第994話 レーベリア会戦・ドーピング
「淫魔の力を高めるお薬があるのですが、使ってみませんか?」
一体、何を言っているのか。プリムはすぐに言葉の意味を理解できなかった。
だが幸いにも、考える時間は十分にあった。帝国の最大火力を誇る魔女が、自ら時間を作ってくれたのだから。
「なんだよクソォ、メチャクチャ撃ちやがってぇ!」
久しぶりに握った『火矢』連射用の短杖『スピットファイア』で、火球を乱れ撃つ。その数、連射速度、そして何より爆発の範囲と威力が、ただばら撒くだけで高機動型にカスタムされたガシュレーを翻弄する。
爆風の隙間を縫うように回避をしながら、フィオナに対して反撃を試みようとはするが、それも一手遅れてしまった。
「素早い相手には、この手に限りますね――――『岩山巨盾』」
草原を割って突き立つのは、荒々しい岩壁が剥き出しとなった断崖絶壁。上級とはいえ、単体用の防御魔法とは思えぬ範囲と高さ。
ガシュレーもその発動に気づいた瞬間、全力で効果範囲から逃れようとブースターを噴かせたが、崖がそそり立つ方が早かった。範囲ではなく単体の魔法を選んでいるのは、その発動速度の早さが故。そして必要な範囲は、自らの魔力で補う力技である。
素早い相手を捕えるための、即席牢獄をフィオナは作り上げたのだ。
ガシュレーを囲うように突き立った円筒形の塔、高さはおよそ10メートル。常人なら脱出は不可能だが、機甲騎士でエースを張れる精鋭ならば、ブーストジャンプでも崖登りでも、幾らでも出られるだろう。
「えい」
ヤル気の感じさせない掛け声と共に、左手にした『ワルプルギス』を振るえば、完成した岩の塔の天辺が崩落した。天井を形成するよりも、自ら崩落させて塞いだ方が早いのだ。
巨大な破片が折り重なるように引っかかり、岩の天井と化して、完全にガシュレーをその内へと閉じ込めた。
「それでは、話の続きといきましょう」
このまま煮るなり焼くなり、それこそ『火神塔』のように内部へ火属性魔法を発動させれば、容易く殺せるだろう。けれど、それではわざわざ出張った意味はない。
ただ苦戦している味方を援護する、というためだけにフィオナは後衛から必要以上に動くような真似はしない。ヴェーダ傭兵団が全面降伏したことで戦況に余裕が生まれこと、そして以前から試してみたかった実験を行うのに、今がベストなタイミングであること。
そんな理由によって、フィオナはプリムを助けに来たのであった。
「お薬、飲みますか?」
ゴソゴソと三角帽子を漁ってフィオナが取り出したのは、小さな小瓶だ。親指ほどのサイズで、飲めば一口であろう。
中身はミルクのような質感をした、薄紅色の液体。だが高い魔法の力を宿すことを示すように、桃色がかった光が灯っている。
少なくともプリムには、このような見た目のポーション類に見覚えはない。
怪しい。如何にも怪しい飲み薬。そもそも魔女が差し出す薬など、そういうモノだというのは童話では定番の話だ。
「飲むと、どうなるのですか……」
「強くなります」
何が、とまでは問えなかった。
明らかに苦戦している自分に対して差し出すのだから、何かしら戦闘能力の向上が見込める効果があるのだろう。それがパワーかスピードかは分からない。
いや、わざわざサキュバスの力を高める、と明言しているということは、恐らく魔力に対する強化なのだろう。
突撃してからずっと、後先顧みずひたすら全力で目の前の敵を撃ってきた。その疲労感は、ガシュレーという敵エースを相手にしたことで、無視できないほど表面化している。
古代鎧は、現代の量産型とは根本的に異なる。リアクターによる画一的な出力に留まらず、自身の魔力に応じて出力上昇させることが可能だ。少なくとも『ケルベロス』にはそういう機能が搭載されている。
それのお陰で、加護を授かってから少しずつ魔力量が上がっているプリムは、より『ケルベロス』の性能を引き出して戦うことが出来ていた。
けれど自身の魔力による強化に頼りすぎていたかもしれない、と反省すべきだろう。もう少し自制できていれば、ガシュレーのような強敵と相対した時に息切れするような無様は晒さず済む。
もっとも、本人が高い実力を持ち、さらにその上で機甲鎧を装着しているガシュレーは、明らかにプリムよりも格上だ。万全の状態で挑んだとしても、勝負の結末は変わらない。
「自分で勝ちたいのでしょう?」
問いかけるフィオナの黄金の瞳は、物言わぬ人形を見つめるように感情の浮かばぬ無機質な輝き。プリムの意志など関係ない。人形を人形のまま扱う、当たり前の感覚。
いいや、この魔女はきっと、本物の人を相手にしてもこうなのだ。いちいち他人の顔色など窺う必要はない、その超然した態度がなければ、平気な顔で魔王の隣に立つことはできないのだろう。
「……飲みます。それで勝てるのならば、飲ませてください」
「はい、どうぞ」
勿体ぶることもなければ、覚悟を問うこともない。拍子抜けするほどさっさと投げ渡された小瓶を、プリムは確かに受け取った。
「一気に飲んでくださいね」
「はい……」
そんな念押しをされなくとも、一息に飲み込むつもりだ。うっかりむせて貴重な薬品を無駄にするワケにはいかない。
飲むと決めたからには、ただホムンクルスらしい合理的な思考でプリムは臨んでいる。
「兜解放」
ギギギ、と軋みを挙げて狼のような兜の、口が開く。一口飲むだけで済むのだから、兜を全て外す必要はない。
古代人が何を思ってこのギミックを搭載したのかは知らないが、開いた狼の顎の奥で、プリムは小さな口を開けて薬を煽る。
やけにドロリと濃厚な質感の液体が、突き出された赤い舌の上に滴り――――ゴックン、と飲み込んだ瞬間、
「んおッ! ほぁあああああああああああああああああああああああああああああっ!!」
飛んだ。
飛ぶ、としか形容できない感覚に襲われる。
遥か彼方へ飛んで行ったのは、意識か理性か。そして理解する。ぶっ飛んで行った先は天国。すなわち、神の住まう楽園。
プリムにとっての神は、淫魔の神ではない。自らの存在理由である主、魔王クロノ。
今、プリムはクロノの寵愛を一身に受けられる天国へと辿り着いた――――と、本気で信じられるほど頭はトリップしていた。
「やはり、淫魔の適性を持つ者には効果は抜群ですね」
鎧の中で、痙攣するように身悶えしながら、絶頂したような嬌声を上げているプリムの姿が、乱れに乱れた魔力の気配から、ありありとフィオナには想像できた。
装着者たるプリム自身の異変によって、『ケルベロス』は一時的にシャットダウンされ、自己修復プログラムに従って再起動しようとする最中。お陰で、プリムの狂ったような声が外に漏れることもないが、本人はそんなことを気にする余裕など欠片もなかった。
「コォオオオ……ハァアアアア……」
数十秒の後、再起動が完了し再び『ケルベロス』は動き出す。
「さて、気分はどうですか?」
「ご主人様ぁ」
その甘ったるい呼び声は、決して自分に対する返事などではない、といくらフィオナでも理解できる。
「イッパイ、です。プリムの中、ご主人様で」
「うーん、これは分量を間違えてしまったかもしれませんね」
魔女として、薬品調合にも精通しているフィオナは、素材の価値、というのをよく知っている。
まだ魔法が現代魔法として確立されるよりも、遥か昔。それは古代よりもさらに以前の原始の時代にまで遡っても、存在したであろう古き魔の術。その最古の魔術で用いられた素材として、人の体液は筆頭に挙げられるべきだろう。
祝いせよ呪いにせよ、人の体から流れる液体は、様々な用途に用いられてきた。中でも特別視されるのは、常人とは異なる人に由来するモノ。体力、魔力、あるいは美貌。種の特徴に反した特異個体。抜きんでた人物から得られる素材は、現代においても得難い希少品とされる。
ならば現代の魔王、クロノの体液の価値は如何ほどか。
それを最も理解できる者は、クロノの血を飲んだ吸血鬼ルドラ。それに次ぐのがフィオナであろう。
たった一口で全盛期の力を取り戻した吸血王子の実体験には及ばないが、フィオナは知識として希少素材の価値を知っている。
故に無駄になどしない。婚約者たる自分には、魔王から搾り取る機会など幾らでもある。これまでも、そしてこれからも。
「いくら淫魔相手とはいえ、劇薬に過ぎましたか。それとも――――」
淫魔に作用する人の体液といえば、一つしか有り得ない。魔術とも言えない、種に備わった当然の捕食行動なのだから。
ならば、淫魔としてプリムは飢えていたと言えるのだろう。その身はいまだ清らかな乙女。
されど醜い欲望の設計によって、幼い肉体に成熟した性器を宿す、歪なカラダ。一目見たリリィが、唾棄すべき失敗作として処分しようとしたほど。
生まれながらの性処理人形が、人らしく生きることを望まれ、救われ、それを与えてくれた男を盲目的に信仰し、求め、欲した。
「――――よほどの淫乱なのでしょう」
その肉体と、一方的に募る思いと、淫魔の加護。
暗黒騎士として過酷な鍛錬と戦場での実戦でもやっていなければ、どうにかなってしまいそうなほどの欲求不満が、魔女の手により、いきなりゴールだけさせられたようなものだ。
愛する男の精をその身に取り入れる、という到達点に至ったことで、プリムは劇的な魔力反応を引き起こした。
「欲しい。もっと、ご主人様が、欲しい……」
「――――『聖痕』解放ぉ!!」
色濃い白色魔力の圧力と共に、突き立つ岩の牢獄が破られる。聖痕の刻まれた拳で、分厚い岩肌をバキキバキと砕き、青白いオーラを纏ったガシュレーが出でる。
「ちっ、こんなヤツ相手に使う気はなかったが……あの魔女がいるなら、仕方ねぇ」
すでにガシュレーは獲物をフィオナへと定めている。魔術師など、距離を詰めてしまえば格闘戦のプロである自分ならどうとでも、と思っているが、この魔女についてはその限りではない。
間違いなく自分より格上。その綺麗な涼しい面だけで、クロノが傍に置いているだけの情婦などではない。帝国軍の最大火力。そんな大仰な二つ名も嘘ではないことを、嫌でも実感させられる。
「この死に損ないの命一つでテメーの首が獲れんなら、安いもんだぜっ!」
自分の本当の居場所である、『トバルカイン聖堂騎士団』はすでにない。長年、大陸を放浪してきた身だが、それも帰る場所があればこそ。
信仰心はあれど、守りたかったモノ全てを失った。そんな自分がおめおめと生き恥を晒しているのは、僅かでも武功を上げなければ、先に散った仲間にあの世で顔向けもできないから。
ガシュレーは死に場所を求めて、戦場に立っている。ならば、目の前のこの魔女は命を賭して挑むに相応しい。
「ああ、そういえばこの人、聖痕持ちでしたっけ……まぁ、ちょうどいい相手じゃないですか?」
強い殺気が突風のように吹き付けてくるのを素知らぬ顔で、フィオナは甘い声音で唸るプリムを眺める。
折角、薬で強くしてあげたのだ。この程度の敵は倒してくれないと、薬の、クロノ由来の希少素材の価値には見合わない。
それに少しは戦場で活躍してもらわなければ、今後のプリムを利用する計画にも支障が出てしまう。
「クロノさんが欲しければ、戦ってください。汝の欲するところを行え、と淫魔の神も言っていますから」
「欲しい、欲しいです、プリムはご主人様が――――」
欲望の全肯定。普段は抑制された思いが、神の許しをもって解き放たれる。
プリムの求めるモノ、欲望を叶えるための力は、今この身に宿っている。故に、求めれば、与えられる。
「欲しい――――『鎧の乙女』」
纏った古代鎧の奥底で、プリムの淫紋が輝く。
薬によって取り込んだクロノの魔力と淫魔の神よりもたらされる力、二つが溶けあったエーテルは、『ケルベロス』を劇的に変貌させる。プリムが求める力を、顕現させるために。
ウォオオオオオオオオオオオオオオン!!
獣の咆哮が轟く。
事実、『ケルベロス』そのものが狼獣人のような姿へと変化している。装甲の下から膨れ上がった超密度エーテル体の人工筋肉によって、その体格が拡張される。
逞しくパンプアップされた手足だが、その胴には大きく膨れた胸と、しなやかな腰のラインを描き、女性的な体の特徴が強く顕れていた。
「これは『戦闘形態』と同じ……なるほど、『ケルベロス』にも同じ機能があるようですね。流石は古代鎧、不思議な機能がいっぱいです」
フィオナの呑気な感想をよそに、ガシュレーは嫌でも形態変化したプリムへと注目せざるを得なかった。
聖痕を使わずとも圧倒できた相手が、今はランク5モンスターのような威圧感を発しているのだ。これではもう、一足飛びに魔女を狙える余裕はない。
「ちっ、コイツも奥の手は隠し持ってたってのかよ。なら、まずテメェから片づけるだけだっ!!」
先に動いたのはガシュレー。
いや、後から一歩を踏み出したはずの、プリムの方が早い。
地面を蹴る脚力が、体を飛ばすブースター出力が、桁違いなのだ。
「ぐぉおおおっ!」
想像以上の速さで間合いを詰め寄られ、痛烈な先手を受ける。
プリムが手にするのは、ただ一本の大型バトルアックス。自らの力を純粋な威力とする、近接武装だ。
ガシュレーのような格闘タイプ相手には不利となりかねない長柄武器はしかし、パワーとスピードに勝る今のプリムには一方的に攻められるリーチの強みが活きる。
武技の威力はない。しかし直撃すれば鎧ごと両断されそうな強烈な斬撃が、力任せに振るわれる。
縦、横、斜め。基礎的な振り方しか身に着けていないことはプリムの動きから明らかなのだが、それを補うのが大胆なブースター加速と細やかなスラスター制御である。
機甲鎧のブースターがあれば地に足をつけずとも自在に加速を行い、各部のスラスターはどんな状態からでも姿勢制御を安定させる。
生身であれば圧倒的にガシュレーの方が強い。だがしかし、機甲鎧を操る技量はプリムの方が上。理性が飛んだ暴走状態にあっても、自らが完全に一体化を果たしかのように、その操縦に一切の乱れはない。
「くっ、クソがぁ――――『疾風螺旋脚』!」
赤いオーラと白色魔力の双方を凝縮させて繰り出す、蹴りの武技はしかし、同じように身を捻って繰り出されたプリムの回し蹴りに弾かれる。
鍛え上げた自慢の武技さえも、単純な力に負ける。技量を凌駕する純粋な暴力を前に、力のみを頼りとしてきたガシュレーに抗う術はない。
ならば、逃げるか。
いつかクロノ相手にしたように、『朧残身』で分身を作り離脱――――その選択肢が浮かんだと同時に、思ってしまった。
今更、どこへ逃げるのか、と。
「捕まえた」
その迷いが隙となり、右腕がプリムに捕まれた。
腕力に勝る相手に掴まれれば、もう逃げる術はない。振り払って脱するのは不可能。
そして今まさに、振り上げられたバトルアックスの刃が落ちてこようとしている。
「ォオラァアアアアアアアアッ!!」
反射的にガシュレーが放つのは、蹴り。一点集中、狙い済ました精度を重視する一撃。
機甲鎧を纏うのはガシュレーとて同じ。ブースターとスラスターを巧みに扱い体を跳ね上げ、右腕を掴まれた体勢から狙い通りの蹴りを放った。
その足先が撃ち抜いたのは、バトルアックスの石突。ピンポイントに蹴り込まれた衝撃に、プリムの手から斧はすっぽ抜けて行った。
「逃がさない」
しかし、それがどうした、と言わんばかりに武器を失った手でそのまま掴みかかる。
『ケルベロス』の巨躯に両腕で掴みかかられたガシュレーは、さながら熊に襲われた猟師も同然だ。
「ぐっ、がぁあああ……」
メキメキと体が引き裂かれてゆく感覚。事実、武器などなくとも、このまま力だけでガシュレーを八つ裂きにするができるだろう。
防御系武技で体を硬化させたところで、一時凌ぎにしかならない。必要なのは、守りではなく、攻め。
死中に活を求めたガシュレーは、己の身を顧みぬ最後の一撃に賭ける。
「コォオオオオ――――『戦血波濤拳』ッ!!」
その技は、拳ではなく頭で放たれた。
両腕を掴まれた状態、拳など振るえるはずがない。自分よりも大きな体格と化したプリムに上から抑えられるような力が加わるせいで、踏みしめた両脚から蹴りを繰り出すこともできなかった。
満足にこの身で攻撃へと使える部位は、もう頭しか、頭突きを繰り出すしか残されていなかったのだ。
しかし相手に掴まれたこの距離だからこそ、頭突きも当てられる。回避はない、必中の一撃。
無茶な出し方をした技の反動で、頭部にどれだけの負荷がかかるか分かったものではない。しかし頭が割れようとも、この一撃は意地でも通す。
ガヅンッ!! と強烈な金属音を立てて『ケルベロス』の腹部にガシューレの額が叩きつけられる。何の意味があるのか、鎧なのに大きく膨らんだ乳の部分は避けた。デカい分だけ衝撃が吸収される可能性が高い。そうでなくても、胸部装甲は最も厚く作られているものだ。
そうして狙い違わず額は胴のど真ん中へと叩きつけ、武技の衝撃波と、そしてそこから続く怒涛の如き魔力の奔流をゼロ距離でぶつけることで、一撃で内部までの浸透を狙う。
「死ぃねぇやぁあああああああああああああああああ!!」
己の魔力を全て込めるように、『戦血波濤拳』が炸裂する。
手ごたえあり。この一撃は分厚い鎧の守りを超えて、中までその威力を届かせた――――
「――――緊急離脱」
刹那、鎧が開く。
凶悪な狼のような頭が開かれ、真ん中から胸元と腹部にかけて割れる。
ガシュレーが最後の一撃を叩き込んだ鎧の中には、もう誰もいない……否、すでに抜け出していた。
「く、そ……」
技の反動で割れるような痛みの頭痛で歪む視界の中、見上げた先には天使のように愛らしい幼い少女の姿が映る。
年端も行かぬ小さな少女だ。けれど不釣り合いなほどに大きな胸と、男を誘うような腰つきをした、異様な少女。
戦場の風に煌めく銀髪をなびかせて、ギラギラ輝く強烈なショッキングピンクに光る瞳で、プリムは血濡れのガシュレーを見下ろした。
その小さな手で、拳を握りしめながら。
「この俺が……こんな、ガキに……」
鎧の中にいたのが、こんな小さな女の子だったとは。あの世でいい笑い者だ――――最後にそんな悔いだけが残った。
「パイルバンカー」
漆黒の魔力と桃色に煌めく淫魔の力が入り混じった、プリムの拳が振り降ろされる。
すでに割れていたガシュレーの額へ炸裂。インパクトの瞬間に、拳から濃密な混合魔力が解放され、頭蓋ごと脳を木っ端微塵に吹き飛ばした。
「やっと、できた……ご主人様と、同じ技……ふふっ」
鮮血と脳漿に塗れたその手を、プリムは淫魔に相応しい蠱惑的な微笑みで見つめていた。