◼️ 第1話(β1.2)ー 日本壊滅計画の始まり ー B43沖縄沖海底投下作戦
【Sep. 3, 2004 ClA(Central lunatic Agency)Jacov Kaplan PhD.による独白】
昔から米国にはDS(闇の政府組織)が暗躍しているという噂が絶えない。それも当然だ。表の政府組織が一枚岩でないように、闇の政府組織も一枚岩ではない。財閥系、軍産系、宗教系、移民系…キリがない。それらが時に協力し、時には牽制しながら暗躍する為、情報がリークされ計画の秘匿性や活動が台無しになることもある。私もかつてその一員だった。
しかし、それら多くのDSでも一致している見解があった。
――日本国は米国の一つの州として併合されるべきだ――
そのためには、日本国が一度壊滅的な災害に巻き込まれ、瀕死状態になったところを米国が保護管理下に置き、最終的に併合するというシナリオが良い。問題は日本国をどうやって壊滅状態に追い込むか、だ。私も昔はこの計画に一生を捧げるつもりで心血を注いだ。
私は終戦直前ドイツの収容所から救い出され、米国へ亡命することで祖国も家族も失った。その私の目に、神道という奇妙な宗教に守られ、終戦の焼け野原から立ち直る日本国人が映った。
この時ほど耐え難い違和感を覚えたことはなかった。誤った神を信仰する国が復活するなど許されるわけがない。
私は博士号を取得し、ClA(正式には Central lunatic Agency)の一員として活動を始めた。
私の所属していた移民系DSの上層部は私と志を同じくしていたが、感情故か他の組織に先駆けて狂気じみた計画を立案した。
確か…1962年9月9日、数秘術屋どもが大はしゃぎしていた年だ。
その計画とは、太平洋で空母タイコンデロガからB43核爆弾を海中投下し、日本海溝の海底で爆発させれば日本列島を揺るがす地震と津波を引き起こせるという、普通に見れば誰が見ても馬鹿げたものだった。
彼らの妄想はメリエスの『月世界旅行』で大砲で月に行こうとするがごとく夢物語だった。意味が分からない。
…もしかして私は間違った場所に立っているのか?
私は頭を抱えた。
しかし私は科学者だ。数字は嘘をつかない。
B43は最大1.2メガトンの熱核兵器だ。だが日本海溝の深さは約26,000ft、圧力は約11,500psiに達する。3,000ftを越えれば外殻ごと押し潰れ、制御回路は破断する。核の心臓部、爆縮レンズも極めて精密で、わずかな歪みでも正常に作動しない。深海に沈めれば塩水や圧力で配線や爆薬は腐食・劣化し、点火用熱電池は短絡し20年を待たずして寿命を迎える。
2004年の今となっては、内部の塩は固着し、点火剤は劣化し、雷管は二度と蘇ることはない。
私は報告書に書いた。「深海での核爆発は成立しない。爆縮は不完全に終わり、臨界は達成されない。残骸はただの放射性ゴミとなる。」
だが上層部は愚かにも私を計画から外し、イエスマンたちだけで計画を固めた。
後ほど知ることになるがそれは1965年12月5日に本当に実行されたらしい。実行…?
本当にやったのか?
信じられない。
結果は私の想定通り。
B43は何事もなく海底に沈み、作戦は失敗に終わった。それは事故として処理され、組織からも作戦そのものが「存在しなかった」ことにされた。
私は再び頭を抱えた。
そして1989年、この「事故」が公開されると、当初の日本は大騒ぎになったがそれも沈静化した。
なのに2004年になった今も、日本の一部では陰謀論として愚かに囁かれている――
「B43は生きており、いつか爆ぜる」と。
信じられない。あの島国は、かつて皆が空想と呼んだものを、次々と現実にしている。
人型アンドロイド、ASIMO。
地球シミュレータとさえ名乗る超高性能スーパーコンピュータ。
量子暗号通信……。
私の知る限り、どれもかつては物語の中の夢物語だった。
何よりスパイカメラ内蔵のインターネット携帯電話、iモードをハイスクールの少女さえもが日常に使いこなす国だぞ?
B43はとっくに死んでいる。
しかし、彼らの中に妄想は生きている。
私は口にできない言葉を胸に三たび頭を抱えることになる。
怒りか、無力感か、あるいは理解できぬ恐怖か──理由すら分からないのだ。
了。




