第三章:虚空の脈動
ノヴァ・テルスの夜、カエルはまた一歩、運命に近づく――それは、自分の中に眠っていた力の覚醒を意味している。血のない少年が発見するのは、単なる「無」ではない。虚無の中に隠された力、その可能性。そして、彼の命を狙う者たちの真実が、少しずつ明かされていく。危険な闇の中で、カエルはその力をどう扱うのか?
今、運命が動き出す――
ノヴァ・テルスの夜は、まるで生きているかのようだ。スラムの空気を切り裂く警報の音、遠くで響く鉄の足音。カエルは息を殺し、廃墟の隙間に身を隠す。心臓が、耳障りなほどに鼓動する。あのフードの男の言葉が、頭から離れない。
「虚空は…何にも染まらない。」
何だよ、それ。カエルは歯を食いしばる。十七年間、血の覚醒を持たない「ボンベイ型」として生きてきた。力がない。価値がない。それが俺だ。なのに、なぜ今、こんな言葉が胸を締め付ける?
ガサリ。足音。カエルは顔を上げる。路地の向こう、赤いマントが揺れる。クリムゾン・ヴェイル――しかも、二人だ。一人は炎の剣を手に、もう一人は指先から雷を放つ。カエルの喉が干上がる。彼らはただの巡回じゃない。狩りに来たんだ。
「ボンベイ型がこの辺にいる。」雷の男が低く言う。「見つけ次第、始末しろ。命令だ。」
カエルの血が凍る。始末? なぜ、俺みたいなゴミをわざわざ? 考える暇はない。ヴェイルが近づく。カエルは瓦礫の陰から飛び出し、走る。足がもつれ、膝が地面を擦る。それでも走る。生きなきゃいけない。理由なんかわからないけど、死ぬわけにはいかない。
「そこだ!」炎の剣が唸り、熱波が背中を焦がす。カエルは横に飛び、鉄パイプの山に激突する。痛みが全身を貫く。雷の男が手を振り、青白い稲妻が地面を裂く。カエルは叫び、咄嗟に転がる。だが、逃げ場はない。路地は閉ざされ、二人のヴェイルが迫る。
「終わりだ、ガキ。」炎の男が笑う。剣が振り上げられる。
その瞬間、カエルの胸の奥で何かが弾けた。熱でも冷たさでもない、名前のない感覚。世界が一瞬、静止する。彼の視界が暗転し、まるでスラム全体が彼の内側に吸い込まれるようだった。
「…何?」
ヴェイルの声が遠い。カエルは気づく。炎の剣が、宙で止まっている。雷の男の指先も、動かない。二人の周囲に、黒い霧のようなものが揺らめく。いや、霧じゃない。それは…空白だ。何もない空間。カエルの手が震える。俺が、こんなことを?
「う、うあああ!」カエルは叫び、意識が戻る。黒い霧が消え、ヴェイルたちが地面に倒れる。気絶している。カエルは呆然と立ち尽くす。体が重い。頭が割れそうに痛い。だが、生きている。
「お前…何をした?」
新たな声。カエルは振り返る。路地の奥、赤い目の女が立つ。クリムゾン・ヴェイルの紋章を胸に刻む、若い女だ。彼女の瞳は、カエルを貫くように冷たい。
「ボンベイ型が…こんな力を?」女が呟く。「いや、まさか…『無の脈動』?」
カエルの心臓が止まりそうになる。無の脈動? 何だ、それ? だが、女の言葉は続く。
「知ってるか? お前みたいな『無』の血は、ヴェイルにとって脅威なんだ。だから、全部消す。命令なんだよ。」
女の手から、影が這い出す。カエルの足がすくむ。戦えない。さっきの力は、俺のものじゃない。偶然だ。だが、逃げる気力もない。体が、動かない。
「悪いな。運がなかったな。」女が一歩踏み出す。
その瞬間、遠くで爆音が響く。スラムの空に、赤い光が炸裂する。女が舌打ちし、影を引っ込める。
「チッ、援軍か。覚えてろ、ガキ。」
女は闇に消える。カエルは地面に崩れ落ち、荒い息をつく。手を見下ろす。そこには、ただの汗と血。だが、胸の奥で、何かがまだ脈打っていた。
「俺は…何なんだ?」
カエルは空を見上げる。血の月が、静かに彼を見下ろす。恐怖と、ほんの僅かな希望が、少年の心を焼き尽くす。
スラムの闇は、答えをくれない。だが、カエルの戦いは、終わらない。血のない少年の運命が、ゆっくりと動き始める。
みんな、読んでくれてありがとう!
今回はカエルがますます追い詰められる展開になったけど、彼の中の「何か」が目を覚ました感じがすごいよね。彼がこれからどう戦っていくのか、そして彼の力がどんな秘密を持っているのか…次回もお楽しみに!
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