片割れの嫁入り
思い付きだけて書いたさくっと読める短編です!
「姉様、もう行くの?」
「ええ」
お願いだから、誰か止めて。
「そう」
「久しぶりね、アザリアが声を掛けてくれたのは」
本当はもっとたくさん話したかった。
「まぁ、もう二度と会うことはないだろうし?
最後くらいはね」
「そうね……」
最後になんかしたくない。
これからも、姉妹として一緒に生きていきたい。
だって、双子である私達は二人で一人なのだから。
「なんたってあの悪魔大公ですものね。
果たして何年生きていられるかしら?」
「噂だけで人のことをそんな風にいうものではないわ」
断ろうにも、浪費癖のある両親のせいで借金まみれの我がイニアクリスト伯爵家にはそんな余力はないし、両親は二つ返事で大公家からの婚約話を受けてしまった。
もっとも、建国当時から続いている王国でも最古に数えられる伯爵家って以外には何も取り柄のない我が家が大公家からの縁談話を断れるはずもないのだけど。
「ふふっ。カラスみたいな姉様には悪魔みたいな旦那様がお似合いよ。良かったわね」
悪魔大公なんて言う呼び名は、彼の実績や家柄を妬んだ者たちが流しているだけの出鱈目だ。
大公様が気にせずに放置しているだけで、良識のある人々はそんな呼び方はしていないし、きちんと彼を評価している。
「アザリアのプラチナブロンドは今日も美しいわね。
私の黒髪とは大違いだわ」
本当はずっと羨ましかった。
いつも艶やかで美しいその髪が。
私の癖毛とは違い、触れたらきっとさらさらなんだろうなって思ってたけど、近くに行くことすら両親から禁じられてしまっていたから。
「当然よ。私は全ての人に愛されているのだから」
「うん、そうね……」
双子なのに、外見は全く似なかった私達。
両親の日頃の行いの影響も大きいけど、半分以上は自分のせいで私の評判は最悪だ。
だから、縁談だってまともな話は全然来ない。
お金はあるけど、黒い噂の絶えない相手からばかり釣書が送られて来ていた。
それもあってまともな結婚は諦めていたけど、せめてたった一人の愛する片割れには幸せな結婚生活を送って欲しい。
「それじゃあ、私はそろそろ……」
「シエンナ!いつまでそんなところにいるの!?
お前はアザリアに近付くんじゃないって何度言えばわかるの!!」
「申し訳ありません、お母様……」
「わかったのなら、さっさと行きなさい!
そして、二度と戻って来るんじゃないわよ!」
もしかしたら、本当に今生の別れになるかもしれないと言うのに、今日も母に邪魔をされた。
そもそも、いくら大公家から持参金も何も必要ない。
身一つで来てくれて構わないと言われたからといって、嫁入り道具がトランク一つだけなんてありえない。
「じゃあ、アザリア。元気でね」
「ええ、姉様も」
「アザリア、あんな子に返事なんてする必要ないのよ?」
「お母様、もう会うこともないんだし最後くらい良いじゃありませんか」
「アザリアは本当に優しい子ねぇ。あんな子にまで気を遣うなんて」
なんでこんなにも憎まれているのだろう?
両親のどちらにも似なかった黒髪のせいなの?
こんな家から離れて、姉妹二人で生きていけたらどんなに良かっただろうか。
でも、私にはなんの力もないから。
愛する片割れを助けることも出来なかった。
きっとその罰だろう。
私にはこの家と共に堕ちて行くだけの未来が待っている。
こんな妹で、ごめんね。姉様。
せめて、姉様だけでも幸せになって。