エピローグ:「人間? それとも感染者(ゾンビ)?」
これにて、物語は一旦完結です!
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!!
私こと、文月愛華がPNウィルスに感染してから、数ヶ月が経った。
私は今、どこかの高速道路を歩いている。後ろには、三十体ほどの感染者を引き連れて。
右隣には順、左隣には紘人さんが並んで歩いている。
感染者は、PNウィルスによって本能が破壊衝動で支配されているため、生きるために食べることも、子孫を残すこともない。滅びを待つだけの、虚しき生き物。
だから本来なら、日本にいる感染者はとっくに全滅していてもおかしくないのだが……この人たちが、このまま死んでいくのは悲しくて。
私が食料を見つけて食べさせていた。もちろん、食べさせるには私がそうするよう命令する必要があるけど。
最も、その食料も尽きかけていて、今は探している最中だが。
この人たち――PNウィルスに感染する前の私なら、感染者にこんな感情を抱くことはなかっただろう。それは、私が感染者になったからこそ芽生えた感情なのか。
まるで、感染者の女王……いや、感染者の〝ママ〟になったような気分だ。
――今の私は、人間? それとも感染者?
「あっ、ママといえばだけどね、順!」
「お゛う゛い゛あ゛? あ゛い゛あ゛(どうした? 愛華)」
私は隣にいる順――いや、パパになる人に話題を振った。
私のお腹は、少しぽっこりと膨らんでいる。太ったわけじゃない。妊娠しているのだ。
「この子が産まれたら……人間として産まれるのかな? それとも感染者として産まれるのかな?」
時期から考えれば、私がPNウィルスに感染する前に妊娠した。だから、人間として産まれてもおかしくない。
けれど――今の私はPNウィルスに感染している。
母体の影響を考えれば、この子が感染者として産まれても不思議じゃない。
……でも、どっちでもいいと思っている。
この子がどんな姿で産まれようが、私はただ、会えるのが楽しみだ。
これは、人間としての母の情なのか? それとも、感染者になったからこそ抱く感情なのか?
――今の私は、人間? それとも感染者?
「あ゛え゛お゛い゛え゛! う゛い゛う゛い゛!! (あれを見て! 文月!!)」
「うん? どうしたの? 紘人さん」
紘人さんが何かを見つけたらしく、高速道路の下を指さした。
視線を向けると――
「人間だ……久しぶりに見るね」
遠くに男女の姿があった。
右目で見ただけでは、人間か感染者か区別はつかない。
けれど、ミッドナイトブルーに染まった左目から見れば、それが人間だと一目でわかる。
「……思い出すよね、順。感染者に襲われないように、感染者の血を服に塗ったり、感染者の動きをモノマネして擬態しようとしたけど……いつも失敗だった」
「感染者は、どんなに遠くからでも人間を見分けて襲いかかってきた。どうしてだろうって思っていたけど……今ならわかる。この左目のおかげで」
私の左目は、人間の目とは違う景色を映す。
たとえるなら、赤外線カメラのように――人間や動物は赤く光って見え、感染者やPNウィルスに感染した動物は、青く暗い色に沈んで見える。
だから感染者は、どんなに遠くからでも人間を見つけ、襲うことができたのだ。
「……もう一つ思い出したんだけどさ。あの時、ロロポートで順が言いたかったこと、今ならわかる気がする。――なぜ、PNウィルスが世界中に蔓延したのかについて」
PNウィルスは、潜伏期間が短い。各国が渡航制限を厳しくかけていたにもかかわらず、日本のような島国であるニュージーランドから世界中に広まった。それはなぜか?
今の私なら、その理由をなんとなく想像できる。
「PNウィルスを世界中に広めたのは……もしかしたら、私や紗綾のように〝耐性を持った人間〟かもしれない。片目だけ染まる程度なら、眼帯で隠して人間に擬態できる。感染者を自在に操る能力があれば、感染拡大を起こす手段なんていくらでも考えられそう……」
この世界で、耐性を持つのが私と紗綾だけとは考えにくい。
それが1000人に1人の確率か、10000人に1人の確率か、いやもっと少ない確率かもしれないが、同じような存在が他にもいておかしくはない。
そして、そいつが悪意をもってPNウィルスを人為的に広めた……目的はわからないけど。
この日本でも、PNウィルスが意図的にばらまかれたのだとすれば、数々の不可解な出来事にも合点がいく。
ワクチンを作れたかもしれない今野さんが、まるで口封じのように感染者にされたこと。
その二日後、国立感染症研究所が襲撃されたこと――あれも偶然ではないのかもしれない。
もし、本当に広めた奴がいるのだとしたら……今も、この日本のどこかにいるのだろうか。
「おい……あれは何だ?」
「きゃあああ! 感染者よ! なによ、あの数!?」
さきほどの人間の男女が、ようやく私たちの存在に気づいた。
傍から見れば、三十体以上の感染者にじっと見つめられる光景――きっと、恐怖以外の何物でもないだろう。
当然、その男女は慌てて逃げようとする。
(懐かしいな……私も順も、よくああやって逃げていたっけ?)
逃げる男女を見つめるうちに、ふと私と順の姿が重なる。
(こんな世界になっちゃったけど、二人には逞しく生きてほしいな……)
そんな思いがよぎる一方で――
(……お腹、空いたな。何か食べたい)
気づけば、左の口角からよだれがつっと垂れていた。
――今の私は、人間? それとも感染者?
本作「ゾンビに襲われて逃げ込んだ家の夫婦がまさかのゾンビ!? ヤバ! でも奥さんが人間の意識を保ったままゾンビを操れる特殊能力持ちのようで……なら、嚙まれないように操ってもらえば、安心……だよね? 私たち?」
を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
最後モヤモヤするような終わり方ですみません。
でも、ゾンビモノ、ホラー作品的としてはピッタリかも!? っと思っているのですが、読者の皆さんどうでしょうか? 「感想書いてもいいよ!」という方は、ぜひよろしくお願いいたします。
ちなみに、この朝月はラストについてかなり悩みました。
作品のキーワードには「ハッピーエンド」と「バッドエンド」の両方を設定していますが、それも読み方や見方によって変わってくるだろうと思ったからです。
……この後、愛華はどうするのでしょうかね?
続編も作ろうと思えば作れますが、そろそろ代表作の更新もしなくては……。
それでは、また代表作「異世界に転生した俺はインチキ教祖としてハッピーライフを目指す」でお会いできるのを楽しみにしております。




