナ様には、不死鳥を鎮める協力を賜った。これは王命なるぞ」
故に、即座にこの場を収められるよう言葉を発したのは、フィオナを運んだペガサスに跨るソージロであった。
ヴィヴィアンの妖精通信を通して、話はすでにハナウ王と魔王クロノには届けられ、即席ながらも正式な協力要請が結ばれている。
流石に王命とまで言われれば、如何に因縁のある相手であろうが、即座に騎士団は従う。何より、この場におわすのは宰相に次ぐ第二執政官であり、ルーン最強の一角を担う忍の長でもあるのだから。
「この魔女が協力、だと……」
「部外者に頼れと言うのか」
「大神官殿、ご心配めされるな。フィオナ様はアダマントリアにて、正式に火山の巫女としての位もお持ちだ。荒ぶる龍を鎮められるほど、巫女としての実力は確かです」
「えーっと、ああ、コレですね。ドワーフの人から貰いましたよ、巫女の証」
ドヤ、と擬音が見えるような態度で、三角帽子の内から取り出したのは、杖に炎龍が絡みついた意匠の首飾り。
精巧な宝石細工で出来た輝かしい造りは、アダマントリアのドワーフ職人が技術の粋を凝らして拵えた一品。バルログ山脈を守る神聖な巫女に相応しいこの証は、フレイムオークの術者が暴れさせた炎龍をフィオナが見事に撃退した功績を持って、与えられたものである。
「今、ルーンの全てを救うには、フィオナ様のお力が必要なのです。どうかご理解を」
「……王命、承りましてございます」
「帝国のご助力、感謝いたします」
あくまで王命に従った。そしてフィオナがやらかせば帝国が責任を負え、と言外に滲ませて、彼らは受け入れ難きを受け入れることに決めた。
呪い子フィオナ。太陽神殿にとって、あまりに忌まわしい存在なれど……それでルーンと、愛しい御子が救われるならばと、可能性に賭ける。
そうして、大神官達が脇に控えることで、フィオナは堂々と妹の前へと歩み出た。
「フィアラ」
「私は……貴女を姉だなどと、認めはしません」
こんな修羅場でも、初めて会った時と変わらず、ボンヤリ顔で余裕に満ちた態度のフィオナに、言い知れぬ苛立ちを覚えてしまう。
けれど彼女の存在が、このどうしようもなく切羽詰まった状況を打破する希望なのだと思えば、嫌でも認めざるを得ないのだと分かる。
「それでは、妹にお姉ちゃんのイイところを見せてあげるとしましょう」
そんなフィアラの複雑極まる胸中など全く露知らず、フィオナは張り切って荒ぶる不死鳥へと挑む。
「原罪よりも深き悪――――『黒魔女・エンディミオン』」
その悪名高き魔神の加護が顕現する。
黒光のオーラが俄かにフィオナの身を包むと、その禍々しい気配に周囲は圧倒される。
「『悪魔の存在証明』」
そして魔人化を果たしたフィオナを前に、誰もが思った。
本当にこんな悪魔の力を借りて良かったのか、と。
「そ、その力は……」
あまりにも圧倒的な魔力の気配を放つ魔人化フィオナを前に、フィアラは震える声でそう問うた。
ギラつく悪魔の瞳が気だるそうに、けれどどこか自慢気に微笑む。
「相手は不死鳥ですからね。私も本気ですよ」
出会った時に仕掛けた決闘。
あの時は、ただ遊ばれていただけなのだとフィアラは今この瞬間に理解した。
渾身の『焔鳳』が喰われた以上、自身の敗北は明白。それでも、ここまで絶対的な力の差があるとは思わなかった。
確かに今はフィオナの方が強いかもしれない。けれど、自分がもう少し成長すれば、必ず追いつける。そしていつか、忌まわしい魔女の娘など歯牙にもかけない強さを身に着ければ、もう些細な不安に思い悩むことも無い――――そう考えていたが、フィオナは、姉は自分が見ていたよりも遥か先に辿り着いているのだと、まざまざと見せつけられた気分だった。
「だから、フィアラも力を貸してください。私が戻って来れるように」
愕然として震えているフィアラを、ただ緊張しているだけ、と呑気な解釈をしているフィオナは、その緊張を解きほぐすように簡単な仕事をすればいいのだと語った。
やっていることは、アダマントリア解放戦の時と同じ。
炎龍に自らの精神を同期させ、その制御を自分のものとする。そしてコトが終われば、再び精神を分離して自分の体に戻る。
理屈としては単純だが、あまりにも強大な龍の力に、人の精神など容易く飲み込まれてしまう。だから天才魔女のフィオナとて、一人だけでは成し得なかった。
無事に自分の精神が帰還するためには、標が必要なのだ。自分を見失わないよう、呼びかけてくれる導き。
その役目を負ったのが、図らずとも一番弟子と化していたウルスラである。彼女の能力も、この役目を果たすのにうってつけであったこと、そしてウルスラ自身の成長と実力もあってこそ、フィオナも「出来る」という確信を抱けたのだ。
「貴女なら出来ます。だって、私の妹なのですから」
その時と同じ確信をフィオナは持っている。
先の決闘で、おおよそフィアラの実力は図れている。
自分のように度重なる実戦と、死線を潜り抜いて磨いた強さはない。けれど、御子としてひたむきに鍛錬を積んできたことは分かった。
少々実戦経験に乏しいだけで、その力は十分に一流。
そして何より、よく似た魔力の性質。
そこはやはり、同じ血を分けた姉妹。母の腹こそ違えど、その母もまた同じくソレイユの血筋である。
人の持つ魔力の性質は十人十色。大雑把に得意な属性などで分けられることが多いものの、厳密に測定すれば微妙な差異が多々あるものだ。
それが限りなく少なく、近しい魔力となるのは、やはり血の繋がりが最も大きい。親兄弟は魔力の質も似る。
「そんなっ、不死鳥に直接とり憑くつもりですかっ! 無茶ですそんなの!!」
ぶっ飛んだ天才では無くとも、歴代の御子の中でも上位に入る才覚を発揮する優秀な妹は、フィオナが何をしようとしているかすぐに察した。
通常、御子が荒ぶる龍の怒りを鎮めるのは、懇願の声を聞かせるように祈るを上げること。物理的な音としての声ではなく、テレパシーのように魔力を同調させて働きかけるのだ。
しかし、この方法では本能的な強い怒りに突き動かされた龍を食い止めるには、あまりにも力不足である。
「ここまで怒っているのですから、こうする以外に方法はありません」
「それは……そう、ですけど……」
「では始めます」
「ちょっと!」
もう少し、覚悟を決める時間があってもいいのでは、と言いたげな妹を無視して、フィオナは満開の『ワルプルギス』を掲げて、不死鳥へ挑んだ。
「يمكنني إنشاء حرق(私を燃やして創り出す)」
まずは挨拶代わりに、フル詠唱の『黄金太陽』をくれてやる。
アダマントリア解放戦の際に、なかなかエンジンがかからなかった『アルゴノート』を始動させるために直接ぶち込んだりもしたが……今この場には、フィオナが手ずから仕立てた煉獄炉は無い。
炎龍を操るための儀式祭壇でもあった『アルゴノート』という専用兵器があってこそ、アダマントリア解放は成功したのだから、今は自分の身一つしかないフィオナは、あの時よりも遥かに分が悪い戦いを強いられている。
だがしかし、ここにはメラ本殿の祭壇がある。
伊達に最古の神殿ではない。本物の『黄金太陽ソルフィーリア』がかつてこの場所にいた、という事実が強い神性をこの場に与えている。
そして太陽神を奉る、太陽神殿の御子が連綿と祈り続けたこの祭壇は、完全にメラ霊山の不死鳥を抑える力に特化していた。
そこに現役の御子と大神官の老いぼれ連中が全員、命を賭けたガチの祈りを尽くしてくれるのだ。
『アルゴノート』とウルスラがいなくとも、十分に勝機はあるとフィオナは踏んでいる。
「هنا، مع خلق الشمس في اسمي(ここに、私の名を持つ太陽を創り出す)――『黄金太陽』」
正しく太陽のようにと形容するべき、煌々と輝く黄金の巨大火球が、ゆっくり吸い込まれるように今にも溢れかえりそうな火口へと沈んで行く。
灼熱の溶岩は、炸裂させることなく静かに『黄金太陽』を飲み込んでいった。十秒、二十秒、本来ならとうに秘めたる破壊力を解き放っているはずだが、轟音も爆風も迸ることはない。
「……不発、ですか?」
「いいえ、ちゃんと通りましたよ」
あまりの反応の無さにフィアラは問うたが、フィオナが答えるまでもなく、その意味を直後に理解できた。
火口の淵に、俄かに浮かび上がるのは黄金に輝く炎で描かれた魔法陣。それはメラ本殿が築かれるよりも前に刻まれた、さらに古い封印術式の名残だ。
フィオナには、これを描いたのが遥かなるソレイユの祖先だと分かった。始めて見る術式だが、何故か分かる。恐ろしく古い術式構成でありながら、自分とよく似た感性、そして何より自分が最も使いやすいように洗練されているのが、一目見て理解できてしまったのだ。
「凄い……すでに地脈と同期したのですか」
「下準備はこんなところでいいでしょう」
すでに一度やっているからか。あるいは、ソレイユの末裔として、この地との相性が抜群に良いのか。
フィオナは自身の精神が、自分の魔力の塊でもある『黄金太陽』を通して山頂一帯に広がって行くのを感じていた。
アダマントリアの時と同じく、大地を通してこの場のあらゆる事を感じ取れる。拡大し、拡散してゆく感覚は、ともすれば自分自身が薄れて消えて行ってしまいそうになるが……魔女の確固たる自我は崩れない。
だが、それが如何に奇跡的な事か、フィアラは分かっている。
大地に走る地脈と自分を同期させる、似たような真似は自分にも可能だ。ただソレはあくまで十分な準備と時間をかけた上でのこと。
そこまでやっても、薄っすら感じ取れるようになる、程度の一体化が限度である。
大魔法で強引に自分の魔力を浸透させ、巨大な大地と莫大な地脈の勢いに流されること無く自らを保つ絶大な精神性による、二重の力技はしかし、神業と言ってもいいだろう。
「さぁ、行きますよ」
フィアラの驚愕をよそに、これで準備完了、後は本命と直接対決に臨むのみ――――とフィオナは自ら勝負の幕を開けた。
「あっ、そんないきなり――――」
いつの間にやら鎮護の儀式術式の操作を奪われており、今この瞬間にフィオナの独断で、目覚めた不死鳥を抑え込んでいた全ての戒めが解き放たれた。
煮えたぎるマグマの奥底から、炎の翼が羽ばたくべき天へ向かうように、凄まじい勢いで昇り詰めてくる。
フィアラが覚悟を決めるよりも早く、メラ霊山の伝説が姿を現した。
キョォオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――
けたたましい鳥獣の咆哮を轟かせるのは、伝承に違わぬ火炎の体を持つ巨鳥。
一体どれだけ大きいのか、計り知れない。何故なら、不死鳥はまだその首しか溶岩の水面から出していないのだから。
だが、その圧倒的な威容は、とても語り継がれる内容だけでは事足りない。これぞ正に天災の具現。
獰猛極まる猛禽の如き鋭い顔つき。美しい飾り羽のよう、と讃えられる逆巻く炎も、今は眠りを妨げられた怒りによって、どこまでも激しく猛っている。
燃え盛る巨大な炎の頭には、ただ紅玉のように明確な形を持つ瞳が輝き、純粋な怒りに燃える神鳥の目が睥睨する。
その不死鳥の視線を、フィオナは真っ直ぐに見つめ返して言い放った。
「あー、これはダメかもしれませんね」
「おい、マジふざけんなよテメぇええええええええええええええ!!」
あまりにもあまりな発言に、限界を超えたフィアラは心からの罵倒を叫んで、姉の頬をぶん殴った。