スキャンダル
首相は爆笑していた。
執務室のモニターには芸能人・大沢連のスキャンダルを報じる様子が映っていた。
真顔のKが記者に向かって話している。
フラッシュが点滅している。
『極悪不倫!!!!! 相手は女優M.A.!!!!!』
騒々しい真っ赤な見出しが画面右上に書かれている。
右下では、ワイプの中に収まった女性が手話の通訳をしている。
執務室の大モニターでは全てが大げさに見えた。
首相は涙を拭う。
笑いすぎて腹が痛い。
しばらく落ち着いていたが、Kが頭を下げたとき、再び笑いが込み上げてきた。
吹き出した。
小一時間それが続いた。
番組が終わり、笑いの余韻に浸っていると、スマホが鳴った。
「もしもし」
「お久しぶりです」
馴染みのある声だった。
「ああ、久しぶりだね、大沢くん。今日は最高だったよ」
「ほんとですか!?」
「ほんとほんと。特に謝罪の時の顔が良かった。
あと背中の曲げ具合ね」
首相は笑った。
「一ヶ月も稽古したんですよ。大変だったなあ」
「そんなにか」
「ディレクターが中々納得しなくて、何度もやり直しをさせられたんです。
記者の役の人もかなり疲れてましたよ」
「彼は仕事熱心だからね。そういえば、ドラマの出演が決まったって?」
「はい! ほとぼりが冷めてからですが、ゴールデンの主演に抜擢されました!!」
大沢は早口で喋った。
「そうか。めでたいね」
「先生のおかげですよ! またお願いします!」
首相と大沢連は、それから数十分ほど話した。
二人は二十年ほどの仲で、この番組への出演も首相の力添えがあったのだ。
電話を切った。
SNSを見てみると、批判の声が飛び交っていた。
首相は笑った。
「失礼します」
ドアの方から声が聞こえた。
秘書が入ってきた。
「どうした?」
「今回も最高でしたね」
彼女は答えた。
「君も好きだね。良い番組だが」
「国民は見事に騙されてますよ」
「ああ、これで憂さ晴らしでもしてくれれば、政治への不満も減るだろう」
「政治家がプロデューサーなんて、前代未聞ですね」
秘書はそう言うと、首相の目を見つめた。
「私は企画しただけだよ」
「ほんとですかー?」
秘書は小さく微笑んだ。
半歩だけ、首相に歩み寄る。
テレビは女性向けの恋愛ドラマに変わっていた。
大げさな女優の演技が部屋に響いた。
夜の静けさが二人を包む。
首相は立ち上がり、秘書の肩を掴んだ。
そこから腕、肘へと指を動かし、彼女の手を握った。
口づけをした。
穏やかな香水の香りが鼻に触れた。
彼女の鼻息が顔を撫でた。
首相はその手を、彼女の尻に回した。
「ここで?」
大きな瞳が首相を見つめる。
「誰も見てないさ」
「いけない人」
二人は唇を重ねる。
執務室の明るい照明の下、男女が絡まり合っていく。
秘書が入ってきたドアは半開きだった。
黒光りする何かが、そこから除いていた。
シャッターが押される。




