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黒の魔王  作者: 菱影代理
第46章:レーベリア会戦
1005/1048

第998話 黒竜の怒り

 天空戦艦エルドラド。

 その艦内のあちこちで、姦しい声が響いていた。

「よーっし、いっくぞぉ!」

「せーのっ!」

「やぁあああああああああああああああああああああああああ!!」

 小さな子供が集まって、騒がしく遊んでいるような声だが、行われているのは実戦そのもの。

 リリィ直々に選抜してきた妖精達は、艦内各所に配置され、『アドミラルシステム』下での戦闘においては、重要な役割を担う。

 例えば、対空砲火。

 飛行船団から出撃してきた空の騎士団が、一斉にエルドラド目掛けて群がって来る。ヴァルナ戦よりもさらに増設された機銃が火を噴き、防衛用の魔術師部隊も応戦を開始。

 しかし彼らの奮戦よりも、さらに効果的な対空兵器として機能しているのが、妖精専用兵装である『星屑の鉄槌スターダストハンマー』だ。

 リリィならば単独で数百もの弾頭を正確無比に操作できるが、通常の妖精では一人につき一発がいいところ。自分自身がミサイルになったかのように、特攻気分で敵へと突っ込む操作に集中している。

「やった、命中!」

「ぬぁああああ! 避けるなぁー!!」

「ぎゃー! やーらーれーたぁー!」

「じゃ、次いこ、次」

 直撃すれば一撃で天馬騎士を戦闘不能にするほどの威力を秘めた弾頭を、妖精達はお遊び感覚でキャッキャとはしゃぎながら、次々とシステムで示されるターゲットに向かって撃ち出してゆく。外から見れば、左右両舷から断続的にマイクロミサイルが放たれる猛攻撃だ。

 自由奔放な幼子同然の妖精族であるが、リリィの指導と『星屑の鉄槌スターダストハンマー』によって、立派に対空防御の要として仕事を果たしていた。

 一方、エルドラドの上に飛ぶのは、敵騎だけではない。

 騎士と騎竜、共に漆黒の鎧兜を纏った『帝国竜騎士団インペリアルドラグーン』も、ついに甲板より飛び立つ。

「――――それでは、艦の守りはお任せいたしましたわよ、ブリギット神官長」

「ええ、どうぞこちらは我々に。ご存分に槍働きをなさってください、クリスティーナ団長」

 エルドラドの防御をブリギット率いる『有翼獣騎士団グリフォンナイツ』が担い、クリスティーナの『帝国竜騎士団インペリアルドラグーン』は敵艦への攻撃へと打って出ることとなった。

「いいこと、皆さん。今日は魔王陛下も女王陛下も、黒竜の方々もご一緒されてはいませんわ――――だからこそ、私達の力量が問われるのだと、よく肝に銘じてくださいまし」

 通信にて全団員へとクリスティーナはそう語りかける。

 無論、言われずとも理解している。自分達は決して、魔王の威を借るハリボテの竜騎士などではない。

 制空権の重要性を理解するクロノとリリィだからこそ、これまでの戦いでは自らが先頭に立って空中戦を演じてきた。事実、それによって輝かしい勝利を掴んできた帝国だが……クリスティーナも、竜騎士達も、ずっとそれを悔いてきた。

 いつになったら、自分達に空の全てを任せてくれるのか。

 元来、竜騎士団に勝る空中戦力など存在しなかった。しかし帝国軍は、黒竜を駆る魔王、星に乗った妖精女王、現代に蘇った空中戦艦。挙句の果てにはラグナの黒竜軍団までもが加わった。

 これでは従来の竜騎士団など二線級もいいところ。

 当然のことながら、そのどれもが本来ありえない飛びぬけたイレギュラー同然の超戦力であることは理解している。少しばかり鍛錬をしたところで、今更埋めようもない差があることも。

 だからといって、空の二軍に甘んじてよいはずがない。高い、あまりにも高い天があるからこそ、自分達もまたそこまで飛ばねばならない。

 彼らと並んで飛べてこそ、エルロード帝国の竜騎士団なのだから。

 クリスティーナは槍と手綱を握りしめ、叫ぶ。

「『帝国竜騎士団インペリアルドラグーン』の力、今ここに示しなさい! 突撃チャージッ!!」

「ウォオオオオオオオオオオオオオオ――――」

 蒼き翼のサラマンダー、ブルーサンダー・カエルレウスに跨るクリスティーナを先頭に、『帝国竜騎士団インペリアルドラグーン』が一斉に飛び出して行く。

 狙うは敵艦隊を率いる旗艦『セントパウラ』。

 テレパシーで傍受した通信によって、一際大きな船体を誇る一隻が、間違いなく指揮官を乗せた旗艦であることが判明している。標的が分かりやすくてありがたい。

 しかしセントパウラの位置は現在、陣形の中央に位置している。追いかけるエルドラドから逃げるような二列縦隊となって飛び去っていたのは先ほどまでの話で、今はこちらに包囲を仕掛けるような動きをしている。

 それに伴い、セントパウラを守るように複数の敵艦が前へと出てきた。どうやら敵の指揮官はかなりの慎重派なようで、この乱戦の中で旗艦へ直接攻撃をかけられる可能性も考慮しているようだ。

 実際、クリスティーナ達はリスクを承知で突撃を仕掛けているので、敵指揮官の判断は正解であった。ただ一つ落ち度があるとすれば、

「この程度で私達を防げると思うとは、随分と甘く見られたものですわね」

帝国竜騎士団インペリアルドラグーン』は、そこらの竜騎士団とは実力も士気も練度も違う。そして何より、騎竜が違う。

「サラマンダーは伊達ではありませんことよ!」

 クリスティーナ騎に並ぶのは、赤い二騎のサラマンダー竜騎士。

 ベルドリアが誇る最強の騎竜三体が並び、紺碧のサンダーブレスと紅蓮のファイアーブレスが空を焼いた。

「――――おぉい!? マジかよ、ブレス撃ちやがったぞ!」

「やけにデケぇと思ったが、本物のサラマンダーに乗ってやがる!」

「どうやって調教してんだよ」

「いいじゃねぇか、黒竜よかマシだろが!」

 派手な一発を前に、迎撃に飛んできた敵竜騎士は即座に編隊を解除し散開。緊急回避のために散った。

 それだけで突破口としては十分。

「止めろぉ! 奴ら、このまま抜ける気だぞ!」

「ちいっ、狙いは旗艦か!」

 わき目もふらず一直線に飛ぶ姿に、敵竜騎士も即座に作戦目標を察する。

 後続の敵竜騎士がクリスティーナを行く手を阻むよう、慌てて進路に割り込んでくるが、彼女を止めるにはまるで足りない。

「おぉーほっほっほっほ! 飛んで火に入る野郎共ですわぁ――――螺旋機槍『ダムドラガン』!!」

 高笑いと共にクリスティーナが振るうのは、スパイラルホーン男爵家に代々伝わる家宝の槍。その長さと形状は馬上用の突撃槍チャージランスそのものであるが、長大な穂先は根本から高速回転を始める。

 正しくドリルと化した槍は、真紅のエーテル光が走り、加速度的に魔力の波動を高めて行く。

 螺旋機槍『ダムドラガン』。この槍は男爵家の祖先が、まだ冒険者であった頃に、古代遺跡の奥から持ち帰った戦利品を組み込んで作り上げた機械式の魔法槍である。

 古代の力を宿すこの槍によって、領地を外敵やモンスターから守り、時にはミスリル鉱山を掘った。名実ともにスパイラルホーン男爵家を支え続けた家宝なのだ。

 そして古代技術の解析が進むエルロード帝国にて、この槍は古代で普及していた小型リアクターと、工業用の掘削機のドリルブレードを用いられている、ということが判明した。古代においては戦闘用の武器ではない工具だが、現代では最精鋭の竜騎士が手にするに相応しい、強敵を穿ち貫く名槍足りえる。

 機甲鎧用のエーテルバッテリーを増設することで、全力稼働時間を大幅に伸ばしたダムドラガンは、その回転する刃に宿す力を遺憾なく発揮した。


 ギィン――――


 甲高い音と共に瞬くのは、赤い閃光。

 圧縮されたエーテルが射出されたのだ。それはドリルの槍がそのまま伸びたも同然の貫通力をもって放たれ、敵竜騎士をワイバーンごと貫いた。

 それが三度。

 目にもとまらぬ連続突きによって、クリスティーナは眼前に立ち塞がる竜騎士を一息に討ち取って見せた。

「この私の前に立つならば、せめてサラマンダーにでも乗っていらして」

 クリスティーナは『ドラゴンハート』で副団長まで登り詰めた女である。白竜エーデルヴァイスに乗る団長ローランの下で、十字教徒でも何でもないただのドワーフ女性が、そこまで認められるのは、それに相応しい実力を示したからに他ならない。

 アヴァロンが誇る真のスーパーエースを前に、ただの竜騎士では相手になどならない。

「くそっ、このまま行かせるな!」

「少しでも足止めできなきゃ恥だぜ」

「怯むな、竜騎士ドラグーンの意地を見せろっ!!」

 しかしこの程度で臆するような弱兵は、竜騎士には一人もいない。青いサラマンダーに乗った凄腕、という分かりやすい強敵目掛けて、方々より敵騎が集まって来る。

 彼らはワイバーンよりも圧倒的にパワーにも優れるサラマンダーを相手に、迂闊に突っ込むのは避けたようだ。功に逸ってはいるが、冷静に数の有利を活かして、遠距離から攻撃魔法で削る戦法を選んだ。

「あらあら、随分と弱気なアプローチだこと。魔王陛下なら、生身でも突っ込んで来ますのに」

 ベルドリアでの演習で、ベルクローゼンから飛び降りたクロノに直接、乗り込まれた時は本当にビビった。ダムドラガンの連続突きも軽々といなしながら、堂々と降り立つ姿には、騎士としては畏怖を、女としては結構キュンとしたものだ。

 敵竜騎士が遠巻きに撃ち合いをするのは堅実な戦法であると分かってはいるが、竜騎士の常識と定石を覆す、地獄の演習を終えてきた今のクリスティーナにとっては物足りなさを感じてしまう。

「つまらぬ殿方など置いて、このまま突き進みますわよ、カエルレウスちゃん」

 鞭を一つ入れれば、獰猛な唸り声が返り、青き翼はさらに強く風を打って加速する。

 いっそ無防備なほどの直線飛行をするクリスティーナ騎に対し、チャンスとばかりに竜騎士は各々の攻撃魔法を撃ち始めた。

 ドワーフであるクリスティーナは、その種族特性の通りに、魔法適性はあまり高くはない。保有魔力こそ優れているものの、攻撃・防御・支援、いずれの魔法においても上級に届くことはなかった。

 高速で空を飛び交う竜騎士にとって、魔法は槍よりも重視される攻撃手段であり、防御手段でもある。どれだけ頑強な肉体があっても、手持ちの槍が届く範囲しか攻撃できない、撃たれた時に騎竜を守れない、とあっては竜騎士としては落第だ。

 だが副団長まで登り詰めたクリスティーナには当然、魔法に頼らずとも守りの手段は持っている。

 そのために、この呪われた鎧を着こんでいるのだから。

「咲き誇れ、『凶姫乱舞ジェノサイドプリンセス』」

 ドレス型の重鎧、暗黒物質ダークマター複合合金ユニオンメタル製の装甲から俄かに赤いオーラが噴き出す。

 この『凶姫乱舞ジェノサイドプリンセス』は、古代鎧ではない。だが暗黒時代にそれを模して作られた鎧である。

 古代製装備の要であるエーテル供給のためのリアクターもバッテリーもなく、純粋に装着者の魔力に依存する、魔法の鎧だ。緻密に描かれた魔法陣と内部機構は、製作者の天才的にして偏執的な技量の賜物。現代でも全く同じモノを作り上げるのは不可能であろう。

 その完成度が故に、呪われた。

 これを纏った者は、ただそれだけで強力な力を得られる。そこらの村娘でも、容易く騎士を打ち倒すほどに。魔力が続く限り、鎧の力を扱える。

 弱者が力を持った時、弱さを知るが故の優しさを備えるとは限らない。むしろ才ある強者よりも、力に溺れやすい。だからこそ、この鎧には呪いとなるほどの業が積み重なった。

 弱者はより弱き者を踏みにじるのみ。殺戮の快楽へと誘う凶暴化の呪いはしかし――――強く、正しく、美しく、誇り高き竜騎士には微塵も響かない。

 クリスティーナは愛用となった鎧の力を、必要な分だけ解放する。

「『装甲花弁ブルーメシルト』」

 それは舞い散る花びらのように。鎧から湧き上がる真紅のオーラによって、防御魔法が構築される。赤い光の盾のようだが、物質化マテリアライズされた金属の質感を持つ、強固な花弁が何枚もブルーサンダーを囲うように展開された。

 次の瞬間、殺到してきた攻撃魔法が花びらの盾に命中。炎、雷、岩の砲弾。その全てを跳ね除け、クリスティーナは悠々と飛び去って行く。

 この全方位へ展開可能な『装甲花弁ブルーメシルト』こそ、どんな素人でも戦場で生き残らせることができる、鎧が備えた万能の防御機能である。

 それを最精鋭の竜騎士たるクリスティーナが操れば、騎竜ごと身を守る絶対防御の盾と化す。

「ふぅん、お次は飛行船自らが盾になろうと言うのかしら。立派な心掛けですこと」

 迎撃の竜騎士団をかわしながら、敵旗艦への距離をぐんぐん詰めて行く最中、ついに周囲に浮かぶ護衛艦が動いた。

 バリバリと対空用の攻撃魔法を放ちながら、その船体をもって進路を阻むべく突出して来る。

 流石に迂回するべきか、クリスティーナが飛行ルートを考え始めた矢先、


 ドゴォオオオオオオオオオオン!!


 轟音を立てて、目前の飛行船から大きな火の手が上がった。

「流石の命中率ですわね。これでは私達の立つ瀬がありませんことよ」

 エルドラドの主砲が命中。

 ここぞというタイミングで、一発で当ててくる腕前の砲手は、帝国軍といえども一人しかいない。

 同じ航空兵器として、天空戦艦との合同演習もあった。お陰で、魔導開発局長が一番上手く主砲を操ることを知っている。

 神業のような援護射撃によって、道は開けた。炎上しながら傾きかけた飛行船へと追い打ちのブレスを吐きかけつつ、いよいよ帝国竜騎士団は敵の旗艦へと迫る。

「全騎、攻撃開始!」

 射程に入った瞬間、一斉に攻撃を放つ。

 サンダーブレスとファイアブレス。そして各属性の攻撃魔法が嵐と化して巨大な飛行船へと襲い掛かる――――だが、その全ては白い輝きの前に消え去った。

「やはり聖堂結界を積んでいますわね」

 聖女リィンフェルト本人がいなくとも、要所で『聖堂結界サンクチュアリ』が展開していることは、帝国軍でもとうに把握している。

 すなわち『聖堂結界サンクチュアリ』を発動できる結界機が存在しているのだ。

 よほどの重要拠点でなければお目にかかれないものだが、敵の航空戦力の要である旗艦に搭載されているのは、半ば必然とも言えるであろう。

 敵旗艦攻撃において想定されうる、一番嫌なパターンを引いたとクリスティーナは歯嚙みする思いとなったが……この状況への対策もあるのが帝国軍である。

「各騎、爆装へと切り替えなさい――――」

 さしものクリスティーナも、単独で『聖堂結界サンクチュアリ』を破る技は習得していない。

 だが聖女がいない結界機による発動であれば、破る目はある。方法は単純至極、ただひたすらに火力を投射するのみ。

 そして帝国竜騎士団には、サラマンダーのブレスを超える破壊力を秘めた兵器が持たされている。こういう状況下のために一発ずつ持たされたのは、帝国が誇るもう一つの頭脳、天才魔女が作りし黄金の太陽を秘めた弾頭。

「――――ソレイユ弾頭の急降下爆撃、参りますわよっ!!」

 ここが帝国竜騎士団の正念場と心得て、クリスティーナは天高く舞い上がるよう手綱を引いた。




 旗艦セントパウラに黄金の爆炎が煌めいた時、その輝きを塗りつぶすほどの光が迸る。

 さらに威力が増したドラゴンブレス同士のぶつかり合いが、途轍もない破壊力となって空を揺るがす。

 轟音、灼熱、衝撃波。混然一体となって吹き荒れる爆心地を、黒い巨影が突っ切って行く。


 ゴォオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!


 咆哮をあげて牙を剥くベルクローゼン。その漆黒の巨躯には、燃え盛る憤怒の炎を具現化したかのような、真っ赤な光が宿る。

 胸元は強靭な竜の鼓動を視覚化したように、ドクドクと灼熱の輝きで明滅している。

 手足の爪と尾の先端は赤熱化し、火炎そのものと化しているオーラが渦巻く。

 腕を一振りすれば、長大な爪の斬撃に加えて猛火が吹き荒れる、炎の魔剣が如き一撃と化す。

 接近を止めようとエーデルヴァイスが放った幾つもの雷撃を、炎と共に切り裂いてベルクローゼンは速度を緩めることなく肉薄する。

 すでに戦いは佳境に入っている。ベルクローゼンとエーデルヴァイス。互いに秘めた力を解放し、熾烈を極めた戦竜機同士のぶつかり合いが繰り広げられた。

 死闘の証のように、互いに満身創痍。

 結晶を纏ったエーデルヴァイスは、すでに各所が砕け散り、壊れた機械のように青白いスパークが全身で弾けている。

 対するベルクローゼンもまた、自慢の甲殻は裂け、竜鱗が砕けて出血を強いられている。しかし血濡れの肉体は、更なる熱を宿して戦意を高めている。これ以上は危険だというほどに。

 龍災という絶望的な敵に対抗する兵器として、設計思想は共通するのだろうか。決戦用機甲鎧RXシリーズに自爆機能が搭載されているのと同様に、戦竜機ローゼンシリーズもまた、命が尽きる最後の瞬間には残った全ての力を燃やし尽くして相手を道連れにする能力がある。

竜心崩壊メルトダウン』――――この最後の一撃によって、黒竜ローゼン部隊は帝都ごと龍の軍勢を焼き払った。

 もしも今ここでベルクローゼンが『竜心崩壊メルトダウン』を発動させれば、魔王軍と大遠征軍を全てまとめて滅却することだろう。

 しかし主を得たベルクローゼン、魔王騎たるこの身が、たかだか白竜一匹に命をくれてやる道理はない。

 臨界寸前。自ら発する灼熱で我が身が溶けだしそうになるほどに高まった今こそ、宿敵にトドメを刺すに相応しい。

「悪あがきは止せ。この怒りに燃える黒竜が、貴様に引導を渡してくれる」

 伸ばした爪先が届くほどの間合いへと突入。

 機械的な兵器として作り出された白竜であっても、自らを殺しうる脅威を目前に、生存本能を吠える。

 突っ込んでくるベルクローゼンを正面から叩き落とすように、大きく体を回転させ、巨大なプラズマ球を宿した尻尾を振るう。破滅的な雷槌と化した尾の先端を迎え撃ったのは、灼熱の魔剣。轟々と火炎の尾を引いて振りぬかれたベルクローゼンの尻尾は、ギャリギャリと壮絶な金属音をまき散らしながら、エーデルヴァイスの叩きつけを逸らした。

 次に振るわれたのは、竜の爪。

 白竜の甲殻を溶断するほどの熱を秘めたベルクローゼンの前脚による斬撃は、崩れた態勢のまま繰り出されるエーデルヴァイスの後脚によって防がれる。

 何十、何百もの剣士が、それぞれ炎と雷の武技で斬り合えば、こんな音がするのだろうか。けたたましい衝突音を響かせて、互いの竜爪が弾かれる。

 眩く瞬くエーテルの閃光が散って行く中で、二機の竜の視線が合う。


 コォオオオオオオオオオ――――


 首を伸ばして大口を開くエーデルヴァイス。蒼白の雷光が凄まじい密度で凝縮された口腔は、次の瞬間に渾身のドラゴンブレスを吐き出すだろう。

 そして、ブレスの射線は完全にベルクローゼンを捉えて――――カッ、と視界を塗りつぶすほどの眩い白光が迸る。

 至近距離で放たれたブレスを前に、ベルクローゼンはただ、天空の覇者の証たる、自慢の黒き竜翼を掲げた。

 その栄光を否定するかのように、絶大な破壊力を秘めたエーデルヴァイスのドラゴンブレスは、黒竜の翼を貫く。

 いくら強靭な竜の翼とはいえ、分厚い甲殻の守りがない以上、相対的に脆い部位となる。たとえ最も装甲の厚い胴体で受けても、直撃すれば無事では済まない宿敵のドラゴンブレスだ。ベルクローゼンの翼は僅か抵抗だけを残して、半ばからブレスの奔流に飲み込まれる。

 青白いスパークと赤いエーテル光を散らしながら、焼き切られた黒い翼が空力を失い虚しく落下してゆく。

「ふん、勝負を急いたな、小僧」

 片翼を失い、胴体もブレスで削られながらも、ベルクローゼンは嘲笑を浴びせた。

 この至近距離でブレスを撃たれて、即死しなければそれでいい。翼の一枚が何だというのだ。

 それで致命の一撃を凌ぎきり、こちらが王手をかけられた。

 ベルクローゼンは翼を失いつつも、エーデルヴァイスの体に組みついたまま、離れていない。

「報いを受けよ、裏切者め」

 ベルクローゼンは、捕らえた獲物へ喰らいつくように、エーデルヴァイスの首に嚙みついた。

 そこはこれまでの戦いで、斬撃を刻んだ箇所。結晶装甲が砕け、鱗も裂けて肉にまで達している。致命傷にはほど遠いが、十分すぎる傷口だ。

 深々と牙を喰い込ませて咬めば、もう逃げられない。外さない。外しようがない。ゼロ距離――――ドラゴンブレス、発射。


 ギィイイガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!


 それは竜の断末魔か、あるいは巨躯を焼却する破滅の音色か。

 憤怒に燃える灼熱のドラゴンブレスが、瞬時に体内を駆け巡る。白色魔力のエーテルによって青白く輝くエーデルヴァイスの肉体が、俄かに朱に染まった。

 眩い赤光に内側から焼き尽くされるように、エーデルヴァイスが絶叫を上げる口腔、見開かれた両目から、赤黒いブレスの輝きが噴き出る。

 だが、それもすぐに限界を迎える。ベルクローゼンのブレスを直接、体内に流し込まれれば、如何に頑強な戦竜機の肉体も耐えられる道理はない。

 自らの動力源と相反する、黒き力の奔流が体内を瞬く間に侵し、崩し、爆ぜる。

 噛みつかれた首元から大爆発を起こして、もう声の上がらない首が粉微塵に砕けて爆散。首を失った胴体は、胸元からボロボロと崩れ落ちながら、刻まれた傷口から炎を噴き出し落下を始めた。

 哀れな首無し死体と化した竜の体には、もうどこにも空を飛ぶための力などなく、ただ重力の軛に囚われ落ち行くのみ。

 そうして、空に残ったのは黒竜ベルクローゼン。

 片翼となっても尚、この空の支配者であることを知らしめるように、勝利の咆哮が響き渡った。

 2024年9月6日


 いよいよ1000話目前となってきました。

 戦竜機同士の戦いも決着したところで、何となくお察しな裏設定について。


 本気出して赤く燃えるベルクローゼンのモチーフは、『ゴジラVSデストロイア』のバーニングゴジラです。私はゴジラシリーズは結構好きな方で、『ゴジラVSデストロイア』は小学生の時何度もビデオで見返した思い出の作品で、一番好きなゴジラ映画でもあります。勿論、一番カッコいいゴジラも、このバニゴジだと思っています。予告編で胸元が赤く燃えるゴジラを初めて見た時の衝撃たるや。


 ただ『シン・ゴジラ』、『ゴジラ-1』と、どちらも甲乙つけがたいほど自分に刺さっていて、この時代でもゴジラの最新作が見れて満足してます。勿論、コングと一緒にドタドタ走るレジェゴジの雄姿もちゃんと劇場で見てきましたよ。

 ともかく、そういうワケで一番カッコいい強化形態はバーニングなので、ベルにはかなりそのままのイメージで描きました。『竜心崩壊メルトダウン』とかまんま過ぎて・・・許して・・・


 一方、エーデルヴァイスの結晶装甲は、スペースゴジラがモチーフです。

 実はスペゴジはかなり昔に一回だけ見たことあるだけで、あまり語れるほど詳しくはないのですが・・・それでもスペースゴジラのビジュアルもまたインパクト凄いですからね。一目で同格のライバル怪獣と分かる姿は、やっぱり燃えますよ。


 それから、ドラゴン同士の対決としては、主人公がクロノのモデルにもなっている『ドラッグオンドラグーン』の影響も大きいですね。は? 俺のアンヘルはレグナとかいう青ドラゴンなんかに負けないんだが? 誘導火球が超回避されるから、通常火球直撃でぶちのめすんだが??

 そういうワケで、ライバルドラゴンは完膚なきまでにぶっ潰しました。バーニングのゼロ距離ブレスとかいうロマン技で仕留められたんだから、エーデルヴァイスも大往生です。


 それでは、次回もお楽しみに。

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武器がドリルで名前も『~ラガン』なんてどこの天元突破ですか?ww キャラ的にも天に突き上げて決めポーズ&決めゼリフしそうwww
[良い点」 妖精専用兵装『星屑の鉄槌(スターダストハンマー)』 異世界にドローン爆弾は先取りすぎる…地上で使われたら恐ろしい戦果を出しそう
[良い点] クリスの活躍が読めて嬉しい! 槍もロマンがあっていいな。加護も授かったらさらに強くなりそうで、これからが楽しみ。 ヴァルナの空中決戦で余裕の無傷だったのはリリィとクリスだけって書いてあった…
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