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32.「ごめんね、順」

 感染者(ゾンビ)に噛まれた愛華――その運命は!?

 順に左肩を噛まれた――その直後、頭に何(・)か(・)が(・)じわじわと侵食してくる感覚がきた。


 そして――


 ズキィィィィイン!!!


(い、痛い……! 頭が割れそう……!)


 脳が焼かれるような痛み。PNウィルスが私の脳に達したんだ。

 ウィルスに侵された脳が、少しずつ壊されていく。

 意識が霞み、視界が揺れる――


 その最中、これまで歩んできた私の人生の記憶が、ゾンビのように一気に蘇った。だけどそれは、ヒビが入った鏡みたいに、触れたそばから崩れ落ちていく。

 生まれたばかりの私を見て、嬉しそうに笑っていたパパとママの顔。

 近所に引っ越してきた天川家と、順との出会い。

 順と一緒に遊んだ、幼少期の夏の思い出。

 学校での出来事や、友達との些細なやりとり。

 覚えていた強烈な記憶も、思い出せなかった些細な瞬間も、全部、ウィルスの力で消えていく……

 消えていく記憶のさなか、最後まで頭に浮かんでいたのは――パパでも、ママでも、友達でもなかった。


 順だった。

 順の笑う顔。怒った顔。悲しそうな顔。照れくさそうな顔。ムスっとした顔。励ましてくれる時の、あの優しい顔。

 ――順ばかりが、私の中に残っていた。


 ああ。そうか。

 私も……順のことが好きだったんだ。

 幼少期の頃、確かに初恋の相手だった。

 それなのに、一緒にいるのが当たり前になってしまって……私は順の存在の大きさに、ちゃんと気づいていなかった。

 順に守られていたことも、助けられていたことも……私は何一つ、わかっていなかった。

 どうして、順と過ごした大切な時間をもっと感謝しなかったんだろう。


 ごめんね、順。

 もっと優しくできなくて。

 ごめんね、順。

 一時期、心の距離を置いてしまったこと。

 ごめんね、順。

 あなたの恋人になれなくて――でも、あの夜だけは……私たち、少しだけ恋人になれたのかな?

 ごめんね、順。

 順の最後の願い、叶えられなかったよ。生きていてほしいって言われたのに。感染者(ゾンビ)になっちゃうよ。でも、PNウィルスの感染者はあくまで生きた人間だから、一応、生きている扱いになるのかな?

 そうだとしても――私も、順も、一生一緒に紗綾の奴隷として生きることになるのは変わらない。

 それが、悔しい。

 あなたの想いを、踏みにじることになるのが、悲しい。

 自分の無力さが情けなくて、悔しくて、どうしようもなくて――自分を恨みたくなる。


 ……でもね

 それでもね……心のどこかで、あなたと一緒にいられるなら、感染者(ゾンビ)になってもいいかな――って思っている自分もいるの。

 ごめんね、順。

 私、ほんとに、どうしようもない馬鹿だよね。やっぱり順がいないと、私、駄目だね。


 ――そのとき。


 私の左目の景色が、ゆっくりと、青く染まっていくのを感じた。


「ゾンビに襲われて逃げ込んだ家の夫婦がまさかのゾンビ!? ヤバ! でも奥さんが人間の意識を保ったままゾンビを操れる特殊能力持ちのようで……なら、嚙まれないように操ってもらえば、安心……だよね? 私たち? 」

 も、残すところあと二話!!


 次回、ついに最終回。

 そしてその次は、すべてを見届けた後のエピローグを予定しています。


 愛華、順、紗綾、紘人――

 PNウイルスの感染拡大(アウトブレイク)によって交差した、数奇な運命の行方は?


 人間と感染者(ゾンビ)は、どうなるのか。

 それぞれの結末を、どうか最後まで見届けていただければ幸いです。


 【朝月からのお願い】


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