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スキャンダル

作者: 谷 風汰
掲載日:2026/07/09

 首相は爆笑していた。

 執務室のモニターには芸能人・大沢連のスキャンダルを報じる様子が映っていた。

 真顔のKが記者に向かって話している。

 フラッシュが点滅している。


『極悪不倫!!!!! 相手は女優M.A.!!!!!』


 騒々しい真っ赤な見出しが画面右上に書かれている。

 右下では、ワイプの中に収まった女性が手話の通訳をしている。

 執務室の大モニターでは全てが大げさに見えた。


 首相は涙を拭う。

 笑いすぎて腹が痛い。

 しばらく落ち着いていたが、Kが頭を下げたとき、再び笑いが込み上げてきた。

 吹き出した。

 小一時間それが続いた。


 番組が終わり、笑いの余韻に浸っていると、スマホが鳴った。


「もしもし」

「お久しぶりです」


 馴染みのある声だった。


「ああ、久しぶりだね、大沢くん。今日は最高だったよ」

「ほんとですか!?」

「ほんとほんと。特に謝罪の時の顔が良かった。

 あと背中の曲げ具合ね」


 首相は笑った。


「一ヶ月も稽古したんですよ。大変だったなあ」

「そんなにか」

「ディレクターが中々納得しなくて、何度もやり直しをさせられたんです。

 記者の役の人もかなり疲れてましたよ」

「彼は仕事熱心だからね。そういえば、ドラマの出演が決まったって?」

「はい! ほとぼりが冷めてからですが、ゴールデンの主演に抜擢されました!!」


 大沢は早口で喋った。


「そうか。めでたいね」

「先生のおかげですよ! またお願いします!」


 首相と大沢連は、それから数十分ほど話した。

 二人は二十年ほどの仲で、この番組への出演も首相の力添えがあったのだ。

 

 電話を切った。

 SNSを見てみると、批判の声が飛び交っていた。

 首相は笑った。


「失礼します」


 ドアの方から声が聞こえた。

 秘書が入ってきた。


「どうした?」

「今回も最高でしたね」


 彼女は答えた。

 

「君も好きだね。良い番組だが」

「国民は見事に騙されてますよ」

「ああ、これで憂さ晴らしでもしてくれれば、政治への不満も減るだろう」

「政治家がプロデューサーなんて、前代未聞ですね」


 秘書はそう言うと、首相の目を見つめた。


「私は企画しただけだよ」

「ほんとですかー?」


 秘書は小さく微笑んだ。

 半歩だけ、首相に歩み寄る。

 テレビは女性向けの恋愛ドラマに変わっていた。

 大げさな女優の演技が部屋に響いた。


 夜の静けさが二人を包む。

 首相は立ち上がり、秘書の肩を掴んだ。

 そこから腕、肘へと指を動かし、彼女の手を握った。

 口づけをした。

 穏やかな香水の香りが鼻に触れた。

 彼女の鼻息が顔を撫でた。

 首相はその手を、彼女の尻に回した。

 

「ここで?」


 大きな瞳が首相を見つめる。

 

「誰も見てないさ」

「いけない人」


 二人は唇を重ねる。

 執務室の明るい照明の下、男女が絡まり合っていく。

 

 秘書が入ってきたドアは半開きだった。

 黒光りする何かが、そこから除いていた。

 シャッターが押される。

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