ヌヴェル16 花は好きですか
「植物の中には、会話する植物がいるんですよ。野生のタバコ属ニコチアナアッテヌアタは、毛虫が葉を食べにやってくると、揮発性化合物を生成してオオメナガカメムシ属の虫に助けてくれって伝えるんです。すると、虫たちがやってきて、毛虫を退治してくれるんですよ。まあ言葉を発しているわけではないですが、ちゃんと意思を伝えている。すごくないですか?」
私は、マッチングアプリのサポートアプリ“花は好きですか”を運営している町のしがない花屋の店主である。
男性カスタマーの中には花を愛でる女性を好む人が一定数いて、そのカスタマー向けに対象女性の情報として花の好きレベルを伝えるのが私のアプリの特徴である。
その情報を希望する女性が、時折私の店に訪れる。
私は特にテストをするわけでも、アンケートをとるわけでもなく、ただなんとなく店の花を眺めながら花や植物について会話を楽しむ。
会話の最初は、「花は好きですか?」
会話の締めくくりは、「花は嘘をつかない。そこが好きなのです」
会話の後、私は秘策を使って、その女性の花の好きレベルを決定する。その精度は高く、殆どの女性からクレームを受けたことがない。大抵は納得していただけている。時折ヒステリックに文句を言ってくる方もいらっしゃるが、それはほんの一握りだ。
今日も、「花は好きですか?」で始まり、花や植物についての蘊蓄を語り、「花は嘘をつかない。そこが好きなのです」という言葉で締めくくり、後日結果を伝え納得いただけたらアプリにアップロードする旨を伝え、女性カスタマーを見送った。
「どうだった?」
「合格だね。採点は、これから分析してつけるけどね」
「いつも、ありがとう。あっ、お水換えるね」
店の片隅で聞き耳をたててくれていた、その花が私の秘策だ。
会話する植物。
言葉を発して。
花は嘘をつかないとつくづく思う。
参考文献 ビジュアルで学ぶ木を知る図鑑 著者 セルジュ・シャール 株式会社グラフィック社




