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黒の魔王  作者: 菱影代理
第46章:レーベリア会戦
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第996話 レーベリア会戦・同郷(2)

「おいおい、ウソだろ……」

 濛々と立ち上って行く白い霧を前に、ウルスレイは呆然と呟いた。

 この霧は、自分の力。イヴラーム人の中でも、選ばれし血筋の者しか持ちえない特別な力である。

 もうアーク大陸にこの力の使い手は、自分の他に存在しない。シンクレアの十字教に、根絶やしにされた。あまりに強い呪いのような力を恐れるが故に。

 だからソレはあってはならない。自分が最後でなければならないはずだ。

 しかし、視線の先で広がり行く『吸収ドレイン』を宿した恐るべき白い霧を従えているのは、自分ではない。

「まさか、まだ王家の生き残りがいるとはな」

 かつて、イヴラームの始祖は冥界の王と契約を果たした。

 その冥界の王とはどういう存在で、どんな契約を結んだか、その詳細を知るのは王位継承者のみであり、如何にその血筋に連なる一族の者であっても決して知り得ない。

 イヴラーム王家の分家筋に過ぎない身分であった自分が知るのは、この冥界の王より授かった力の使い方だけ。

 死者の世界たる冥界に満ちる霧を呼び出し、操る。その量、密度、操作精度、これらは同じ力を持つ者でも才能と鍛錬によって大きく差がつくところ。

 しかしこの力に目覚めた血族は皆、イヴラーム王家を守護する『月の番人』となる。シンクレアとの戦争においては、彼らが大いに活躍した結果、呪いの恐怖と共に語られることとなるのだが――――

「今更出てきて、王国再興でもしようってのかよぉ!」

 ウルスレイには、イヴラームへの忠誠心など欠片もありはしない。

『月の番人』の生き残りである両親から、この力を叩き込まれていた幼少期にはあったような気もするが……所詮は、幼い子供に対する一方的な刷り込みのようなもの。

 そんなもの、素性を隠して孤児に成り下がった時から失っている。

 忠誠も誇りも、下らない。そんなモノにこだわったところで、結局、国ごと滅ぼされただけだろう。大義を掲げるやつほど、信用ならない。

 だから白き神への信仰心も、持ってなどいない。二等神民の孤児に過ぎない自分を一番良く見せられるのが、司祭だったというだけのこと。

 本当に大切なモノは、すぐ目の前にある。それを蔑ろにして、何が大義か――――故に、殺さなければならない。

「クソ、俺の目の錯覚じゃなけりゃあ、本物の王族だ……アレがイヴラーム最後の王位継承者、ウルスラ姫か」

 知っているのは、名前だけ。イヴラーム最後の希望だと、両親が本気で祈っていた相手である。

 そんなもん知るか。生きていたところで、褐色肌に銀髪と分かりやすい特徴のイヴラーム人が、ロクな生活などできるはずもない。自分がお姫様だと知らずに、安い娼婦にでも身をやつしていることだろう。そう思って、気にもかけたことはない。

 実際、たとえ本物の彼女と街中ですれ違ったとしても、ウルスレイもその正体に気づくことは決してなかった。

 けれど、今ばかりは一目で理解できる。

 自分と同じ、いや、それ以上の力を解き放つ姿を見れば、嫌でも理解させられてしまった。

 同じ力でも、ただ冥界の霧を操るだけではない。最も濃い血を受け継ぐ王家にのみ発現するという、その形態は、

「――――『死者の書の紡ぎ手メナス・アナスタシア』」

 自分自身が、霧となることだ。

 魔王軍の先頭に立って堂々と突き進むウルスラ姫の姿は、白一色。その中に両目だけが青い炎が灯ったようにゆらゆら輝く。まるで幽霊のように半透明な体と化し、その身はフワフワと浮遊していた。

 どこまでも伸びる長い長い、波打つ長髪はなびいた先の虚空で霧となって振りまかれる。額には鋭い角が伸びており、顕現させている人型と同化していることを示していた。

 この半霊半人と化すその姿こそ、王家の力の証明。分家に過ぎない『月の番人』では決して辿り着けない加護の境地である。

「アイツだけは生かしちゃおけねぇ」

 宮殿もなく、兵も臣も、そして国と民すら失った。けれどあの少女には、その身に宿した加護という証がある。自らが貴きイヴラームの姫君であると証明することが出来るのだ。

 それは本当に希望となってしまう。大義となってしまう。

 もう百年近くも昔に潰えた亡国が、再びどんな犠牲も厭わぬ、愚かな野望に火を点けてしまうほどの。

 冗談ではない。イヴラームなど、もうとっくに終わった存在だ。その国も王も、これからの時代には必要ない。

「悪ぃがレキ、俺はあの霧女を殺る。同じ力の使い手だ、ほとんどフォローはできそうもねぇ」

「うん、アレはウル兄が相手するしかなさそうだしね」

「お前は大丈夫か?」

「もう、覚悟は決めてきたから。ねぇ、もしも僕が獣から戻ってこれなくなったら、その時は――――」

「安心しろ、ぶん殴ってでも目を覚ましてやるからよ」

「ふふ……そうだよね。なるべく、優しく起こしてよ?」

「任せろ」

 いつものように悪戯っぽい笑みでそう言ってから、ウルスレイはイヴラーム最後の姫君に向かって歩みを進めていった。

 対するレキトリウスは、その場で足を止め――――自らも全力で秘められた力を解放すべく、意識を集中させた。

「ああ、嫌だな……」

 この力は嫌いだ。兄貴分のウルスレイのように、上手に自分の力を扱えるのが心から羨ましい。

 けれど、この忌まわしいバルバドスの力があったからこそ、本当に分かり合える仲間が出来たとも思っている。

 今はもう亡き姉貴分のリン。初めて力が発現して暴走した自分を、庇い、受け入れ、その力を使いこなすのだと、導いてくれた恩人。彼女のお陰で今の自分はあるし、そんな自分をウルスレイも、ネロも認めてくれている。

 だからこそ自分は、在りし日のリンとどうしようもなく姿が重なってしまうリィンフェルト、彼女のために戦いたい。もう二度と、大切なモノを失わないように。

「今度こそ、僕がリン姉を守るんだ――――戦獣顕現レクスベルム!」

 叫びと共に、大いなる獣の加護が発動する。




「大いなる獣の戦士達、戦に備えよ。牙を磨け。爪を砥げ。備えよ、遥か高き頂を目指すために」

 魔女工房の一角で、フィオナはバルバドスの禁書、『大いなる獣の書』を手に、その最初の一ページを読み聞かせる。

 それはバルバドスが定めた古き掟。

「北限の地、真白の平野の彼方にて戦は始まる。その地を朱に染め上げて、戦士達よ力を振るえ。最後に立つ者は、その名を叫べ。我こそ、大いなる獣なりと――――」

「むぅーん、何言ってるか全然ワカんないデーッス」

 そう叫んでレキは机に突っ伏した。

 基本的な読み書きは出来るものの、古代文字の上に地域独特の変化が入った文章を、彼女が読めるはずもない。フィオナは珍しく魔女としての知識を披露して、レキの代わりに読んであげたのだが、直訳されても全く内容が頭に入らなかった。

 古い言い回しはあれど、それほど難解な文章ではない。むしろ、これを書いた人物は精一杯、分かりやすくしたのだろうと努力の跡さえ読み取れるのだが……レキの態度を見れば、筆者の努力は無駄に終わっていた。

 やれやれ、と小さな溜息を一つついてから、フィオナはさらに分かりやすく、かみ砕いて説明することとした。

「えーと、要するに――――集まれ戦士達、バルバドス最強決定戦! 一番強ぇ奴が王様だ!! ということです」

「オーライ!」

 笑顔で理解を示すレキに、フィオナは頷いた。

 かつてシンクレアが征した、アーク大陸北方の大国バルバドス。勇者アベルの伝説として今なお語り継がれる当時の戦いはしかし、強敵たるバルバドスについて詳しい記録は残されていない。

 基本的に十字教は神の教えで全てを塗りつぶすため、征服地域の歴史、文化、伝統、そして何より信仰を消し去る。王城や宮殿、神殿、貴族の屋敷に研究所や工房、そして図書館。歴史と知識の集合である場所は悉く焼き払われ、全てを闇に、いいや白き神の光の中へと葬られる。

 純血のバルバドス人たるレキであっても、祖国のことについては、そこらの子供と知っていることに何ら変わりはない。昔、勇者アベルによって討たれた、野蛮人の国。そんな神の敵に相応しいレッテルだけを張られた存在として。

 しかし、フィオナのような魔女は違う。

 十字教に何ら忖度することもない、純粋な魔法の求道者というのは、どこにでも一定数存在するものだ。無論、フィオナの師匠もその一人である。

 彼らにとって、あらゆる知識は世界の理を前に平等。神を讃えようが、貶めようが、それが真実であり、歴史的に存在した事実であるならば、記録として残すに足る存在だ。

 亡国の散逸した歴史書や魔導書などは、そんな彼らによって保護されることも多い。この『大いなる獣の書』も、巡り巡ってフィオナが手に入れた一冊だ。

 本を読解するためには、前提知識が必要なことが多い。まして娯楽のためのモノでなければ尚更。

 フィオナは自分でこれを読むために、亡国バルバドスについての知識も、シンクレアの一般人とは比べ物にならないほど収めていた。

 まさかそれを、本国人を相手に披露することになるとは、夢にも思わなかったのだが。

「バルバドスは国で一番強い者が王となります」

 王の名を冠するものの、素直に王国とは呼び難い、多くの部族の集合がバルバドスであった。パルティアが多くの部族連合として成立しているのと、似たような形態だ。

 しかし、最大派閥の長が盟主となるパルティアと明確に異なるのは、バルバドスでは各部族を代表する戦士を戦わせ、そこで最後まで勝ち残った者に王位を授けるという、古い儀式的な継承制度を重視していたことだ。

「つまり、白の勇者アベルが討った蛮王ベオウルフは、当時最強の戦士であったことに違いはなく……その血をレキが引いている、かもしれないと」

「レキは全然分かんないデス」

「でも一回死んで蘇ったんですよね?」

「みたいデス」

 そのせいでクロノも再会を果たすまで気にし続けていたのだが、今は置いておく。

 本人に復活した認識はないものの、間違いなく脈も呼吸も止まった状態だったと、サリエルとウルスラは確認している。

 魔王伝説における死者蘇生とは異なり、一種の仮死状態からの復活という、加護による強烈な生命力の発露によってレキは命を繋いだとフィオナは推測した。

「バルバドスにおける部族は、それぞれ異なる獣の力を授かっていたそうです」

 ベオウルフは狼のような獣であったと伝えられているが、彼の率いるバルバドス戦士達は、必ずしも狼だけではなかったと多くの記録で残されている。それは獅子であったり虎であったり、熊もいれば鷲もいたという。まるでヴァルナの獣人達のような多様性である。

「そしてベオウルフという名は個人を指すものではなく、部族に力を授けた大いなる獣の名。つまり自ら神名を名乗る資格を、部族の代表戦士にはあるようです」

 そんな一族代表戦士たるベオウルフが勝ち抜き、そのまま獣の神の名を以て王を名乗った。

 こうした名前にまつわる背景を理解している者は、シンクレアではほとんどいない。実際に戦った古兵か、学者や一部の魔術師といった奇特な者たちだけであろう。

「レキがベオウルフ王と血縁なのかどうかは分かりませんが、少なくとも同じ部族ではあるのでしょう」

 ならば加護の力を極めれば、かの勇者と三日三晩戦い続けたというベオウルフと同じ、あるいはそれ以上の力を得られるかもしれない。

「良かったですね、ベオウルフ王は有名ですから、残されている記録も多いですよ」

「でもでも、加護なんてどう使ったらいいか、全然分かんないデーッス。何したらいいデスか?」

「うーん……とりあえず、もう一回死んでみますか?」

「ファッ!?」

 そこから先は、正直思い出したくもない記憶である。

 加護習得のために行った、恐るべき荒行の数々。多分、自分はもうあの魔女に一生逆らえる気がしないほどには酷い目にあったと、元気が売りのレキでも思ってしまう。

 しかしその甲斐あって、力を手に入れた。まだまだ伝説に語られるベオウルフには及ばないだろう。けれど、ただの冒険者少女を、ランク5にまで押し上げるほどには、新たなる力を身に着けたのだ。

「隊長」

「おう、やっぱりアイツが気になるか?」

 レキがいつになく真剣な声音で呼ぶことに、何を言いたいのかカイはすでに察している。

 出張ってきた敵部隊の中に、明らかに異質な奴らがいる。

 その内の一人は、ウルスラが担当することとなった、同じドレイン使いの男。

 そしてもう一人は、虎獣人のような姿をした巨漢だ。

「イエス、アレはバルバドスの獣戦士デス」

 ヴェーダ傭兵団が退いた以上、もう大遠征軍に人間以外の種族は存在しない。

 そんな中で現れた獣人のような大男だが、本物の獣人種とは異なる異質な気配が漂う。手足が金色の毛皮で覆われ、尻尾も生えた姿は獣人ハーフかクォーターのような特徴の表れだが……鬣のように伸びた金髪に覆われた顔は、人がそのまま獣と化したような恐ろしい形相を浮かべている。

 正しく血に飢えた猛獣の如くギラギラ輝く赤い眼光。唸りを上げる口からは、鋭い牙が覗く。

 理性などない獣が人の姿をとったかのようだが、その手にはしっかりと巨大な戦槌が握りしめられており、自らが武器を取って戦う戦士であることだけは忘れていないのだと主張しているようだった。

 一目で分かる。フィオナから教わった通りの姿。

 あの異様な獣じみた姿こそが、かつて幾度となくシンクレア北部を襲い、恐怖に慄かせたバルバドス獣戦士団である。

「いいのか、バルバドスは同郷だろ」

「だからこそ、レキがやるのデス。ウルと同じように」

 アレを他の者に任せるわけにはいかない。

 レキにバルバドスという国に対する思いなど、特別に何も無いのだが――――大いなる獣、と呼ばれる存在の力を授かった者としては、一種の使命感のような、あるいは本能的なものを感じてしまう。

 獣の力を誇る戦士同士、どちらが強いのか。どちらがより、王に相応しいか。

 バルバドスが滅び去っても尚、その決闘を求める血は受け継がれていた。

「そんじゃあ、頼んだぜ。しっかりやれよ!」

「イエーッス!」

 弾けるような笑顔をカイに向けてから、レキは先頭から飛び出し駆け始めた。

 両手に愛用の大型武器を握りしめ、草原を駆け抜けながら、唱える。

戦獣顕現レクスベルム――――『不滅霊獣ベオウルフ』ッ!!」

 刹那、レキの体を駆け巡るのは莫大な生命力の奔流。

 それはこれより何年もの時をかけて成されるはずの成長を、今この瞬間にもたらす。戦いの時は来たれり。ならばこそ、その身を最も戦いに適したものへと変えるのだ。

 まだまだ小さな少女の体は、メキメキと不穏なほど大きな軋みを上げながら変貌を遂げる。手足は一気に伸び始め、体に纏う筋肉量が波打つように増加してゆく。

 急成長を遂げる体に、着用していたベルト類は弾け飛び、辛うじてシャツとホットパンツだけが伸縮性の限界ギリギリで耐えていた。

 逞しく発達を遂げた胸筋と背筋に加え、元より大きな胸はさらに膨れ上がり、今にもシャツを突き破らんばかりのサイズに届く。骨盤が広がり、二回りはサイズアップした下半身を覆う短いホットパンツは、その腰元から窮屈そうに白銀の尾が飛び出した。

 狐獣人もかくや、というほど立派な大きく豊かな毛並みの尻尾が地面を叩けば、その柔らかな見た目に反して、強烈な衝撃波を起こしてレキの体を宙へと跳ね上げた。

「GULULU、GaAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

 宙を舞いながら放たれる咆哮は、本能的に人に恐れを覚えさせる威圧感を伴っている。

 遥か太古、原始の時代。人がまだ、獣の脅威に怯えていた頃を遺伝子から想起させるほどに強烈な。

 けれど、その殺意を向ける相手はこの目に映るもう一人の獣。

 白染めとなり長く伸びた髪と、大きな獣耳を風に靡かせて、大人の姿へと成長しきったレキは眼下の敵を睨みつける。真っ赤な闘志に燃え盛る、真紅の瞳で。

「私の名はレキ・ベオウルフ。どちらが王に相応しいか、勝負しましょう」

 成熟した美貌に、好戦的な笑みを浮かべて――――決闘相手へ向けて、レキは両手の武器を振り降ろした。




「レキ、ウルスラ……加護を使ったのですね」

 今ではすっかり馴染みのある、二人の強い魔力の気配を敏感に察知したフィオナは、つい視線を向けてしまう。

 ここからでは、目を向けたところで何も見えはしないというのに、まだまだ未熟な二人が切り札を切ったことで、柄にもなく心配する気持ちが湧いてしまったようだった。

 そんな二人が相対するのは、何の因果か同じ力を持つ同郷の者であるらしい。似て非なる魔力の気配だけで、そう察するには十分である。

「これも一つの試練というもの。頑張ってください」

 こういう時は、師としてはもう祈ることしかできないのだと、フィオナは知っている。自分の師も同じことをしていたから。

 ならば、自分は自分の戦いに集中するべき。

 すでに戦場は圧倒的に帝国軍優勢。ヴェーダ傭兵団が撤退どころか、寝返ってこちら側についたのだ。ただでさえ犠牲を重ねてどうにか戦線を持ちこたえさせていた十字軍機甲騎士団も、これには参ったようだ。

 プリムが敵エースを討ち取ったことで、暗黒騎士団もさらに勢いづいて攻勢を強めており、ほとんど敵陣を喰い破ったも同然だ。

 周囲では敗走同然に本陣へと慌てて退いていく敵部隊も目につくようになってきた。実質的にこの戦線はもう総崩れである。

 故にフィオナは付近よりも、敵本陣のある小高い丘へと目を向けた。

 最後の抵抗とばかりに急造の野戦築城でちょっとした砦と化している本陣の丘だが、やはりその最大の守りは『聖堂結界サンクチュアリ』である。

 小さな丘を全て囲うように展開されている結界は、攻め入るには非常に厄介だ。正攻法で仕掛ければ、これほど優勢を取りながらも、数多くの犠牲を強いられることとなるだろう。

「これ以上はもう、あんな女に振り回されるのは御免ですし――――」

 学生時代の顔見知り。それ以上でも、以下でもない、極々薄い関係性。

 けれどガラハド戦争で随分と面倒をかけさせられて以降、その女はクロノにとって厄介な敵となり続けた。

 そして最終的には、ネロを誑かして使徒覚醒。ネオ・アヴァロンなんて馬鹿げた反逆に、大遠征軍なんて大軍まで起こさせた。

 ガラハドで殺していれば、ここまで大事にはならなかったかもしれない……そんな後悔をクロノにさせるのも、今日でお終いだ。

「――――もう逃げ場はありませんよ、リィンフェルト」

 傾国の聖女を、今度こそ確実に始末するために、フィオナはここにいるのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] 読み返すと、ウルスラがアルゴノートに残った時にフィオナの炎龍化と似た性質を持ってると書かれているのに気付いた。なるほど、あのときウルスラは霧化してたってことなんすね
[良い点] 加護…ここまで来ても、全くの未知数ですね。獣人ではない人間をわざわざ獣人擬きにする理由が良く分からない。純粋な獣人を強化した方が強いはずなのに。そもそも、何故獣人のいないアーク大陸に獣の神…
[良い点] 群像劇でよき [一言] 20数話溜めて、まだ終わって無かったどころかネロにも辿りついてないとは…ネオアヴァロン戦はあと30話はかかるな
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