第3話 バッドエンドのその先の話
私はすっかりと人生の日課になったお見舞いに今日も来ている。元カレから刺されそうになった高校卒業式の日から気付けば二年近い月日が流れていた。現在の私は大学二年生だ。
「瑛人、今日も来てやったわよ」
私は返事が返って来ないとは分かっていながらそう口にしつつ、いつものように買ってきた花を昨日買ってきた古い花と差し替えて花瓶に入れる。あの日、私は別れ話がきっかけで逆上した元カレに殺されてもおかしくない状況だったが、そうはならなかった。
それは瑛人が命懸けで私を庇ってくれたからに他ならない。私と瑛人のことを学内で見かけたことはあったがそれまで一度も話したことはなかったし、同じ学年であることすら知らなかった。そんな見ず知らずの私を瑛人は命懸けで助けてくれたのだ。
恵まれた容姿のおかげで相当モテており天音はずるいなどと周りからはよく言われていたが、好きで付き合っていた相手なんて誰一人いなかった。指一本触れさせないくらい壁を作っていたため、多分今まで付き合ってきた相手もそれに気づいていたのだと思う。
そのため付き合った相手とは誰一人として長続きしなかったのは当然であり、あの日別れ話をして逆上した元カレもそんな相手の一人だった。
そんな私が生まれて初めて好きになった相手が瑛人だ。命懸けで助けられて惚れてしまうという、使い古されたいかにも恋愛漫画のような理由だが、それが紛れもない事実だった。
そんな瑛人は私を庇って代わりに刺されたあの日からずっと眠ったままだ。何とか一命こそ取り留めたものの、意識不明のまま眠り続けていた。大量出血で一時心肺停止し、蘇生はされたが低酸素脳障害が残ったことが原因らしい。そんな瑛人が目覚めるのを私はずっと待っている。本人に直接あの日助けてもらったお礼を言いたかった。
「だから早く目覚めなさいよね」
瑛人がいつ目覚めても大丈夫なように私は大学が終わってから欠かさず毎日この病室を訪れている。最初は瑛人のことがもしかしたら好きかもしれないというくらいの気持ちだったが、何度も足を運ぶうちに間違いなく好きであることを確信した。
そして、その気持ちは日を増すごとに大きくなっている。それは私と同じように病室を訪れていた瑛人の友達から、色々と彼の話を聞いたことも大きく関係していると思う。瑛人は昔から困っている相手を見過ごせないタイプだったらしい。
つまり私はただ助けられたからという理由だけで惚れたのではなくて、瑛人の人となりまで知った上で好きになったのだ。だから大学生になってからも相変わらずモテているが、告白に関しては全て断っている。
好きでもない相手と付き合っても上手くいかないことは既に分かっているし、そもそも瑛人を好きになってしまった時点で他の誰かと付き合う気は一切なかった。
そんな瑛人に対する好きという気持ちは私の一方通行でしかない状態だ。だが、目覚めてくれないとそんな一方通行の思いすら本人には伝えられない。
「でも、告白するにしろまずは自己紹介からよね」
今まで私が同じ学校で同じ学年だったにも関わらず瑛人のことを全然知らなかったように、瑛人も私のことを恐らく知らないはずだ。
好きになって告白までしようと思っている相手に初めましての自己紹介をするのは順序としてはおかしいような気もするが、恋なんて色々な始まり方があるらしいので別に構わない。そんなことを考えながら私はいつも通り大学であったことを一方的に話し始める。
お見舞いのためにここに通うようになってから遊びの誘いなどは断りがちになっているため、事情を知らない友達からは昔と比べて付き合いが悪くなったと思われているかもしれない。
だが、私の事情を知って理解してくれている友達に関してもちゃんといる。だからその辺りについてはあまり気にしていない。
「じゃあ、また明日」
私はいつものように面会時間ギリギリまで話したいことを一方的に話してから病室を後にする。私は今後もこの時間が続くと思っていたし、瑛人が意識を取り戻すような明るい未来がやってくると思っていた。
だから私は瑛人が二年前に事件が起きた同じ日の同じくらいの時間帯に、一度も目覚めることなく合併症が原因で息を引き取ってしまったと聞いた瞬間、この世界があまりにも残酷であることを思い知らされた。




