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黒の魔王  作者: 菱影代理
第47章:黄金の日出国
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第1025話 鬼々怪々・月夜相思

「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 ファナコが初めて殴った人は、父親だった。

 幼い日のとある新月の夜。目覚めてしまった鬼の力によって暴れ出した彼女を止めようと、咄嗟に前へ出てしまったのが悲劇の始まりとなってしまう。

 ハナウ王は賢王だが、武力の方はからきし。典型的な文官タイプである彼に、いくら小さな子供とはいえ、猛り狂う鬼神の力の片鱗に触れるのは無謀に過ぎた。


 結果、小さな拳に握り込まれた怪力が腹に炸裂し、見事に吹っ飛ばされて壁にめり込んだ。

 王宮の奥、家族水入らずで過ごす時に起こったことで、身を守るために普段身に着ける防御用の各種アクセサリーを外してラフな恰好だったのも災いした。最愛の娘のパンチ一発で、全治三ヶ月の重症をハナウ王は負った。


 その場は即座に駆け付けた近衛騎士によって、まだ加護に目覚めたばかりの小さなファナコはすぐに取り押さえられ、翌朝には元に戻ったが……自らが愛しい父親を深く傷つけたという事実は、幼い彼女にとってあまりに残酷だった。


「大丈夫だよ、ファナコ。何も心配はいらない」


 泣きじゃくるファナコの頭を、優しく撫でてハナウ王は全てを許し、受け入れた。それは家族の誰もが同じ思いを、決意を抱いた。

 それはファナコにとって、この上ない幸運であろう。

 父親は国王で、家族も理解を示してくれたこと。これで辺境の生まれであれば、忌み子としてその場で殺されていてもおかしくはないのだから。


「安心しなさない。もうファナコに、誰も傷つけさせずに済むようにしたからね」


 少しでも加護の暴走を抑えられるよう、定期的な封印術がかけられる処置。新月の夜に暴れた時は、近衛の精鋭が安全確実に抑えられる。

 加護の顕現と共に開眼した鬼の眼も、かけるだけで封じられる眼鏡の魔法具マジックアイテムも与えられた。

 ハナウ王は出来る限り、ファナコの暴走を抑え込み、情報の流出さえ一切許さぬほど、完璧に手を回した。

 これでファナコは、定期的な発作に苦しむ持病を抱えただけ、という程度の状況に済ませたのだ。


 けれど、環境に恵まれたからといって、全ての問題が解決できたワケではない。


「私は、何もしない方がよいのですね」


 父親が自分のために、手を尽くしたことを知っていた。家族も配下も、みんなが気遣ってくれていることを悟っていた。

 だからこれ以上、迷惑をかけたくない。

 心優しいファナコは、ただその一心で己を殺すことにしたのだ。


 やりたいこと、やってみたいこと。沢山あったはず。

 けれど、そのどれもを諦めてきた。何かをするのが、誰かと一緒にいることが、怖い。

 大切なモノを、次の瞬間にはこの拳が木端微塵に砕いてしまうかもしれないから。


 分かってはいるのだ。新月の夜さえ避ければ、力が暴走することはない。

 ファナコとて、自ら加護をコントロールできるよう、太陽神殿に入って厳しい精神修行を積んだ時期もある。

 それでも恐怖は拭えない。


 誰もが言ってくれる。ファナコのせいではないと。

 全ては恐ろしい鬼神が引き起こすことなのだと。


 けれど、呪いに等しい忌まわしき鬼の加護『鬼々怪々ユラ』――――その暴力を振るう興奮と歓喜は、全ては天上に座す鬼神のモノなのだろうか。

 本当は、自らも望んでいるのではないか。

 正しく神言ディヴァインスペルの通り、全部ぶっ壊せと。


「やっぱり私が……私自身が、鬼なんだ……」


 歳を重ねて成長する毎に、加護の力も増してゆく。

 近衛騎士でさえも、ファナコを抑えるのに負傷を避けられなくなった頃には、気づいてしまった。

 すでに『鬼々怪々ユラ』は自分の意志でも発動できると。


 もしも、自分が大きな怒りに駆られたならば――――涙目で枕を叩くようなか弱い八つ当たりでは済まない。絶対に相手を殺す、いや、それだけに留まらない暴虐を撒き散らすという確信があった。


 嫌な事、辛い事、特にストレスが溜まるような時には、夢にも見る。

 全力全開で力を解き放ち、正しく『全部ぶっ壊して』、正気に返った自分の前に、瓦礫と死体の山が聳える破滅的な光景を。


「ねぇ、ソーくん……もし私が、どうしようもなく暴れたら……その時は、ソーくんが殺してね」

「いいえ、決してそんなことにはなりませんよ。姉さんは、とても優しい人だから」


 そんなことを話したのは、何度目の時だったか。

 ソージロが強かったから、今まで大きな犠牲なくやって来れた。

 家族同様、従弟のソージロもまた、ファナコを愛し、守ろうとしてくれたから。その超人的な実力と親愛が故の献身。

 だからこそ、ファナコにとって更なる重荷となる。

 これほどの愛を注いでくれる家族達に、何一つ返せない自分という特大の負債。


 ただでさえ危険な力を秘めた爆弾なのに、第一王女としての役目も落第スレスレ。

 力への恐れから、自ら人を遠ざけた結果、立派なコミュ障に。身についた礼儀作法とテンプレ台詞の組み合わせだけで、当たり障りのない会話を何とかこなすだけ。

 市井では博識な文化人とも呼ばれるが、何のことは無い、人と接しないが故に根暗なオタク趣味に逃げ込んだだけのこと。


 現実で絶望的なハンデを背負わされた自分にとって、憧れるような理想を幾つも見せてくれる物語の世界フィクションは唯一の救いだ。空想の世界でならば、誰に迷惑をかけることもない。自分の理想の姿、在り方でいられる。

 そこには自分が諦めてきた、全てがある。

 特に初代レッドウイング伯が残した膨大な異邦人の物語は、あまりにも鮮烈な世界だった。己が背負った鬼のことさえ忘れるほどの感動と興奮に震えたものだ。

 ファナコがソレにのめり込むのは当然の結果で、自ら筆を手に取ろうとするのも、自然な流れと言えよう。


 そうして今までやってきた。家族の献身に支えられ、ファナコは平穏無事に今日この日まで、誰も深く傷つけることなく過ごせた。


「これで良かった……このままで、良かったの……」


 婚約の話が持ち上がった。

 ルーンは国土こそ小さな島国なれど、レムリア海洋交易の中継地として大きな国力と存在感を持つ。そんな一国の第一王女、婚姻によって得られる価値は如何ほどか。

 しかし、そんな王族としての責務よりも、ハナウ王はファナコにも当たり前のように家庭を持つ幸せを与えたかったと望んだのだろう。

 賢き王たるハナウが、父親として娘が今までどれほど自分を押し殺し、周囲にこれ以上の迷惑をかけまいと苦心し、苦悩し続けてきたか、分からないはずがない。だからこそ、人並みの幸せくらいは掴ませたい――――そんな親心はしかし、これ以上なくファナコを苦しめる。


「無理だよ……私なんかと、結ばれる人なんていない」


 だって、私は鬼だから。

 鬼の悪霊にとり憑かれた、哀れな被害者じゃない。自分自身が鬼だという自覚がある。


 加護の秘密を隠して結婚することは、不可能ではない。今まで通り、数か月に一度の新月の夜さえ気をつければ、後は普通に生活を送れる。

 けれど、そんなことはファナコ自身が耐えられない。


「こんな私じゃあ、目も合わせてくれない」


 結婚したとして、そこに愛はあるか。

 政略結婚で決められた婚約者同士であっても、互いの気持ち次第で愛は幾らでも育まれる。そんなことは、いつも幸せそうに笑い合っていた自分の両親を見て知っている。

 でも、自分にソレは出来ない。


 加護は隠せても、鬼の眼は隠しきれない。魔法の眼鏡一枚で覆っているだけの、この忌まわしい目つきを、直視できる男がどこにいる。

 鬼を真っ向から睨み返して、愛していると言える男なんて。


「でも、私だって……恋がしたいっ!」


 どれだけの恋愛小説に、心をときめかせてきたか。

 ファナコは加護さえなければ、平凡な女だ。父親のように権謀術数渦巻く政治の世界を取り仕切る頭脳もなく、ソージロのように超人的な戦闘能力もなく、あるいはかつてルーンを震撼させた魔女のように魔法の天才でもない。

 色恋など忘れて没頭するほどの使命も実力も何もない、平々凡々。だからこそ、どうしようもなく憧れる。

 本の中で素敵な出会いを果たしては、苦難を乗り越え絆を深める主人公達の恋模様に焦がれてしまう。

 ソレが絶対に、自分のような恐ろしい鬼には手に出来ない幸せだと分かっているからこそ、思いは募る一方だ。


「だからお父様、もう諦めさせてよ……私には無理なの……」


 いっそ、このまま太陽神殿へ出家して、聖職者の道を歩めと勧めてくれた方が遥かに気楽だったろう。

 人並みの幸せが、小さな恋の物語が、そんなモノが自分にも与えられるかもしれないと、下手な希望なんていらない。希望があるから、絶望はより色濃くなるのだと言い放ったのは、どの物語の悪役だったか。

 主人公は希望を掴んで、未来を切り開いた。

 でも自分は? 本当に、こんな自分に、そんな明るい理想の未来を開けるのか。


「できないよ、私には……恋も、結婚も……ワタシを愛せる人なんて、一体どこにいるというの」

「――――いるぜ、ここに一人な」


 どこかで聞いたようなフレーズが、不思議と耳に響くと共に、ファナコの視界が戻って来る。

 最初に見えたのは、円い光。

 暗闇に浮かぶぼんやりとした光点は、月だった。雲一つない美しい星空に、大きな満月が浮かんでいる。


 その満月に照らし出されて、顔が見えた。

 酷い顔だ。顔中血まみれで、半分くらい腫れ上がっている。

 血濡れの恐ろしい形相は、自分のことを棚に上げて鬼だと思ってしまうほど――――けれど、その自分とよく似た鋭く恐ろしいはずの目には、どこまでも温かい光が宿っているように見えて、


「俺が結婚してやるよ」


 それも聞いたことがあるような台詞。けど、だからこそその言葉が、自分の全てを肯定してくれるのだと理解した。


「……クロノ様」


 その名を呼ぶ。

 たった一晩で自分の全てを理解して、鬼の力さえ真っ向から征してみせた男の名を。


 そこでファナコの意識は完全に戻り、状況を理解した。

 血と油で汚れ切った半裸で抱き上げられ、プロポーズされたのだという状況を。


「ひっ、ひぃいぁああああああああああああああああああああああああっ!!??」




 ◇◇◇


「……」

「……」


 気まずい沈黙に息が詰まりそうになってくる。

 流石にいきなり「俺が結婚してやるよ」とか言ったら引かれるか。ひゃあああ! って凄い悲鳴上げられたし。


 何はともあれ、鬼神ユラは俺との殴り合いに満足してくれたか、加護の力はすっかり収まった。ファナコは完全に正気に戻っている。

 ただし恰好は油まみれで衣装はズタボロ、色々と丸出しになるような半裸以上全裸未満な恰好で。これが悲鳴を上げた理由だと思いたい。


 とりあえずこれ以上戦う理由は無くなった。ならば、この状況の後始末だ。

 ひとまず、お互いに酷い恰好なのを何とかするところから始めた。なにせクラーケンが大量の油をぶちまけたど真ん中で殴り合いの大立ち回りを演じたのだ。全身ドロドロで、出血よりも纏わりつく油の方が遥かに気になってしまう。

 なので、まずは疑似水属性でザブザブ洗い流す。黒い油を黒い水で洗うのは視覚的に抵抗あるが、背に腹は代えられない。


 そうして最低限、体を清めてから、影の中に仕舞ってある予備のローブを纏う。ファナコは長身だが、俺のローブなら問題なく全身すっぽり覆えるから、過不足はない。ちゃんと新品を渡したぞ。


 さて、俺はまだまだ元気だが、力を出し切ったせいか、ファナコは足腰立たなくなっているほど消耗しきっていた。

 ならば背負ってレッドウイング城へ帰るかと思ったが、彼女は座り込んで動こうとする様子がない。やはりもう少し気持ちが落ち着くまで、休んでいた方がいいだろうと、俺も隣に腰を下ろした。

 そしてこの沈黙である。


「ちゃんと綺麗になれるような、気の利いた魔法が使えなくて済まないな」

「いっ、い、いえ……全然、そんなこと……」


 意を決して話しかければ、非常につたない返答が。

 やっぱり気まずい感じ、だが……それでも俺は言葉を続けた。


「こんなことになるなら、真面目に掃除用の魔法も編み出しておけば良かった。油汚れを食べてくれるスライム的な」

「それ服だけ溶かすスライムになるやつ」

「今そんなエロ魔法作ったら、スキャンダルで魔王の権威失墜しそうでイヤだなぁ」

「そんなの今更じゃないですかねぇ」

「えっ、すでにそういうイメージで広まってんの?」

「あれほどの美姫を抱え込んでいれば、当然ですよ」


 確かに、事情など何も知らない外野からすれば、俺は立派なハーレム野郎だ。

 これで芋っぽい村娘みたいな子が正妻だったら、ちょっとは印象違ったのだろうか。でも最初の仲間であるリリィが妖精のお姫様で超絶美少女だったんだからしょうがない。


「それでも……私をお傍に、置いてくれますか」

「俺はファナコだから結婚したいと思ったんだ」


 長い髪で顔を隠すようにしてつぶやくファナコに、俺はそう言い切って肩を抱き寄せた。


「冗談でプロポーズなんかしないさ」

「でもっ、私……鬼だし……こんな目で、見つめ合うこともできないから……」

「俺を見ろよ、ファナコ」


 黒紫の髪の隙間から覗く、ファナコの鬼眼。瞳孔が縦長の、獣のような、竜のような、人間離れした恐ろしい瞳だ。

 そりゃあ、あの分厚い瓶底眼鏡で封印もするか、と納得するほどの威圧感を放っている。魔法効果としての『威圧』だけじゃすまないレベル。色んな複合効果が相乗し、本気でガンを飛ばせば怖いもの知らずの冒険者でもジャンピング土下座するほどの圧力を放つだろう。


 これで戦いを生業とする戦士や騎士、あるいはギャングのボスみたいなアウトローなら、この上なく有利に働く能力となった。

 けれどファナコはルーンのお姫様で、それ以前に、ただの女の子だ。

 この凶悪な鬼の目が、コンプレックスに感じないはずがない――――けど、男の俺だって、そういう気持ちを少しは分かる。


「酷い目つきだろ。俺はコレのせいで随分、ビビられてな。女の子なんか目も合わせちゃくれなかった――――だから俺は、目を逸らしたりはしない」


 真っ直ぐに鬼の目を見つめる。凶悪にギラつく紫の瞳は、いまだ燻る鬼神ユラの闘気をぶつけてくるかのように、強烈なプレッシャーを発す。

 だが、それがなんだ。俺は魔王だぞ。

 神の使徒をぶっ殺してきたんだ。鬼神の喧嘩くらい、いつでも買ってやる。


「クロノ様……」


 ハラハラと顔を覆う長い髪の房が流れ、ファナコの顔が露わになる。

 封印用の眼鏡もなく、鬼神ユラの闘争心もなく、純粋に一人の女の子としてのファナコの顔が、初めて晒された。

 綺麗な顔だ。鬼の目の威圧さえなければ、立派に涼しい目元の美人で、スラリとした長身も相まってスーパーモデルのように、多くの人々から憧れを抱かれただろう。


 如何に鈍感の誹りを受け続けた俺であっても、ファナコと気持ちが通じた自信はある。だからこれ以上、言葉や問いを重ねるのは無粋だ。

 不安と期待に揺れる彼女をしっかりと抱き寄せて、互いの距離がゼロになる、


 ズズン――――


 と、不穏な響きと共に大地が揺れたのは、唇が触れ合う寸前だった。

 地震、という日本人的な直感がまず脳裏に走る。

 けれど、直後にこんな図ったようなタイミングで自然な地震が起こるワケないという否定。

 頭の中で推測が形を成すよりも前に、解答は夜空を背景に明示されていた。


「あっ、メラ霊山が……」


 呆然とした呟きと共に、ファナコが見上げた先には山頂が赤々と不気味な輝きを発するメラ霊山があった。

 その光景を目の当たりにして、理解する。10年前の悪夢再来。

 メラ霊山は再び、噴火の危機に見舞われているのだと。


「――――マスター」

「サリエル、状況は!」


 そこでシロに乗って舞い降りたのがサリエル。

 俺が鎧を脱いでステゴロしていたのを見守っていただろうから、兜で通信を一切受けていないのも知っている。

 事態はすでに、俺とファナコの仲が深まるのを黙って見守っていられるような状況じゃなくなり、サリエルがすっ飛んできたワケだ。


「『払暁学派』はルーン本島各地の龍穴を刺激し、メラ霊山の噴火を促しました」

「ちっ、やっぱり『海魔軍』は陽動か」


 本命はやはり10年前と同じくメラ霊山。

 だがその時、連中は山頂のメラ本殿を狙っていた。山にちょっかいかけるなら、直下の巨龍穴が一番効果的だからな。

 だからこそ今回は初動でルーンはそこを固めたが……今回の本命は周囲の龍穴だった。

 海魔軍の陽動によって、ルーンの防衛戦力は首都を初め各港町に分散。そしてメラ本殿を重点的に守りを置いたが、各地の龍穴までは警戒しきれなかったワケだ。


 もしかすれば、10年前の事件さえ奴らにとっては予行演習だったのかもしれない。

 メラ霊山の噴火は各地の龍穴を刺激するだけでも十分足りる、と分かっているからこそ、これ見よがしに山頂本殿を狙った。次に動いた時、ルーンが真っ先にそこの防備を固めるだろうことを見越して。


「港町から離れて川を遡上した海魔軍の小隊が、本命だったようです」

「だからレッドウイング城も狙ったってワケか」


 レッドウイング城もこの地の龍穴の上に建設されている。

 港とは目と鼻の先だから、防衛戦力はクラーケンのゴリ押しで突破し、海魔軍は乗り込んでそのままここまで到達すれば十分という計画だったのだろう。

 幸い、ファナコのお陰で城は無事だが……ここの龍穴だけ守っても、噴火を防ぎきるほどの効果は無いってことか。


「すでにメラ霊山は鳴動しています。後は太陽神殿の御子がどこまで抑えられるか――――いえ、フィオナ様が向かうそうです」

「そうか……じゃあ、俺も行かないとな」


『払暁学派』のボスと相対した、という通信を最後に連絡が途切れていたフィオナだが、とりあえず無事なようで一安心。だが、流石にフィオナでもすでに活性化し始めた噴火活動を抑え込むのは容易ではないだろう。

 せめて山頂に『アルゴノート』が陣取っていれば、最適な儀式祭壇として活用できたのだが、そんな用意などあるはずもない。


 天才魔女のフィオナとて、命懸けの大仕事となるだろう。

 ならば俺も、魔力タンクでも何でもいいから役に立つべく行かなくてはならない。


「クロノ様、危険です……本当にメラ霊山が噴火すれば、ルーンは……」

「大丈夫だ、絶対にそんなことにはさせない」


 縋りつくようなファナコを抱き返してから、俺は立ち上がる。

 ここからでもメラ霊山は見えるが、流石に走っていくには無理があるだろう。


「サリエル、全速力で飛んでくれ」

「はい、マスター」


 ベルがいてくれれば、と思いながら、俺はサリエルの天馬に相乗りして、メラ霊山へと向かう。

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